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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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王都への帰還

 ハザマが帝国から出された条件などを検討していたこの数日、帝国の側はハザマに対して別の働きかけもして来た。

 なんでも、

「エンテラにおいて事態がより混乱することを未然に防いだ功績により」

 ということで、いくばかの報償が出ることになったそうである。

「といっても、あの件についておれは、事態を解決に導くためになんもしていないような気がしますが」

「なにをおっしゃっているのですか。

 男爵が管区長の不調について、その原因をつまびらかにしてくださったからこそ、帝国側もあれだけの準備を整えることができたわけで」

 早い段階でハザマがあの事態の本質を見抜いていなければ、被害はもっと広がったはずだと帝国は見なしている。

 ということだった。

「それにヘムレニー猊下にせよゴウド家のゲイルにせよ、ああいった超常の者の助力を常にあてにするわけにもいきませんので」

 今回はたまたま利害が一致して協同することになったが、あの二人のような者が存在するという事実は、帝国としてはあまり歓迎したくないようであった。

 無理もないか、と、ハザマは思う。

 帝国から見れば、あの二人は完全に制御不能な存在に当たるからだ。

 どんなに卓越した能力を持っていても、賞罰などにより思い通りに動かせなければ、帝国として意味がない。

 いや、その行動に掣肘を加えることができない分だけ、かえって扱いに困るのではないか。

 制御不可能な超人よりは、ハザマのようになんらかの取引が可能な者の方が、帝国としても有意な存在であり、そのことを内外に示すためにも今回の件でハザマが果たした役割は、しっかりと評価をされねばならない。

 というのが、どうやら今回の件における帝国側の論理であるらしい。

 別にハザマは帝国に対して臣下として忠誠を誓うつもりも予定もないわけだが、帝国から見ればそんなことは所詮表面的な違いでしかなく、帝国と意思の疎通ができ、利害の計算ができ、場合によっては取引が可能な相手であるという、ごく普通のことが評価の理由になるらしかった。

 まあ、比較の対象があの二人なら、そうなってしまうのも無理はないのか。

 と、ハザマは若干、白けた思いを抱く。

 帝国が今回、ハザマのことを持ち上げているのは、つまりは今回の件における功労者の中ではハザマが「一番話が通じるから」という、そうした、社会人としての常識レベルで評価された形となる。

 客観的に見てあまり褒められた形ではないし、それに、エンテラの被害に対して、それがあの程度で済んだのは帝国の働きがあったからであると、外部に示す狙いもあるのだろう。

 今回の件において、帝国が一定の働きをしたからこそ、被害がこの程度で済んだのだ。

 いいかえれば、外部に対してそう表明したいがために、ハザマは今回の件においても、帝国から評価をされなければならない。

 かなり政治的な意図に由来する報償であり、だからこそハザマとしても素直に喜ぶことはできなかった。

 まあ、貰える物はしっかりと貰うわけだが。


「現金を持ち帰っても仕方がないんで」

 ハザマが窓口となっているガグルバイド伯爵に相談する。

「できれば、別の形で受け取りたいんですけど。

 そういうのは、可能ですか?」

「と、おっしゃりますと?」

「ここでしか調達できないモノ、たとえば、例の魔力を譲渡したり蓄えたりするための術式、その技術情報とかを。

 あと、ハザマ領まで転移できる術札も何枚か欲しいですね」

 魔力を蓄えるための術式について、その原理から応用する方法までを記したマニュアルなどがあれば、ハザマ領においても同じ物を再生産することが可能なはずであった。

「その程度のことでしたら、お安いご用で」

 ガグルバイド伯爵は即答した。

「元はといえばあなた様が見つけてきた術式でしょう。

 いわれずとも、これまでに研究した成果をまとめてそちらにもお渡しをするつもりでした。

 あなた様のところに渡しておけば、また別の、有用な利用法を見つけてくれるかも知れませんしね」

 金なんか貰っても、そんなものは使ってしまえばなくなっしまう。

 しかし、魔法などの技術情報は、使いようによってはさらなる利潤を呼び込むことも可能であった。

 特に今回の魔力を集め、蓄積できる術式は応用できる範囲がかなり広く、どれだけの利益になるのか想像もつかないくらいであった。

 それについて、帝国が独占をする気がないと、ここで言質を取れたことは、ハザマにしてみれば大きな意味があった。

 帝国側は帝国側で、自分たちだけで抱えておくよりは、ハザマと洞窟衆にもその術式を触らせておいた方が今後の利益になると、そう考えているようだったが。

 いずれにせよ、帝国側はハザマ側の思惑を予想し、ハザマの方も帝国側の利害を推し量ることができる。

 こうした関係性というのは、ある意味ではゲイル・ゴウドのようなどう動くのか予測できない人間を扱うことよりも、ずっと気楽ではあるだろうな、と、ハザマはそう予測をした。


 報償が望めるのならばと、ハザマは帝国に対していくつかの要望を出しておいた。

 ハザマ領内部の何カ所かの座標を記した転移札を何枚かと、それに座標の部分にはなにも記していない、空白のままにしておいた転移札も何枚か。

 魔力の譲渡と蓄積に関する術理を詳細に記した書類など。

 それに、現在ハザマが読み込んでいる、帝国側から出された提案書についても、何種類か写しを作って貰った。

 ハザマが、帝国側から出された条件について精査している間に、そういった細々とした物を用意して貰う。

 ハザマにしてみれば、

「ここまでつき合わされた以上、どこかで元を取らなくてはな」

 という気持ちが強かった。

 ハザマ領の周辺もなんだか騒がしくなっているようだし、帰ったら帰ったでまたしばらくは休めそうにないな、などと、ハザマは他人事のように思う。


 そして数日が経過し、ハザマはようやく帝国から出された条件についてしつこいくらいに精査し、検討をし終えた。

 その旨をガグルバイド伯爵に告げて、

「ぼちぼちハザマ領に帰りたいのですが」

 と、要望を伝える。

「それでは、すぐに手配をしましょう」

 ガグルバイド伯爵は、例によって遅滞なく即答した。

「今、転移ができる術士を呼びました。

 帰還をする場所は、どちらにいたしましょうか?」

「……うーん、と」

 ハザマは、数秒間だけ思案し、すぐに結論を出す。

「まずは、王都の公館に行きましょう。

 ハザマ領の今後の扱いについて、最初に王国と話をつけちゃった方がなにかと便利なようですし」

「では、そのように手配をします」

 薄く微笑んで、ガグルバイド伯爵は会釈をした。

「こちらからも使節も随行しておいた方がいいわけですね?」

「もちろん」

 ハザマはあっさりと頷く。

「転移をしたその足で王宮に向かった方がなにかと手っ取り早い。

 ハザマ領の公館から王宮までは、目と鼻の先ですし」

 王宮に対して事前に連絡など入れていない形であったが、なにしろ帝国からの正式な使節を案内して行く形だ。

 あちらにしても、城門の前で追い返したりはできやしないだろう。

 それに、と、ハザマは思う。

 帝国の使節を真っ先に王宮に案内することで、王国の内外に対して「ハザマの背後には帝国が存在する」という事実をアピールしておけば、周囲の者たちは今後、洞窟衆に対して勝手に帝国の影を見るようになるはずだ。

 それくらいのことをしておいた方が、今後は、なにかと動きやすそうだしな、と、ハザマは思う。

 あちらはあちらでハザマの留守中に様々な問題が噴出しているようであったが、ハザマとしては、そうした問題の中でも、まずは王家と洞窟衆の関係性をもう一度確認し、必要とあれば再構築をしておきたい。

 王家と洞窟衆との関係さえ最初にしっかりと構築しておけば、あとの貴族たちについても個別に対処していくことができる。

 場合によっては。

 と、ハザマは考える。

 ハザマ領の領地を帝国に丸ごと買いあげて貰って、ハザマも爵位を返上して、洞窟衆と王国との関係を白紙に戻すのも選択肢ではあるしな。

 そうなったらなったで、より大きなダメージを受けるのは洞窟衆よりも王国側であるはずだったが、そもそも変化を恐れて過剰な反発をしたのはあちらの側である。

 ハザマとしては、仮にそうなったとしても、別になんとも思わなかった。


 その日、王都にある公館の中に、唐突にハザマが出現した。

「なっ」

 その部屋に居た者は、あまりにも突然な出来事に息を呑んで言葉を失う。

「ど、どうしたのよあんた!」

 まず最初に意味のある言葉をハザマに吐いたのは、ハヌンであった。

「その格好!

 それと突然……」

「これは帝国風の正装だそうだが、詳しい説明はあとだ」

 ハザマは、なぜか他の職員たちから羽交い締めをされているハヌンを手で制して素早く周囲を見渡した。

「ええっと。

 ちょっと、狭いかな。

 みんな手を貸してくれ。

 ここいらの机をどかして、場所を作る」

「……場所って、なんの?」

「転移してくる場所だよ。

 帝国のお偉いさん。

 使節団が、こちらの王国に対して交渉をしたいことがあるんだ。

 それでおれは、これからそれを先導しなけりゃならん」

 説明しながらも、ハザマは手近な机を自分で持ちあげている。

 周囲の職員たちも、わけがわからないながらも仮にも洞窟衆の首領であるハザマのいうことに逆らうわけにもいかず、要領を得ない表情のままにハザマの指示に従って事務机を動かしはじめた。


「うん、こんなものでいいだろう」

 事務所の真ん中でぽっかりとあいた空間の中心に立ち、ハザマはそんなことをいいながら、懐中から一枚の札を取り出して破った。

「それは?」

「出口札って呼んでいる。

 二枚一組の、転移札の片割れになるな」

 ハザマは、ハヌンの問いによく理解できない内容で返した。

「今回のように転移先の状況がよくわからないとき、安全を確認したことを向こうに伝えるために使うそうだ。

 ま、詳しいことはまたあとで落ち着いてから……ほら、来た」

 ハザマの説明の途中で、数名の帝国人たちが新たに室内に出現した。

「これは皆様、ご機嫌麗しく」

 その数名の帝国人のうち、どうやら一番偉そうな人がそういってにこやかに会釈をする。

「少々お騒がせをいたしますが、今しばらくご辛抱のほどを」

 その人を筆頭に、文官らしい人や武官らしい人、魔法使いらしい人などからなる、八名ほどの集団だった。

「ガグルバイド伯爵。

 どうぞこちらへ!」

 帝国風の装束を身にまとったハザマがいつの間にか出口に居て、帝国人の集団に対して手招きをする。

「ちょっと!」

 ハヌンが、悲鳴に近い声をあげた。

「今、外には……」

「わかっているって」

 ハザマは、即座にそう返す。

「外の暴徒のことだろ。

 お前こそ、バジルの能力を忘れたのか?」

 ハザマはそういって、肩に乗っているバジルを示した。


「はいはい。

 ちょっと道を空けてくださいね」

 のんびりとした口調でそんなことをいいながら、ハザマは公館を取り囲んでいた人々の体をひょいひょい持ちあげて脇にどけながら、帝国人たちのための通り道を作っていく。

 公館の周囲を取り囲んでいた暴徒たちは、彫像かなにかのように動かなくなっていた。

「こうして目の当たりにしてみると、なるほど見事な能力ですな」

 そのハザマのあとについて歩くガグルバイド伯爵が、周囲を見渡してそんなことをいった。

「使いようによっては、これほど恐ろしい能力もない」

「悪用しようと思えばいくらでもできる能力ではありますけどね」

 ハザマは軽い口調で返した。

「要人暗殺とか誘拐とか。

 でもそれ、実際にやっても自分の世間が狭くなるだけなんで」

「スデスラス王国での騒ぎを収めるために、すでに誘拐に近いことをやっていると聞いておりますが」

「あれはまあ、ああしておかないとかえって拗れたことになりそうだったんで、一種の非常事態であったと判断しています。

 よし、ここまで道を作れば十分でしょう。

 ここから王宮までご案内をします」


「おい、あのトカゲを肩に乗せて歩いているのは」

「あの顔は、ハザマ男爵ではないか?

 しばらく行方知れずになっていたと聞いていたが」

「それよりも、あの紋章を見よ!」

「百合と蜘蛛……帝国だと!」

「なんだってハザマ男爵が、帝国の者たちを引き連れているのか!」

 王都の周辺は、諸侯の公館が集まる官庁街だった。

 通行人の中にそれなりの事情通が混ざっている確率も、王国の他の場所に比べれば遙かに高い。

 王国内諸侯の、選りすぐりの文官たちが集まっているような場所柄なのである。

 そんな中、帝国旗を高々と掲げた使節団を先導するハザマの姿は、自然と注目を浴びていた。

 この分だと、ハザマが王国に帰還したことと、それにその際に帝国の使節を引き連れてきたことは、それこそあっという間に王国の貴族社会の間で広まるだろう。

 まずは、これでよし。

 と、ハザマは思う。

 洞窟衆の背後に帝国が居る。

 そういうイメージを王国貴族たちの間に押しつけることには、成功したようだった。

 次に。

 と、ハザマはそう思い、顔をあげて目の前に迫った王城の正門を見据える。

 当然のことながら、門扉を閉ざしてその前に護衛の兵士が立哨していた。

「突然で、申し訳ありません」

 その兵士に、ハザマは声をかける。

「おれは一応、この国の貴族でもあるハザマ・シゲル男爵という者です。

 はるばる帝国からいらしたこちらの使者の方々を、こちらの王宮に案内してきたところです。

 なんの約束もない身で心苦しいのですが、どうか王家の方々にお取り次ぎをお願いできませんでしょうか?

 こちらの帝国の方々は、王家の方に重要な提案があるとおっしゃっております」

「え?」

 直立不動で立哨をしていたその兵士は、ハザマの言葉を聞いていくに連れて目を丸く見開いていく。

「あの、ハザマ男爵が。

 な、なぜ、帝国の方々を……。

 いや、少しお待ちください!

 今、上に確認をいたします!」

「あまり待たせるようでしたら、先にこちらの使節の方々を、どこか休める場所に案内しておいた方がよろしいかと思います」

 ハザマは、涼しい顔をしてそういってのけた。

「なにぶん、突然の来訪になるわけですから、なんの準備も整っていないのは仕方がない。

 しかしそれは、こちらの使節の方々に不快な思いをさせてもいい理由にはならない」

「は!」

 その兵士は、ハザマに向き直って、なぜか敬礼をする。

「しかるべく!

 早急に、手配をさせていただきます!」



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