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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ヘムレニー教団の寺院へ

「おい、おやじ」

 ハザマは露天に布を敷いて魚や干物を並べている中年男に声をかけてみた。

「こいつはいくらだ?」

「…………あ?」

 不自然なくらいの間をおいて、中年男がハザマの方を振り返る。

 ふむ。

 と、ハザマは思う。

 反応するまでに、確かに時間がかかっているな。

「おう、なんだ、ここいらでは見慣れない格好をして。

 あんた、帝国からやって来た人か?

 それにその肩に乗っている……」

「こいつはまあ、風変わりなペットだとも思っておいてくれ」

 ハザマはいった。

「それよりも、この魚はいくらだ?」

「…………銅貨で八枚だな」

 やはり、ハザマの問いに答えるまでに不自然な間が生じていた。

「高い。

 これくらいなら三枚ってところだろう」

 ハザマは値切ってみる。

 別に金が惜しいからではなく、その中年男の反応を確認してみたかったからだ。

「…………馬鹿をいっちゃいけない、これだけの代物なら八枚で順当だ。

 だけどあんた、見たところ、遠路はるばるこのエンテアにまでやってきてくれたお客さんのようだ。

 その心象を悪くするのも気が引けるから、大負けに負けて六枚で売ってやろう」

「いいや、二枚」

「…………安くなってんじゃねえか!

 ええい、くそ!

 五枚でどうだ!」

「四枚」

「…………売った!

 本当はそんな値では足が出るんだが、負けといてやる!」

 ハザマが身振りでうながすと、ガグルバイド伯爵が懐から布製の小銭入れを取り出して銅貨四枚を中年男に手渡した。

 中年男はかなり立派な魚のエラと口に縄を通し、その縄の先を持ちやすいように結んでからハザマに渡す。


「一度しゃべりはじめると遅滞はないんだが、こちらがなにかいうとそれに反応するまでに時間がかかるな」

 立派な魚を肩に担いで、そこからかなり離れてからハザマがいった。

「確かに不自然だ。

 この町に居る連中がすべてああなのか?」

「そうです」

 ガグルバイド伯爵は頷いた。

「お疑いのようでしたら、他でも試してみますか?」

「いや、いい。

 今のは自分の目で確かめてみたかっただけだ」

 ハザマは早口にいった。

「で、この魚の値段なんだけど……」

「ボラれていますな」

 ガグルバイド伯爵はいった。

「大きいですがこの港ではよくあがる魚です。

 普通ならば銅貨二枚といったところでしょう

 よそ者で相場がわからないものと見られたようで」

 そんなもんだろうな、と、ハザマは思った。

 どの道、金を出すのはこのガグルバイド伯爵であるし、それにハザマが無作為に選んだ人間の反応を確認するのが目的だったから、ボラれたことに対してはなにも思わなかった。

 そのれよりも今回の場合、あの中年男はおそらく普段と同じようにふるまい、思考していたということが重要なのだと思う。

 それなのに、外界の変化に対応するのには、不自然な間が生じている。

 そして、そのことに対してどうも本人は自覚がないらしい。

「ああいう状態になっているのは、この町に住んでいる人だけなのか?」

「今のところは」

 ガグルバイド伯爵は即答した。

「この町に三日以上滞在すると、ああいう状態になってしまうようです。

 そして、この町から離れて三日も経つとまた元の状態に戻ります」

「なにが原因でああなるのかはわからないが、その原因は間違いなくこの場所にあるってわけか」

 ハザマはそういって唸った。

 帝国にしてみても、あの変化を認めてから今までなにもしていなかったわけではなく、様々な条件を設定して調べるべきことは調べていたらしい。

「原因はわかりそうですか?」

 ガグルバイド伯爵がそう訊ねてきた。

「なんともいえない」

 ハザマは即答する。

「今のところ、なにも思いつかないってのが正直なところだ」

 そもそもハザマは、こうした怪現象の専門家というわけでもない。

 そもそも、そんな専門家がこの世界に存在するのだろうか?

 帝国にしてみても、ハザマを頼ったのは万策が尽きて、その上で藁にすがる思いで、あるいは駄目もとで、といったところだろう。

「では、解決を諦めますか?」

「いや、もう少し悪あがきをしてみよう」

 問われて、ハザマはいった。

「まずは、そうだな。

 この近くにヘムレニー教団の寺院かなにかないかな?」

「かの教団がこの現象になにか関係しているということですか?」

「いいや。

 根拠はないけど、おそらくは関係ないと思う」

 ハザマはいった。

「とりあえず、挨拶をしておきたいのと、それに、うん。

 人智が及ばないのなら神頼みをしてみるのもいいだろうと思ってな」


 ガグルバイド伯爵は特に反対をすることもなく、ハザマをヘムレニー教団の寺院へと案内してくれる。

 この男は基本的にハザマのいうことに異を唱えることはなく、やりたいようにやらせてくれていた。

 おそらくは上から、そうするように、ハザマの言動を妨げないようにと命令されているのだろうな、と、ハザマは想像をする。

 伯爵と名乗っているが、いや、実際に爵位を持っていても別におかしくはないのだが、それ以外に普段からこうした、貴族らしからぬ仕事に手を染めているのではないだろうか。

 おそらくは、と、ハザマは思う。

 このガグルバイド伯爵は、普段は洞窟衆でのオットル・オラらのように、諜報関係の仕事をしているのではないか。

 そうでなくては、このガグルバイド伯爵のなにごとにも動じることない態度が説明できないのである。

 また、そうした人間であればハザマの監視役を兼ねた同行者として抜擢されていることもすんなり納得がいく。


 ヘムレニー教団の寺院はすぐ近く、ハザマの体感で歩いて五分ほどの場所にあって、なかなか大きな建物だった。

 どうやらこの港町においても多くの信者を抱えて羽振りがいいらしい。

 その門前でハザマは神官服を着た女性に声をかけ、この寺院で一番偉い方に会いたいと用件を告げる。

「…………区間長様ですか?」

 やはり微妙な間をおいてから、初老の女性は困惑顔でハザマの言葉を受けた。

「おれは洞窟衆のハザマという男です」

 ハザマは、そう名乗っておく。

「おそらくはヘムレニー猊下もおれのことを捜しているはずなのです。

 こちらの責任者の方に面談をして、直におれの無事を確認していただくのが一番手っ取り早いと思いまして」

 権威を利用するようで気が引けるが、ヘムレニー猊下の名前を出せばここの連中も早く対応してくれるだろうとハザマは読んでいた。

「…………え?」

 神官服の女性は驚きの声をあげる。

「あなたは、いや、あなた様はヘムレニー猊下とお知り合いなのですか?」

「面識はありますね」

 ハザマは涼しい顔をしてそう答えた。

「さらにいえば、ある秘密を共有する仲間でもあります。

 それが嘘かどうかは、こちらの区間長様に確認をしていただければ確認できるかと思います」

 神官服の女性は慌てた様子で建物の中に入っていった。

「本当にヘムレニー猊下とお知り合いなのですか?」

 女性が姿を消すと、ガグルバイド伯爵がハザマに確認してきた。

「今いったことに嘘はありませんよ」

 ハザマは平静な声で答える。

「皇帝陛下に仰せつかった用件を解決するまでにどれほどの時間がかかるのかわからないので、こちら経由でおれの無事をハザマ領に伝えておきたいと思いましてね」

 ハザマにしてみれば、うまくいかなかったときの保険程度の認識でいる。

 それについては、ガグルバイド伯爵はなにもコメントしなかった。


 再び門前に姿を現した女性がハザマたちを区間長のところに案内するといってきたので、ハザマは澄ました顔で、

「もし迷惑でなければ、こちらの魚をこの寺院に喜捨をさせていただきます」

 と、持っていた魚を手渡す。

「さっき市場で買ってきたばかりなので、新鮮なはずです。

 こちらの寺院の皆様で召しあがりください」

「…………まあ、こんなに立派なナントラを!」

 女性神官は大仰な身振りで喜びを表現した。

「あなた様にヘムレニー神のご加護がありますように!」

 それがどれほどの意味があるのかはわからないが、少なくともハザマはこの女性神官の歓心を買うことには成功したようであった。

 ナントラと呼ばれた大振りな魚を持った女性神官に案内されて、ハザマとガグルバイド伯爵とは寺院の中へと入っていく。

 寺院と神殿の区別がハザマ的にはあまり明瞭ではなかったのだが、ヘムレニー教団は神への信仰よりも信者の現世利益の方を重視する方針の教団であったので、こうした教団の施設は神を祀るためのものというよりはやはり冠婚葬祭など、もっと身近な役割を重視しているので、はやり寺院と呼ぶのがふさわしいらしい。

 立派な建物を中をしばらく歩いたあと、ハザマたちは分厚い扉の前に案内された。

 ハザマたちをここまで案内してきた女性神官は、ナントラを手にしたまま去っていく。

「洞窟衆のハザマという者です」

 仕方がなく、ハザマはその扉をノックして、声をかけた。

「…………どうぞ、そのままお入りください」

 扉の向こうから、すぐに声が帰ってくる。

 ハザマは扉をあけて中に入った。

「…………洞窟衆のハザマ男爵様ですね?」

 中に入ると、例によって少しの間をあけてから、神官服を身に着けた初老の男性が声をかけてきた。

「もしもお見かけするようなことがあれば、くれぐれも丁重に扱うようにとヘムレニー猊下より仰せつかっております。

 それとも、もしも男爵様が難儀しているようでしたら、できるだけ手を差し伸べるようにとも」

「恐縮です」

 ハザマはそういって小さく頭をさげたあと、こう続けた。

「現在おれは、帝国の保護下である仕事をしています。

 とりあえずは、ハザマ領にその事実とおれの無事を伝えてくだされば結構です。

 それと、あなたはこの港町で起こっている異変に気づいていますか?」



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