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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ジャーナリズムの萌芽

「……というわけで、だいたい二つの理由から却下だな」

 暇があったので、ハザマはニライア姫とメイムに新聞事業の創業を許可できない理由を説明してみた。

「費用がかかりすぎるということと、潜在的な購買層が少なすぎるということですか?」

 ニライア姫は、どうにかハザマがいったことを理解できたようだ。

 流石は王室育ちというか、この世界の平均よりもずっと諸々の知識を持っているからだろうか。

「そ」

 ハザマは頷く。

「このうちの前者、コストに関してさらに詳しくいうと、こっちでの紙の量産が成功すれば、今後値段はかなりこなれてくるかも知れない。

 だけど、転移魔法の使い手を一定数確保するとなるとそれなりの人件費が必要となるわけでさ。

 今回のようにどっかで太いスポンサーでも捕まえないとまともに事業を継続できないと思う」

 そういってからハザマは、

「商売面でのより詳しいことを知りたかったら、タマルにでも訊いてくれ」

 とつけ加えた。

 現在の多忙なタマルが、首尾よくつき合ってくれるかどうかまではわからないが。

「単価を抑えるためには、発行部数を多くする必要がある。

 しかし、大量の発行部数を確保するためには、新聞を読める人をもっと増やさなければならない……」

 テンロ教徒のメイムは、なにやら小さな声で呟いている。

「つまりは、まだまだ時期尚早ってこと?」

「考えてもみろよ。

 こっちでは、実用的な紙が出回ってから、まだまだいくらも経っていない」

 ハザマは、憮然とした顔で応じる。

「そんな状況で、いきなり短期間で識字人口が拡大するわけでもないだろう」

 今の時点では、商売として新聞事業をはじめるための条件が、まだまだ出揃っていないのだった。

「金主になりそうなどっかの国とか貴族とかが、赤字を覚悟した上で、必要に応じて自分たちのために新聞を発行しようとするのは、今後もあるんだろうけどな」

 とも、つけ加える。

 だがそれは、客観的な記述を心がける、公正中立をその旨とするジャーナリズム精神からは乖離した、いわゆるプロパガンダ的な内容になるはずだ。

 ハザマ領が発行するものや戦時時報などは、経済や戦況など、比較的客観的な記述のみで構成されていたわけだが、それは限られた紙面の中で膨大な情報の中から厳選した内容に絞った結果でもある。

 字数的に、偏向した記述を載せられるだけの余裕がないのだった。

「だからまあ、どうしても自分たちの手で新聞事業を立ちあげたいというのなら、資金源からなにから自分たちの手で整えた上でやってくれ。

 必要な印刷技術とか紙とかは、洞窟衆で提供してもいいから」

「あくまで、有償で、ですよね?」

「当然だろう。

 お前らだけを優遇しなければならない理由なんか、洞窟衆にはないんだから」

 メイムが確認を求め、ハザマはすぐにそれを認めた。

 そのあと、

「でもまあ」

 と、つけ加える。

「少し、助け船を出しておくか。

 このガダナクル連邦では、こちらでの紙の量産に成功したら、おそらくは自前の印刷所を開設すると思う。

 いきなり新聞を発行するのはハードルが高いが、将来的には書籍類はそこで独自に発行をすることになるだろう」

「国を治める側からすれば、自分たちの主張や見識を効率よく広める手段ですものね」

 ニライア姫はハザマの言葉に頷いた。

「まともな為政者なら、そうした技術に飛びつかないわけがありません」

「まずは、そこで発行する本の内容を書いてみてはどうだ?」

 ハザマはいった。

「連邦の意に添わない内容ならばともかく、公共性が高くて連邦が広めたいと思うような内容なら、刊行してくれるかも知れんぞ」

「それは……たとえば?」

「洞窟衆では、今のところ魔法や医術関係など、実用的な教本を継続して刊行している。いわゆる、実用書になるな」

 ハザマはいった。

「洞窟衆は、まあたまたま領地なんかももらってはいるが、基本的には営利団体だからそれでいい。

 さっきもいったように、識字率とかを考えたらまだまだ娯楽用の書籍を発行するのは商売として条件が悪いからな。

 だけどガダナクル連邦が発行元になるのならば、もっと別の切り口が必要になるんじゃないか?」

 直接的には答えず、やんわりとヒントをほめのかした形である。

「ガダナクル連邦が欲しがる内容……」

 ニライア姫は、少しの間、考え込んだ。

「……それは……あっ。

 大義名分!

 国政社会に訴えるに値する、連邦成立の正当性!

 それを証明するような内容!」

「……一連の動乱の、戦記かなにかですか?」

 ニライア姫の発言が意味することがいまいち把握できないのか、メイムは曖昧な表情をしている。

「ここの戦闘の記録のみではなく、もっと根本的なところから……それこそ、なぜこんな戦乱が生じたのかまでを掘り下げて、誰にでも納得できるような内容に仕上げたとしたら!」

 ニライア姫はメイムの方に顔をむけ、勢い込んで叫んだ!

「侵略者側の一員である、ガンジガル王家に属するニライア姫が客観性を心がけて一連の動乱について執筆した書物があったとしたら、ガダナクル連邦の人間でなくても欲しくなるだろうな」

 ハザマはそういって頷いた。

「幸い、今のこの時期なら、各陣営の関係者がこの周辺に揃っている。

 膨大な証言を集めるのは、ここ最近のごく限られた期間内でしかできないだろう」

 この世界において、歴史書という代物がどのように位置づけられ、扱われているのか、ハザマは知らない。

 それでも、ニライア姫が本当にそういう内容を書きあげたとしたら、かなり前代未聞な、前例がない著作になりそうだなあ、ということくらいは想像がつく。

「各陣営の証言、ですか」

 メイムは、まだ怪訝な表情を浮かべている。

「ああ。

 テンロ教徒のメイム」

 そんなメイムにむかい、ハザマは言葉をかける。

「お前は、スデスラス王国軍の真ん中を移動しているよな?」

「ええ」

「そのとき、なにを感じた?

 スデスラス王国の兵士たちに対して、だ。

 やつらは、醜い侵略者の顔をしていたか?」

「兵隊の顔なんて、敵も味方もさして代わり映えはしませんよ」

 メイムは、げんなりとした表情で答えた。

「第一、実際に終わってみるまで、どちらが敗者になるのかは確定していないわけですから。

 緊張と恐怖で顔をひきつらせているか、自暴自棄になって凶暴な面構えになっているかで」

「では、そうした兵士たちを動かしている連中が、どういう思惑でいるのかには興味はないか?」

 ハザマはいった。

「戦争をはじめたやつ、防戦したやつ、いやいやい従軍したやつ。

 そういうのを一緒くたにして聞いて回って、整理してまとめて陳列するんだよ。

 そういう本があったら、読んでみたくならないか?」

「それは……うん」

 ようやく、メイムも頷く。

「後世のためにも、そうした記録は残しておいた方がいいかも知れませんね」

「じゃあ、協力してやれや。

 幸い、そこのニライア姫はガンガジルの王族だ。

 その地位をうまく利用すれば、たいていの人は対面してくれる」

 ハザマはいった。

「ニライア姫にしても、いつまでも活字拾いなんて手間賃仕事をしているよりかは、ずっとやり甲斐のある仕事だと思うんだけどな。

 捕虜である間は、最低限の衣食住を保証されているわけだし」

 けしかけるだけならタダだしな、とか、ハザマは思っている。

「やる意義は、十分にあるようですね」

 ニライア姫は、真剣な面もちで頷いた。

「その提案、乗らせていただきます。

 そのかわり、ガンガジル連邦に原稿を突き返されたときには……」

「ああ。

 そんときは、洞窟衆で出版してやる」

 ハザマは、保証した。

「よほどひどい内容でなければ、だが。

 だがまあ、まずガンガジル連邦の方でも、いやとはいわんだろう」


「ヒアナラウス・グラゴラウス公子が面会を求めてきています」

 ハザマたちがそんなやり取りをしているところに、クリフが声をかけてきた。

「お会いになりますか?」

「今すぐにか?」

 ハザマは確認する。

 ヒアナラウス公子が事前のアポなしで面会に来た例は、これまでになかった。

 どちらかというと、立場的にいってもハザマの方が呼び出される方が多いのだ。

「ええ。

 なんでも、仲介したい人物がいらっしゃるとかで」

「いいだろう。通してくれ」

 どうせ暇だしな、とか思いながら、ハザマは頷く。

「公子が連れてくる人って、どんな人かわかるか?」

「なんでも、スデスラス王国の兵士……今では、スデスラス系移民というそうですね。

 その代表者の方々を伴ってくるそうです」

「……おい!

 そこの残念姫とテンロ教徒!」

 ハザマはその場から撤収しかけていたふたりを慌てて呼び止めた。

「もうしばらくこの場で待機しておけ!

 貴重なインタビューの機会が飛び込んできたぞ!」


「夜分に失礼する」

 ヒアナラウス公子に引き合わされたスデスラス系移民の代表者は、ハザマに対して挨拶をしてきた。

「今宵は、洞窟衆の首領に申し出があって参上した」

「誰かと思えば、あんたか」

 その代表者の顔に、みおぼえがあった。

 別に名乗りあったわけではないのだが……。

「あんた、スデスラス王国の本陣まで、案内してくれた人だろ?」

「その節は失礼をした」

 その男は、不敵に見える笑みを浮かべた。

「おれは、オデレスという。

 今は、スデスラス軍兵士……であった者たちの、取りまとめ役のようなことをしている。

 そのすべてを、ではないが。

 それなりに能があるやつらは、すぐにどこかに雇われていくのでな」

「つまりは、これといって売りになるスキルを持たないやつらとか、しばらくは使い物にならない負傷兵ってことか?」

 そういって、ハザマは頷く。

「具体的に、どれくらい売れ残りそうだ?」

「三万前後といったところだな」

 その人数だと、大部分は重軽傷者になるな、とハザマは思う。

「そいつら全部を、洞窟衆で雇ってくれと?」

「あんたのところは、洞窟衆は、そういうのは得意なんだろ?

 あんたたちのことは、エデチエル伯爵も研究していたんだ。

 メレディラス王国と部族連合とのいくさのあとも、大勢の負傷兵を引き取って面倒をみているとか」

「一方的に面倒を見ているわけではないんだけどな。

 そんな余裕、うちにはないし」

 ハザマは即答する。

「それぞれの事情に見合った内容の仕事を、紹介しているだけだ」

「それでいい。

 いや、まさにそういうことこそを、おれたちは求めている」

 オデレスは身を乗り出す。

「どうか、おれたちをそっちで、洞窟衆で雇ってはくれないか?」

 クリフが、いれたての香茶をその場に居る全員に配りはじめる。

 ハザマは人数分の香茶を出すよう、あらかじめクリフに指示をしていたのだ。

「条件次第だな」

 香茶の腕を持ちあげながら、ハザマはいった。

「まず大前提として、そちらの身内の管理はそちらでしてくれ。

 こちらの人間に恨みを残しているやつらも相当数居るはずだが、暴発する前に取り押さえてくれ。

 それ以外の犯罪行為の始末も、そっちに任せる。

 まあ、これは当然だな。

 放置しておけばスデスラス王国系移民全体の肩身が狭くなる一方だから、手を抜くわけにはいかんだろう」

「わかった」

 オデレスは頷く。

「危なそうなやつの周囲には、監視を置くように気をつけよう」

「次に……現状では身動きの取れないやつらが大半だとは思うが、そういうやつらも容態や体力が許す限り、知恵をつけてやってくれ。

 読み書きができないやつらはまずそこから、それ以外のやつらも各種魔法や帳簿のつけ方など、おぼえるべきことは山ほどある。

 教材や教師役は、できるだけ早くこちらで手配をするようにする。

 面倒を見るとはいっても、全員一律の待遇をするってわけにはいかない。

 仕事ができるやつには相応の待遇を用意するが、そうでないやつにはそれなりの扱いしかできないから。

 時間が経つにつれて、各自の能力に応じて待遇に格差が出てくると思う。

 出自を同じくしていても、この格差が段々目立ってくるとまたなにかと摩擦の原因になってくるだろうが……その手の不満も、できるだけそっちで抑えるようにしてくれ」

「わかった」

 オデレスは、また頷く。

「そういいうのも含めて、身内の始末は身内でおさめろというわけだな?」

「そういうこと」

 ハザマも頷いた。

「戦時中の命令系統が今でも有効なら、そいつを利用してくれても構わない。

 いや、昨日今日でいきなり気持ちを切り替えろっていうのも無理だろうから、しばらくは暫定的に強制的に命令して動かした方がいいのか。

 特に下っ端の連中は。

 いや、実際はどうかわからんけど、やり方はそちらに任せるから、うまく効率的に動かしてくれ。

 洞窟衆としても、こっちで動かせるまとまった人数の労働力は欲しいところだったし」

「わかった。

 できるだけ希望に添うよう、心がけよう」

「それから、最後に」

「まだなにかあるのか?」

「最初の仕事だ。

 まずは、この子たちの質問に答えてやってくれ」

 そういってハザマは、スデスラス王国系移民の代表者たちとニライア姫、メイムのふたりを引き合わせた。


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