肉を切り裂き上へと昇れ
「ぐ、ぅ……ひぅ……っ」
痛ましい怨嗟渦巻く濁流の中、必死に意識を繋ぎとめる。
「わたく、し……は、あ、あ/:」@.Hiigiiぃッ――誰誰誰誰?」
頭と心が侵される。自分の殆どが、もう自分の物でない。染められる、汚される、奪われる。
魂の奥の奥まで、入り込まれる。
「い、やいやいや、いやいやいやぁぁ」
誰かの手が乳房を掴んだ。誰かの指が、足から尻……最後に股の間で這いずり回る。
感触は女の指なのに、触り方は欲まみれの動き。私は知っている、この感触を知っている。
舌で舐られる恥辱、胎を貫かれる衝撃と痛み。
気持ち悪い、汚らしい―― 私の感情。
気持ちいい、もっとして―― 私のモノじゃない!
思い出させないで。私の汚れきった記憶を、勝手に弄ばないで!
「ぃ、ぃ、ぃ、ああ˝……っっ」
蠢く手指の海に紛れて、自分の指もカラダ中の穴と言う穴を撫でまわしていた。
もう耐えら■ない。何■分か■ない。何故耐える必■が?
悲鳴■聞こ■■。
――渡Seッ,bcth;/p@/明KE渡せ
誰かの苦悶。私の声で叫んで■。
――私ノKodoモ、何処\/@何;]:p処何処
「(私の、赤ちゃ■、奪われ■、私■――)」
――オマエのja無iィィ、男siネ死いいね死死
「(憎■、私■穢した■■、神の名■騙■、獣っっ■■■■■■)」
――いい一緒Niぃ穢穢穢殺殺、わたクしを誰モ救ってKUレナイ
「■■■■…………違う」
――:/.@:@:@/./-/?
不意に、怒りが湧いた。私が孤独だと憐れむ声を否定する。大切なひとへの侮辱が、頭にかかった霧を吹き飛ばした。
「私には、あの夜に見た光がある」
思い出す。私が、10年寄りかかり続けた背中を。
渦巻いていた怨嗟が、距離を置く様に弱まるのを感じる。
全てを傲慢に否定した竜の炎。流れ着いた夜の湖。そこで出会った、何よりも美しくて悲しい光景。
あの時に私は、彼と……彼の抱く光に救いを見出したのです!
もう一度私に、愛と願いを与えてくださったのです!
「七郎――七郎七郎七郎七郎ッ。彼は必ず来てくれるっ。私はあの男と共に、運命への復讐を誓ったのですからっ」
――嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘
「彼は来ます。だから耐えられる。さあ、水底の千手。我慢比べと参りましょう?…………ふ、ふふ……それ、に」
水の腐る臭いと、カラダを灼く熱を受け入れながら、汚濁の向こうに精一杯の笑顔を向ける。
「私と似ている貴女。貴女とお話してみたかった……‘ありがとう’とお伝えしたかった。10年の間ずぅっと私達を支えてくださった、他でもない貴女へ……」
シルヴィアは再び千手の汚濁に沈む。愛する男を信じ、今度は自らの意思で濁流へと身を投げた。
彼女の狂気は、怨念の河の中でさえ、愛を支えに儚くも強く輝き続けていた。
・
・
・
名を奉じられた 水底千手鬼母妃神 は、神としての威光をそのまま呪詛の強さへと変える。
夜闇から降り滴る蒼の滴も、艶めかしく揺れる数千の白腕も、咲き誇る蓮花に劣らず意気衝天。
――ゴぼッ、Ooooooンッッ
――ほホホほほほほほほ!
――苦カ禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍っ
同じく神の手足である“山犬”、“姦姦蛇螺”、“姑獲鳥” の存在感も凄まじい。山犬などは既に神聖城壁へ穴を空け、外に飛び出さんとしていた。
霊園山と妖怪たちの禍々しさに、義瑠土員には失神者が続出している。しかしそれでも、上を目指し走り出す者がひとり。
「じゃあ打ち合わせ通りに」
駆け出したのはやはり墨谷七郎。城壁に空いた穴に黒剣を突き入れ飛び込む。
割れ目に取り付いていた山犬を吹き飛ばしながらの突貫だ。
「ま、待って墨谷七郎っ――く、行くわよヴィトーラ! 彼を援護するっ」
「しゃーねーなあ! ガドランっ、着いてこいっ」
「オオッ、シチロウの為ならバ!」
続いて銀伽藍、ヴィトーラとガドラン、さらに遅れてメセルキュリアや辻京弥らも神聖城壁の内側へ入る。
「ほんっとに大丈夫なんスかセンパーイ!?」
「俺達は魔導隊の“あかいくつ”や他の義瑠土員と一緒に周りの雑魚担当だ! 油断すなんよっ……もしもの時は俺に任せろ」
「 ! ぷぷ、むりしちゃってー……かっこいいッスよ、セェンパイ」
壁の中は変わらず地獄。より一層存在強度を増した肉の魔物が、全ての生者を憎んで襲う。
そして先頭を突き進む墨谷七郎に対しても、悪鬼の追跡が及んでいた。
――Guオオウ˝!
「首が無いのに相変わらず素早いな、魔犬っ」
“山犬”は黒水の溜まる墓地や木立を獰猛に走り抜け、先ほど自身を斬り飛ばした――のみならず数か月前に己を焼き殺した仇を追う。
ヒトが歩くだけで呪われる汚水の海を、山犬は意にも介さず疾走していた。当然だ、自身も同じモノで形造られているのだから。
「お前の相手は、伽藍っ」
――Gyaウん!?
しかし山犬の前に割り込み、獣を立ち止まらせる人影が現れた。聖剣を抜き放った烈剣姫である。
かつてより成長を遂げた聖剣遣いは、山犬の前に立つと同時に一太刀振るい、犬の前足を斬り飛ばしていた。
「く、もっと深く切り込んだつもりだったのに……! 硬いし、再生速度も速くなってるっ。作戦通りだけど、骨が折れるわね」
伽藍の驚愕が、本来以上のチカラを取り戻した山犬に愉悦を与えたようだ。明らかに伽藍へ敵視を移し、首の大穴から黒い粘水を‘ごぽごぽ‘と吐き出す。
「手伝おうか?」
「いい、あなたは上に行って! コイツの担当は伽藍。すぐに倒して追いつく」
「――ありがとう。任せた」
「っ、うん!」
もとより、用意された 水底千手鬼母妃神 の攻略方法は単純明快。
まずひとつ、チカラを削る。名の定着によって在り方が定まり、”いい気”になって消費魔力を爆増させた女神を外側から削る。例え根源が無限であっても、出て行く量が補充される速度を上回れば弱体が可能。
次が決定打。女神の心臓である迷宮核の破壊。削りによって生まれた隙に致命打を叩きこむ。
これが墨谷七郎の役目。
「(これは俺がやらなければ。霊園山の中枢を見せるわけにはいかない。もとより、水底千手鬼母妃神の核に女性が近づけば汚染されるのが関の山だ)」
他の者は削りと露払いが役割。さらに抜きんでた実力を持つ数人には、あらかじめ相手取る“楔”が割り振られている。
「魔犬の王――今度こそ伽藍が引導を渡す!」
―― ウ˝ ウ ッ
墨谷七郎は異形の群れを吹き飛ばしながら進む。烈剣姫はその背中を憧れに満ちた目で見送り、因縁深い異形の巨獣と対峙するのだった。
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