使い手はゴミだがさすが聖剣……。
ぶぉん、と剣に振り回されている感満点で、俺は盛大に空振りした。
結局そんなに不意でもなかった俺の不意打ちは、マシューにいとも簡単にかわされた。
これは恥ずかしい。
だが相手はいきなり出現したイケメンに面食らっているようだ。
マシューは一度距離を置くようにして、バッと飛び退いて身構える。
「ぬっ、キサマ、どこから、どうやって現れた!?」
「今のは隠し超絶レアスキル、瞬間移動スキルだ」
「瞬間移動? なんだそれは? その割に肝心の攻撃は非常に低レベルだったようだが」
まあ、本当はずっと一緒にいたんですけどね。空気なだけで。
にしても何かすっかり忘れていると思った。
俺は剣を扱う技能スキルを何も持っていないため、ステータスが上がろうと剣さばきは素人同然なのだった。
俺のハッタリが効いたのかアホだと思われたのか、すぐさま控えていた手下らしき二人の魔族が、前に飛び出してマシューを守るように立ちはだかる。
マシュー同様、揃ってスーツのような服を身に着けていて、さながらSPのようだ。
どうやら、というか完全に奇襲は失敗した模様。
横でアムが盛大にため息をつく。
「誰がそんなヘロヘロな素振りを見せろと言ったのじゃ? これだから童貞は……」
「童貞は今関係ないだろ! だいたいお前がもっと引きつけないから……」
「ふん、どの道今のじゃあ無理無理。ヤツのスピードはかなりのもんじゃぞ」
確かにあの野郎かなり素早い。
マシューは状況がわからず混乱しているようだったが、今のやり取りを見て確信したように声を荒げた。
「その感じ……やはりアムリルか!」
「なんじゃ? 様をつけんかこのボケ」
こっちはもはや隠す気がない。
まあバレているみたいだし、ここまで来たらもう一緒だろう。
「よくもやってくれたのうマシューよ。ホレホレ、そいつが持っとるのはお前の大好きな聖剣じゃぞ~? 身悶えろ~」
「聖剣? ……ふっ、それが何か?」
マシューは薄ら笑いを浮かべて、平然と立ちつくしている。
あれ? そういえば聖剣の匂いは通じないのか?
前回は膝もガクガクになって涙目になっていたはずなのに。
「どういうことだ? 効いてないのか?」
「なるほど……やはりか」
アムには心当たりがあるようだが、思い返すとたしかにおかしい。
城に入ってからというもの、魔族たちが聖剣にあまり反応を示していないような。
「ええい、ならばゴリ押しするまでじゃ! 今こそ歩く魔族殺しを解き放つ! トージ、レナと一緒に一気に畳み掛けるんじゃ!」
アムはぱっとレナの背中に張り付き、結んだ縄をなにやらゴチャゴチャとやる。
だが縄が解けるどころか、レナはバランスを崩しびたんと地面に倒れた。
「あいたっ!」
「ありゃ? おかしいのう、ここをこうすると一発で解けるはずなんじゃが……」
「いたいいたいいたい!」
解けるどころか、ギリギリと縄が締まっている気がするのだが……。
ここで変なプレイをおっぱじめるのはやめてくれ。
「レナハート様、ここが踏ん張りどころですぞ!」
セバスが立ち上がり、なぜか興奮気味に声援を送ってきた。
お前は何を応援しているんだ。さっさと解くの手伝え。
パーティーの知能が低すぎて戦闘にすらならない。
対する相手は寸分のスキもない上に、仲間を呼ばれたら非常に厄介だ。
マシューはこちらのひどい有様を見て、血色の悪い唇を歪ませる。
「クックック、これはこれは愉快。だが今そんなお遊びに付き合っているヒマはないのでね。お前たち、アムリルと聖女は生け捕り、その男はいらないので聖剣だけ奪って、ヒマを持て余している魔族たちにくれてやれ」
俺の扱いだけひどい。
このままでは魔族たちのオモチャになってアーッされてしまう。
こうなったら、なにか速攻で神スキルを探すしかない。
縄を解く? 攻撃を当てる? おっぱいジジイを黙らせる?
いや待て、それより今まで落としたスキルで、使えそうなのなんかなかったか?
俺はウィンドウを開いて、ダーっと取得済みスキル一覧をスクロールさせる。
……あ、これすっかり忘れていた。
これまでこんなご大層なスキルを使わなくても、楽々いけちゃったもんだから。
ああでもないこうでもないと緊縛プレイをするアムたちを放って、手下の魔族二人がじりじりとこちらににじり寄ってくる、
片方は何やら念じ始めて、魔法でも使いそうな勢い。
しかも心なしか半笑いで、完全になめられている。
忘れていたとはいえこちらもナメプになっては申し訳ない。
なので俺は前方注意をした後、ためらいなく真・聖光神烈斬のスキルを発動した。
――カッ、ズゴォォォォッ!!
聖剣から光がほとばしる。
やたら眩しい。
こうなると思ったのですぐに目を閉じると、ガシャ、ガシャアアン! と色々と物が壊れるような音がした。
位置的にはしっかり魔族に直撃したと思うが……どうかな?
少し嫌な予感がしながらも、おそるおそる目を開ける。
「ぎ、玉座がぁっ!?」
セバスの悲鳴。
なるほど、見てみれば玉座がひっくり返ってバラバラになっている。
さらに壁にぽっかり穴が空いてしまった。
金ピカで非常にお高そうな感じだったが……まあ魔族を撃退するためだと説明すれば、王様もきっと笑って許してくれるさ。
魔族二名は衝撃波で吹き飛ばされたのか、壁際に倒れていてぴくりともしない。
「ほう、これはなかなか……」
「すっごぉい、さすがプリンセスナイト!」
アムとレナも、あまりの威力に目を丸くしている。
ステータスが上昇しているおかげか、前回にもましてさらに破壊力が上がっているようだ。
……ふっ、今回も勝ってしまったか。
少し予定は狂ったが、これがまさに俺が思い描いていたシナリオだ。
ついさっき情けない素振りをしたのはただの演出だ。
こんな強スキルがあるのに忘れていたなんて、冗談に決まっているだろう常識的に考えて。
「ぬぅっ、使い手はゴミだがさすが聖剣……」
気のせいかどこかで俺をディスる声が聞こえてくる。
声がした方を追って視線を巡らせる。
真横にある変なオブジェの上に乗って、こちらを見下ろすマシューを発見した。
三体一緒に吹き飛ばしたと思ったのに、かわされていたらしい。
なんつーすばしっこさだ。
これはドヤっている場合じゃない。
スキルはクールタイムに入ってしまってしばらく使えない。
今の一撃を見て、マシューも相当ビビっているはず。
ここはハッタリをかまして降参させよう。
「ふっ、どうやら命拾いしたようだが……今のはこの俺の108ある神聖剣技の中の一つだ」
「なんだと? くっ……ならば致し方ない、こいつの出番か!」
マシューは懐から小さな水晶玉のようなものを取り出し、高く掲げた。
玉が不気味に光ったかと思うと、いきなり床一面に、巨大な魔法陣が現れる。
そして、ズゴゴゴゴ……とあたり一帯を揺るがす、謎の振動が始まった。
「危ないですぞ! すぐに魔法陣から離れて!」
セバスがここぞと叫ぶ。
だが割とみんな離れていたので特に問題はなかった。
形成された魔法陣が激しく光りだす。
するとそこから、巨大な人型のシルエットが徐々にせり上がってきた。




