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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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朝食での会議

 ハザマたちが居るのは、商会の建物の二階にある、普段は会議室として使用されているとかいう部屋だった。

 そこそこ広く、二十名近くが座れる大きなテーブルがある。

 昨夜、転移してきたばかりのハザマたちが通されて、お茶を給された場所でもあった。


「ははあ。

 あんたが、ヴァンクレスさんですか」

 ペドロムはヴァンクレスを見あげて感嘆の声をあげる。

「なるほどぉ。

 聞いていたとおりに、大きな方ですな。

 どれ、今、用意した服をお持ちします。

 早速、試着してみてください」

 そういったあと、ペドロムはヴァンクレスを伴って慌ただしく部屋の外に出て行く。

 ヴァンクレス用に、改まった席でも着用できるような衣服を用意して貰っていたのだった。

 入れ替わりに入ってきた商会の者が、タマルらに席を勧めて、人数分のお茶を用意した。

「新しくいらっしゃた皆様は、もう朝食はお済みですか?」

 給仕が、そう確認してきた。

 その給仕は、十七、八歳くらいの少女だった。

「まだでしたら、すぐに用意できますが」

「いえ。

 全員、むこうで済ませてきていますので、お気遣いは無用です」

 一同を代表して、タマルが答えた。


「……さて、いよいよ王国側との本格的な会談がはじまるわけだが……」

 全員にお茶がいきわたったところで、ハザマが切り出した。

「実際にはじまる前に、なにか気をつけるべきこととかないかな?」

「……その前に」

 タマルが、上目遣いになってハザマを睨んだ。

「なにか、いうべきことがうんじゃないですか?」

「ええっと……」

 ハザマは、考えてみる。

「……召還獣の件は、通信で一通りのことは報告したはずだけど……」

「そっちではありません!」

 タマルの語気が強くなった。

「新事業のはなしです!」

「……新事業?」

 ハザマは、真顔で首をひねった。

「なにかあったっけか?」

 洞窟衆ではしょっちゅう新しい事業をはじめているような気もするので、タマルがどれのことをいっているのかにわかには判断できなかった。

「強獣退治をはじめようってはなしです!」

 タマルは、どん、とテーブルを叩く。

「早速、ファンタルさんの方から新兵訓練用の備品や人件費などの申請が来ているんですが!」

「……ああ、あれなー」

 ハザマは、呑気な声を出す。

「あくまで、そういう事業展開は可能なのかな?

 とかいうニュアンスでいってみただけなんだが……。

 そうか。

 ファンタルさん、もう動いているのか」

「ああ、あれなー……じゃあ、ありません!」

 タマルが一喝する。

「兵隊さんを大勢養い続けることがどれほどの出費を伴うものか、わかっているんですか!

 ただでさえ、財政難だっていうのに……」

「だけど、さ」

 ハザマは、冷静に指摘をする。

「初期投資はかかるだろうが、それなりにリターンも大きいよ。強獣退治。

 成功すれば、強獣のせいでそれまで使えなかった土地を丸ごと解放するわけでさ。

 うまくもっていけば、そちらの開拓事業なんかにも食い込めるわけで。 

 単純な傭兵とか護衛任務と比較したら、利益率的にいってもかなりおいしいと思うんだが……」

「わかってます!」

 タマルは、大声を出した。

「でも、洞窟衆の今の財務状況だと、その初期投資分を捻出すること事態がかなり難しいといっているんです!」

「ああ、そのことなのですがね」

 中年男が、タマルとハザマのいい争いに水を差した。

「タマルさんが借財を恐れる気持ちも重々理解できます。

 がここでは、国債の発行額を大幅に引きあげることも選択肢のひとつとして考慮してもよいのではないでしょうか?」

 このハルマクという中年男は、ごく最近になって洞窟衆に出入りし、政策関係についての相談役をしている者の一人だった。

 今回、王国側の役人との折衝において、王国の法体系と洞窟衆の現状、双方の事業に通じている者が必要となり、この場に同行することになった。

 ハザマ自身は数えるほどしか顔を合わせていないのだが、ハザマの思いつきの数々をより現実的な形で実現するための案を次々と打ち出してくれる逸材だ、という評判がたちはじめている。

「……そんなに借金ばかりを増やしても、返せる宛があるのですか?」

 噛みつきそうな勢いで、タマルがハルマクにいった。

「タマル殿の方が、無用な心配を過ぎではないかと」

 ハルマクは澄ました顔をして、そう答えた。

「今、洞窟衆が投資をしている各事業は、数年後には数倍から数十倍の規模に成長しているものと予測します。

 むしろ、ここで投資を控えて萎縮する方が、本来であれば得られるはずだった利益を取り損ねることになります」

「それ、根拠のない楽観論じゃないの?」

 タマルは据わった目で、ハルマクの顔を睨んだ。

「いえいえ。

 根拠ならね。いくらでもあげることができますよ」

 ハルマクは持参した資料をテーブルの上に広げはじめた。

「これは、本来であれば王国の方々を説得するためにまとめあげた資料になるのですが……。

 たとえば、そうですね。

 わかりやすいところで、保険事業について……」

「その説明、長くかかるの?」

 ハザマは、そういってハルマクの説明を中断させる。

「あとで同じことを説明する予定なら、今ここで同じ説明をするのは時間の無駄だと思うけど」

「……それも、そうですな」

 ハザマの指摘を耳にして、ハルマクは広げた資料をしまいはじめた。

「ええ。

 とにかく、無根拠な楽観論などではないということは、断言ができます。

 それこそ、冷徹な王国側の官僚たちを納得させるだけの材料をすでに揃えてありますので。

 むしろ……現在、想定している国債の発行額は少なすぎるのではないかと危惧しております」

「国債って、借金だろ?」

 ハザマは、首をひねった。

「借金が少ないのは、いいことなんじゃないのか?」

「一般的には、そうなのですがね」

 ハルマクは、淡々と説明を続ける。

「しかし、昨今の国勢情勢を鑑みるに……洞窟衆、いや、新領地に貸しを作りたいという勢力には事欠きませんからなあ。

 むしろ、もっと国債を発行しろという要求が王国や部族民連合側から出てくるのではないかと……」

 ハザマは、しばらく考え込む。

「……まとまった額の国債を握ることで、洞窟衆の動きをある程度制御できる……という幻想を売るわけか?」

「そういうわけです」

 ハルマクは、大きな動作で頷いた。

「この場合、彼らが欲しいのは経済的な見返りなどではなく、洞窟衆への抑止力です。

 だから、所持した国債もよほどのことがなければ、買い増しされることはあっても換金されることはありません。

 何年でも何十年でも、塩漬けにされるでしょう。

 われらの財政面においては、大変に都合のよい出資者になりますな」

「でも……たとえば国債の半分とかを特定の勢力によって買い占められたとしたら、新領地は合法的に乗っ取られちまう」

 ハザマは、そう指摘をしてみる。

「その可能性は、ありますな」

 ハルマクは、またもや頷く。

「ですから、王国なり部族連合なりが要求する分と同等以上の発行額を、また別の者たちに売りつける必要があります。

 当然これは、まったく別個の者たちに分散して所有して貰う方が都合がよろしい」

「……国債なんて前例のないものを買いたがるやつ、そんなに大勢居るの?」

 ハザマが、当然な疑問を発した。

「居るでしょうな」

 ハルマクは、自信ありげな様子で頷いた。

「王国内の大小の領主、それに、内外の商人たち。

 意外に、金を持て余して都合のよい投資先を探している者たちは大勢居るものです。

 その点、新奇な要素が多いとはいうものの、新領地への投資はかなりの有望株であるかと……」

「なんで、有望だと判断できるんだ?」

 ハザマはさらに疑問をぶつける。

「この世界の人たちから見たら、おれたちなんて新参者……どころか、かなり得体の知れない集団に見えると思うけど……」

「さて、いくつか根拠はあるのですが……」

 ハルマクは、なにかを考えつつ、ゆっくりと語り出す。

「真っ先に思い浮かぶのは、徐々に広まりつつある新領地発の発明品の数々。これらは、意外と評判を呼んでおります。

 それに、ですな。

 今のところ、洞窟衆は負け知らずですから……」

 勝ち馬に賭けたくなる心理には、普遍性がありますよ……と、続けた。


 そんなことをいいあっているうちに、一度退出したヴァンクレスが帰ってきた。

「……いや、なかなか似合っているぞ」

 そして、そのヴァンクレスの姿を見て、ハザマは笑い声をあげてしまう。

「うん」

「そう思うんなら、なんで笑っているんだよ!」

「すまん。

 思いの外似合っていることは、事実だ」

 ハザマは立ちあがり、そういってヴァンクレスの肩を軽く叩いた。

「ただ……これまでのお前さんのイメージと、あまりにも違っていたもんでな。

 あー。

 髪を整えて、髭もしっかり剃る必要があるな」

「もちろん、そちらも手配をしております」

 控えていたペドロムが、間髪をいれずに答えた。

「もともと体格がよい方ですから、こういう格好が似合いますな」

「おう」

 ハザマも、頷く。

「こんな服を着ていると、おれなんかよりも偉そうに見える」

 ヴァンクレスが今着用しているのは、ペドロムが手配して入手した古着である。

 古着、といっても、仕立てや生地などはかなりしっかりしたものだった。 

 おそらく、その昔、どこかの貴族が着用していたものだろう。

 貴族などの身分の高いものは、物故した際に、衣服などあまり価値がない物品を生前世話になった使用人に形見分けをする習慣があった。

 そうした衣服はたいがい、古着市場に流れることになる。

 あまりにも高級品すぎたり流行遅れだったりするものは、実用の衣服ではなく芝居用の衣装に流用される。

 今ヴァンクレスが着用している物は、おそらくサイズが大きすぎて今まで売れ残っていたものなのだろう。

 そして、ハザマがいった通り、そういうしゃちほこばった格好をしていると、ヴァンクレスもまるでいっぱしの武官であるかのように見えた。

 お世辞ではなくかなり似合ってはいるのだが、普段のヴァンクレスを知っていると、イメージ的に格差がありすぎて笑えてくるのだった。


「……そういうハザマさんの分も、注文していた服が仕立てあがったという報せが来ておりますが」

 ペドロムが、そう告げる。

「ああ。行く行く」

 ハザマは、頷く。

「今日の会議の前になるのか、あとになるのか。

 会議、いつからはじまるとか聞いているか?」

「オルダルト様から連絡が来ることになっています」

 リンザが、澄ました顔でいった。

「急遽延期になった関係もあって、具体的な時間はまだ確定していないそうです」

「それじゃあ、しばらくここで連絡待ちか」

 ハザマはいった。

「それじゃあ……その時間を利用して、王国側が出してくる要求とか、予想しておこうか。

 あらかじめ予想しておいた方が、本番のときにも慌てずにすむだろうし」

「まずは、先ほどいった国債発行額の増額、ですな」

 すかさず、ハルマクが語りだした。

「おそらくは、王国側としてしかじか以上の出資をしたい、といった具合に、具体的な金額を明示してくるかと思います。

 次に、通信事業の国有化も打診してくるかと。

 あれは、昨日の召還獣騒ぎで使えることが実証されてしまいましたからな。

 王国としては、いつまでもわれらに独占させておくのは惜しいものと考えるはずです」

「保険事業については?」

 ハザマは、指摘する。

「そっちも、利権としてはかなりおいしいことになると思うけど」

「保険事業については、まだまだ実績が追いついておりません」

 ハルマクはそういって肩をすくめる。

「しばらく時をおいてわれらが実績を積み、事業としての先行きが明るいものになったとしたら、なにかしらの干渉があるかも知れません。

 が……今の時点では、山のものと海のものとつきません」

 しばらくは、様子見を決め込んでくるでしょうな……と、ハルマクはいう。


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