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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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異変の報告

「ちぃーす」

 急報を携えて洞窟衆に訪れた伝令師は、ハザマの顔を見ると軽薄な口調で挨拶らしき音を発した。

 最近、洞窟衆と中央委員との繋ぎを取っている、グリアスという若い女の伝令師だ。

「詳しい状況を説明してもらいたい」

 寝起きのハザマは、精一杯厳しい声を出してみた。

「知っている限りでいい。

 今、関係者を集めているところだ」

「うぃっす」

 グリアスは眠たげな目つきをして、頷く。

「こっちも、なんだかんだで大変そうっすね」

「まったくな」

 ハザマは短く息を吐いた。

「骨休めをする暇もない」


 ハザマは使いを走らせて周辺に居る関係者を召集していた。

 王国から、マヌダルク・ニョルトト姫とメキャムリム・ブラズニア姫。

 居留地関係の取りまとめ役として派遣されてきているマヌダルク姫に対しては、これまでの山岳地へ兵力を派遣する際にも、洞窟衆側はその詳細な内容を自主的に報告している。

 そもそも、隠し立てをするべき理由がなかったし、下手に情報を隠蔽して痛くもない腹を探られるのも面倒だったからだ。

 メキャムリム姫に関しては、一定数以上の人数を遠隔地に送る必要が出てくればどうしてもブラズニアの魔法兵を頼りにしなければならないわけで、こうしてなんらかの動きがありそうな場合にはいつも相談することになっている。

 中央委員の依頼による出兵については、すでに回を重ねているので諸々の契約手続きについても手順が固まってきていて、定型化していた。

 今回の場合は、それに居留地建築のためにこちらに滞在しているエジアス、ガルメア、ブリュムルの関係者にも声をかけている。

 当然のことながら、これは、今後のためにも情報を共有しておいた方がいいだろうと判断して、声をかけておいた。

 この三ヶ国の人々に関していえば、今故国で起こっている異変の報せはまだここまで届いていないのではないのではないか?

 伝令師や転移魔法の使い手は貴重なのだ。

 その三ヶ国が外交にどれくらい力をいれているのかもハザマは判断できなかったので、断言はできないのだが。


 そうした外部の関係者たちが集まってくる前に、前後して洞窟衆の関係者が仮庁舎の会議室へと入ってきた。

 洞窟衆の中で一番山岳地の情勢に詳しいバツキヤ、出兵を計画する際には欠かせないファンタル、財務関係の決定権を握っているタマルなどである。

 次々と会議室に入ってくる人たちに、クリフやリンザが甲斐甲斐しく熱い香茶を配っていた。


「……お客さんたちが集まってくる前に、いくつか確認、いいかな?」

 ハザマはバツキヤにむかってそう訊ねる。

「今回、ええと……ガンジガル王国っていったっけ?

 その国と、それにガンジガルに併合されたという三ヶ国について、ざっとでもいいから説明してほしい。

 最低限、知っておいた方がいいことを、片っ端からだ」

 なにしろハザマは、予備知識というものがまったくない。

「順当な質問ですね」

 バツキヤは何度か頷きつつ、そういった。

「まず、ガンジガル王国についてですが……国土の大きさは、こちらの王国を二まわりほど狭くした程度と思ってください。

 主な産業は農業ですが、乾燥した土地も多く、そちらでは牧畜を行っているはずです。

 そのためか、古くから名馬の産地として知られていて、精強な騎兵隊を持っています。

 一派には、国の規模から比較すると、不釣り合いなほど兵隊が多い国として知られています。

 国内の産業があまりぱっとしないのもあって、周辺諸国に多くの傭兵を出していますね」

「豊かでも大きくもないが、軍事力はそれなりの国、という認識でいいのか?」

「ええ。

 それで間違いはありません。

 あくまで、一般的なイメージとしては、ですが。

 しかし、変ですね……」

 バツキヤは、首を捻る。

「……ガンガジル王国の首脳部は、無骨な方が多いが諜略などを得意とする人材はあまり居ないはずなんですが……」

「諜略、なのか?」

 ハザマは、また質問をする。

「その、今回の件は?」

「今までに入ってきた情報から推測するに、十中八九は」

 バツキヤは頷いた。

「いくら小国とはいえ、純粋に軍事的な侵攻だけで、ごく短期間のうちに三ヶ国も併呑を成功させる……というのは、現実的に考えればまず不可能です」

 電撃作戦、というのは、機械的な機動力を得た近代以降にはじめて可能になる戦術だった。

 この世界での戦争は、輸送力がボトルネックとなって迅速な侵攻ならびに短期間のうちに広大な地域を制圧のは、ほぼ不可能といえる。

 ましてや、純粋に軍事的な力のみをあてにして国ひとつを併呑しようとしたら、普通に考えれば年単位の時間が必要になるはずだった。

「おそらくは、併呑された側の三ヶ国の内部に、ガンガジルと内通した者たちが居たはずです」

 バツキヤは、推測を述べる。

「……国内の勢力争いを利用して、軍事衝突を可能な限り回避し、無血に近い形で……ということなら、ひょっとすると可能なのかも知れませんが。

 それに、山岳地の方でも、十五もの部族がこれに同調する、というのも……いくら中央委員の求心力が低減しているとはいっても、かなり不自然です。

 もっとはっきりいってしまえば、通常ではまずあり得ない状況になります」

「実行犯はガンガジルでも、シナリオを書いたやつはまた別に居るってことか?」

 ハザマは顔をしかめた。

「その方がまだしも納得はできますね」

 バツキヤはいった。

「ガンガジルも、それなりの野心があったことは確かでしょう。

 ですが、そうした願望や要求を持つことと、実行して成功させる才覚があるかどうかは、また別の問題です。

 どちらかというと単純なガンガジルの現首脳部には、今回のような大規模な構想を立案し、実行できる資質を欠いているはず……です。

 ……あくまで、わたしが知っている限りのことでいえば、ですが」

「ガンガジルについては、だいたいイメージが掴めた。

 他におれが知っておいた方がいいことは?」

 ハザマはそう促した。

「なければ、今度は併呑された側の三ヶ国について教えてくれ」

「エジアス、ガルメラ、ブリュムルについて、ですね」

 バツキヤは頷く。

「とはいえ、この三ヶ国については取り立てて特筆するようなことはないのですが……。

 典型的な山岳地と国土を接している国としては、あまり特徴がないので。

 どの国も、国土は決して広くはなく……そうですね。

 このハザマ領より少し広かったり狭かったりする程度、でしょうか?

 山がちで、国土の割には耕作可能な面積が狭く、多くの民が交易に従事しています。

 平民が成人になると、商人になるか、でなければ、職人になるか、どちらかを選べといわれるような国々です。

 どの国も、あまり豊かではありません」

「……そんな貧しい国々が、どうして今まで独立を保っていられたんだ?」

 ハザマは首を傾げた。

「貧しいから、ですよ。

 わざわざ占領しても、旨味というものがない」

 バツキヤはザックリとした物いいをした。

「それに、定期的に部族連合からの侵攻……というよりも、略奪にあっていることもありますね。

 そうした国々は、いわば部族連合との緩衝地帯としての価値を認められてこれまで独立を保っていられたわけです。

 性質でいえば……そうですね。

 ちょうどこの王国でいえば、ベレンティア領に似ている国々、といえますか。

 人種的にも文物的にも、平地民のものと山岳地民のものとが長い期間をかけて衝突し、混合しているいるような土地です」

「そりゃあ……」

 ハザマは、しばらく絶句した。

「……なおさら、わからんな。

 こういってはんんだが、そんな国々をまとめて併呑しなければならない動機、理由ってやつが」

「そうなんですよ」

 バツキヤは頷く。

「わざわざ併呑しても……普通に考えれば、まったく割が合わない」


 ハザマがそんな説明を受けているうちに、マヌダルク姫やメキャムリム姫、それにエジアス、ガルメラ、ブリュムルの関係者らが会議室に駆け込んできる。

 このうち、エジアス、ガルメラ、ブリュムルの人たちは、当然のことながら早急にことの詳細を知りたがった。

「……一連の声明が中央委員に届いたのは、昨日未明のことになります」

 おおかたの関係者が揃ったところで、伝令師のグリアスが説明をはじめた。

「時間的には多少、前後するのですが……その周辺に居た伝令師たちに、十五の部族からそれぞれ、部族連合から離脱する旨をしたためた声明文が立て続けに届けられました。

 どれも、各部族の事実上の指導者にあたる人物の署名入りです。

 伝令師たちはすぐに中央に戻り、どう行動するべきか指示を仰ぎました。

 われわれ伝令師は多少の裁量権は与えられているものの、ここまで大きな判断を自分で行う権利までは与えられていませんもので。

 それで、声明文を受けた側である中央委員の方でも、どう対処すべきか意見が割れました。

 ひとつやふたつなら黙殺しても問題はなかったのですが、一度に十以上もの部族が連合から正式に離脱するという意志を表明したことは、部族連合の歴史上にも、前例がありません。

 強硬な態度で応じる、すなわち軍事的な制裁を発動するべきだという意見も多く出されましたが……残念なことに、今の部族連合には、皆様もすでにご存じの通り、そんなことを実現するほどの余力にも恵まれていない有様です」

 グリアスはここで肩をすくめてみせる。

「とりあえず、どのように対処するべきかを決するのは後回しにして、その周辺を様子を探ってみることになりました。

 われわれ伝令師に声がかかり、召集された伝令師たちは急遽その十五の部族民たちが本拠とする土地へとと移動して、そこでなにが起こっているのか、様々な情報を集めはじめました。

 とはいえ、一日や二日でたいしたことが分かるはずもなく……。

 しかし、伝令師たちは部族民たちの外に、重要な変化を確認しました。

 いつの間にか、エジアス、ガルメラ、ブリュムルの三ヶ国がガンガジル王国の一部として扱われていたのです。

 ほんの数日前には、この三ヶ国は普通に独立していたのに」

 ……不思議ですねえ。

 と、グリアスは嘆息する。

「そんな重要なことを、不思議のひとことで済ませるな!」

 ガルメラの貴族が、立ちあがってグリアスを怒鳴りつけた。

「こっちは、故国存亡の危機なんだぞ!」

 エジアス、ブリュムルの関係者が慌てて両側から腕を伸ばし、このガルメラ貴族の体を拘束して、落ち着かせようとする。

「まあまあ」

「不安なのはわかるが、ここで感情的になっても……」

「それで、伝令師のお嬢さん」

 比較的冷静なアジエス人が、グリアスにはなしかけた。

「実際のところ、どんな具合なのかね?

 われわれの、故国の様子は?」

「とりあえず、今のところ、特に混乱した様子はないようですね」

 落ち着き払った様子で、グリアスは答える。

「あくまで、表面上は、ですが」

「それは……いつも通り、ということかね?」

 ブリュムル人が、グリアスに確認をする。

「ええ」

 グリアスは、頷く。

「ガンガジル王国のやつらがいったいどんな手を使ったのかは、目下調査中ですが……。

 少なくとも、力ずくで従わせているわけではないようです。

 三ヶ国とも、国内をガンガジルの兵士たちがわが物顔で通行している以外は、いつもと変わらない様子でした」

「……ガンガジルの、兵士?」

 ガルメラ貴族が、不審な表情を作る。

「武装した兵士たちが、国内を通行しているということなのか?」

「ええ、しごく平和な様子でね」

 グリアスは、また頷いた。

「物資を満載した馬車がずらりと並んで道を行っているのに。

 さっきもいったように、周囲の住人たちにに、混乱した様子は見られませんでした。

 まるで、ガンガジルの軍隊がそこを通行するのは当然だといわんばかりに……」

「……食料だ」

 ブリュムル人が、ぽつりと呟いた。

「ガンガジルのやつら、食料で部族民たちを買収しやがった」

「だとしても、だ」

 アジエス人が冷静に指摘する。

「部族民とガンガジルの関係はそれでよしとしても、だ。

 われら、三ヶ国が他国の軍をみすみす素通りさせている件。

 これについては、どのような取引がなされているのかね?」

「……やつら、国王陛下を売りやがった!」

 ガルメル貴族が、また怒鳴り声をあげた。

「……反国王派の売国奴どもめ!

 やつら、自分の利益のために国王陛下と国土をガンガジルに売りやがった!」

「まあ、待て」

 エジエス人が、ガルメラ貴族の腕を抱きしめて押さえつけた。

「まだそうと決まったわけではない。

 ……おおかた、そんなところなのだろうがな。

 どんな国にも反目を内在しているものだし、反主流の側は常に不満や鬱憤をくすぶらせているもんだ。

 それに、平民たちにしてみえれば、自分らの生活に直接影響しない限り、首が変わったところでどうということもないわけだからな。

 この絵図を描いたのが誰かは知らんが、うまいことそれぞれの利害を噛み合わせたもんだ……」

「……それでは、この絵図を描いたのはガンガジル王国ではないとお思いですか?」

 ハザマは、ここではじめて口を挟む。

「ガンガジルの蛮人どもはそこまで頭はまわらんよ」

 エジアス人はいった。

「それに、せっかく併呑した国でまったく略奪行為を働いていないというのが、おかしい。

 まったくもって、いつものあいつららしくない。

 おおかた……」

 ガンガジルのやつらも手駒として従わせている黒幕が、別に居るんだろうよ……と、そのエジアス人はいった。


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