表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

326/401


 今まさに己が眼で捉える“芸術”は、見る人間全ての思考を奪う。

 人は知覚情報の8割を目に頼るというが、舞う銀月の足運びは聴覚を、最高級香水など足元にも及ばない少女の香りが嗅覚を……彼女の存在が余すところなく、ヒトの知覚世界を支配するのだ。

 

 「五感のみでは不足」と強請(ゆす)り、「心を捧げろ」と強いてくる。

 【聖剣】も、人ならざる竜ですら、月の魅力からは逃れられない。

 

 不意に疑問が生じた。

 純金の柔らかな髪、闇より暗い漆黒のドレスが‘くるり’と回る姿から、なぜ人はすべからく彼女に‘銀の月’を想うのか。


 間もなく答えを悟る。

 それは、ドレスが際立たせる彼女の肌が、極夜に()る月光の如き冷白(れいはく)であるからに他ならない。


 眩しい。冷たい光が強すぎて、少女の(かお)も定かでない。

 なのに美しいと思った。そして、恐ろしいとも思った。


 「‘けもの‘のあじみは、またいつか」


 銀月は、悪戯気に笑っている。


 「――はっ」


 時間を奪われたような感覚だった。眼を開いたまま、失った意識を取り戻したような感覚に陥る。

 この感じ、前にもあったような……?

 

 「あう……何?……立ってられない」

 「っ、聖剣の魔力が――……()()()()()

 「なんだよこりゃあ……。なんか、無性に毛皮被って寝ちまいてぇな……肌寒ぃし……七郎、お前抱き枕な」

 「オオぉ、た、例え借りがあるといえど、それはならん。ナらんぞっ嬢ッ。ムグググっ――ダメだ、力が抜けル」


 「……何事?」

 

 ハッキリとし始めた視界には、ある意味死屍累々な光景があった。俺の傍に居た面子はメセルキュリア以外、やや虚脱したような様子だ。


 「くふ……zzz」


 ヴィトーラに至っては俺の肩に抱き着いたと思いきや、そのままぶら下がるように眠り始める。握る手の力だけはスゴイ。なんでその態勢で眠れるんだ。


 「な、なんだ!? 周りの人間が全部気絶してる!?」


 鋼城が驚愕の声をあげた。つられて俺も周りを見れば、確かに先ほどまで遠巻きにしていた人々の多くが床に倒れている。

 

 「(竜子さんは――……気持ちよさそうに寝てる。最初より顔色が良いくらいだ。でも“明”が止まってるのはどうしてだ?)」


 他に、辛うじて意識を保っている者も数人いるが……。


 ―― もっとぉっ、もっとしてぇ

 ―― ワシなんかが触れてはいかん……ああ、だが……


 全員生きてはいるようだが、誰も彼も様子がおかしい。


 「あ˝、あ˝ひ、あ˝ッへええええええッ!!?」


 ―― ドイル枢機卿っ!?!?

 ―― うわ、汚らし……い、いえ、お気をたしかにッ


 特に枢機卿とやらの有様は酷い。肥満体の老人が目を見開き奇声を上げ、恍惚を過ぎて苦悶ともとれる表情で床をのたうつ様子は、正直に言って醜い。シンプルに引く。

 辛うじて意識を保つ取り巻きの信徒も、顔を(しか)めながら形だけの介抱を行っている。


 「き、聞いとらンぞ、エヴァが居るなど……ワ、(ワレ)は悪い事はしてナイ。オ仕置きはイヤダ! モ、モウ尻は叩かんでクレっ」


 真竜の様子もおかしい。子供のように蹲り、半泣きで翼と尾を丸めて目を閉じる。

 竜を怯えさせるほどの何かが、先程に少女にあるのだろうか……。


 「墨谷ぃ、なんなんだこれはッ。お前が何かしたのかっ? 女の子を引きずって、ふざけてるのか!」


 「どうしてそうなる?」


 「な、なにしてるのよっ? は な れ ろ ぉ ー」


 「アタシはいろいろ疲れたんだよ、うるせぇなぁ……」


 烈剣姫(れっけんき)も引っ張らないでほしい。背中のヴィトーラは剥がれないから放っておくしかないんだ。

 鋼城も、俺が身体強化以外の魔法を使えないことぐらい知ってるだろうに。


 「俺にこんなマネできるかっ。お前だって見ただろう鋼城、さっきの子を……」


 「子供……? 何を言ってるんだ。そんな子どこにいる?」


 ……鋼城は見てないのか? あの現実離れした光景を。


 「このラコウ人の女性が歩いて来ただけだろ」


 「は?」


 鋼城の指摘でようやく気配を感じ振り返る。

 そこには青いドレスを身にまとう黒髪黒肌の女性が(たたず)んでいた。非常に長い髪を流し広げ、顔も髪に隠れて良く見えない。そもそもラコウ人の闇肌は、髪の黒と区別がつかず分かりにくいのだ。

 表情は定かでないが、幽鬼のような立ち姿と、髪の間からぼんやり光る紅い眼光が印象的である。

 さらに特徴がもうひとつ。

 彼女はなぜか、パーティーで使われていたと思しき食器皿を大事そうに持っていた。異色の肌指で、装飾美しい皿を‘キュウゥン……’と()(かな)でる。


 「(この人、さっき別のテーブルに居た――)」


 「()()()()()は楽しき夜をお望みでぇぇ……無体は終わりにしてほしぃぃぃ」


 数十秒前の、極美を眺めた余韻が消え去る。

 震える様な声だった。‘ぐん’と近づいてくる女ラコウ人と目が合うだけで、灼け溶けたハズの肌に泡立つような悪寒が走る。


 「……申し訳ない」

 「それでいぃぃぃ。よくできましたあぁぁぁ」


 敵意も感じないので、素直に一歩引いて謝る。するとラコウ人の彼女は満足げに指を皿に(すべ)らす。

 

 「……うぅ」


 後ろに居る烈剣姫は、ラコウ人女性が発する只事でない重圧に顔面蒼白だ。


 「――そうか、ラコウ人! オマエが会場を襲ったんだなっ?」


 「おひぃさまにぃぃぃ食べてもらえなかったニンゲン――かわいそぉぉにぃぃぃ」


 「ニンゲン? オマエ魔物かっ!?」


 「やめろ鋼城っ」


 しかし鋼城は引かず、青ドレスの腕を掴み(せま)る。はたから見れば、鋼城が女性にキツく当たっているように感じるかもしれない。

 だがドレスの女は首を傾げるばかり。


 「ああっ、ダメですよぉ! 殺されちゃいますぅッ」


 今度は女ラコウ人とは別の、知らない女性の悲鳴が木霊する。

 誰だろうか?

 女性はタイトスカートにやや乱れたシャツ……あえて表現するならば、異世界風のレディーススーツに身を包んでいた。丸縁メガネに糸目顔で、年齢は若く見える。

 

 「来ていたのか、クレルトギスタ」

 

 「記録しなきゃいけない大事件の気配がしてねぇ、走って来ちゃった。って違う、止めなきゃダメでしょーメセルちゃんッ。“3大病魔”がニホンに入り込むなんてイチ大事だよー!」


 「ああ、全員揃って忍び込んで来たらしい」


 「あー、病魔全員でぇ。3人が揃う監視記録は6年ぶり…………え、3人が集まる理由って……じゃ、じゃあ来てるの、()()?」


 「……ああ」


 細い目をびっくりするほど見開いて、新たに登場した女性は固まる。

 

 「(クレルトギスタ?……っ……“星譚至天”クレルトギスタ=ファルクスか!!)」


 思いもよらないタイミングで【聖剣】以外の星譚至天と初対面することになってしまった。

 黒牢の解決にも一役買った“王立図書館”の顔色を見るに、やはりこれはマズイ状況らしい。

 だが鋼城はクレルトギスタの声も聞こえないのか、焦った様子で(まく)し立てている。


 「倒れている人たちを元に戻せ! オレや【聖剣】の目をかいくぐってこの人数を一斉に、ということは……まさか異世界の“魔王”なのか!? 黒騎士として見過ごすわけには――ッ」


 ――魔王。その一言を鋼城が言い放った瞬間


 病を冠する魔が牙を剥く。


『ブックマーク』と★★★★★評価は作者の励みになります。お気軽にぜひ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ