↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

758/1089

アズラウストの試練

 アズラウストは反論できなかった。

「それとも、公爵様はわたしどもの世話などにならず、ご自身で伴侶となられる方を探し出しますか?」

「いや、それも」

 アズラウストは呻くような声で応じた。

「今すぐには、難しいな。

 それは認めよう」

 リンザはアズラウストの、メキャムリム姫によく似た顔立ちを見つめながら頷く。


 貴族のすべてが美形というわけではないのだが、少なくともこのアズラウストは貴公子然とした整った風貌の持ち主である。

 しかもブラズニア公爵という社会的な地位にあり、一般的な基準に照らし合わせれば決してもてないわけではない。

 それどころか、影に日向に女性の方からアプローチをかけられる機会は以前から多かったはずだ。

 にも関わらず、現在に至るまで身を固めるどころか浮いた噂ひとつないということは、つまりはアズラウスト自身にそのつもりがなく、これまできれいに遊べる相手のみを選んで交際して来た、ということなのだろう。

 つまり、アズラウストは、自分の意思によって独身であることを選び、ここに来てそれがリンザのつけいる隙となってしまっている。

 少し前なら、ブラズニア公爵領が王国内の一領地であり、アズラウストが王国大貴族の一員であった時期なら、リンザの指摘することなど一笑に付されたはずであった。

 アズラウスト自身がその気になりさえすれば、縁組をする相手などには決して困らず、よりどりみどりだったのだから。

 しかし、ブラズニア公爵家が王国からの脱退を一方的に宣言した今では、かなり事情が異なって来る。

 まず王国貴族社会にアズラウストの伴侶候補を求めるのは無理であったし、さらにいえば、今この時点でブラズニア公爵家がこの先どうなるのか見通しが効かず、従ってアズラウスト自身の地位も決して安泰であるとは見なされないのだった。

 公平に嫁ぎ先としてのアズラウスト・ブラズニア公爵を査定すると、はなはだリスキーであると結論するしかない。

 乗るか反るかの大博打に近く、喜んでそんな縁談に乗ろうとする女性は、かなりの野心家かそれとも時流を読む能力さえないのか。

 とにかく、まともな思考と価値観を持った貴婦人ならば、まず敬遠するはずであった。

 つまりリンザは、アズラウストのかなり痛いところを指摘したのである。


「認めはするが、それはたいした問題ではないのではないか?」

 アズラウストは、なおも余裕のある態度でリンザに反駁した。

「今のわが家の不安定な境遇は一時的なものであり、いずれは安定する。

 そうでなくてはいけない。

 ぼくの嫁探しなぞ、そうして安定を得てからゆっくりとすればいい」

「不安定なこの時期であるからこそ、伴侶と、それにお世継ぎがない問題はより切実なのではないでしょうか?」

 リンザはそう切り返した。

「対外的な印象の問題もありますし、それに、もっと実際的なことをいわせていただければ、少し前のベレンティア公爵の二の舞に……」

「え、いや、それ以上は控えて」

 アズラウストはリンザの言葉を手で制した。

「うちにも血の気が多いのが居るからね。

 確かにそこがつけ入る隙になることは認めるし、それに、うん、ベレンティア公爵家のように断絶の憂き目に会うのは願いさげだね、ぼくとしても」

 今、このアズラウストに万が一のことがあったら、下手をすると単純に断絶したベレンティア公爵家以上の修羅場が起こるのではないか、と、リンザは予測している。

 ブラズニアの領地にはここぞとばかりに王国の手勢が攻め込むであろうし、それ以外に、ブラズニア公爵家の跡目争いが勃発する争いが起こる公算が高かった。

 順当にいけばメキャムリム姫に家督の継承権が移譲するはずなのだが、なにしろこの非常時であるから引退したはずの前ブラズニア公爵を担ぎ出そうとする者や、それに王国もブラズニア公爵家の血縁者を見繕い、あるいはアズラウストの私生児などをでっち上げてでも傀儡として後継者に据えようと画策をして来るはずである。

 そうなれば、もちろんブラズニア公爵家の王国脱退など構想倒れに終わるし、それ以上に公爵領内はかなりひどく荒らされるはずであった。

 つまり、このアズラウストが現在、婚約者さえ居ない独身者である、という事実こそが、ブラズニア公爵領にとって大きな弱点となっているわけである。


「もちろん、警護の方々の首尾を疑うわけではありませんが、うちの男爵の例もあります」

 リンザはさらにいい募った。

「用心をし過ぎるということもないかと」

「まあ、この脱退宣言自体が、急に決めたことだしね」

 アズラウストはそういって肩を竦めた。

「以前よりいずれは、とは思っていたけど、いろいろと準備不足であったことは否定できない。

 こういってはなんだけど、この程度のあらがあるのは仕方がないよ。

 だけど君、それ、一人で思いついたの?」

「はい」

 リンザは即答した。

「たった今、洞窟衆が公爵様に提供できるものはないかと考えていたときに、思いつきました」

「薫陶というやつだね」

 アズラウストはいった。

「なるほど、洞窟衆には人が居る」

「薫陶、ですか」

 リンザは、その言葉を聞いて渋面を作らないように努めた。

「誰かから習いおぼえた結果というわけでもないのでが」

「意識しないうちに影響を受けているということもある」

 アズラウストは平然とした顔で指摘をする。

「君は、ハザマ男爵に対して一番身近に接していた人物なのだろう」

「ええ、まあ」

 不承不承、といった感じでリンザは頷く。

「あまり認めたくはありませんが」

 もしかしてこれは、先ほどの意趣返しなのだろうかとリンザは思った。

「君はいわば彼の腹心なわけだ」

 そういってアズラウストは顔をほころばせた。

「であれば、これくらいの芸当はできて当然ということなのだろうな」

 なんだか、この人のハザマに対する評価は不当に思えるほどに高い、ような気がする。

 などとリンザは思う。

「ぼくの伴侶をそちらで見つけてくれるというのならばそれもよし」

 そして続くアズラウストの言葉を耳にしてあやうく吹き出すところだった。

「ただ、できれば君程度には頭が切れる女性を連れてきて貰いたい。

 容姿は問わないが、服やおしゃれや世間体のことしか頭にないような女性は、いかなる身分であろうともお断りさせていただく。

 できれば君自身がこのままこちらについてくれれば一番面倒がないのだが、今の君の立場だとそういうわけにもいかないだろう」


 バジルニアの官邸に帰ると、リンザはその足でメキャムリム姫の元へとむかい、相談を兼ねた報告をおこなった。

 人捜しをしようにも、アズラウストの好み、ないしはアズラウストから断られにくい女性の傾向を一番知っているのは、アズラウストの実の妹であるメキャムリム姫であると、そう考えたからである。

「いかにもうちの愚兄らしいやり取りですね」

 メキャムリム姫はリンザから一通りの説明を聞いたあと、ため息混じりにそういってから、深々と頭をさげた。

「うちの愚兄のせいで不愉快な気持ちにさせて、どうもすみません」

「いいえ!」

 リンザは慌ててメキャムリム姫をとどめた。

「や、やめてください!

 わたしはそんなに気にしていませんから!」

 リンザが慌てるのも無理はなかった。

 大貴族のご令嬢が平民の娘に頭をさげるというのは、よほどのことなのである。

「いえ、あの愚兄は昔から、他人を試すような言動をすることが多かったので」

 メキャムリムはいった。

「人の上に立つ立場として、それはどうかとも思うのですが、あの悪癖はなかなか治らないようです」

「つまりは、人間に対する選り好みが激しいということですか?」

「自分にとって有用な人物とそうでない人物の峻別が、平均よりもかなり厳しい気がします。

 その代わり、一度認めた人物に対してはかなり親身に接するのですが」

 それでハザマが気に入られたわけか、と、リンザは納得する。

 でもそれでは、特にアズラウストに使われる人たちの間で無用な軋轢を生じさせてしまうのではないか、とも、リンザは思った。

 メキャムリムが指摘をした通り、貴族のあり方としてはそれでは問題が多いような気もする。

 それとも、リンザのような外来者にだけ、そうした傾向をより強く見せるということなのだろうか。

 いずれにせよ、リンザはアズラウストの試験を無事に通過できたということだけは、確かなようであった。


「それで、本題なのですが」

 リンザは話題を元に戻した。

「アズラウスト様がお好みになる女性の傾向とかは、ご存知ですか?」

 今のリンザとしては、アズラウスト個人の偏重よりもこちらの問題の方が重要事でなのある。

「それなんですが」

 メキャムリム姫は思案顔で答えた。

「本人がいっていた通り、頭がいい女性を好むというのはあると思います。

 というより、愚兄の考えることをある程度把握し、理解できる人でないと、男女問わずにそばに置きたがりません」

「それはまた、厳しい条件ですね」

 リンザはだんだん憂鬱になって来た。

「魔法関係の突っ込んだ話題にもついていける、それでいてブラズニア公爵家に嫁いでも遜色はない家柄の方となると」

 人数はかなり絞られる。

 いいや、ほとんど絶無なのではないだろうか。

 そもそも、やんごとなき家柄のお嬢さん方というのは、魔法とかの複雑な研究に興味を持たない傾向にある。

「いえいえ、魔法のことはこの際どうでもいいんです。

 愚兄にしても、あれはあくまで個人の趣味であると割り切っていますから。

 それに、そちら方面については他にいくらでも会話を交わす相手がいますし」

 メキャムリム姫が慌ててリンザの心配を打ち消す。

「ここでいう必要になるのは、時流とかまつりごとについてある程度相談できる種類の女性ということになりますね。

 魔法とは違って、そちらの方面については、今の愚兄には相談相手がいませんから」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。