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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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エルシムのはからい

 ハザマたち三人が出現をした場所は、真新しい木材の香りがする一室だった。

「ここは?」

 ハザマが、エルシムに確認をする。

「領内にある開発中の村。

 そのうちのひとつだ」

 エルシムが答える。

「ようやく造作が終わったところで、まだしばらく人が入る予定はない」

「なるほど」

 ハザマはなんとなく頷いた。

「ここがどこか、というのは理解しました。

 でも、なんだっておれたちをここへ?」

「わからぬか?」

 エルシムが、逆に訊き返す。

「まずここは、周囲に誰もおらぬ森の中に存在しておる。

 多少物音を立てても誰にも迷惑がかからぬ」

「なるほど」

 ハザマは、曖昧に頷く。

「それで?」

「だから痴話喧嘩だろうと乳繰り合いだろうと、しばらくここで気が済むまで存分にやり合うがいい」

 エルシムは、そう断言をする。

「だいたいお主らは、言葉が足りな過ぎる」

「なるほど」

 これで三度目になるのか。

 ハザマは、また頷いた。

 そしてその直後に、そのまま天を仰ぎ、

「ってか、そういわれてもなあ」

 と、そうぼやいた。

 エルシムの意図は、よく理解が出来た。

 リンザとの件を心配して、このような挙に出たのだろう。

 ひょっとすると、他の洞窟衆の者たちもこの挙に賛同して協力をしているのかも知れなかった。

 しかし、

「意図が理解出来る」

 ということと、この場を素直に受け入れることとは、また別であった。

「いや、エルシムさん」

 ハザマは、弱々しい口調で抗議をした。

「やりたいことはわかるけど、これはないですよ。

 仕事は山積みになっているっていうのに」

「何ヶ月も留守にしておいてなにが山積みか!」

 エルシムはハザマを一喝した。

「だいいち、女のひとりもうまくあしらえんでなにが領主か、洞窟衆の首領か!」

「おれだって好きであんなもんをやっているわけじゃない!」

 ハザマの語気も荒くなる。

「そんなにおれのやり方が気にくわないのだったら、洞窟衆の活動から一切手を引きますよおれは!

 後は他の皆さんで好きにやってください!」

「それが出来ぬから苦慮してこんな小細工もするのだ!」

 エルシムはハザマを怒鳴りつけた。

「誰もが不満を持つこの状態を、多少なりとも改善するために協力せい!」

 エルシムにしても、ハザマにしてみれば意に沿わない仕事を押しつけているという自覚はあった。

 しかし洞窟衆という組織は、すでにハザマ抜きではうまく動かない構造になってしまっている。

 ハザマとしては、時間をかけてそうした体質を改善して洞窟衆そのものを解体していく方向に持っていくつもりだったが、そこまで組織の体質を変えていくのには、相応の時間が必要だった。

 また、この世界の世相としても責任者が不在のまま洞窟衆レベルの巨大組織が放置されるものとも思えず、現状は無理を承知でハザマに負担を強いている形でもある。

 多少なりとも改善を、というエルシムの主張は決してこの場限りでのごまかしなどではなく、ハザマとリンザとそれ以外の洞窟衆、つまり、関係者全員にとって好ましい方向に、この状況を改善したいと本心から思っていた。


「気持ちはわかりますけどね」

 ハザマは、げんなりとした表情を作っていった。

「だったらなおさら、無理に連れてくるって手はなかったんじゃないですかね?」

 ポケットの中を手で探りながら、ハザマがいった。

「いっておくが、ここでは転移魔法は仕えぬぞ」

 エルシムがいった。

「事前に結界を張っておいた」

「はぁ!」

 ハザマが声を大きくする。

「そして、結界のある場所はこのわたししか知らん」

 エルシムは胸を張ってそういった。

「一番近い人里まで歩いて十日以上はかかる陸の孤島だ。

 満足がいく結論が出るまで、この場から脱出することは不可能だと思っておいた方がいい」

「おい、リンザ!

 お前もなんかいってやれ!」

「わたしとしては、特にいうべきことはありません」

 リンザは平坦な口調で、そういう。

「むしろ、こういう機会を作ってくださったことに感謝をしたいくらいです。

 男爵とは一度、じっくりとおはなしをしたかったので」

「あのなあ」

 ハザマはそういってから何度か口を開閉してなにかをいいかけ、その言葉を飲み込む動作を繰り返す。

「まあいい。

 そういうことなら、つき合ってやろうじゃないか」

 そして、観念したような表情で、そんな言葉を絞り出す。

「食糧のことなどは心配するな」

 エルシムがそういって、部屋の外に出て行った。

「数人がしばらくは餓死しない程度の備蓄はある。

 どれ、食事の用意でもしてくるからお主らはここでしばらくはなしでもしておれ」

 やばいな、とハザマは危機感をおぼえる。

 食事を用意する、ということは、つまりはエルシムはそれだけ時間がかかることを前提にして、今回の件を考えているということだった。

 適当に誤魔化すことは断固として許さない。

 そうした強固な意志を、ハザマは感じ取った。

 無論、ハザマとてここまで来たからには適当なことをいって曖昧なままにしておくことは考えてはいない。

 いないのだが、この手のことを、それもリンザ当人を目の前にしてまともに討論することは、ハザマにしてみれば抵抗があった。

「とりあえず、お前のいいたいことをぶちまけてみろ」

 ハザマは内心の動揺を隠しながら、リンザにそう水を向けてみる。

「男爵は洞窟衆のことをどう思っているのですか?」

 リンザは、ハザマの目をまっすぐに見返して、そういう。

「つまり、洞窟衆に一生を捧げてもよいと、そこまで考えていらっしゃるのですか?」

「あー。

 それは、答えるのが難しいな」

 ハザマは、考えつついった。

「本音では、洞窟衆には早いこと独立をして貰って、おれなんか不要な存在になって欲しいと思っている。

 だけどこの世界の現実では、たとえ名目上の存在であっても、それなりに名が通った責任者は必須であるようだし。

 現実的に引退をするのが難しいということならば、せめて実務方面のことだけでもすべて他のやつらに任せて、おれ自身は名義だけの責任者として楽隠居を決めこもうと、そっちの方を目指して日々努力をしているところだ」

「楽隠居、って」

 リンザはハザマの返答を聞いて、これ見よがしにため息をついてみせた。

「男爵と、それに洞窟衆の身内はそれで納得するにしても、外部が放っておくわけないじゃですか」

「そう、それ」

 ハザマは、リンザの言葉に大きく頷く。

「だからな。

 洞窟衆なりハザマ領なりの業務全般はおれ抜きでも動けるような体制を整えて、その上で、おれ自身は非常時用の遊撃隊として動く、と」

「……遊撃隊?」

 耳慣れない単語を耳にして、リンザは首を傾げる。

「なんですか、それ?」

「独立性を保証された上で、自由に判断して動く部隊だ」

 ハザマは説明する。

「ここまでの経験からいって、この世界には不確定要素が多すぎる。

 つまり、おれが居た世界に比べれば、ってことだが」

 それなりに珍しいとはいえ、異能持ちの存在が認められてそこいらを闊歩しているし、鉄蟻のような召喚獣の慣れの果てやヘムレニー猊下、それにゲイル・ゴウドのような規格外のやつらも平気で存在している。

 そうした、通常の国家や組織では対応できないトラブルを専門に扱う組織を作れないものだろうか、と、ハザマは考えている。

 いや、その構想を実現するための土台として、人材集めの窓口として冒険者ギルドを作っておいたといっても過言ではない。

「つまり男爵は」

 ハザマから詳細を説明された上で、リンザはそう結論する。

「これからも留守がちにするつもりだし、危ない真似を止めるつもりはない、と、そういうわけですか?」

「あ、いや」

 ハザマは慌てて訂正をする。

「あくまで、身内のゴタゴタがすっかり落ち着いて、洞窟衆がおれ抜きでも問題なく動けるようになってから、ってことだぞ。

 今すぐってことではなしに、希望上の未来を想定した上でのことだ」

「それは理解していますけど」

 リンザは、どこかあきらめ顔で呟く。

「でも男爵にとっては、洞窟衆はその程度の物なのですね」

「と、いわれてもな」

 ハザマは頭を掻いた。

「これでも、それなりに責任は果たしているつもりだが」

「理解をしています」

 リンザは即答した。

「実際、内心は不本意だろうが、男爵はかなりうまく自分の役割をこなしていらっしゃいます。

 でも……その不本意であるという部分が、どうにも気に食いません。

 なんで男爵は、わたしたちのことなど放っておいて、どこかに姿を眩ませるという選択をこれまでしなかったのでしょうか?」

「なりゆきだよ、なりゆき」

 ハザマは軽い口調で返した。

「それ以上の意味はない」

 どこかの時点で洞窟衆を見捨て、袂を分かっていたら。

 選択としてはそれもありかとも思うのだが、実際にそうしたら、おそらくハザマはかなり後悔する。

 そのことがわかっていたので、自分に不快な状況を避けるために、これまで首領として扱われることを認めていただけのことである。

 ハザマ自身がいうように、その判断はハザマの気分や気持ちだけを根拠としており、それ以上の理由はない。




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