無限への対抗策
霊園山は、依然残り火で地獄と化している。人影は皆無。在るのは焼失と再生を繰り返す呪腕と、呪腕がカタチを模す魑魅魍魎のみである。
もし人間が逃げ遅れているなら、問答無用で白骨と化しているだろう。
「(クレルトギスタ・ファルクス……来てくれたか)」
「どうぞ♪」
リンカの出迎えで防衛線指令室であるテントへ踏み入る。頭を撫でると咲き誇るような笑顔。
真理愛と瓜二つの笑顔を見て和みつつ、テーブルの上に“彼女”についての情報が置かれている事に安堵する。問題なく届いたらしい。
【聖剣】からは険しい眼光を向けられているが、素知らぬフリで場の中心に立った。
「……おお」
次に、集まる視線の幾つかのお陰で、俺は少し懐かしい気分に浸った。
「辻くんに櫻井さん、烈剣姫にガドラン――はは、前の大狂行の同窓会だ」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないッスよ。このままじゃ霊園山が日本を飲み込むかも――」
「おい、初代魔導隊に失礼言うなよ!?」
「いまさら態度変える方がヘンじゃないッスか?」
辻くんと櫻井さんは相変わらずだ。こんな墓山には似つかわしくない明るさがある。
「シチロウ、マタ共に戦えテ光栄ダ」
「ガドラン。シーリーンに会えたようで何より。……故郷に帰れるんだろう?」
「ウム、皆ノ喜ぶ顔ガ浮かブ……しかしアヤノを置いテいきたくナイ。思い切ッてエイン=ガガンへ同行を願っテミヨウと思ウ」
……驚いたなぁ。ガドランの幸せそうな顔ときたら。再会してすぐ惚気られるとは思わなかった。そうか、望月さんとガドランが――。
「再会を喜ぶのはいいけど、今は霊園山の対処が先。墨谷七郎、あなたの意見が聞きたい。あの魔物について知っているふうだったわよね?」
銀伽藍が真剣な顔で俺を見上げる。霊園山と烈剣姫……この少女の以前を思うと、なんだか妙な違和感が湧いてくる。
「……改めて見ると、変わったなぁ。今のほうがいいよ」
「はぇ、~~っ、や、やめて。あんまり前の伽藍を思い出さないでほしい……っ」
「あ、伽藍チャンが照れてるッス。か~わいい~」
「う、うるさいッ。さっさと作戦を練るのよ!」
「では僕の出番だねっ。知っている事を話してもらうよ墨谷七郎?」
〔…………〕
“明”が居るので分かっていたが、クレルトギスタと一緒に論亜ウィズダムも来ていたらしい。こんな最前線に来るなんて予想外もいいところだ。
もう俺の指示を聞くか分からないけど、危なくなったら“明”に連れ帰るよう指示を出すか……頭脳担当に見えて妙に行動力がある所も璃音に似ている。
「( 獣の火を隠そうともしないか。やはり危険だが、こうして話すとヒトにしか……いや、今は……) この情報は、お前がクレルトギスタへ送ったのか?」
メセルキュリアが迷宮核についての情報を差し、俺へ疑念の目を向ける。流石は星譚至天、視線だけでも相当の圧だ。
「……霊園山義瑠土からの送信だろう? 俺は霊園山の防衛線構築でそれどころじゃ無かった。でも“彼女”については多少知っているつもりだよ」
嘘は言っていない。この封印記録は、もしもの事態を見越したシルヴィアが用意した物であるし、俺は送信者じゃない。緊急時に手渡す候補とタイミングを予め話し合い、経路を用意しておいただけである。
「“彼女”、ですかー?」
「そう、アレが霊園山迷宮の核。存在を知る者は霊園山でもごく僅かだ。“彼女”を前にして対処できる実力者にだけ、存在が知らされる」
「なんで、んなまどろっこしいマネすんだ? 居場所が割れてんなら大勢で攻めちまえばいいだろ?」
「“知らない”事が大事なんだ。“彼女”は腐っても神性存在。敬いや恐れといった人間の感情と意志を糧とし、無限に染み広がり続けてしまう」
「ウィレミニアでも魔物が土地の魔力と結びついたりしてー、その土地の神様になった例がいくつか記録されてますー」
「ふむ、運命と世界を創造なさった運命神が至高だというのは、ウィレミニアの共通認識だが……その他にも神と呼ばれる存在が各地に点在するのは確かだ。それがヒトにとって善きものであれ、悪しきものであれ、な」
クレルトギスタとメセルキュリアにも、ウィレミニア世界における心当たりがあるらしい。なら幾分か話が早い。
「要はー、どのようなカタチであれ、ヒトの信仰が神様のチカラの増幅に繋がっちゃうんですねー」
「名を語ってはならない。記してはならない。知る者が多ければ多いほど、“彼女”は存在感を増すだろう。そうなったらもう手に負えない。霊園山と地続きの土地や水で生きる人間は、全部祟り殺される」
「今以上に!? 信じられない……」
被害を想像した烈剣姫の顔が青ざめる。無理もない。間違いなく俺達は今、死地に最も近い場所に立っている。
「さて、僕と【王立図書館】は迷宮核の攻略法を導き出して来たわけだけど――七郎、どうせ君も知っているんじゃないか? 手はひとつしかないと。でなければ悠長に防衛線なんて張る意味が無いからね。さあ対抗策をプレゼンしてくれたまえ。それとも期待外れにノープランだったりするのかな? 先に僕が案を披露してもいいけどね」
反対に楽し気な笑みを深めるのは論亜ウィズダム。
挑発的で、不謹慎とも言える論亜ウィズダムの言い分に伽藍やシーリーン、ついにはリンカまで引っ掛かりを覚えているような表情をする。
「は、は」
「……何か僕は、面白い事でも言ったかな七郎?」
変わって憮然となる論亜に指摘され、ようやく自分が笑っている事に気づく。あまりにも論亜が璃音の姿に重なるのだ。消えてしまった幻の続きを見ているような気分になる。
‘七郎‘と気安く呼ばれると、なおさらに。
「(10年前の暗闇が臭って来る。真理愛に、璃音がいた……あの鉄工所の一室が――)」
「七郎様。リンカはここに居ますよ」
リンカの声で思い出の海から意識を戻す。
……ここに居るとはどういった意味だろうか? まるで、一生懸命俺の視界に入ろうとして弱弱しく主張するような……。
「いや、ごめん。なんでもない。じゃあ論亜の言葉に甘えて、俺から提案したい。……要は貴女だ、クレルトギスタ・ファルクス」
「出来る限りは協力しますけどー、代わりにー……」
「その封印記録は自由にしてもらって構わない。霊園山義瑠土に手配しよう」
ここを乗り越えられれば、もう後は最終段階に移るだけ。分析されたところで問題ない。
とにかくシルヴィア達が無事であればそれでいい。
「聞こう。お前の策とは?」
メセルキュリアの真っ直ぐな眼光を受け止め、一息吸う。そして俺は、祟り神に対抗する唯一の手を語った。
「“彼女”に名を奉じる」
「やはり僕たちと君の結論は同じだね。無駄な手間が省けて安心したよ」
論亜が我が意を得たりと口角を上げる。
テーブルを囲む瞳が、次々と驚愕に見開かれていくのがわかった。
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