表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

772/1089

ハヌンの反発

 もともとリンザは森から出てきた避難民たちの境遇に対して同情的でもあり、しかし、今の洞窟衆の状態では表立って援助することはできないとも諦めていていた。

 というのは、スデスラス王国とハザマ領とを結ぶ線上に存在する諸国と、それにニョルトト、ブラズニア両公爵領で大々的に展開している支店増設政策によって人的なリソースと物資などはごっそりと持っていかれ、それ以外の穀物なども領内で消費する分とそれに山地に分配する分を考えたらそんなに余剰分は残らない。

 リンザ個人がいくら同情をしても、彼らのために割くための人手も物資もろくに工面できない、というわけでそうした避難民たちにできることは、実際にはほとんどなかった。

 せいぜい、王国側が実施している懐柔策に便乗し、協力をするくらいが、せいぜいであった。

 しかし、この密書の存在が、一人忸怩たる思いを抱えていたリンザに対して、もっと本格的にそちらに介入する口実を与えてしまった形である。


「確かに、今の洞窟衆なら、王国にさえできない支援をすることも可能なのかも知れないけど」

 一人、この場に居る中でハヌンだけが慎重論を唱えている。

「だからといって、見知らぬ、これまでなんの関係もない人たちを救うために、わたしたちが蓄えてきた財産と、それに多くの人命を賭けてまでして、森の向こう側に肩入れをしなければならない理由はあるの?」

「その理由は、さっきもいった通り、この密書が存在するから」

 リンザはハヌンに抗弁した。

「この密書がある限り、洞窟衆はグラウデウス公爵と対立することが避けられない。

 公然とわたしたちが対立するようになれば、その理由はどうあれ、もともとわたしたち洞窟衆を快く思わなかった人たちがグラウデウス公爵のもとに集まり、王国は二分してしまう。

 睨み合いを続ける程度で済めばいいけど、なにかの間違いで戦火を開いてしまったら、この王国は内乱になる。

 そうなったら最後、さっきもいっていたように、スデスラス王国に駐留している治安維持軍が王国内に押し寄せて来てしまう。

 最後にどこが勝ち残るかはわからないけど、王国内が滅茶苦茶になることは確定的。

 だから先に、そうなる前に、わたしたちは自分の立場を強くして、グラウデウス公爵をはじめとする潜在的な反洞窟衆勢力の意思を挫いておかないと」

「もっともらしいことをいって!」

 ハヌンは立ちあがり、語気を強くした。

「リンザ、あなた、ただ単に洞窟衆の力の大きさに酔っているだけなんじゃない?

 もともと洞窟衆は、犬頭人の被害者が寄り集まってどうにか自立をしようってだけの団体だったはずでしょ?

 森や山を越えてはるか先にある、遠い外国の人たちを救いにいこうだなんて、そんな大それた集まりではなかった!」

「そちらこそ!」

 今度は、リンザが立ちあがり、吼えた。

「ハヌン、あなた、実はハザマ男爵の臣下である自分が好きなだけでしょ!

 貴族の配下ともなれば外聞はいいし、誰の目から見てもなによりわかりやすい立場だから!

 だから洞窟衆が、王国の臣下として立場から外れるような行動を取るのを嫌うんでしょ!

 今の洞窟衆は、王国に匹敵するかそれ以上の影響力を持っているのに、そのことからことさらに目を背けようとしている!」

「わたしが、わが身可愛さで騒いでいるっていうの!」

「他に理由があるの?

 もうほんの少し、少しだけ手を伸ばせば、大勢の人を救うことができる。

 それなのに、なにもしないでおく理由が!

 わたしたちは、そうして救われたおかげで、今、ここに居るというのに!」

「誰かに救われたから、誰かを救わなければならないってわけ?

 そんなこと、誰が決めたの!」

「わたしが、救いたいの!」

 リンザは自分の胸を叩いてそういう。

「なにもせずに、自分のことだけを考えて安穏としているのが気に食わないから!」

「ふん!」

 それを聞くと、ハヌンはまたどっかとり椅子の上に腰を降ろした。

「だったら最初からそういいなさいよ、まわりくどい建前をべらべらとしゃべる前に。

 そういうことなら、協力しないでもないのに。

 あんたはあの人たちをできるだけ救いたい、だからあれこれ、救うための算段をつけている。

 それでいいじゃない」

「それじゃあ……賛成してくれるの?」

「賛成は、しない。

 協力はするけど」

 ハヌンはリンザから視線を逸らしてそういった。

「それにあんたがいったこと、わたしが保身のために、今の立場を失いたくないために反対しているっていうのも、そんなに間違いじゃない。

 確かに、新進気鋭の王国貴族、ハザマ男爵の配下って身分は、王都では聞こえがいいからね。

 でもその王都も、最近ではかなり不穏な気配が満ちて来ている。

 いろいろなことが立て続けに起きたせいか、上は貴族から下は流民まで、みんながみんな浮足立って不安そうにしている。

 これから先どうなるのかまではわからないけど、王国がこれから大きくその姿を変えていくんじゃないかって、誰もがそんな噂を口にするようになった。

 案外……」

 その噂の通りに、なるのではないか。

 というその先を、ハヌンは、あえてその口から発することはなかった。

 今、王国は、決して後戻りができない変化の途上にあるのではないか。

 ハヌンは、そんな予感を少し前から抱いていた。

 そして、その変化の原因は、少なくともその一端は、紛れもなくハヌンが属する洞窟衆から発しているのだ。


「こと、王国内部の勢力争いということになると」

 代わりに、ハヌンはリンザの目をまともに睨みつけて、そう口にした。

「おそらく、王都の公館は今まで以上に矢面に立つことになる。

 だから、重要な情報や情勢の変化があったら、真っ先に知らせなさいよ」

「う、うん」

 リンザは、毒気を抜かれた風に、力なく頷いた。

「でも、今までだって……」

「そちらがどういうつもりか知らないけど!」

 ハヌンはリンザの言葉にかぶせるように、声を大きくする。

「王都の公館は、洞窟衆の中では外れだから!

 気のせいでなければ、大事なことはいつも最後に知らされるばかりで、ないがしろにされている気がする!」


 王都は、王国の中心地だ。

 しかし、王都にあるハザマ領の公館は、洞窟衆という組織の中では外縁部に位置づけられている。

 その転倒が、ハヌンは以前から気に食わなかった。

 これでもハヌンをはじめとする公館の人々は、王国と洞窟衆の間に挟まりながら大小の交渉事をおこない、洞窟衆にとっても決して無視はできない働きをしてきたつもりである。

 だが、それでも王都の公館は、洞窟衆の中では外様なのだ。

 なにかを生産するわけでもなく、具体的な利益をあげるわけでもなく、もちろん、武勲などとも無縁な部署である。

 そのために、なんとも地味で影が薄い。

 大変な仕事をしている割には、評価をされていない。

 洞窟衆の中でもないがしろにされている。

 そういう抜きがたい感覚を、ハヌンは持っていた。

 あるいはそれはハヌンの個人的な思い込みに過ぎなかったのかも知れない。

 が、普段なかなか洞窟衆内の他の部署と密な連絡を取り合うことが難しいからこそ、ハヌンはそうした思い込みを拭い難く、それがここに来て爆発した形だった。


「そんなこと」

 リンザは戸惑ったような表情でハヌンに反駁する。

「別に、思ってもいないんだけど」

 リンザにとっては、これが本音である。

 ただ、リンザはこれまでハザマの側に控えていて、あくまでのその視点で物事を見ることに慣れている。

 王都に公館に勤務するハヌンたちがどのような感情を抱くものか、なかなか想像をできないでいた。

 どうしてハヌンがここまで感情的になっているのか、リンザにはまるで理解できていなかった。

「そういうつもりがなくても、いつも勝手に一人で決めちゃっているでしょ!

 この間の両公爵家との件とか、今回も、こんな大事なことを!」

 ハヌンは勢い込んでそういった。

「あの男が居ないときくらい、もっとみんなに相談しなさいよ!」

「う、うん」

 その勢いに飲まれたように、リンザは小さく頷いた。

「今度から、そうする」

「わかればよろしい」

 そういってハヌンはどっかりと腰を降ろした。

「あんたはあの男ではないんだから、なにからなにまでみんな自分一人で抱え込むことはできないし、そうする必要もない。

 そんな無理をいつまでも続けていたって、どこかでその無理は絶対どこかで祟ってくる。

 あんた一人の問題で済むなら放っておくんだけど、あの男が居ない今は、そうもいっていられない。

 あんたがコケると、洞窟衆全体にまで波及する問題になるの。

 その辺、ちゃんと考えて弁えてよね」

「わ、わかった」

 リンザはまた、頷いた。

 ハヌンがいうことは、正論だ。

 いつの間にか、ハザマが不在であることの穴埋めをしようとばかり考えて、視野が狭くなっていたのかも知れない。

 もっとみんなを、洞窟衆の仲間たちを当てにしてもいいのだ。

 いや、そうした方が、結果としてより安全になると、リンザはそう思い、改めて深呼吸をした。


「それで、森の向こう、東に側への干渉をこれから本格的にしようというんなら」

 ハヌンはいった。

「この場に居る人たちだけでは、細かいことまでは決められないでしょ。

 最低限、財務のタマルさんとか実際に現地に向かうトエス、それと、事前にそちらの情報を収集してくれるよう、オットル・オラさんあたりにも声をかけて了解を取っておかないと、今後身動きが取れなくなるんじゃない?」

「そうね!」

 リンザが勢い良く即答する。

「さっそく連絡する!」

「本当の目的を公にすることはできませんが」

 そのやり取りを興味深げに見物していたマヌダルク姫が、口を挟んできた。

「森の東側への干渉、いえ、支援をすること自体は秘匿する必要はないのではないでしょうか?」

「いえ、実際のところ、人や物資を少なからず動かす必要が出てきますから、完全に秘密にすることもできないと思いますが」

 メキャムリム姫が指摘をする。

「冒険者ギルドを通じて人を集めるような局面も出てくるはずですし。

 その目的は伏せた上で、単に森の東側への支援として、公表してはいかがでしょうか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ