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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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姫とリンザの対話

『なにやら大変なことになってしまって。

 落ち着いたら一度ご挨拶をしようと思っていたところなんですよ』

「は、はあ」

 湯船に浸かりながら、リンザは生返事をする。

 なにしろ相手は一国を統べるお姫様、アポリッテア・スデスラス姫だ。

 通信が入ったとの連絡を受けたとき、

「今は私用の時間だから」

 と断ったのだが、先方から、

『急用ではありませんし、すぐに済みますから』

 と強引に押し切られて実現した対話である。


「それで、ご用件はなんになるのでしょうか?」

 リンザは、硬い口調でいった。

『そんなに緊張なさらなくても』

 アポリッテア姫の声は、軽い笑うを含んでいる。

『われわれスデスラスは、あなた方洞窟衆にとても感謝しているのですよ』

「こちらとしても、あくまで仕事で受けているだけのことですから」

『ハザマ男爵が行方知れずとなられたことまでは、仕事の範疇には入らないでしょう』

 アポリッテア姫は、そういう。

『あの事件に関しては、場内の警備を担当していたわれわれも責任を問われるべきであると思っています』

「そうはいっても、その警備を担当していたのも、ほとんどが解放軍兵士になるわけですしね」

 少しうんざりしながら、リンザは答えた。

「それに、あのステラシュスという人の手口をみると、事前に取り押さえるのはかなり難しい状況だったと、そのように理解しています。

 姫様がお詫びをなさる必要はありません」

 なんで入浴中の、寛いでいる時間にまでこうした社交辞令の応酬をして気を使わなければならないのか。

 リンザは、そんなことを思っていた。

『お寛ぎのところ、申し訳ありませんね』

 アポリッテア姫はリンザの思惑に気づかない風で続けた。

『あの人も、よく入浴中などにわたくしからの相談を受けてくれたものですが、あなたにまでそれを望むべきではないのでしょう。

 ただ、感謝と謝罪と、それに相談をしたいことがあったので早急に連絡を着けてもらいました』

「相談、ですか?」

 リンザは軽く首を傾げる。

「そちらの冒険者ギルドなどにはできない相談なのですか?」

『おかげさまで、復興事業などが滞る要因はかなり排除できました』

 アポリッテア姫の返答を聞いて、リンザは、

「それはそうだろう」

 と、ひとり頷く。

 なにしろ、ベズデア連合とメレディラス王国はそれぞれの内輪揉めで忙しく、ゴロジオ王国は内乱の後始末と膨大な賠償金のためしばらく身動きが取れないような状態なのだ。

 つまり、スデスラス王国を悩ませる可能性のある近隣の勢力は以降数年、スデスラス王国どころではなくなるわけで。

 そんな現状は、スデスラス王国にしてみれば、願ったり叶ったりもいいところ、のはずだった。

 そうした状況を作り出したのは、洞窟衆の働きと、それにハザマの失踪が結果的にもたらした影響が大きいわけで。

「だから、感謝と謝罪、なのか」

 リンザは、そう思い当たる。

 ハザマが居なくなったことは、結果としてスデスラス王国に大きな利益を与えることになった。

 立場上、大ぴらにそれを喜ぶことはできないけど、アポリッテア姫としては、

「感謝と謝罪」

 をこちらに伝えない訳にはいかない、といったところなのだろう。

 面倒だなあ、こういうやり取り。

 とか、リンザは思う。

 いちいち言葉の裏を読んで、相手の真意を推し量らなければならない。


「それで、ご相談というのは?」

 リンザは、そう訊ねる。

『他ならぬ、ステラシュス姫のことです』

 アポリッテア姫は即答する。

『尋問は、そちらの方にも協力して貰ってこちらで進めていますが、それが済んだあとにどうするのか、ということです』

「うちでは預かれませんよ」

 リンザも即答した。

「あんな面倒そうな人の身柄なんて」

 他人の精神に干渉する加護の力を持つことに加え、バイラド・ゴロジオの婚約者という立場もある。

 扱いがこれ以上面倒臭そうな罪人も、そうそう存在しないだろう。

『同感です。

 そこで』

 アポリッテア姫はそんな提案をしてきた。

『尋問が済んだあとのステラシュス姫は、彼女の精神修養も兼ねてヘムレニー教団で預かって貰おうと思うのですが』

「いい考えかもしれませんね」

 リンザはすぐに頷いた。

「そこ以上に適切な軟禁場所はないでしょう」

 世俗の権力が容易に干渉できない聖域であり、そのため、このアポリッテア姫も一時期ヘムレニー教団に身を寄せていたはずだ。

 ステラシュス姫が手荒に扱われる恐れもない。

 なにより、その人のためにこれ以上思い悩む必要がなくなるのが一番いい。


『あなたならば賛同してくださると思いました』

 アポリッテア姫はいった。

『わが国は、ハザマ男爵の捜索に関してもできる範囲内で協力をさせていただく予定でいます。

 なんなりとお申しつけください』

「そういってくださるのはありがたいのですが、男爵が今、どの空の下に居るのか皆目見当がつかない状況ですから」

 リンザは、そう答える。

「もしも貴国の協力が必要になった場合は、遠慮なく頼らせていただきます」

『そうですね。

 それでは、今回はここまでで。

 また機会を改めて、今度はゆっくりとこの場には居ないあの男の悪口でもいいあって盛りあがりましょう』

 一国の王女様にこういわれて、どのように返答するのが正解なのか。

 リンザが迷っているうちに、

『一番身近なあなたなら、話題は尽きないことと思います。

 そのときが来ることを願って』

 といい残して、アポリッテア姫は通信を切った。


「なんかそうしていると、リンザもせきにんしゃーって感じがするよね」

 同じく浴槽に浸かっているトエスが、そう声をかけてくる。

「なに、それ」

 リンザにしてみれば、かなり不本意ないわれかただった。

「こっちは、他にどうしようもなくて、仕方がなくやっているんだけど」

 そうでなければ、誰がどこかの王侯貴族などとやり合いたいものか。

「拗ねない拗ねない。

 これでも褒めているんだから」

 そういってトエスは、ほーっと長く息を吐いた。

「なんだかこうして暖かいお湯に浸かる贅沢にも、完全に慣れちゃったなー。

 リンザはいつもこっちに入ってんの?」

「こっちって、この領主用のお風呂のこと?」

 リンザは訊ね返した。

「冗談。

 いつも忙しくて、職員用のシャワーを浴びて手早く済ませているよ」

 空いているときに使わせてくれと希望すれば、おそらく断られることはないのだろうが。

 かなり不本意なことながら、ここでのリンザはハザマの副官相当の地位にあると目されていた。

「やっぱり出世しちゃったなー、リンザ」

「いつでも代わるけど?」

「いや、それはいいや。

 面倒そうだもん」

「面倒よ、すっごく。

 特に今のようのな状況だと」

「だよねー」

 二人はそういって、ひとしきり笑いあった。

 しばらく笑ったあと、リンザはぽつりと、

「あいつ、今頃どうしているんだろう?」

 と呟く。


 その頃、というかその夜、ハザマは遠くに見える煙を目指して延々と夜通し泳いでいた。

 なにしろ大海原の真ん中だから、そのまま眠ることもできず、だとしたら体力が尽きる前にどこかの陸地に辿り着きたいと、そう思ったからだ。

 その煙があがっている場所がどのような場所であるのか、ハザマの場所からは距離があり過ぎるのと夜であることから判然としなかったが、なにもしないでただ海に浮いているよりはマシに思えた。

 しかし、海の上で夜ともなると、距離感がぜんぜん掴めないな、と、ハザマは思う。

 思いながらバタ足を休むことなく続けて、次第に空が白みはじめる。

 幸いなことに、バジルの影響で身体能力がかなり向上していたハザマは、疲労こそ感じていたものの、さして深刻な状況でもなかった。

 十分に周囲が明るくなってから、ハザマは泳ぎながら、目を凝らして煙の発生源を見定めようとする。

 まだまだ距離があるため、煙の発生源がどうなっているのか、詳細な状況がなかかな把握できない。

 さらに泳ぎ進め続けて日が高くなったとき、ハザマの周囲に異変が起こった。

 ハザマの左右の海上、に数十という物体が波しぶきをあげて並走するようになったのだ。

 明らかに、ハザマの進む方向と速度に合わせていた。

 大型の魚か、それともイルカかなにかか、とハザマは訝しむ。

 バジルが居るので、その生物がこちらに敵意を向けてくることは警戒していなかった。

 むしろ、イルカどかであれば、魅了の能力を使ってどこかの陸地にまで運んでもらえないだろうかと、そんなことを思ったくらいだ。

 しかしその生物たちは、ハザマのことを警戒してかなかなか近づいてこない。

 一番近づいてきたときでも、たっぷりと十数メートル以上の距離をあけていた。

 なかなか慎重だな、と、ハザマは思う。

 少なくともこちらを食料だと見定めて襲ってくる様子はないようだが、それ以外の好奇心でついてきているようだ。

 っていうことは、好奇心を持つだけの知性があるってことか。

 ハザマはそう思う。

 そいつらまでの距離が十分に開いていることと、それにそいつらが海上に姿を現したり海中に沈んだりを繰り返しているので、そいつらの形状や正体まではなかなか見定めることができなかった。

 ハザマに確認できたのは、波濤の合間に見え隠れする濡れた灰色の体表だけ。

 それが鱗に覆われているのかどうかさえ、見定めることができていない。

 まあ、いいや。

 ハザマはすぐにその生物たちの正体を詮索することを諦める。

 それよりも、あそこを目指すのが先だ。

 ハザマは正面に目を向ける。

 そこには、煙の発生源が次第に大きくなっているところだった。

 どうやら、小さな島らしい。

 草木も少しは生えているようだが、ほとんど土色を剥き出しにした小さな島が、遠くに見えた。

 細く煙が出ているのは、どうやらその島の向こう側らしい。

 あの規模ならば、おそらくは無人島だろうな、と、ハザマはぼんやりとそんなことを思った。

 あの煙は火山活動かなにかのせいで、あの島自体も比較的最近に隆起して来たものなのかも知れない。

 まあ、その辺の事情は、実際にあの島に到着すればいくらでも確認できるだろう。

 今はあの島にまで泳ぎ切って、それから、ちょっと休憩したい。



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