野外縛りプレイ
俺達は街外れの邸宅を出て、一度市街へ。
そこからあらためて城を目指す。
城へは、街の中央通りに出てまっすぐ北に進めば行き当たるので迷うことはない。
しかしそこはなるべく目立たないようと、あえて裏道を選んでいく。
俺もアムも、あまりエデンの街には詳しくない。
なので、捕まった側であるレナが先導をして歩くというよくわからない絵面になっている。
だが……。
「……あれ? こっちじゃなかったっけ?」
人気がないのはいいが、ついに何もない行き止まりに。
まあやっぱりというか、レナに任せたらこうなるか……。
結局あきらめて大通りに出た。
ここまで、予想よりも平和な道のりだったからだ。
すでに魔族らしき連中と何度かすれ違ったが、向こうはこちらと目が合うや、まるで何も見なかったように道を開けてくれる。
もしくは、鼻を押さえて露骨に距離を取られる。
縛られた女と凶器を手にした、黒マスクの女王様。
見るからに危ない。
さらにそれが、得体の知れない不快な匂いを漂わせているから余計だ。
というのは現在、スキルの効果で俺の存在は限りなく薄まっていて、その分手にしている聖剣の効果も弱まっている。
それが魔族にしてみれば、まるでレナ達が、そこはかとなく悪臭を放っているように見えるわけだ。
臭いヒロインとか、一体誰得だよ。
そりゃ誰も関わりたくないだろうな。
とはいえさすがに街のメインストリートともなると、人通りが多くなってきた。
それでも普段に比べたら少ないが……よくよく見れば、三人に一人ぐらいは魔族なんじゃないかという勢い。
人間かと思えば、頭から小さい角が生えていたりと、一見しただけでは区別がつきにくい。
他にも尻尾だったり、翼が生えていたりするものもいるが、もともとイズナのような奴がウロウロしている街だっただけに、非常にわかりにくい。
ブタちゃんトリちゃんの子分みたいなのもちょくちょく見かけるが、ああいうのは少数派だ。
「どこ見て歩いとるんじゃゴラぁ!?」
「ヒィッ、すみませんすみません」
「なんだぁ? 高そうな服着てやがるじゃねえか……オイ、ちょっと飛んでみお前」
「あ、あひぃ、お金なんて持ってません持ってません!」
歩いているだけでそんなやり取りが聞こえてきて、あちこちで人間がいじめられている。
なにやらエロい格好をした女の魔族もいて、
「揚げたてのエデンターキーが食べたいなぁ~」
「は、はあ……」
「はあ……、じゃなくて、早く買ってこいって言ってんの! このグズ!」
「はっ、ハイただいま!」
などとパシられているおっさんもいる。
すでに主従関係を築いている方々もいらっしゃるようだ。
だがさすがに、公開SMプレイを行う人間と魔族のコンビは他に見当たらない。
俺達が傍を通るだけで、魔族が逃げていく。
その上味方であるはずの人間もついでに逃げるという、この第三勢力感。
これは隠れるスキルなんていらんかったかもしれんね。
人間側はまだ全面降伏はしていないと言うが、すでに占領されているようにも見える。
こんな状況でも魔族たちがむやみに暴れないのは、何か統制がされているらしい。
三魔族のリーダーってのは意外に理性的なようだ。
そんなこんなで、何事もなくエデンの城までやってきた。
門の前で見張りの兵士が立っていたのだが、ビビって声すらかけてこなかった。
魔族ならばすでに顔パス状態のようだ。
アムが見た目でもう完全に魔族扱いなのが少し笑えるが、レナを見ても騒がないところを見ると、すでに他のお偉いさんも縛られて中で人質に取られているのだろう。
とりあえず作戦としては、このまま聖女を捕まえた体で入っていって、ボスに近づいたところでスキを見て空気彼氏スキルを解除、聖剣で一発かまして終わり。
同時にアムにレナの縄をほどかせる手はずになっているので、聖女フィンガーでダメ押ししてもらうのもありか。
シンプルだが、そこまで悪くはないと思う。
そのボスがどれぐらいの強さなのかにもよるが、さっきの三魔族を見る限りおそらく問題はなさそうだ。
そしたら後は人質を解放するだけだが、敵の頭さえ潰せばなんとかなる……はず。
計画通り、事が運べばいいのだが……。
門をくぐり、いよいよ城のエントランスが見えてきた。
舗装路を進んでいくと、行く手には人影が三つ。
それがただの兵士だったら気に留めることはないのだが……。
待ち構えていたのは、二メートルはありそうな黒い鎧騎士が二体と、腰の曲がった小さいジジイ。
鎧騎士は全身鎧で体を覆っており、ごつい剣と盾を構えて立ちつくしている。
本当に中に誰か入っているのか疑ってしまうほど存在が冷たく、生気を感じられない。
ジジイのほうはダークブラウンのローブを身にまとい、宝玉のはまった杖を携えている。
黒く濁った目が不気味で、どこを見ているかわからない。
貫禄があって、いかにも強そうな魔法を使ってきそうな雰囲気だ。
俺は一瞬立ち止まりそうになるが、アムはレナを縛る縄の先を引っ張ってガンガン進んでいく。
ここでレナと手が離れるのだけはまずい。
いよいよ近づいていくと、ジジイが訝しげに眉を寄せた。
「なんじゃヌシら、ここから先は……。ム……その女は……?」
アムが答える。
「この女が聖女です。私が捕まえました」
「なぬっ!?」
ジジイが驚く。
それから縛られたレナを一瞥して、
「ほほう……よいぞ、ご苦労だった。その娘は儂に任せて下がれ」
「それはできませんね~、手柄を横取りする気ですか? とりあえずこのまま、中に入れてもらわないと……」
「手柄も何もない。なんじゃ、儂に逆らうつもりか? ヌシ、どこの所属じゃ、名を名乗れ」
「はぁ? お前こそどこのどいつじゃこのクソジジイ」
おい待て待て。
コイツも本当に煽り耐性がないな。
まあ、本来はアムがふんぞり返る立場なんだろうが……。
ここでしょっぱなから揉めたら作戦がパアじゃねえか。
空気彼氏発動中の俺は彼女――つまりレナ以外には言動がわからない状態になっている。
なので、レナにアムをなだめさせるしかない。
「ちょ、ちょっとアムちゃん……だめだよ」
「え~、だってなんかもうめんどくさい……」
うわ、こいつ最悪だ。
飽きてる。もう飽きてやがる。
ジジイが呆れたように、大きくため息をつく。
「まったく……無知というのは本当に恐ろしいものじゃ。まあよい、かわいい孫の革命がうまくいきそうで、今の儂は気分が良い。特別に教えてやろう、儂の名は、かつて魔王の四天王の一人を務めたマハリクじゃ」
「はぁ~? 四天王~? あのゴミの集まりがどうかしましたかぁ?」
「な、なんじゃとっ、キサマ、何様のつもりで……」
「だってあの四天王(笑)って、確かアムリル様の逆鱗に触れてボコボコにされて解散したんじゃなかったんでしたっけ~?」
「ち、違うっ、あ、あれは、当番のやつが三時のおやつを用意し忘れて……ってそんなことは今どうでもよい! そ、その名を出せばビビるとでも思ったか!? ともかく、魔王アズナキアとその娘アムリルの時代は終わった! ニンゲンなぞになめくされおってからに! なぁーにがケツが痛いじゃ! 怖くて便所に入れなくなったじゃ! 情けない!」
ケツバットとタイキック、結構しつこくやったからね、ごめんね。
そんなに効くと思ってなかったから。
けどこの爺さん、アムリルの名前が出た途端、明らかに取り乱し始めたんだが……。
何か嫌な過去でもあるのか。
「キサマ、妙に内部事情に詳しいようじゃが……ここは少しばかり、躾が必要なようじゃの」
ジジイが軽く杖を振るう。
すると、それまで微動だにせず両側に控えていた鎧騎士が、ギギギ……と動き始めた。




