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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ハザマの理由

 ハザマが王都に居座っている間にも洞窟衆を取り巻く情勢は変化していく。

 王都をはじめとした王国内の各都市部では、以前から流民が冒険者ギルドないしは洞窟衆の支店経由に流入してなにがしかの仕事にありつき、結果として全体的に失業率が大幅に減るという現象が起こっていたわけだが、この傾向がさらに拡大して貴族や平民たちも堂々とそうした窓口を頼るようになっていた。

 王国の周辺社会は以前から食糧だけはふんだんに供給され、階級によらず必要とされる仕事よりもそこからあぶれる人数の方が多い傾向にあったわけだが、その余剰分の人手がいよいよ加速をつけて洞窟衆を頼りにしはじめた形であった。

 また、洞窟衆側も、今の時期は丁度森東地域問題やそれに冒険者ギルドの帝国進出を睨み、人手がいくらあっても足りないという時期にさしかかっていたので、訪ねてきたのがよほど問題のある人物でなければなんらかの仕事を紹介する形となる。

 もちろんそうした仕事は窓口がある地元で完結する種類の物ばなりではなく、いやそれどころか実際にはもっと別の、かなり遠い国にまで移動する必要がある仕事の方が、現在の状況では多かった。

 物を運ぶ物流関係などは常時人手不足であったし、それ以外に仕事を求めている場所が王国から遠く離れた国々である場合が多かったのだ。

 結果、王国内でほぼ同時に、それまでに例がないほど大量の人間が、総数でいえばおそらくは数十万という単位の人間が一斉に移動をしはじめるという事態が出現する。

 若者が多かったがある程度年齢がいった人間もそれなりの割合で含まれており、男女比はおおよそ半々であった。

 この世界では、特に都市部ではまだまだ女性が就ける職業は限られており、洞窟衆なり冒険者ギルドなりが性別に制限をつけずに人を集めていることが知れ渡ったため、この頃には行き場のない女性たちも詰めかけるようになっていた。

 そうして移動した人々はまずはハザマ領に一度集められ、そこで本人の希望や適性を確かめられた上で、ハザマ領内の各職場や森東地域、あるいは冒険者ギルド職員の見習いや下働きとして帝国版図のどこかへと振り分けられる形となる。

 こうして洞窟衆を頼った人々は、もともと居た場所ではなんらかの事情により仕事に就けず、社会的な意味で居場所がなかった人々であった。

 そうした、従来の王国の中では不要とされた人材を洞窟衆が一手に引き受けた形となる。

 本来であればどこからも文句が出てこないはずであったが、これも一気に数十万以上の単位でこうした大移動がはじまったため、周辺の事情に明るくない人々はかなり不安に思っている様子だった。

「洞窟衆が強引に人集めを、いや、人狩りを行っているのではないか」

 というわけである。

 そういう報告を受けたハザマは、

「馬鹿馬鹿しい」

 と一言で切り捨てた。

 それまで住んで居た場所で爪弾きにされ、「不要な者」と認識されて肩身の狭い思いをして来た人々を、洞窟衆がまとめて面倒を見る形になっただけである。

 様々な要因が重なって一気に大勢の人間が洞窟衆の門を叩きはじめたわけであるが、洞窟衆の側から強引に勧誘をかけたおぼえはない。

 今の洞窟衆は全般に多忙であり、そんな暇な真似をしている余裕もない。

 ただ単に、仕事を斡旋する場で元の身分や性差を特に重視していない洞窟衆の方針が徐々に周知されていたことと、それに、洞窟衆側が大量募集をかけはじめた時期とが重なったなどの要因がいくつか重なった結果、たまたまこの時期にそうした現象が起こっただけのことだった。

 しかし、そうした偶然が重なった結果起こった大移動は、やはり傍目には十分に異常な出来事であると認識され、一種の社会不安を誘う原因と見なされているようだった。

 洞窟衆側の事情に明るくない人々にしてみると、この件はどうも洞窟衆が前途ある若者たちを大量に集めて何事か企んでいると、そのように見えるらしい。

 馬鹿馬鹿しいなと思いつつも、ハザマとしては、なんらかの対策を考えなければならなかった。

 とはいえ、そうした偏見に凝り固まっている人々に対して出来る有効な手立てというのはそうそう思いつくものでもなく、具体的にいえばこちらの状況を記した広報誌を号外という形で配布するという、かなり消極的な手段しか取りようがなかったわけだが。

 そもそも識字率自体がかなり低いこの世界で、このような迂遠な方法がどこまで効果を現すのかかなり疑問ではあったが、そうした「世間の印象」などという曖昧な物に対抗する手段としては、こんな方法しか思いつかなかったのである。

「そうした洞窟衆側が用意した刊行物を読んで理解してくれるくらいの人物ならば、そもそも最初からそんな偏見は持たないのでないか」

 とか、あるいは、

「そうした文章を読みこなせるほどの知識人なら、この事態に関しても自分なりの解釈をしているのではないか」

 などとも思わないでもなかったが、なにもせずに事態を傍観しているよりは、どれほど効果が薄いとわかっていても、なにかしらの手を打っておいた方がいいことは確かなのである。

「広報ってか、不特定多数に向けて洞窟衆の意向を周知させる方法についても、なにか考えないといけないな」

 と、ハザマは改めてそう思った。

 この世界において、そうした広報活動は王宮なり貴族社会なりの、いわゆる社交界におけるロビー活動で行うことが一般的とされているようだったが、ハザマはこの社交界という集まりに対してはほとんど関わりを持っていなかった。

 そうした各組織の首長に近い人物にこちらの意思を伝え、トップダウン式に情報を浸透させていく行為はハザマから見るとかなり回りくどく見えたし、いや、それ以上に、そうした格式とか芝居がかった挙動が要求される集まりにわざわざ足を運ぶのが、ハザマ個人の感情としてひどく面倒に思えたからだった。

 そうしたハザマの「社交界嫌い」が王国貴族社会の中で洞窟衆の立場を弱くし、誤解を与える余地を作っていることは理解していたが、ハザマとしてはそうした上級階級の人々を相手にするよりもその下に存在している不特定多数の、名もなき人々と直接関係を持ちたいという気持ちの方が強い。

 そうした、これまでに軽視されていた人々が決して無視できないほどの経済力を持つようになれば、この王国周辺社会の様相も一気に変わってくるはずであり、今はちょうどその過渡期にあると、ハザマ自身は見ている。

「この時期に、これからどんどん弱体化していくことが目に見えているお偉いさんに媚びを売ってもなあ」

 という考えが、そうした貴族社会とのつき合いをあまり重視していないハザマの根底には拭いがたく存在していた。

 ハザマ個人の嗜好もさることながら、将来的な、長期的な展望を考えれば、そうした貴族社会とのパイプを太くする行為は、どうしてもメリットが薄いように思えてしまうのだ。

 事実、ここ最近にハザマの方に寄せられている変調の多くは、そうした社会構造が急激に変化していることを証明している。

 王国中央は王国に帰属する貴族たちを大幅に再構成することを考えているようだし、貴族たちは貴族たちでそれぞれの思惑で動いているようだ。

 もちろん、そのすべてがハザマの望む方向へ、ハザマにとって都合のいい結果に結びつくとは限っていないわけだが、これまでのところ、大筋ではハザマが予想する通りに動いている。

 むしろ、そうした動きが前に予想したよりも早いので、不本意ながらもハザマはこの王都に足止めをされている形であった。

「うちにとっても今は、かなり大事な時期なんだがなあ」

 と、ハザマは、小さくぼやく。

 森東地域の問題と、それに冒険者ギルドの帝国版図への進出。

 そのどちらかひとつだけであっても、今の洞窟衆にとってはかなりの大仕事なのである。

 なのに今は、その二つを同時進行で手がけていた。

 こうした重要な時期に、ハザマ領なり現場なりに出向いて身軽に陣頭指揮を執ることが出来ないのは、ハザマにとってもかなり不本意に思っている。

 幸いなことに、そうした重要事とは別に、従来通りの業務であればどうにか洞窟衆内部の人員だけで処理できるらしいことは、ハザマがしばらく不在となることで証明されている。

 ハザマが不在の間も、ハザマ領なり洞窟衆なりはどうにか普段通りの業務を問題なく遂行していたわけで、このことは「洞窟衆という組織がハザマ抜きで十分に機能する」ところにまで成長していることを証明していた。

 ただ、前例がない、あるいは判断が難しい事案に関しては、その結果に対する責任をひっかぶる存在としてもハザマはまだ、この時点では必要とされているようだったが。

 こうしている現在、マヌダルク・ニョルトト姫は森東地域にまで入って、例の実用化されたばかりの転移札を濫用して各地で調停交渉を行っていた。

 メキャムリム・ブラズニア姫はハザマ領で子飼いの部下たちと洞窟衆の中から選抜した事務員を組織して、この世界の水準を遙かに超えて効率的な広域物流網の維持と運用をしている。

 どちらも専門的な知識と経験による卓越した手腕を持っているからこそ可能な仕事といえたが、こうした特定の分野に秀でたエキスパートが、洞窟衆の内部ではまだまだ育ちきっていない。

 この二人が協力してくれていなかったら、そもそもハザマはこうして王都に落ち着いても居られなかったはずなのである。

 みんな、それぞれの役割を必死になって果たしてくれている。

 というのが、ハザマの、この時期の洞窟衆関係者へに対する、率直な感想であった。

 だからこそ、こうした努力を台無しにするようなトラブルは出来れば事前に防止しておきたい。

 この時期のハザマは、そういう気持ちを強く持っていた。

 王国や貴族たちがどうなろうとも、ぶちまけていってしまえばハザマはあまり感心を持っていない。

 しかし、その動乱の余波を受ける形で洞窟衆がこれ以上に負担を強いられること、こうした事態は、出来るだけ避けたかった。

 この点については昔から変わらないのだが、

「洞窟衆の活動を邪魔するな」

 という一点は、ハザマの中で不動の目的として鎮座し続けている。

 そのため、これからどう動くのか予想できない貴族たちの動向を監視するため、ハザマはそうするのに都合がいい王都から動けなくなっていた。



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