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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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今後の方針

 この時点で、洞窟衆に対するこの手の反感は表面化していない。

 というよりも、洞窟衆がどのような性格を持つ集団なのか、この周辺の人々がまだはっきりと把握出来ていない、という方が正確なのだろう。

 将来的には必要になる可能性もあるのだが、少なくともこの時点では周囲から襲撃を過度に心配する必要もなさそうなのだ。

 無論、そうではあっても最低限の防備は固めている。

 ゴドワにせよ他の拠点にせよ、各種物資の集積を行っている以上、洞窟衆への反感ではなく、もっと単純な略奪目的の襲撃に遭う可能性は常に存在するからだ。

 そうした万が一の備えのために無駄な出費が嵩むという考え方も出来たが、このようなところで人件費をケチっても周辺地域から甘く見られるだけであり、どちらかというとデメリットの方が多い。

 なにしろここ森東地域は洞窟衆にとってはまだまだ馴染みが薄い土地でもあるので、各所に余分な兵力を分散して配置しておくことは、リスク管理の観点から考えてもそんなに間違った方法でもなかった。

 そもそも、この時点で具体的な見返りが薄い、というのは、森東地域への進出事業全般についてもいえる傾向でもある。

 このまま進出事情全般が順調に推移し、数年後かあるいは十年以上未来の時点でそれまでに投資した分を取り返す、くらいの長いスパンで考えなくては、こんな大規模な事業に手を出せるものではない。

 今この場に居る者たちは、その森東地域進出事業における最前線に配置された人員に相当するわけだが、その現場の人間たちとしては、出費のことは度外視してこの場で最善を尽くすことを優先するべきなのだ。


「ええっと、ですね」

 トエスが、そういった。

「今後のことなんですけど。

 ハザマ領からゴドワを経由してその下流にある湾岸部まで到達する水路を、一応、確保出来たことになります。

 ただこの段階だと、まだ海側を押さえていない」

「グフナラマス公爵家が押さえている港とは、また別の地域になるのだったな」

 その周辺の地形図を取り出して広げながら、ネレンティアス皇女がいった。

「ガダイドは、ゴドワを経由する河川がある地域からはかなり離れていますね」

 トエスはいった。

「それに、ブラズニア公爵家のお姫様から早く自由に使える港を確保してくれ、ってせっつかれていまして」

「すると、完全に占領してしまう方が手っ取り早いのか」

 ネレンティアス皇女はトエスの言葉に頷いた。

「南北に縦断する水運経路が自由に使えるようになると、なにかと便利だからな」

「ひとつかふたつ、自由に使える港を確保するとなると、やっぱり占領しちゃうのが一番確実なんでしょうね」

 トエスはこともなげにそういった。

「でも、それって実際に出来そうですか?」

「軍事的に制圧可能な港は、それなりにあるだろうが」

 ネレンティアス皇女はいった。

「ただ、既存の権益全体をすっぱり否定し、港ひとつを丸ごと専有するとなると、地元勢力は強烈に抵抗することが予想出来る。

 短期的に制圧するだけでいいのならば問題はないが、長期的に使用することが前提になるのだとしたら、なんらかの懐柔策を用意する必要があろうな。

 そちらは軍事というよりは政治の領分だ」

「そうなりますよね」

 スセリセスは、ネレンティアス皇女の言葉に頷いた。

「強引に占領して無理にこちらのいい分を押し通そうとしても、地元の人たちにもそれぞれに生活があるわけで」

 河川を経由してどこかの港を制圧することは、今の洞窟衆ならば、おそらくは、可能だ。

 しかしその後、長期的にその港を専有して使用すると、それまでその港を使用して生計を立て来た地元住民が困窮する。

 そうした人々にとっては死活問題になるわけだから、当然、猛烈な抵抗運動が起こることが容易に予想出来た。

 そして、そうした長期的な抵抗運動の相手をすることは、洞窟衆にとっても益がない。

 ネレンティアス皇女が指摘をしたように、ここで問題となるのは軍事力の比較ではなく利益の調整、いいかえれば政治的な解決能力だった。

「ガダイドって港とゴドワから下流にある港とは、こんなに離れているのか」

 ネレンティアス皇女が広げた地形図を見下ろしながら、ヴァンクレスがそんなことをいった。

「こりゃ、ガダイド経由での補給はしばらくあてに出来んな」

「こうして見てみると、広いっすよね。

 ここいら」

 トエスも、同じ地形図を見てそう呟く。

「水路をうまく利用したから、ハザマ領から海まで縦断する輸送路をどうにか押さえることが出来たわけっすけど。

 でも、それだって、自由に使える港がないと、あまり意味がないっつうか」

「この点について、本部はどう見ていますか?」

 スセリセスが、そんな疑問を口にした。

「今のところ、もう少し様子見ってところですかね」

 トエスが答える。

「というか、ハザマ領ではこちらほど、こっちの詳しい事情を把握しているわけではないっすから。

 具体的な方針を示そうにも、検討するための情報が足りていないようで。

 むしろ、こっちになにかいい提案がないかと、そんな風に確認して来るような具合です」

「なるほど」

 スセリセスはそういって大きく頷いた。

「ここまで予想外にうまく行き過ぎたから、臨海部の調査が間に合っていないということですね」

 トエスやヴァンクレスらが積極的な行動を開始してから、まだ日が浅い。

 これだけ短い日数の間に、ここまで進出することを、ハザマ領では予測していなかったのかも知れない。

 あるいは、ある程度は予想していても、その後の方策を決定するための情報収集作業が追いついていないだけなのかも知れないが。

 どちらにせよ、ハザマ領の判断はこの時点でまるであてに出来ない。

 それだけは、確実だった。

「今後の方針としては」

 ネレンティアス皇女はいった。

「まず、兵力をかき集めるだけかき集めて、攻略可能な港を占拠してしまう。

 地元住民との意見交換やら細かい利益調整はその後でする、という形になるな。

 次に、現状を維持しながらゴドワの下流に位置する港町に関して、じっくりと情報収集をする。

 それと平行して、もし事前の交渉や工作などが可能なようなら、そちらの作業も進める。

 最後に、こちらからは積極的な行動をなにもせず、あくまでハザマ領の判断に従う。

 大まかにいって、この三種類になるかと思うが」

 ネレンティアス皇女はそういって周囲を見渡した。

「どの方法を採用するにしても、なんらかの不安要素は残ることになる」

「今の時点で、海側に戦力を集中するのはうまくないだろう」

 ヴァンクレスが、即座にそんなことをいった。

「今こっちで一番安定していないのは、山地から来た連中と元からここに居た連中とが衝突している場所だ。

 そっちの動きがある程度まとまらない限り、洞窟衆も兵力を離れた場所に持って行くべきじゃねーな」

「海に面した港まで兵力を持っていくと、それ以外の場所が手薄になるからな」

 ネレンティアス皇女はヴァンクレスの言葉に頷いた。

「一度どこかの港に兵を集めてしまうと、そこから北に引き返すのもかなり面倒になる」

 大軍を移動させるのには、費用も時間も必要になるわけで。

 今の森東地域のように、いつ暴発するのか読めない、不安定な地域がすぐそこに存在する以上、あまりそこから離れた場所に兵力を移動させるのは得策とはいえなかった。

「じゃあ、もうしばらく現状を維持したまま、こちらから積極的に動かないようにする?」

 周囲を見渡したトエスが、そう確認をしてくる。

「そっちの方が確実だとは思うけど」

「こことかゴドワからだと、どの港もまだまだ遠いですよね」

 スセリセスが、地形図を見下ろしながらそういった。

「水路を経由すればすぐに行ける場所なのかも知れませんが、少なくとも大軍を送りこむのは難しい」

 少数精鋭の人員を送り込んで、情報収集と平行して地元有力者との交渉を開始する、程度のことは可能なのかも知れないが。

 逆にいうと、それ以上に大きく動くのは、この時点ではまだ時期尚早に思えた。

 動くべき条件が、まだ整っていない。

 一言でいえば、そういうことになる。

「なら先に、今ゴタついている連中を片っ端から締めあげて、大人しくさせるか?」

 ヴァンクレスは、そんなことをいいだす。

「どこぞの港町を制圧するのと、手間としてはたいして変わらんと思うが」

「一時的に制圧することは出来ても、その後に禍根と火種が残るよ、それ」

 トエスは、うんざりした口調でそうコメントした。

「どこかの港町を制圧した場合と、同じようにね。

 力で制圧出来たとしても、そもそもの原因となっているゴタゴタの元が解消するわけではないんだからさ。

 しばらく時間が経てば、また同じような諍いが再開するだけじゃない?」

「いずれにせよ、根本的な解決には至らない、と」

 ネレンティアス皇女がトエスの言葉に頷いた。

「侵略して来た側と侵略された側が、必死に戦っている形だからな。

 どちらの肩を持っても禍根は残るし、だとすれば余計な干渉をするべきではない。

 もっともな判断だ。

 が、いつまでもそのままだと、こちらとしても身動きが取れなくなる」



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