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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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躊躇の理由

「なにより、今は人手にだけは困るということがないからなあ」

 ルシアニア関係の進捗報告会が終わった後、執務室でハザマはぽつりと呟く。

 集まった人材の質については保証の限りではない、という条件が前提としてつくわけだが。

 そもそも、すでになんらかの特技なり知識なりを持っている人物はすでにどこかで確固とした居場所を保持していることが多く、洞窟衆を頼って集まってくるような者のほとんどは、なんらかの理由により出身地で仕事にあぶれているような人種が多かった。

 中にはそれなりの職能を身につけている者も居るのだが、そうした例外にしても能力以外の性格や性癖などで問題を持つ場合が多く、洞窟衆の教育・更生コストはあがる一方である。

 ただ、将来的には洞窟衆の内部で教育済みにまで「仕上がった」人間の比率が多くなり、そうするとそうした教育にかかる負担も少なくなるはずである、との予想もあるのだが、現状ではその教育コストが大きな問題となっていた。

「なるようにしかならんか」

 少し考えた末、ハザマはそう結論する。

 洞窟衆周辺にはろくな知識や技能を持たない人間でも出来る単純肉体労働の需要も相応にあり、あくまで本人の意思を確認した上で集まってきた連中の大半をそちらに回している。

 現状、そうするしかないのだった。

 人間の教育には相応の手間と時間がかかるもの、という前提は、ハザマがなにを考えようとも改善するものではなかった。

 都市部の、つまりルシアニアの建築計画はまだ完了していないものの、それ以外の部分の造営作業はほぼ完了しつつある。

 山中に点在する村と、その村を結ぶ道の整備についていえば、着手した時期が早かったことと、それに一カ所当たりの作業規模が比較的小さかったため、人手の手配などの施行管理がしやすく、この時点で大半が完了していた。

 特に、山中の道については森東地域との絡みもあってそうそうに実用に耐えるレベルにまで整備を完了する必要があり、年末から残っていた作業を急がせ着実に消化している、とのことだった。

 この森東地域へ向けた物資の流通量は当初想定してた以上の交通量を発生させ、もっと幅の広い、あるいは別ルートの道を追加するような要請がいくつかあがってきていたが、これらの提案についてはハザマのところに来る以前に、エルシムらのエルフがその場で叩き潰している。

「利便性追求のためにいたずらに森を切り開くと、山崩れなどの災害が起こりやすくなるぞ」

 とのことだった。

 エルフたちはその手の環境保全については厳しく、それに、実際的なことを考えても一度山崩れなどが起こってしまえばその周辺の通行は遮断し、復旧するためにまた多くの人手を入れなければならない。

 多少、不便ではあってもこうした問題に関してはエルフの助言に従うしかなかった。


 森東問題関連で流通量が増えたこともあり、領内は活気づいている。

 ハザマ領内を想定以上に人数が継続して荷物を持って往来しているわけであり、そうした人間たちは休憩や宿泊のためにどこかの村に立ち寄ることが多かった。

 そこでまた物の売買や金銭の授受が発生するわけであり、領内は総じて景気がいいようだ。

 寒くなりはじめてからこっち、山地方面から領内に出稼ぎに来ている人数も多くなっていたので、仕事が増えて金回りがよくなるのはいい傾向といえる。

 ここまでは、いいんだがな。

 と、ハザマは思う。

 問題は、その森東問題、である。

「どうすっかなあ」

 と、ハザマは思う。

 この森東地域に洞窟衆が介入を行う。

 このこと自体は、いい。

 今の時点で誰かが介入をしなければ、かえって複雑に拗れそうな土地柄なのだ。

 部族連合も他の平地諸国にも余力がないこの時点で、洞窟衆が手を着けるのはそれなりに順当な判断だとも思えた。

 仮に洞窟衆がこの森東地域を見捨て、そのまま放置して置いたとしたら、そう遠くはない将来にその地域から押し出されてきた勢力による武力衝突や流民増大などの形で問題化しかねなかった。

 この時点でなんらかの形で現地にコネを作っておき、将来的に調整を行うための足がかりを作っておくことは、長い目で見れば洞窟衆なりハザマ領なりにとっても利益になる。

 ただ、ハザマにしてみれば、その森東地域のことを知れば知るほど、最終的な着地点が想像出来なくなってしまう。

 どうするのが正解なのか、細かい事情を知れば知るほど判断に迷うような状況なのだ。

 まずこの森東地域は、文化や統治形態などが山地とも平地諸国とも異なる。

 それ以外に、ローカルな勢力はわらわら存在するが、その中で突出した力を持った物が存在しない。

 さらには、山地から進出してきた勢力が存在し、その中には人間以外の異族なども含まれている。

 一言でいえば、「紛糾している」。

 どこかの勢力を立ててもそれ以外の勢力が強い不満を抱えるような、そんな現状であり、仮に洞窟衆側がどこかの勢力に肩入れをして周辺地域を平定させたとしても、その直後に反乱が頻発する恐れがあった。

 適切な落としどころが思いつかない。

 いや、存在しない。

 この段階では、ハザマの指示によって山地寄りの勢力と交渉し、道や水路などの整備を地元勢力にやらせていた。

 これも、交通網が整備され利便性が向上し、洞窟衆から継続的に工費が供給されれば、その地域だけは豊かにはるはずで、そうなればその利益を享受することが出来ない勢力の妬心を買い、紛争の原因にもなりかねない。

 そんな、危うい一面もある方法であった。

 一番シンプルな解決方法は。

「洞窟衆だけで解決しちまうこと、だよなあ」

 と、ハザマは呟く。

 森東地域を洞窟衆だけで平定してしまう。

 実は、結果として一番後腐れがない方法である。

 その過程においてはともかく、一度平定した後は完全に落ち着く方法なのであった。

 困ったことに、今の洞窟衆ならば、その程度は出来てしまう。

 戦力的にも経済的にも、その程度の戦線を支える基盤を、今の洞窟衆は持ちつつあった。

 だがそうなると、今度は洞窟衆が周辺の勢力から過剰に警戒されかねない。

 いや、きっとそうなるだろう。

 今だって、表面的にはともかく、内心では洞窟衆のことを警戒している勢力は少なくないはずだったが、その傾向に拍車をかけることになる。

 なんといっても、その森東地域は王国がいくつも入るほどの面積を持つ、広大な地所なのだ。

 そこをまるごと平定してしまえば、洞窟衆の基盤がさらに強固な物になるわけで、周辺の諸勢力にしてみれば脅威にしか思えないだろう。

 ハザマとしては、この選択は出来れば避けたかった。

 残る禍根が大きくなりそうだからである。

 現地勢力の手で解決をする。

 出来るだけ、そういう形で収めるのが理想なのだったが、なんらかの形で肩入れをするにしても、森東地域の勢力は、地元組流入組双方を見渡してもどこも小ぶりであり、その構想を実現するのは難しそうだった。

 もう少し情勢を見極め、熟考を重ねないと具体的な方針を打ち出すことは出来ないと、ハザマ自身はそう思っていたのだが、これについてもこの時点では悩みの種ではある。

 人材育成の問題についていえば、「時間が解決をしてくれる」という側面が大きいのだが、この森東地域については洞窟衆の側が積極的に手を打たないとさらに拗れる一方なので、出来るだけ早い時期に方針を定める必要があった。


 ハザマはそうして自分のところの仕事を淡々とこなしていると、オルダルト経由で王都への呼び出しがあった。

 書状に書かれていた内容によると、いよいよ王国はハザマに公爵号を送る手筈を整えたらしい。

 あちらはあちらで、体制を大きく変えている最中であり、少なくとも貴族社会の中では大きな混乱があるようなのだが、ハザマ領や洞窟衆までには今のところその影響は及んでいない。

 というより、王国貴族たちにしてみても、もはや洞窟衆に干渉をしているような余裕もなくなっている状態なのだろう。

 今回王国中央がくだした決断は、事実上、三百年続いた王国の体制をほとんど解体するような内容になっていた。

 貴族たちが動揺しないわけがなく、すんなりとは受け入れられない貴族も多いのではないかと、ハザマは推察する。

 それでも表面的に大きな動きが見えないのは、例の公爵の一人が直に断行した王城襲撃事件とその顛末が、貴族社会により大きな衝撃を与えていたからではなかったのか。

 あの件については、表向きは実行犯の名前は伏せられていたそうだが、その直後にグラウデウス公爵領の半分が召し上げられ王家直轄の天領として扱われるようになったことから、大半の貴族と領民たちは明らかにされてはいない真相を想像出来る結果になっていた。

 面積的には半分でも、多くの税収が見込める豊かな場所をほどんど王家自ら召しあげた形であり、あれでは以後、グラウデウス公爵家は格式に相応しい体面を保つことは不可能になるであろう、と、そのような声が多くあがっているという。

 公爵以上の大貴族を事実上召し放ちにし、以後王家とは関係がない外部勢力と見なす、という改革案の内容と相まって、グラウデウス公爵家にとっては「そのまま野垂れ死ね」といわれたも同然の処分であると、そう見なされていた。

 しかし、グラウデウス公爵家は沈黙を守り、王家に対してこの処分の不当性を訴えることはなかったから、つまりはそのような厳しい処分をされるだけのことをしでかしたのは、どうやら本当のことであるようだ。

 そうした認識が、王国内部で速やかに共有されて、今に至っている。


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