序。風船、すれ違いの瞬間。
タイトル:はじめに
初めまして、そして、こんにちは。
この作品を手に取ってくださり、本当にありがとうございます。作者は中国の普通の都市で生まれ育った、どこにでもいる若者です。
この物語には、不思議な超能力も、異世界への召喚も、派手な宇宙戦争も登場しません。描かれているのはただ、ひたすらに勉強に打ち込む、少し息苦しい高校生活。そして、そんな日常の片隅でふと顔を出す、名前のない感情の断片たちです。
高三の教室に漂うストレスと焦燥、隣の席の友人との他愛ないやりとり、密かに心惹かれる誰かの横顔。それを包み込むようにして、赤い風船がふわりと空へ昇っていきます。
この物語を書きながら、僕は思っていました。どんなに息苦しい今日でも、必ず明日はやってくるのだと。
それでは、どうぞ、川庄区の風を感じながら、彼らの十四日間をゆっくりとお楽しみください。
九月一日。
高考まであと二百七十九日。
伊河市第十八中学の、表向きの始業日。
高校三年生の姜来にとっては、どこにでもある普通の一日だった。とっくに半月以上も前に学校に戻って授業を受けていたし、昨夜ようやく一時帰宅が許され、本日午後二時が「正式な」始業となる。高考まであと二百七十九日というこの時期に、学校側のこの措置が正しいことに疑いの余地はない。実際、ひと晩と午前中だけでも休みをくれたこと自体、すでに大半の生徒の予想を上回っていた。
十二時三十六分、姜来は昼寝から目を覚まし、きれいな制服のズボンに穿き替えた。頭上真上の太陽に一瞬目を細め、スーツケースを引きずりながら校門へと急ぐ。すでに少人数の生徒が列を作って入校していた。黄色い点字ブロックの上を走るスーツケースが、ゴロゴロと音を立てる。彼は歩道のひび割れから視線を前に上げ、校門へと延びるこの道の、その先にある曲がり角を見つめた。その小さな角を曲がれば、大勢が並ぶ隊伍に入ることになる。
コンクリートのバリケードと横向きに渡された鋼管が、もともと広かった道端の、白い歩道タイルと赤い路面タイルの境界に沿って、電動バイクの駐車エリアを区切っている。黄と黒の縞模様がその上にしっかりと張り付いている。たとえ大半が錆びに蝕まれていようとも。そして彼はまさにこの道を歩いている。この、広いようで狭い道を。
頭上では木の葉がサラサラと音を立てている。その音は樹皮に縦横に走る溝を伝って滴り落ち、かろうじて残っていた夏の名残を耳へと届けると、そこで力尽き、次第に黄ばんでいく。だが、まだ緑のままで、黄色くなるには程遠い。
彼の足取りは引きずるように重く、懸命に自分の身なりを整えようとする。首を立てようと試みるが、それでも少し猫背だ。視線で隊伍をざっと見渡すが、知っているクラスメートはいない。平静に呼吸しながら、自分は高校生活を完全に掌握している人間なのだと想像してみる。優雅で活力に満ちて前へ進み、でこぼこの点字ブロックの上をガタガタとぶつかりながら進むスーツケースの音など聞こえないふりをする。だが、しばらくもすればすぐにボロが出てしまう。
その心臓は相変わらず胸の中で小走りに駆けていて、自分がすごく活力に満ちているように感じさせるのに、同時に少しも力を湧かせてはくれない。
今回の短い休みのせいで、地理の授業は潰れてしまった。あの説明されるはずだった月相の問題は、明日の午前第三限まで持ち越せる――家でスマホをいじっているときに、ちょっと検索しておけばよかった。たとえ授業でうまく説明できなくても、どうせ先生の俺への印象は悪くないし……午後には政治の授業もある、選択必修二を暗記しなきゃ――彼は思わず、その選択必修二の教科書は机の中だったか、それとも外の本棚だったかを考えてしまう。
一回目の模擬試験はとうに過ぎ去り、二回目が目前に迫っている。そのことを思うたびに、姜来は高考に失敗した未来を想像せずにはいられない。そして叔母が話していた、飛び降り自殺のことを思い出す。あの時は絶対に飛び降りたりしないと言ったくせに、今ではそんなに高い場所からの景色はどんなだろうと好奇心を抱き始めている。想像しただけでめまいがして、高所恐怖症がぶり返す。姜来はスーツケースを体の前に引き寄せて横向きにし、自分も体を斜めにして、街灯と柵の間をすり抜けた。
彼は突然、怖くなる。彼はずっと怖がっている。怖がっていない生徒などいない。誰もがその二百七十九日間を怖がっていない者はいない。高考は希望に満ちているように見える。人生はそれだけじゃないから、「高考は終わりじゃなく、始まりだ。お前たちの人生はその後にまだまだ長く続くんだ」から。しかしその怖れは偽物ではありえない。教師や保護者たちは高考を語り、生徒たちはその最長の休みを待ち焦がれ、二百七十九日後、それらはすべて訪れる。
彼は途切れ途切れに回想する。数学の問題パターンの解法を考え、歴史事件の専門用語を考え、かと思うと明後日の小テストや、新しいプリントの束をどうやって分厚いプリント綴じに綴じ込むかを心配する。家から夕食を持ってきてよかった、さもなければ今夜もまた飯を奪い合う競争になるところだった。ついさっき終わった短い休みに見たアニメの続きを思い返し、次の休みには絶対にスマホをいじって思考を邪魔されないようにしようと思う。すぐにまた、想像の中の大学生活に憧れを抱く。二百七十九日後には、今のこの生活は終わるのだ。みんなの言うことやアニメの描写からすれば、大学生活はとても素晴らしいものだと言える。
彼はそうやって頭を空っぽにし、脚に任せて勝手に歩かせる。筋肉の記憶はとっくに慣れきっている。すぐに、ガタンという音がした。スーツケースが、飛び出したあの床タイルにぶつかったのだ。曲がらなければ。虚ろな視界が黒いアスファルトと緑の大木から、校門の横にある小さな通用門へと向きを変える。入校まであと五メートル。
しかし、動いていく視界の中に、今までに見たことのない色彩が現れた。にじむように広がる大きな緑、黒、セメント色、そして灰色がかった白のほかに、一面の青みがかった灰色の中に、赤が現れたのだ。
姜来は視線を凝らし、そしてついに見極めた。それはふわりと浮かぶ、ごく普通の、赤くて丸い風船だった。空に向かって昇っていくところだ。
なんだ、たいしたことないじゃないか。彼は思う。ただの、手を離してしまった子供の仕業だ。唯一注目に値するとしたら、風船の種類ぐらいだ。
こんな普通の風船を、ずいぶん長いこと見かけていなかった。
正確には、ないわけじゃない。ただ、たいていは地面の上にある。中身が風船と同じく普通の空気だからだ。たとえそれが空に浮かび、中にヘリウムが詰められている場面に遭遇したとしても、いつだってそれは大量に群れをなして現れ、場の雰囲気を盛り上げるためのものだった。
こんなものを単品で売る人なんているはずがない。ずっと人気なのはいつも異形の、見た目も様々な形をした風船ばかりだ。
こんなふうに、見た目も普通で、たった一つの風船が、ゆっくりと空へと入っていく光景は、確かに珍しい。
彼の視線は戻される。つい先ほど、そんな赤い風船を買ってみようかという考えを、彼自らひねり潰したのだ。あまりにも非現実的すぎる。彼は長い隊伍と無言の人混みへと戻っていく。もっとも、そこから離れたことなど一度もなかったのだが。
もしそんな風船を買ったとして、それからどうする?彼には金がない。今は手持ちの現金など全く持ち合わせていない。手に入れたとしても、それを持ったまま校内に入ることなどできるはずがないだろう。だいたい、なぜこんな普通のものを買う必要がある?あんな、見た目のかわいい形をした風船のほうがよっぽど気に入られるはずだ。
この出来事は風船のようにふわりと浮かび上がり、彼から忘れ去られる。姜来は淡々と歩を進め、校内へと入っていった。
注釈
高考
· 中国の全国統一大学入試試験。




