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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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土と血に沈む恨みこそ(2)


 「――あ」


 「精強な其方らを相手取るに、万全を期す為とはいえ……エルフの秘伝転移術式まで使わされるとは。やはり其方らを失うは惜しい。……まあよいでしょう、転移の術を徐々にウィレミニアへ公開するなど、武力の欠けはエルフの魔法で補えば良し」


 ハインリヒトが血だまりに沈む。赤が地面を黒く染めるにつれて、ワタシの魂が欠けていく。


 「あ˝、あ˝ああああああああああアアッ!?」


 「んん? なんで? コイツ体の殆ど埋まってた。魔法緩めてない。なんで抜けれた? ちょっと泥に戻った? ??」


 “汚泥”のダムイーが気色悪い速さで首を左右に傾げる。

 ミスルムがわざわざハインリヒトの土の拘束を緩め、自らの手で処刑する理由など、半ば狂気に墜ちるダムイーには想像も出来ない。


 「やめてッッ、もうやめてくれ!! ああ、ハインリヒトッ!? いやだ、死ぬな! じ、爺やっ、ハインリヒトがぁっ」


 ダナンディグの眼に光は無い。怒りの形相のまま、既に事切れている。


 「なんだ、急にオンナみてぇな声で泣くな聖剣サマよぉ。あ、女か。忘れてたぜ」


 「死体に縋りついないで裸にでもなれよ! オンナらしくしてみろっ、ギャハハハハハハ!」


 犯罪者のひとりが、カロリーナの上半身の鎧を剥ぎ取った。

 服を切り裂き乳房を露出させ、その傷だらけの肌を見た男達はさらに嘲笑を強める。


 男達は、ついに魂の武装を失うカロリーナを目の当たりにして、いよいよ興奮の最高潮に至っているのだ。


 「こりゃ誰も相手にせんわ」

 「今死んだ騎士はよっぽど物好きらしいっ」


 鎧を剥がれ、尊厳を踏みにじられながら、カロリーナはハインリヒトへ這いずっていく。

 土に立てた生爪が剥がれても、必死に。

 

 「ハイン……リヒト」


 兜を脱がし、冷たくなった顔を撫でてもハインリヒトは微笑んでくれない。

 温める為に彼を抱き寄せる。


 「まだ終わってねぇぞっ、カロリーナさまよぉ!」

 「ほら聖剣拾ってもいいぜ? 拾えるならなぁッ」


 「 ッッ!? ぎゃああああああああッ」


 呪いに侵された腕を踏み砕かれる。最悪の激痛。


 それでもハインリヒトは離さない。ハインリヒトだけは渡さない。


 「これ……以上……傷つけさせは、し……ない」


 よく顔を見せてくれ。抱きしめてやるから、いつもみたいに抱きしめ返してくれ。

 ワタシの肌を、いつも愛おし気に撫でてくれるじゃないか。


 ……どうして何も言ってくれない? 

 何をしている、剣を手放すなど……。


 「いぎ、ぐ」


 「おーおー……ぐちゃぐちゃの腕で剣拾おうとしてるぜ?」

 「そりゃ聖剣は大事だろ」


 ――黙れ。キサマらに何がわかる。聖剣など、望んで手にしたワケじゃない。


 「いいかげん、褒美の時間は終いです」

 

 一帯の魔力が、まるで呼応するようにミスルムへ流れた。世界樹の魔力を自由に扱うエルフから逃れる(すべ)など皆無。

 

 ……だが何故なんだ……聖剣は変わらずワタシに輝いて。

 

 「戦え」と、女神の意思を光で語る。


 「は、はは――ははっははははひひひあはははははっは!!?!」


 ふざけるな! ふざけるな!!


 「この後におよんで――グ、うぅぅぅッ……ただかえと……いう˝のか!? それが運命だとでも˝!?」


 なら望み通り戦ってやろうッッ、殺戮してやろうッ。

 ワタシの邪魔をする者は、誰であろうと斬り殺す!!


 世界なんて守るんじゃなかったッ。

 爺やも、ハインリヒトも奪った世界なんて!!


 奪った。ヤツが奪った! あのエルフが、ワタシの全てをッ!


 「 ミ ス ル ムゥゥゥ おまえ などを信じたのが ま ち が い だ っ たッッ」


 もはや世界を救った剣姫は死に、死に際の息すべてで吐く恨みがあるだけ。

 

 「う、おぉ、なんだ急にっ」

 「……ミスルムが魔法を使うべ。下がるだ」


 「許さないいぃぃぃッ、調 和な どオマエに 成せ  はし ない!! ワタシが おま えを  八つ裂 き にし  て殺すか ら だ あ あ あ あッ」

 

 世界樹の森が恨みに震え、憎悪に(よど)む血が土に()み、黒土となって世界を犯す。

 愛しい男と剣を抱き、溶け合わんばかりに剣姫が狂う。


 「――っ……さらば、共に世界を救った盟友よ」


 「  ミ  ス  ル  ムゥゥゥ ! ! 」


 ミスルムは、憎悪を叫ぶカロリーナを土で、霊樹のうねりで、ありとあらゆる自然の操作で地中深くに埋め殺す。無論、全ての近衛師団兵と共に。

 魔法の迅さは恐れが故か、彼女自身にもわからない。

 

 酷い疲労感がミスルムを襲う。しかし立ち止まる暇は無い。犠牲に見合う成果を……世界に流れる、魔力の調和を果たす為に。


 さしあたり次に片付ける仕事は決まっている。


 「ご苦労でした。最後に世界樹の森の(かて)となる事、光栄に思いなさい」


 「え、はっ、な、ぎゃあああああああッッ」

 「話、ちが、うげあああああああああ!」

 「にに逃げ、逃げる。まだ泥でいっぱい殺――」


 「……ま、こうなるべな。いいべ……落とし前は……つけてやっただからな」


 ・

 ・

 ・


 ウィレミニアが誇る“彗天聖剣(すいてんせいけん)”、カロリーナ=レイルムーンがウィレミニア国内で消息を絶つ。

 

 この衝撃の報せは、ウィレミニアに留まらず世界に轟くことになった。

 

 国一番の精鋭、第1近衛師団が痕跡を残さず突如失踪した事件は、ラコウやエイン=ガガンの関与が疑われるも、結局のところは原因不明のまま……。

 次代の聖剣遣いの誕生と、その後に流れた長い刻が、英雄である故人を忘却の彼方へ押しやっていく。


 記憶に刻むのは数人の長命種と、呪いを秘め隠す世界樹の森だけ。


 以後世界樹の森に住まうエルフは、永遠の罪を背負うことになる。


 エルフ達は知ったのだ。ミスルムがしでかした惨劇を、全てが取り返しのつかなくなった後で。


 世界樹の森地下深くで、英雄が憎悪にすすり泣く。


 森の根を通じて罪に触れた彼らは、しかしミスルムの思惑通りに沈黙した。

 己の誇りを穢さぬために、己らの罪を認めぬ為に。なにより数千年のエルフの歴史を、怒り狂った真竜に焼かれぬ為に。


 同時に、森に棲むエルフ達はひどく恐れてもいる。

 森羅万象の循環する世界樹の森……その一部に染みだした、黒土と呪樹(のろいぎ)ざわめく死の大地を。

 執拗に、何重(いくえ)にも抗呪の術を施し、罪の証が立ち還るを封じる。


 いつか訪れるであろう、女神(聖剣)の怒りに怯えながら……。

 


 “我ら(エルフ)の誇りは、()の日に腐りを得てしまった。虫に喰われた果実のように”

 

 “穢れを知らぬは、100年前より帰還を果たさぬ同胞のみ。彼らを森へ迎えてはならぬ。罪に染まらぬ誇りを、尊ばねばならぬ”


 

 森の秘密を守るエルフの日記 ―― “誇りが死した日” との題より抜粋。


 ・

 ・

 ・



 肉の無い胸で息は吸えない。腕の中で腐る愛した人を、骨になっても離さない。

 土の汚れに(まみ)れながら、魂が当然の決意に燃える。


 愛する者が沈むのは、全てワタシと同じ場所。ならば墜ちて憎むは知れたこと。


 栄光を捧げよう――、誇りも、女神への信仰も、ワタシの証たる魂も全て。


 世界を(けが)す魔に成れ果てて、愛しい男と骨を()む。 

 


 逢禍暮市(おうまがくれし)……悪夢の爪跡。今は塩の漂白だけが、厄災の悪意を(しの)ばせる。

 その地下で彼女は時を待っていた。


 不滅の復讐心を、黒土から解き放つ日を夢見て。


 斬り踊れ、斬り踊れ、裏切り者に届くまで――……。


 


 おまえと、城で踊ってみたかったな……ハインリヒト。




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