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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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浮気者め


 槍を使うのに大事なのは足腰だ。とうさんが槍を振るう姿はよーく覚えてる。

 アタシが初めて訓練用の棒を握った日、とうさんは戦士の貌で、だけど優しく手を添えて教えてくれた。


 「てぇりゃああああ!」


 「――!」


 渾身の振り下ろしを真っ向から受けきられた。完璧というには少し荒い槍捌(やりさば)きだが、足りない部分は単純な腕力で押し切ってきやがる。

 速くて、重い。まともに戦ってわかった。七郎の強みは重さだ。

 絶対に倒れない重量感、戦いで磨かれた荒々しい武……それが、とうさんの想い出に重なるんだよ。


 「(かあさん、やっとここまで来たぜ。とうさんの手がかりは目の前だ。……きっと、まちがいなく、もう生きちゃいないとうさんの)」


 七郎と立ち位置を入れ替え、距離を測り、数え切れない手数をぶつけ合う。

 ヒビだらけの兜の下で、切な気に笑う顔が見えた。なんでテメェの方が寂し気なんだよ、泣きたいのはコッチだってのに。

 海を越えて、世界を超えて、ようやくたどり着いた世界の何処にも、とうさんの匂いを感じない。


 「(スキルークが他人の手に渡ってんのが何よりの証拠だ。かあさんも口には出さねぇが分かってたんだろ? とうさんを失ったんだって……10年前のあの日にさ。だからあっけなく病気なんかに負けちまった)」


 幸せだったガキの頃の日々は全部壊れた。とうさんとかあさんが笑って暮らすあの平原の家が、懐かしいったらありゃしない。

 取り戻せないのは分かってる。自分の求める宝に手が届かないなんて重々承知さ。

 

 「(だが、アタシにはまだ背負ってきたモンがある。宝を奪われたのはアタシだけじゃない! 同じ氏族のヤツらの為にも、こっちに飛ばされたっていう獣牙種(オーク)を探し出さなきゃなんだよッ。必ず生き残ってるはずだ、とうさんが一緒だったなら死なせるハズがねぇッ)」


 七郎の繰り出す暴風みてえな猛攻を(かわ)し、攻めに転じる機会を伺う。

 速度と威力が凄まじすぎて、正直隙なんか見当たらねぇが……やってやる、無理やりにでも作ってやるっ。


 「灸をすえてから、ゆっくり聞かせてもらうぜ七郎――とうさんの生き様をなぁッッ」


 アタシも長年荒事に身を置いて来た女だ。七郎の槍が見様見真似の付け焼刃だってことはわかる。基本的な武器の扱いしか習ってないヤツ特有のぎこちなさがあるんだよ。

 

 ……隣にいたんだろ。一緒に生き残ろうと戦ってたんだろ。その槍の振り方はとうさんのモンだ。

じゃなきゃスキルークがあんなに心を許すわけがない。

 アタシ達獣牙種(オーク)律動言語(リズムスピーチ)まで喋りやがって……証拠は揃ってんだよ。


 逃がすモンか。絶対アタシの物にしてやる。


 「(とうさんと同じ風を吹かす七郎……テメェを)」


 お宝ってのは戦って奪うんだよ。海賊らしくな!


 ・

 ・

 ・


 槍とは、本来‘突く’事が正しい扱い方なのだと思う。


 「――オォッ!」


 だけど俺のやり方は違う。武芸としての技術を下地に、思い切り振るい()ぐ戦い方だ。


 「ぐおッ、馬鹿力がぁ!」


 ヴィトーラ……いや、シーリーンを偃月刀(えんげつとう)ごと弾き飛ばす。すると彼女は軽い手ごたえだけを残し、簡単に障壁際まで吹き飛んだ。

 彼女とは重さが違いすぎる。身体強化の軽量化を解けば、俺の質量は誰にも負けない。

 肉と骨に成り代わる黒い鋼が(スジ)となり、貯め込んだ魔力が(くすぶ)り続けるこのカラダは、我ながら常軌を逸した膂力(りょりょく)を持つと自負している。


 「(だからセギンと同じように戦える)」


 嬉しい。憧れの戦士に近づけたような気がするから。

 

 「呑気に棒立ちとはいい度胸だッ、喰らえ!」


 シーリーンは長物と化した葦沙刃(イサハ)を下から切り上げるように振るった。鋭利に輝く刃を槍の()で受けるが、予想外のタイミングで突き立つ岩が正面から襲い来る。

 彼女の一振りは魔力の通り道でもあったらしい。葦沙刃(イサハ)の軌跡をなぞる様に、詠唱を破棄した土魔法が第2の刃として()り立ったのだ。


 俺は引かず、魔法を鎧で受ける。


 「脆いっ」

 「んなっ!? テメェ頑丈すぎんだよッ」


 傷をつけられないまま()れた岩石の刃層(じんそう)を片腕で砕き壊す。魔力で固められた硬石も簡単に散った。

 これこそが、俺の憧れた戦士の戦い方だ。

 槍を回し振るえば、再びシーリーンは成す術もなく吹き飛ばされて障壁に激突。落ちるように石畳に着地し、ダメージに片膝を着いて呻いているようだが……警戒は解かない。

 彼女はセギンの娘。ならこの程度で挫ける女じゃない。


 「(ああ、俺はセギンの武を見せられているだろうか……セギンがどれほど強かったのかを、語れているのだろうか)」

 「てやあああッ」

 「――(しろがね)伽藍(から)……」


 訓練された人間程度では残光も(とら)えられないであろう、完璧で鋭すぎる斬撃が横合いから振るわれた。

 変異(かわ)りきった自身の瞳と動体視力に感謝しつつ、聖剣の刃を腕の鎧で受け止める。


 「なんでよっ墨谷七郎!? 伽藍が初代魔導隊を……あなたを探しているのを知ってたのに、どうして黙っていたのっ」


 迫真の斬撃とは結び付かない、弱弱しい涙目が俺を刺す。

 

 そうさ俺は知っていた、この少女が俺達に憧れてくれていた事を。

 虎郎(ころう)愛魚(まな)ちゃんも璃音(りおん)も居ない、穴だらけでボロボロの思い出を愛してくれているのだ。

 だから今じゃないと思った。霊園山の時も、密輸事件の時も、名乗る気なんてさらさら無かった。


 「でもここまで来たんだ。もうすぐなんだよ銀伽藍」


 「っ?」


 「戦う恐怖――武器を振るう罪悪感と振るわれる痛み。その全部を背負って戦い切った仲間に、君の憧れを聞かせてあげたい。俺じゃ無くみんなにこそ聞かせてあげたいんだ! 全員揃って、明るくて優しい陽の下でっ」


 「なに、を……ひッ」


 俺と目が合った銀伽藍は、涙できらめいていた瞳になぜか怯えを見せて一歩後ずさる。


 ―― ガツン


 「 ? 」


 不思議な行動に首を傾げたのも束の間、今度はまったくの意識外から冗談みたいに弱い衝撃を感じた。

 目線だけで何かと確認すれば、それは剣を振り下ろした姿勢で止まるゴツい黒鎧。


 「……鋼城」

 「墨谷……っ」

 「お前……もしかして……それが全力か?」

 「っ!? バ、バカにするなーーー!」

 

 俺のこぼれ出たつぶやきに激昂した鋼城は、一心不乱に火を纏う剣を叩きつけてきた。

 しかし痛みどころか衝撃すらまともに感じない。信じられない気持ちだ。理解が追い付くのに少し間が空いてしまう。


 「俺は昔みたいに、お前と一緒に戦うために隣に立ったんだ……もう後ろから刺される(いわ)れは無いぞ」


 「最初はオレだって”昔みたいだ”って思った! だけど違う……あの時と同じ、炎……お前はやっぱり、あの時と同じバケモノなんだなっっ?」


 「驚いたのは俺もだよ。黒牢から変わってないのはお互い様だったんだな鋼城……10年間何をしてた? まるで強くなってないじゃないか」


 「な、なんだ、とぉ!?!?」


 何度も斬り付けられた初代魔導隊の鎧に破損箇所はあるも、中のカラダには一切響いていない。

 今回は俺の不意打ちでも何でもない、むしろ不意を狙った鋼城に利がある状況だったはずだ。それなのにこの有様。


 思い出にあった頼りになる鋼城の姿を、他でもない本人に否定されたようで……同時に平然と、皆の形見でもある鎧を傷つける薄情さに芯から悲しくなる。


 ≪えっ、なに喧嘩? 初代魔導隊同士で一緒に戦うんじゃないの?≫


 ≪鋼城……墨谷を後ろから……そうか、合点がいった気がする……お前が黒牢の事を語りたがらなかったのは……っ≫


 「あ――ち、違う……オレは」


 ようやく周りの目に気づいたらしい鋼城が震えだし、仕舞いには握っていた剣を落とす。

 

 「戦う気が無いなら、2人共どいてもらおう!」


 「ぐ、ああああああああっっ」

 「しまっ――」


 石畳を砕く程度に足を踏み出し、体ごと回転しながら槍を振るう。

 烈剣姫(れっけんき)はかろうじて剣で受けるが、鋼城はモロに腹へ殴打を許していた。対応に違いはあれど、結局は2人とも壁際まで飛んでいくことは変わりない。


 「さて――」


 「アタシを忘れて乳繰り合ってんじゃねぇよッッ」


 「そう来るのを待ってただけだ!」


 槍を薙いだ砂埃から‘ここぞ’とばかりに、武器を頭上に振りかぶるシーリーンが現れた。血の気が満ちる獰猛な笑顔に、こちらも槍を振るって応戦する。

 1撃、2打、3薙ぎ――轟音と共に互いの誇りが覇を競う。


 「くふふ、なあ七郎」


 武器の扱いでは上をいく彼女との、息つく暇も無い攻防だった。

 少なくとも俺はそう思っていたが……しかしせめぎ合いの最中、シーリーンは口を開き笑う。

 あからさまに口角を歪め‘してやったり’と言わんばかりの顔だ。


 「見切ったぜ。テメェ――身体強化に妙なズレがありやがるな? 一撃に“重い”時と“軽い”時がある」


 理由は分からないが何かマズイ気がする。動揺は抑えたつもりだったが、シルヴィア並みのスムーズな魔力収束を感じ手遅れを悟る。


 「で、今が“軽く”なってる瞬間だ。詠唱は()()()()()()()()()ッ、吹っ飛びやがれッ【断崖轟槍(だんがいごうそう)】!!」


 視界を埋め尽くす岩石。全身を殴りつけて来る硬質な隆起。

 一瞬遅かった、脆くなった足場に合わせて体重を調節していた隙をつかれた! 軽量化を解く前に断崖轟槍(だんがいごうそう)で空中に打ち上げられる。


 ≪ヴィトーラ選手の大まほーう!! 闘技場の殆どが鋭い岩山と化したーーッ≫


 観客の大歓声を聞きながら上空で闘技場を見下ろす。


 ――空中じゃ動けない……なら!


 「この槍と魔法――どちらが強いか勝負してやるッ」


 尚も空を目指し隆起する剣山へ、俺はセギンの槍を大矢の如く投擲! 槍は衝撃波を(まと)い岩石に穴を空け、雷鳴に似た破壊音を轟かせた。

 断崖轟槍(だんがいごうそう)が裂け目を広げて崩れていく。


 「まぁだだああぁぁぁぁ!!」

 「!?」


 しかしシーリーンは諦めていなかった。拳を突き出す動作と共に、砕けた岩槍の直下から再度巨大な剣山を生成する。

 体を突き刺す2度目の衝撃っ。だがシーリーンも大魔法の連続行使に平然とできる訳が無い。明らかに倒れかけだ。

 

 「(よし、落下にまかせて下に戻、っ?)」


 ―― GU、uッ


 この鳴き声は――。

 

 「「スキルークっ!?」」


 気づけば同時に名を叫ぶ。断崖轟槍(だんがいごうそう)の余波で壊れた入場ゲートから猛然と鷲獅子(ワーギット)が駆けてくる。

 速度はまさしく風のように。

 強靭な四肢は岩場を物ともせず、猛禽の瞳は()()()を救うべく光を取り戻す。


 ―― Gviィ


 「っ――ああ、いこうぜスキルーク」


 スキルークはまるで促すように走りながら背を屈め、シーリーンも迷いなく獅子の背に飛び移る。鷲獅子(ワーギット)という風を得た彼女のなんと晴れ晴れしいことか。

 1人と一匹は、俺が岩剣山の先端へ落下する前には眼前に飛び出してきた。


 だが……セギンは俺にまだ戦えると言っている!


 声の代わりに槍が光る。2打目の大隆起は、投擲した槍を剣山の先端に運んでいたのだ。

 偶然では説明できない()()を感じながら、引き抜いた槍でシーリーンの葦沙刃(イサハ)を迎撃する。


 金属音、続き甲高い破壊音。

 悔し気に(うめ)いたのはシーリーンであった。


 「が! クソッ――」


 落下しながらの一撃だったが、競り勝ったのはセギンの豪槍。刃こぼれしていた宝剣の刀身をついに砕き得る。


 「(……おぉ)」


 1秒にも満たない刹那の衝突。銃弾をも捉える俺の動体視力は、鷲獅子(ワーギット)(またが)るシーリーンに懐かしさを見ていた。

 滴り散る汗、力強くなびく赤茶2色がキレイに混合する髪、いまだ勝ちを諦めていない瞳……その野生美すべてにセギンの面影を感じる。

 姿形がまったく違うのに、確かに彼女がセギンの娘なのだと信じさせられる。



 “――どうダ、我ガ娘は。妻に似テ可愛らしいダロウ?”



 引き延ばされた時間間隔の最中、背中から熱い風が吹いた。


 “我が槍、我ガ魂はお前の支えトなれタ”


 彼女は俺を上から見下ろし、俺は彼女を見上げながら落ちていく。


 “我が魂ヲ、最愛ノ宝の元へ”


 背中を押す風に流され、槍は俺の手から抜け落ち……持つべき者の手に渡る。


 「――七郎……」


 セギンの槍を握ったシーリーンは呆気にとられて俺を見た。

 彼女に兜の下を見られてはいないだろうか。見せられないな、こんな情けない顔。


 「(わかていたんだ、この槍はシーリーンが持つべきものだと。だけど手放したくなかったんだ! ずっと俺を励ましてくれたセギンの思い出をッ)」


 “ゆけ、お前ノ求ム果てへ”


 風は、10年前と変わらず俺に勇気をくれる。

 ……なら進もうか、彼の信頼の言葉を背に。槍に頼らず奮い立ってみせよう。


 「これで――終いだあぁぁぁぁ!」


 振るわれる槍の柄を甘んじて受け入れる。寂しいのに、どこか清々しい気分だ。


 ……ああ、ひとつ気に入らないとすれば――。


 思い起こすのは黒牢で背に乗った、頼りになる相棒との記憶。


 

 「スキルークッ……こぉの浮気者めぇぇぇぇ」


  ――GURu♪



 言葉を理解しているのか、していないのか。

 主の認めた戦士と主の娘……その双方と一遍(いっぺん)に再会し元気百倍となったスキルークは、なんとも嬉し気な表情で空を駆け落ち、黒鎧の墜落を(もっ)てエキシビジョンマッチに決着をもたらしたのだった。


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