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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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トエスの軍隊

「そいつはトエスのいう通り、だな」

 リンザから相談されたハザマは、あっさりといい放つ。

「特に急造した新人たちは、圧倒的に実践的な経験が不足している。

 そいつへの対策もぼちぼち考えなけりゃならないんだが、当座はちょっと序列を入れ替えよう」

「……と、いうと?」

 リンザは訊ね返す。

「トエスの場合、こっちと現地、その中間に居る連中が鈍くて困っている、っていうことだろう?

 そんなら、トエスの部隊を領主直属という扱いに改める」

 ハザマはこともなげにいった。

「トエスの上に居るのはバジルニアのみ、それ以外のやつらはトエスの判断に従う。

 そういう序列にする」

「確かに、当座の問題は解決しますけど」

 リンザは、ため息混じりにそういった。

「トエスの負担は増えますね」

「それくらいは苦労して貰わないとな、あいつにも」

 ハザマは平坦な口調でいった。

「これまで役職つきではなかったわけだし。

 古参連中の中では苦労していなかった方だろう」

 他の古参連中は、それぞれの持ち場で重要な責任を引き受けて日々の業務を遂行している。

 トエスだけを例外にする必要もない。

 と、そういうことらしかった。

 それはそれで、正論ではあるのだ。

「あの子は嫌がると思いますけど」

 リンザは、ささやかな抵抗を試みる。

「おれだって、柄にもない最高責任者をやっている」

 ハザマの返答は冷淡なものだった。

「嫌がるようなら、他に代案があるのか。

 その他に適任者が居るのかと反問してやってくれ」

 トエスだけが楽をしているのはおかしい、というわけであった。

 人材面で考えると、トエスにせよリンザにせよ、これまで短い期間にかなり密度の濃い経験をして来ているわけで。

 そうした人材を放置しておくことは一種の損失であると、ハザマは考えているらしい。

「なんだかんだいって、大局を見て動ける人間は貴重だからな」

 考え込んだリンザを見て、ハザマはそうつけ加える。

「その場その場の状況を見て、自分の責任と判断で動ける人間は、まだまだ圧倒的に少ない。

 そんな中、トエスを放置しておくような余裕はこちらにもないんだ」

 高度な判断能力を持ち、なおかつ、即座にその判断に従って行動に移せるような人材。

 事なかれ主義でも、上の命令を忠実にこなすだけでもない人材。

 そうした種類の人材は、確かに現状では限られていた。

「森の中なら、森東地域よりはハザマ領に近い」

 少し考えた末、リンザはそう続ける。

「それだけ、各種支援もしやすいわけですが。

 そうしても構いませんよね?」

「当然だな」

 ハザマはその言葉に頷いた。

「責任を負わせる以上、フォローはしなけりゃならない。

 金でも人でも物資でも、常識の範囲内で優遇するよう手配をしてやってくれ」

 実際、山地と森東地域とを分断する仕事は、それなりに重要な役割でもあった。

 常識の範囲内で、とあえてつけ加えているのは、トエスの部隊だけを優遇して他の仕事に影響が出るようでは困るからだろう。

 つまり、他で動いている事業に影響が出ない程度に、積極的に支援をしろ。

 と、そういう意味であるらしい。

 これから、トエスは大変だな。

 などと思いつつ、リンザとしてもその案に対して積極的に反対する理由がなかった。

 現場に放り込んで揉まれる、というのも、人材育成という点でそれなりに効果があることは否定出来ないのだ。


「うへあ」

 バジルニアから送られてきた辞令を一瞥して、トエスは奇声を発していた。

「あー。

 そう来るかあ」

 その辞令には、トエスを「山地森林方面独立軍司令」とやらに指名する旨が記されている。

 聞いたことがない役職名で、おそらくはその場の思いつきで命名されたのではないか。

 つまりは、トエスの仕事がやりやすいようにと、それらしい役職をでっちあげた、というところだろう。

 その山地森林方面軍司令、とやらは、領主直属で、独自の判断でかなりの人員を動かすことが可能。

 人事を含めて権限がやたらに大きい、つまりは、気に食わない者がいたら容赦なく罷免することも可能な役職であるらしかった。

 それだけ大きな権限を与えられるということは、つまりはそれだけ働けってことだろうな。

 すぐにトエスは、そのことに思い当たる。

 流れからいえば、納得は出来るのだ。

 少し前に、リンザに使えない者のことを相談したばかりでもあるし。

 だったらお前がやれ。

 その使えない連中を、自由に使っていいから。

 と、そう返された形である。

「なんだかなあ」

 とトエスは思う。

 バジルニアがこうした辞令を出したくなる理由は、理解出来る。

 だがこんな、自由度の高過ぎる地位を頻繁に出すようになると。

「分離、独立を目指す動きが活発になる、とか思わないんだろうか?」

 トエスは、小声で呟いた。

 そもそも兵権を誰かに与えるということは、軍閥化の温床にもなり得る。

 もう少しこう、遠慮して権限を制限する役割をこの地位にも盛り込んでおくべきではなかったのか。

 いや、そこまで考え、その上で反乱なり独立運動なりが起こったとしても、それでいいと。

 そう考えているんだろうな、あの男は。

 と、トエスは想像する。

 もともとハザマは、洞窟衆の永続をそこまで望んでいない節がある。

 冒険者ギルドを丸ごと帝国へ譲渡しようと動いていることからも、そうした傾向は明らかといえた。

 ハザマにしてみれば洞窟衆や冒険者ギルド、あるいはハザマ領などの組織も、あくまで身過ぎ世過ぎの便宜的な存在でしかない。

 必要がなくなればあっさり見限り、そして惜しむことがない。

 無責任というか無関心というか、ハザマは権力というものに対してある種の冷淡さを持っていた。

 そちらの方面に無欲でありながら、あそこまで大きなな権力を握る立場に立った者も、かなり例外的なのではないか。

 などと、トエスは思う。

 本人にしても今の状態は不本意なのかも知れないが、それ以上に重要なのは、ハザマが関係した組織の永続することに対して、あまり労力や関心を持っていない、という部分だった。

 だからこれだけ大きな権限も、あっさりとトエスなどに渡してしまう。

 本当に、なんだかなあ、だよ。

 と、トエスは、今一度、心中でぼやく。

 そして、ペンと紙を用意して、バジルニア宛てに要求することを書き出していった。

 そこまで要求されるのならば、とことんわがままをいってやろう。

 まず、人材。

 軍事と補給は、それぞれに専門家が何名か必要。

 そのどちらの分野についても、トエスは専門家とはいえない。

 次に、素直で多少の無茶にもついて来てくれて、なおかつ優秀な文官も何名か。

 これは、多ければ多いほどいい。

 物資移送には、犬頭人を宛てにしていたが、これも今後補給線が伸びていけば手が足りなくなる。

 異族でも人間でも構わないから、最低限、森の中でも問題なく移動可能な能力を持つ者が必要、と。

 それと、森の中という独特な環境下で長大な陣を敷くわけだから、それを維持するための物資もかなり必要となる。

 バジルニアに宛てるリストは、かなり長くなりそうだった。


「いや、だからって!」

 数日後、到着した人たちを迎えたトエスは思わず絶叫していた。

「これはないでしょう!

 なんだってブラズニア公爵勢がこんなところにまで出張ってくるんですかあ!」

「うちの姫様は、兵站管理の第一人者ですからなあ。

 当然、その配下はこちらにも出張ってくるでしょう」

「姫様の婿殿のお声掛かりだし、それに、新兵の調練も兼ねてです」

 ブラズニア公爵家の文官が三十人、同じくブラズニア公爵家の魔法兵部隊が五十名。

 これからやろうとしている事業の規模と比較すれば少人数にも思えたが、その代わり、精鋭であるはずだった。

 後は冒険者ギルドが手配をした人員を育てるなりなんなりして、間に合わせろ。

 と、いうことらしい。

 まあ。

 と、トエスは思う。

 優秀なだけのド素人を送られても困るので、これはこれで助かるんだけど。

 やりにくいけど、ここは割り切るしかないかなあ。

 やりにくい、とは、ブラズニア公爵勢はどう見ても身分が高そうだったからだ。

 辺境の開拓村出身のトエスにしてみれば、明らかに年齢も身分も上の男性陣に命じて仕事をさせる、ということに心理的な抵抗がある。

 トエスは、そう思うことにした。

「ええと、ご覧の通り、うちは犬頭人たちが普通に働いています」

 トエスは、そう確認してみる。

「そういうのに、抵抗はないですよね?」

「ここに派遣される前からそうした内情は聞いていますし、それに、洞窟衆がやることですからね」

 そういって、文官の長は肩を竦めた。

「その手の細かいことを今さら気にしても、仕方がないでしょう」

「異族と合同の教練は、一度やってみたかった」

 魔法兵の長は、胸を張ってそう答える。

「これからは、そうした事例も増えると予想されています。

 それに先鞭をつけることは、むしろ栄誉あることだと考えます」

 どちらも腹をくくっている、ようだった。

 ならば。

「それでは、早速」

 トエスは、頭を切り替えることにした。

「いくつか意見を聞きたいことがあるのですが」

 地形図を広げて、二人に見せながら相談を開始する。

 専門家にしか判断出来ないことはいくらでもあり、トエスはそれを確認することから手を着けることにした。



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