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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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識り記す者(2)


 ヴィトーラ(シーリーン)とガドランは10年前、エイン=ガガンの平原で共に育っていた。


 「――本当に、シーリーンなノカ?」


 族長セギンの力で束ねられた集落は強い結束のもと平原を統べ、肥沃とはいえない土地ながらも多くの子供たちを守り育んでいたのだ。


 しかし突然の悲劇が全てを奪い去る。


 魔が闊歩(かっぽ)する、飢えと恐怖に満ちる暗夜へ放り込まれた氏族は、守るために戦いその数を減らした。

 生き残ったのは戦士の妻と子供たち。

 世界すら違う異国の地で暮らす10年は、巻き込まれた者達にとって苦難の月日。

 同時にエイン=ガガンに……何も無くなった故郷に取り残された者達の10年は、愛と誇りを奪われ続けた年月に等しい。


 「(っ、そうよね。ヴィトーラは世界を渡ってまで、獣牙種(オーク)の家族や仲間を探しに来た。これでガドランも、向こうの世界に帰れる)」

 「(発音が難しいですけど……シーリーン?……ヴィトーラさんの事? 故郷でのお名前、でしょうか……?)」


 伽藍とリンカは迷宮への恐れも一時忘れ、獣牙種(オーク)氏族の再会を見守った。


 「ア……」


 ガドランは大きな体を(かす)かに振るわせている。


 「ガドランと言ったか? そうか……10年前にニホンへ転移させられた獣牙種(オーク)のひとりだな。よければこの件が片付いた後に、ワタシからミスルム大公へ帰還の打診を行おう。今まで獣牙種(オーク)にゲート使用を許可しなかったのは、当時ウィレミニアの国防に関する事とはいえ、人道はおろか三国同盟の条約にも反する事だった」


 「メセルちゃん、ずぅっと転移事件を気にかけていましたもんねー」


 のほほんとした顔のクレルトギスタであるが、内心複雑な思いを抱えている。

 清廉(せいれん)としたメセルキュリアの言葉に、その実深い悲しみが秘められている事を理解しているのだ。


 「(クーデターと同時期に起きた転移事件……クーデターではノルン神教を変えようとした人達が、飛行軍艦と一緒に大勢命を散らして、ノルン神教は力を削がれただけで結局変わらない。それだけじゃなく、黒牢事件解決のためにニホンへ渡っていたゼナちゃんと決別するキッカケでもあった……。だからゼナちゃんの為にも、少しでも罪滅ぼしになるような、”自分に出来る事をしたい”って(こぼ)してたもんねー……)」


 だからクレルトギスタも、メセルキュリアが誤解を受けず、彼女の想いが少しでも報われるようにあえて言葉を付け足す。


 「異世界間ゲートは元々エルフの魔法技術によって造られたモノですのでー……。ウィレミニアとしても、エルフが“他国へ秘儀が漏れる可能性を排したい”と言えば無視できないんですよー。獣牙種(オーク)の皆様には、長い間ご辛抱を強いてしまいましたー……」


 「でも、もう日本にバラしてるも同然じゃない。それがどうして獣牙種(オーク)にだけ……」


 「エルフは長命ですので、エイン=ガガンと戦争をしていた頃の世代そのままなんですー。敵国っていう印象が捨てきれないのかも……ニホンは、そのー、魔法力の差というモノはどうしても……」


 「要は、日本はゲートの構造を解明できないと思われているわけね」


 「そうヘソを曲げないでくれ伽藍(カラ)。ウィレミニアがこちらの世界の科学を理解しきれんのと同じだ」


 声を潜めて話す伽藍や星譚至天2人。その声が聞こえていないように、ガドランの震えは徐々に増す。


 「……オ、ア」


 「くふ、待たせちまったな……幼馴染のオマエに、まさかこんな所で会えるとはよ」

 

 「とにかく、感動の再会ってワケだな。よかったなガドラン!」

 

 照れたように笑うヴィトーラ、直立し動かないガドラン。

 霊園山での戦友に訪れた吉報に、人の良い京弥は我が事の如くガドランを祝う。


 「オオ……っ」


 「……?……ガドラン?」


 しかし京弥は気づいた。ガドランの顔に喜びは無い。

 あるのは……何かに怯える恐怖の表情。



 「オ、オ、OooguROooo、Si、シーリーンが来タアァァ!? 我ラは何もシテおらんッ、ダカラ毛を毟ラナイデくれーー!?!?」



 ガドランの脳裏にありありと甦った故郷の記憶。


 ――まいったーッまいったからッ

 ――勘弁してくれシーリーン!


 ――くっふふふ。二度と逆らうんじゃないぞー♪


 それは獣牙種(オーク)の男子全員で挑んだにも関わらず蹴散らされ、忠誠を誓わされた痛みの記憶。

 あまりのガドランの様子に、伽藍は思わず冷たい目をヴィトーラへ向けた。


 「ヴィトーラ……じゃなくて、シーリーン? 可愛い名前ね。あなた、子供の頃何したの?」

 「べ、別に、あの頃のアタシは至極真っ当な子供で――」

 「嘘ダっ。大人達ニハ隠していたガ、氏族の子供ヲ全て傘下に納めるべく暴れマワってイタダロウ!? 同年代でシーリーンに勝てるモノは居なかっタ」

 「あーーん!? いきなり何言ってんだガドランッ。またシバかれてぇのかッッ?」

 「オオウッ、ヤはり間違イなくシーリーン!」


 魔犬の軍勢にも怯まなかった戦士が、自身より小さい女性ひとりに対して慌てふためいている。

 子供の頃よほど強く上下関係を叩きこまれたのだろう、と周りの者は容易に想像ができるのだった。


 「あのー、そろそろ話を進めさせてもらいますねー?」


 「あ、おう。悪かったな。近々自治区とやらに行って話を付けてくる。……嬢ちゃんも、アタシの事は今まで通りヴィトーラって呼べよ? ホントの名は誰かれ構わず知られたくねぇ」


 「そう? カワイイのに」


 「だからイヤなんだよ…………ガドランは後でシメる」


 「アア、アヤノのもとにカエりたい」


 絶望に染まったガドランの目に涙が浮かぶ。再会の感動は何処へいったのか。しかし誰にもガドランを救う事は出来ない。


 「さてクレルトギスタ、聞かせてもらおう。あの迷宮の主への対処法が判明したんだな?」


 メセルキュリアの静かな声は、場に緊張と戦意を引き戻す。クレルトギスタも一転深刻な声色で話し始めた。


 「私の到着が遅れたのは、霊園山について調べていたからなんですー。正確には、届いた情報を精査していた、と言うのが正しいのですけどー」


 「あの手の怪物について詳しくわかったの!?」


 「落ち着きたまえよ伽藍くん。本題はここからだっていうのに、堪え性の無い……」


 「論亜(ろあ)、あなたには聞いてない」


 「へぇ? 霊園山の攻略には僕の知識が必要不可欠だよ? 事実、この【王立図書館】に霊園山の情報を渡したのは僕だしね」


 「助かりましたー、この迷宮は何故か資料が少なくて―。ニホンが管理しているなら、もっと詳しい記録があっていいと思うんですけどねぇー……?」


 「論亜さん、あの手の魔物についてご存じなんですか? 七郎様は“神”だとおっしゃられていましたけれど」


 「僕が渡したのは、あくまで迷宮の発生過程や特徴、管理方法までだよ」


 「件の手の魔物についてはー、霊園山義瑠土(ぎるど)から情報が届いたんですー。ただ国のアーカイブに無い記録情報だったので……論亜ちゃんの情報とすり合わせたりと、ちょっと時間が掛かっちゃいましたー」


 ――これが、義瑠土(ぎるど)から届いた情報ですー


 そう言ってクレルトギスタは、懐から厳重に封の施された紙束を取り出した。


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