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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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召喚獣への突撃

「召喚獣は焼くか凍らせるかしろ!

 斬ったり潰したりするだけでは始末したことにはならないそうだ!」

 ファンタルは叫んだ。

「分断しても、数が増えるだけだぞ!」

 ハザマたちの別働隊からもたらされた報告でも、こちらで確認した事実でも、そうなっていた。

 召喚獣の体を切断しても、破片が残っていればそれは小さな召喚獣として再生する。

 そして、小さな召喚獣が集まって、大きな召喚獣に合体することもある。

 驚異的な生命力というか、この召喚獣はどうやら、こちらの世界の生物とは、生死の区別からして異なっているようだった。

 退治をする側にしてみれば、厄介というしかない。

「……おまけに……」

 ファンタルは炎のむこう側から迫ってくる気配を感じ取って、両手に持った剣に付与魔法をかけた。

 魔法兵たちが発した炎を超えて、突入してくる巨体。

 クマほど大きさの体に、太くて短い足が、いや、触手が何本も生えている。

 一本一本の触手の先端には、鋭く細かい牙がびっしりと生えていた。


 キィ。

 キィキィキィ。


 と耳障りな鳴き声をあげる異形の体に対して、ファンタルは躊躇せずに刃を突き立てる。

 ファンタルの剣が触れた部分から、召喚獣の体はいやな匂いを発して焼け焦げていく。

 一本の剣を体幹部に深々と突き刺し、もう一本の剣で召喚獣の触手を片っ端から薙払った。

 ぼとぼと地面に落ちた触手が動き出す前に、周囲の魔法兵たちが魔法で焼き払う。

「……面倒なことだ!」

 いいながら、ファンタルは休まずに何度も剣を振るい、召喚獣の体を細切れにした。

 通常の生物とは違い、こいつらには構造的な急所というものがない。

 凍らせて動きを封じるか、それとも焼いて再生できないようにするのか……。

 とにかく、細胞から変質させるような攻撃でないと、意味がなかった。


「わははははは!」

 ヴァンクレスは笑い声をあげながら大槌を振るっていた。

 大型の召喚獣が出現しはじめてから、ヴァンクレスは大忙しだった。

 むしろ、喜び勇んでいる節さえある。

 こうしたわかりやすい敵ならば、ヴァンクレスとしては歓迎したいところであった。

 実際には、傍らにいて大鎚に付与魔法をかけ続けているスセリセスの存在がなかったとしたら、そのヴァンクレスの活躍も半減するのであるが、ヴァンクレス自身はそうした細かいことには頓着をしない。

 気持ちよく戦うことができる相手が存在する、ということだけが、ヴァンクレスにとっては重要なのだった。


 召喚獣に喰われかけた船員たちの救出作業は、地味で気が滅入るような作業となった。

 犠牲者たちの大半が、痛みのために意識を喪失していたのが、まだしも幸いだった。

 多くの者たちが体内の奥深くにまで召喚獣の体が埋没している。

 その場では止血する術もなかったので、バジルの能力によって召喚獣の動きが止まっているのをいいことに、召喚獣の体表にでている部分を切りとって集め、まとめて凍らせて動きを封じた。

 また、これらは、あとでこの召喚獣の研究をする際にも標本となるはずだった。

 そして、そうした犠牲者たちの体は、とりあえず船倉の中から甲板の上に運び出し、別に始動しているはずの救護班を待つだけとなった。

 とはいえ、大半の犠牲者は、この時点でも内蔵をかなり傷つけられているので、この世界の医療技術からみればすでに手遅れとみなされる状態となっている。

 このまま医者が来たとしても、ほとんどの者が安楽死を勧められるだろう、と魔法兵たちは囁きあっていた。


「おれたちにできることは?」

「今の時点では、ありません。

 新たに召喚獣が出現したとき、一刻も早く対応してくれることだけです」

 ハザマと魔法兵は、甲板の上でそんな会話を交わしている。

 あれから、新たに転移魔法で到着した魔法兵たちが、瀕死の船員たちの体を甲板の上に運びだしている。

 ハザマ自身がこの場から離れると、召喚獣のまだ船員たちの体内に残っている部分が再び動き出しかねないので、足止めを食らっている形であった。

 とはいえ、ハザマも、今、他の場所へ移動すべきあてがあるというわけでもないのだが……。

「水面下に居る召喚獣を、無理にでも陸地にあげる魔法とかはないのか?」

 ハザマは、かなり渋い顔をしている。

 基本的に楽観的な性格をしているハザマであったが、流石にこうして凄惨な現場を目の当たりにした上で脳天気案気分を保持できるほどには鈍感ではない。

「残念ながら、わたしは知りません」

 その魔法兵は、感情を押し殺した表情で首を横に振る。

「仮にそうした魔法があったとしても、ごらんの通り、この川は広大ですから……実行するのには非常識なほどに膨大な魔力を必要とします。

 普通の魔法使いには手が負えないでしょう」

「……どうにかなんねーもんかなあ、畜生……」

 ハザマは、小声でそうぼやいたあと、頭を掻いた。


 そんなことをしているうちに、救援のためこちらにむかっていたグフナラマス公軍 の船が四隻、合流してきた。

 そちらの船員たちが、船を横づけしてこちらの船に乗り込んでくる。

 そして、甲板に並べられていた船員たちの様子をみて、顔をしかめた。

「こいつはいけねえ」

「このまま介錯をしておくのが、やつらのためってもんですぜ」

 グフナラマス公軍 の兵士たちは、犠牲者の様子をみて口々にそんなことを囁きあった。

「……やっぱり、絶望的か?」

 ハザマが訪ねる。

「そりゃあ、もう。

 このまあ生かしておく方が残酷ってもんです」

 そんなことをいって、グフナラマス公軍 の兵士たちは頷きあった。

 戦い慣れをしている彼らの目から見ても、召喚獣の犠牲者たちは致命傷を負っているように映るようだ。

「……やりきれねーなあ」

 と、ハザマは呟く。


 司令部に指示を要求すると、その船ごとグフナラマス公軍 の船で牽引して司令部の近くまで運んでくれ、という返答が来た。

「……おれは?」

 ハザマが訊いた。

「この船からは離れ、元の小舟で水妖使いとこの周辺で待機をするようにと」

 魔法兵が答える。

「……仕方がないのか。この場合は……」

 難しい表情をして、ハザマは呟いた。

 感情的には納得できないものの、このままこの船に同乗していても、ハザマはなんの役にも立たないのだった。

「なに、今度はおれたちもついていますぜ!」

 グフナラマス公の兵士たちは、そんなことをいってはしゃぎ出す。

「おれたちには水神様の加護がありますから、召喚獣なんかに遅れをとることはありませんぜ!」

 勇敢なのか、思慮が浅いのか。

 とにかく、実際の召喚獣による被害を目の当たりにても、グフナラマス公軍 の兵士たちの士気は高いままだった。

 そのあと、グフナラマス公軍 の船にも誘われたのだが、ハザマははじめに乗っていたドゥの小舟に戻ることにした。

 そちらの方が、なにかと小回りが利き、いざというときに即応できるからだ。


「しかし、相手の出方を待つしかないってえのは……」

 元の小舟に帰ってから、ハザマはぼやいた。

「どうにも、おれの性には合わねえなあ……」

 どうにかして、召喚獣を特定の場所に誘い出す方法はないものか……。


 キィ。

 キィキィキィ。


 炎を越えて迫り来る、異形の群れ。

 小さなものは、そのまま炎に包まれて動かなくなる。

 大型のものだけが、炎を越えてこちらに来る。

 大きさも形状も、一定ではなかった。

 それどころか、一歩ごとに大まかな形を変えているもの居る。

 まるで、その場に相応しい形を模索でもしているかのように、体表を揺らし、形を変えながら迫り来るものたち。

 悪夢的な光景、ではあったが……。

「……おりゃあっ!」

 ヴァンクレスの前では、片っ端から粉砕されるだけの的でしかなかった。

 ヴァンクレスは、常に最前線に立って大槌を縦横に振るい、次々と炎を越えてやってくる異形を叩き潰した。

 大槌を食らって文字通り「粉砕」された召喚獣は、周囲の飛び散った肉片が小さな召喚獣として再生をするわけだが、こちらはさほど脅威ではなく、呆気なく控えていた魔法兵たちによって焼き払われる。

 額に汗を滲ませながらも、ヴァンクレスは上機嫌で大槌を振るっていた。

「強くはないが、数が多すぎるな!

 こいつらはっ!」

 大槌を振るいながらヴァンクレスは、そういう。

「いったいどこに、こんなに隠れていたんだ!」

「おそらくは……」

 ヴァンクレスのそばに控えていたスセリセスが答えた。

「……こうしている今も、別の世界から喚び出されているんでしょう!」

「元を絶たなけりゃあ、駄目か?」

「駄目です!」

 スセリセスの答えを聞いたあと、ヴァンクレスはファンタルの方を振り返る。

「姐さん!」

「姐さんは、止めろ」

 ファンタルは、平静な声でいった。

「だが……。

 そうだな。

 もう、いい頃合いだろう」

 ファンタルは、ヴァンクレスに、

「このまま、召喚獣が湧いてくる方向に突入しろ」

 と指示を出した。

 戦力的なことを考えればすぐにでも出せた指示ではあったが、これまでは他の罠などを警戒して慎重に動いていたのだった。


「……よっしゃあっ!」

 叫んで、ヴァンクレスは大きく踏み出した。

 大槌で前に居る召喚獣を目につく端から砕きながら、無造作に前進して、そのまま、炎の中に入っていく。

 髪の先に火がついたようだが、そのまま放置しているうちにヴァンクレスの激しい動きによって自然と消火した。

 着用しているプレートアーマーはもともと燃えにくい素材でできていたので、被害はない。

 それよりも、炎の壁を越えた先にあった光景は……。

「わははははは」

 そのこうけいをみて、ヴァンクレスは笑い声をあげた。

「敵だらけっじゃあないかっ!」

 恐怖ではなく、歓喜の笑いだった。

 床だけではなく、天井から壁から、透明な体を持つ無数の召喚獣が、ヴァンクレスを待っていた。

 ヴァンクレスの大鎚が、動く。


 援護する、というよりは、ヴァンクレスが動いたあとの取りこぼしを、魔法兵たちが始末する形となった。


 本気で攻勢に転じたヴァンクレスは、見た者が呆気にとられるほどの活躍をしめしてみせた。

 休むことなく、高速で動き続ける大槌。

 その大槌が振るわれるたびに召喚獣の体が砕け散る。

 明らかに、召喚獣の方が、ヴァンクレスの動きについてこれていなかった。

 通常の野生動物でさえない、召喚獣さえ圧倒する俊敏さと体力。

 このヴァンクレスという男は、果たして本当に人間なのか。

 半ば呆れながらも、魔法兵たちはヴァンクレスが取りこぼした、いいや、あえて相手にしなかった小型の召喚獣や再生中の肉片を、魔法を使用して処理していく。

 気づけば、ヴァンクレスを先頭に、スセリセスとファンタルがすぐあとに続く洞窟衆の三人は、魔法兵たちを置いて遙か前方にまで進んでいた。


 やがてヴァンクレスたちは、ある区画にまでたどり着いた。

 周囲を一瞥し、ファンタルは、

「……ふん」

 と、鼻で笑う。

「最後に術者は、自害した……か」

 不機嫌な、声だった。

 これまで、この小屋を地下ごと大規模な魔法で攻撃しなかったのは、少しでも今回の件の背景を探ろうとする司令部の意志があったからだった。

 しかし、生き残りが居ないということになれば、その努力も無駄であった、ということになる。

 この小屋の中だけでも、少なくはない犠牲者を出しているというのに、それらはすべて徒労になってしまったことになる。

「周囲のものを壊すなよ!

 ヴァンクレス!」

 ファンタルは、そう指示を出した。

「魔法兵たちが来るまで、できるだけ現場を保存しておけ!」

「そう! いわれてもよぉ!」

 大槌を振るいながら、ヴァンクレスは叫び返した。

「この寒天野郎ども、潰しても潰しても湧いて来やがる!」

「いい運動になるだろう」

 ファンタルはヴァンクレスの反駁をまともに相手しなかった。

「お前は血の気が多すぎるくらいだから、この場でしばらく鬱憤を発散させておけ」


 ようやく後続の魔法兵たちがヴァンクレスたちに追いついたとき、ヴァンクレスだけが奮戦してファンタルとスセリセスが周囲を検分している……という奇妙な状況に遭遇することになる。

「あの……これは……」

 魔法兵が声をかけると、ファンタルが振り返った。

「あそこにあるのが、どうやら召喚先を固定するための魔法陣らしい。

 現場保存のため、ああして機能しているままにしておいた」

 ファンタルは、淡々と説明をする。

「ただ、そこのスセリセスも召喚魔法には詳しくないので、実際にどういう術式を組み込んでいるのかまでは理解できないようだ。

 ヴァンクレスが召喚獣に対抗している間に、魔法陣の内容を書き写してあとで専門家に分析させることをお勧めする。

 なに、あの男なら、あと小一時間はあのまま動けるはずだから、遠慮することはない。

 それから、そこの真新しい白骨死体は、この件の首謀者かそれとも召喚師そのものか……。

 いずれ、逃げきれないと悟って自害し、みずからの身を召喚獣に捧げたものとみられる。

 こちらにも、詳しい分析をした方がよいだろうな。

 周囲の物品も、できるだけ手を振れずに置いた。

 あとは司令部の方で詳しい検分を……」


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