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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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奇妙な会合のはじまり

 帝国海軍と海賊たちがほぼ総出でなにかと忙しかったその夜、一連の騒動の元凶ともいえるハザマはなにをしていたのか。


「どうだ?」

「すっかり寝入ってるようだ」

「いくら腕っ節が強くても、寝込みを襲えば」


 適当な小舟を借りて邪魔にならない場所を選んで係留し、その中でぐっすりと寝入っていた。


「それじゃあ、こっそり近寄って」

「ああ。

 一斉にいくぞ」

 人相の悪い海賊たちが顔を見合わせてそういい、頷きあう。

 彼ら海賊たちにしてみれば、いきなり現れていいようにこの場を引っかき回しているように見えるハザマは、目障りな存在でしかない。

 その目障りな存在であるハザマをこの機会に半殺しにするためにわざわざこうして他の海賊たちの隙を見て集まってきたわけである。

 気に食わないやつはとりあえず痛い目に合わせるという行動原理は極めてシンプルであり、海賊らしいといえば海賊らしい。

 ただ、これまでこのハザマと長くつき合ってきたはずの赤ウサギ船団の人間に事情聴取などをしてハザマに関する予習をまるでしていないあたりは、これまたいかにも海賊らしい単純さといえた。

 そしてその結果どうなったかというと、ハザマが寝ていた小舟の周囲にいくつかの水柱が盛大にあがり、なぜか何名か海賊が唐突に体の自由が効かなくなったまま溺れかけ、仲間の海賊たちが慌てて救いあげることになった。

 そしてその顛末のそもそもの原因であるハザマは、そんな騒ぎがあったことも気がつかない風で翌朝まで安らかに寝入ったままだった。


 そんなこんなでハザマ以外の誰もが忙しかった一夜が開け、ハザマはここの頭領格の老婆に呼び出された。

「海軍の連中がお主を引き取りたいと申しておる」

「いくよいく。

 もちろん、喜んでいくとも」

 ハザマは即答した。

 このままいつまでもこの大亀に身を寄せていても、進展がない。

 ハザマにしてみれば、帝国海軍に引き渡される方がずっとありがたいのである。

「とはいっても、こちらとしてもすんなりお主をやつらに渡すつもりはない」

 しかし老婆は、この後におよんでハザマの引き渡しを渋って見せた。

「なんといってお主はわれらの人質ということになっておるからな。

 できるだけ勿体をつけておかぬと、それらしくない」

「ははぁ。

 なにか条件をつけますか」

 ハザマも一応、もっともらしく相槌をうっておく。

「でも、むこうさんがうまくその流れに乗ってくれますかねえ?

 おれの引き渡しに応じてくれたってことは、こちらの呼びかけにようやく答えてれたてことなんでしょうけど、それまではまるっきり無視されて来たわけですし」

「だからよ」

 老婆はいった。

「やつらは海賊たちのことなど少しも考えてはおらん。

 下手に捕まえても縛り首にするだけ手間がかかるとばかりに、この場で始末をしたいと思っておる。

 これまでこちらの呼びかけにまったく応じておらんかったのがその証拠よ」

「でも、おれなんかが交渉材料になりますかね?」

「お主の名を出した途端に、それまで返信をしてこなかったやつらが反応した。

 やつらにとって、お主の存在がなにがしかの価値を持つということであろう。

 いすれにせよ、今のわしらは、あやつら海軍とその背後に存在する帝国と取引できる材料を、他に持っておらん」

 貴重な取引材料だから、すんなり渡すわけにもいかず、せいぜいもったいぶって相手からできる限りの譲歩を引き出すつもりだ、というわけだった。

「その辺は、おれもできるだけ帝国側にはなしてみるつもりなんですけどね」

 ハザマは慎重な口ぶりでいった。

「海賊たちの減刑を嘆願すると約束事をしてますし」

「お主の方がそのつもりであっても、あちらがお主の言葉にどれほどの重きを置くものか、それが読めん」

 にべもなく、老婆はそういい切った。

「帝国にとって、お主が何者であるのかということがな」

 だから通常の人質として、せいぜい値を吊りあげるための道具として活用するつもりだ、というわけであった。

 これはまあ、仕方がないのか。

 と、ハザマは思った。

 海賊たちにしてみれば、不意に現れたハザマという異例の存在を正確に評価しかねている節があった。

 さっさとこの場から去って欲しいという気持ちも強いのだろうが、帝国側の態度を軟化させるための材料として使えるものならば活用したい、という思いもある、と感じる。

 どこにいっても持て余されるもんだなあ、おれは。

 ハザマは、そんな風に思った。


 帝国側との会合は海上、大亀と帝国海軍艦との中間地点に設定された。

 その周辺は浅瀬で岩礁が存在しているため、喫水線の深い大型の船は行き来できないのだが、手漕ぎのボートなどの小型船は問題なく通行することができる。

 だいたいの位置を指定してまずは帝国側の船に先行して待っていてもらい、そのあとから海賊側の船が合流をする手はずになっていた。

 当然、ハザマはこのうちの海賊側の船に乗り込むことになる。

 ハザマたちが乗った船はあまり日が差さない大亀の甲羅の中から出て、日差しのきつい外へと出ていった。

 ハザマは強い日光に目を細めて、ついで手でひさしを作って陽光を遮る。

 ハザマが乗った船には頭領格の老婆と海賊たち、それにハザマと、ハザマたっての要望により、船医の先生が同乗していた。

 それ以外に、ハザマが乗る船と並行して、頭だけを出した半魚人が船の速度に合わせて泳いでいる。

 例の青みがかった体表の半魚人で、この半魚人のことをハザマはアオという仮称で呼ぶことに決めていた。

 もちろん、別にその半魚人の呼び名はあるそうなのだが、ハザマの耳にはギギギギとしか聞こえず、聞き分けも発音の真似もできそうになかったので、本人の了承を得た上で人間側が使う名前をハザマが勝手につけた形である。

 このアオは、ハザマの言葉を半魚人に伝える立場にいる半魚人であった。

 半魚人たちは別に意思の統一が取れた集団ではないので、半魚人側の代表者というわけでもない。

 ただ、ハザマの発案を面白がってそれに乗ってくれる半魚人たちは一定数存在しているらしく、そうした半魚人たちにハザマの声を伝えるスポークスマン的な役割をこのアオがおこなっているらしかった。

 形の上では海賊たちが帝国海軍にハザマの身柄を引き渡すための会合であるはずだったが、実際には海賊と帝国海軍と、それに半魚人たちとの意見を交換するためのものになりそうだな、とハザマは思っている。

 いずれにせよ、帝国海軍にしてみれば、海賊なり半魚人なり、それまでその存在を軽視していた勢力とはじめて対等といえる立場で談合をすることになるわけだが。

 ハザマがそんなことを考えている間に船は進み、先に着いていた船がみるみる近づいて来る。

 船を漕いできたらしい、数名の屈強な男たちと、それにパリッとした服装のものが数名と、その者らとはまた違った、ゆったりとした衣装を着た初老の渋いおっさんが乗っていた。

 水夫と海軍のお偉方と、それに帝国側の高官ってところかな、と、ハザマはあたりをつける。

 なにしろ転移魔法がある世界だから、ハザマの身元を確認するために、あるいは半魚人関連の問題を調査、解決するため直ちに帝国側の人間が派遣されて来たとしても、決しておかしくはないのだった。


 二隻の船が隣接し、海軍側の主要な乗員たちがまず名乗る。

 それによると、ゆったりとした服装の渋いおっさんがガグルバイド伯、制服の一団で一番偉い人がヨッカム提督というそうだ。

 当然のようにガグルバイド伯の方が先に名乗ったのを見ると、どうも海軍で一番偉そうなヨッカム提督よりもこっちのガグルバイド伯の方が立場は上のようだな、と、ハザマは判断する。

 海賊側は、自分たちの名を海軍側に明かさなかったし、海軍側もそのことを当然と受け止めているようだった。

 まあ、海賊たちは取り締まられる側の罪人なわけだしな、とか、ハザマも心中で納得する。

 海賊側が名乗るのは、それこそ完全に敵の手に落ちて取り調べを受けているときくらいだろう。


「ときに、そちらの方がハザマ・シゲル男爵なのですか?」

 本格的な談合に入る前に、ガグルバイド伯がハザマの方に視線をむけて訊ねて来る。

「さよう」

 ハザマ自身が返答をする前に、頭領格の老婆が答える。

「少なくとも当人はそう自称しておる」

「人相風体から見ても、まず間違いないかと思われます」

 ガグルバイド伯爵がハザマに視線を据えながら、そういう。

「念のため、男爵の力をこの自分に使って貰えませんか?」

 なるほど、本人証明というわけか、と、ハザマは納得する。

「ごく短い時間でいいですね?」

 ハザマは素早くいい、相手の返答も待たずにバジルの例の能力をガグルバイド伯にむけて解放する。

 傍目からみていれば、ハザマとガグルバイド伯とが睨み合ったまま黙り込んでいるようにしか見えなかっただろう。

 時間にしてごく短い間でしかなかったが、ガグルバイド伯にしてみれば、完全に体の自由が奪われたことを体感できたはずだった。

 数十秒、ガグルバイド伯の体の自由を奪ってから、ハザマの唐突にそれを解除する。

 その直後に、ハザマはこういった。

「これで十分にご理解いただけたと思いますが」

「確かに、あなたはハザマ男爵で間違いがないようだ」

 ガグルバイド伯爵はいった。

「他の何人にもこんな真似はできないでしょう。

 それでは、こちらの船に移って貰えますかな」

「いいや、その前に」

 ハザマは条件を出した。

「ここに居る海賊たちの扱いについて、少しは手心を加えると、そういう確約をいただけませんかね?

 おれはこいつらの減刑を嘆願すると約束してしまっているし、それに海軍の方にしてみても、今の状況では海賊討伐どころではないでしょう?」

「海賊関連の件に関しては、本職はなんらかの判断をおこなうべき立場にありません」

 ガグルバイド伯はそういってヨッカム提督の方に顔をむけた。

「海軍としては、この提案をどう思いますか?」

「それに答える前に、ひとつ確認をしておきたい」

 ヨッカム提督は、そいいった。

「この海域のウロコ野郎どもは、いったい誰の指図で動いているのか?」

「半魚人たちは、半魚人たちの意思で動いている」

 ハザマはきっぱりとした口調でいった。

「また、あくまで半魚人のうちの一部が、であり、そのすべてが意思を統一して動いているわけでもない。

 そうだよな? アオ」

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