リアル鳥人間(翼無し)
「おっ、おいお前! ほっ、本物のプ、プリンセスナイトだと言うのならば、この場で奴を退治してみせよ!」
「えー、そうやって言われるとなんかやる気なくすなー。いやー、自分どこぞの馬の骨なんで、三魔族様を追い払うなんて無理です」
「クッ、何を……ええい、ならば剣を貸せ!」
キースは俺の手から聖剣をひったくると、たいそうに剣を掲げてまたも叫びだした。
「聖剣さえあれば相手が三魔族であっても、おそるるに足らず! さあ皆の者! 我に続け!」
だがキースが聖剣を持ったとたん、刀身を覆っていた光がふっと消えた。
この人聖剣装備ができないとダメだって知らないのかな。
焦って我を忘れてるのかもしれないが。
「さ、三魔族だって!? 冗談じゃない!」
「ここにいたらヤバイぞ! さっさと逃げろ!」
そして案の定誰も後に続かなかった。
それどころか、兵士たちは武器を放り投げ、ばたばたと我先に逃げ出した。
「あっ、お、お前たち!!」
「ぎゃーはっはっは! 情けない兵士どもだギャ! 無様で笑えるギャ!! それでオマエ、誰がおそるるに足らないってぇ~?」
キースが兵士たちを呼び止めようとするが、鳥野郎が回り込んで先を塞ぐ。
揃って逃げ足が早く、兵士たちはあっという間にいなくなった。
するとキースはすっかり光を失った聖剣と、余裕たっぷりのバジャールを交互に見やると、急に媚びた笑みを浮かべながらへこへこと首をすくめ始めた。
「い、いやはや、その、この聖剣が……なんとか三魔族様への手土産になるかと思いまして……」
「はぁ~? 手土産ぇ~?」
「いっ、いえもちろん聖剣だけではなく、聖女もすぐそこにおりまして……」
「ああ~ん? どこで聞いたか知らんが、そもそもオレサマは、聖女と聖剣を差し出す代わりに無条件で降伏させるという生ぬるい案には反対ギャ」
そうにべもなく言われて、キースは助けを求めるように俺を見た。
いやそんな、仲間になりたそうにこちらを見ているされても、仲間にしないけど?
「そんなことより、城で話し合いが終わるまでぶっちゃけ退屈ギャ。オマエ、遊んでやるからオレサマを楽しませてみろギャ。場合によっては部下に取り立ててやらんこともないギャ」
と目と鼻の先まで迫られて、もはや逃げ場のないブリンセスナイトキース。
ついにここは男を見せる時が来たか。
「ヒっ、たっ、助け……」
だがあろうことか、キースは兵士たちの後を追うように、ケツを向けて逃げ出そうとした。
その瞬間。
バジャールの前方に、幾何学模様をした魔法陣が浮かび上がったかと思うと、うねりをあげて竜巻が発生した。
そして風の渦はすぐさまキースの体を飲み込み、紙くずのように空高く巻き上げた。
ゴォォォッという風の音と、ギャアア-ッという悲鳴が混じり合い、徐々に遠ざかっていく。
リアル鳥人間(翼無し)となったキースは、意味不明な雄叫びを上げながら華麗に空を舞った後、頭から裏手の林に突っ込んだ。
「ギャーハッハッハ! よーく飛んだギャ! しかしまさかあれほど魔法抵抗が低いとは……オモチャにもならんやつだギャ」
あれだけ派手にやっておいて、鳥野郎はなにやらご不満の様子。
それきりすっかりキースのことは忘れたように、こちらを振り返って近づいてくる。
「さぁ~て……ん? オマエラは逃げないギャ? ビビって足がすくんだかギャ?」
足がすくんだというか、さっきからベタベタと人の体を触ってくる人たちがいて、ちょっとばかし困惑している。
「ほーこれがプリンセスナイトの体か~」
「ちょっと! これは私のだから触らないで!」
「いや俺の体は俺のなんだけど……?
三魔族そっちのけで、さわさわと俺の体を触ってくるアムとそれに対抗するレナ。
メチャクチャ調子が狂う。
「ほ~う? もちろん、オマエは楽しませてくれるんだろうなギャ~?」
そんなんだから、あちらの機嫌もさらに悪くなっている。
俺も鳥人間になるのは嫌なので、再び聖剣召喚スキルでキースとともにどこかに吹き飛んだ聖剣を呼び戻す。
これは地味に便利だ。
「にしても結局、本物だって証明する前にみんないなくなっちゃったな」
「でも私、トウジが戦うところ見たいなーっ、わー、ぱちぱち」
「きゃートージさまぁ~、裏切り魔族を哀れなまでにグチャグチャにしてぇ~」
パチパチと拍手を始めるレナとアム。
何かこの二人、ノリが別次元だが……ここは一度試してみるか、プリンセスナイトとやらの実力を。
二人の声援を受けて俺が剣を構えてみせると、バジャールは目に見えてうろたえ始めた。
「えっ、ちょっと待つギャ、何この雰囲気? 恐れて? オレを恐れて? さっきの魔法見てなかったギャ? 怖くない? 三魔族の一人よ? ボスよ? それがなんで、ちょうどいいコイツでためし斬りしようぜみたいな感じになってるんだギャ?」
「それはあんたが出てきたタイミングが、ひっじょーに悪い」
残念ながらそうとしか言いようがない。
「なっ、なにをっ!! やれるもんならやってみるギャ! 今のオレサマは、聖剣なぞ怖くはないギャ!」
あれ、そういえばコイツは臭い臭い言わないな。
鳥野郎には嗅覚がないのか? もしや聖剣が効かない?
バジャールが叫んだ直後、目の前に魔法陣が形成される。
ヤバイ、これはさっきの魔法か。
やられる前にやるしかない。
「ギャアアアアアアアッッッ!!?」
急に魔法が来たので。
驚いて剣を前に突き出すと、グサッと脇腹に刺さった。普通に刺さった。
すると鳥野郎は感電でもしたかのように、ブルブルと体を震わせる。
まるで○ックマンのボスに弱点武器が入ったような。
なんか手応えありすぎて怖かったのでズポっと抜くと、バジャールはすごい勢いでバターン、と地面に卒倒した。
「しゃーっ、どうだ裏切りモンめ、ざまみろざまみろ!」
アムが嬉々として駆け寄り、げしっ、げしっと脇腹にケリを入れていく。
バジャールは白目をむいて完全に気を失っているが容赦ない。
「おいやめろ、死体蹴りはマナーが悪いぞ」
「ふん、殺されないだけありがたく思え。……しかし妙じゃな……」
「ん? なにが?」
「……なんでもない、コチラのハナシじゃ」
ふいとそっぽを向くと、アムはじろじろと鳥野郎と豚野郎の死体検分を始めた。(両者ともかろうじて死んではいないようだが)
それと入れ替わるように、レナが俺に近寄ってきてぱっと手を取る。
「すごいよトウジ! やっぱりプリンセスナイト! かっこいい! それにすっごく強い!」
「いやいや……」
「ありがとう、私の事、信頼してくれて……」
そんなキラキラした目で見つめられると少し照れるなあ。
あんまり実感はないが、俺自身、そこそこ強くなっているっぽい。
数値にしたら実際どれぐらいなんだろうかね。
俺は冒険者カードを取り出して、ステータスを確認した。




