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トリニティ・ガイスト:亡霊と少女と軍神の航跡  作者: ベルシア


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第48話:追飛翔

 コックピットが開いた。

懐かしい匂いがした。

金属。古い絶縁材。整備油。

冷却系の微かな匂い。

そして、長く使い込んだ機体だけが持つ、言葉にしにくい感覚。カインは梯子を使わず、機体側面の踏み板を蹴ってそのまま乗り込んだ。

シートに身体が沈む。それだけで、昔の感覚が戻った。スパローのような現行機の洗練はない。

操縦補助も古い。反応の癖も強い。

だが、その癖をカインは知っている。

何度も飛んだ。何度も死に損なった。何度も帰ってきた。

この機体は、彼の手の癖を覚えている。


[Karasu_AI] 生体接続補助、開始。


[Karasu_AI] 右目ブラッドハウンドとの限定同期を確認。


[Karasu_AI] 操縦者負荷、許容範囲内。


「よく喋るようになったな」


[Karasu_AI] 待機中に学習しました。


「誰からだ」


カインは操縦桿を握る。


[Karasu_AI] アドミラルより、最低限の更新を受けています。


「……そうか」


 短く答え、正面を見る。

格納庫前方の隔壁が開いていく。

その先には、発進用の細い導線が伸びていた。

正規の格納庫ではない。修理区画と外部作業ハッチをつなぐ、仮設に近い射出路だ。


『自由港管制には、外装検査用小型作業機の離脱として処理している』


アドミラルの声が通信に乗る。


『本機の識別信号は、旧式作業艇のものに偽装済み』


「よくそこまでやったな」


『必要になる可能性があった』


「それも後で聞く」


『了解』


カインは計器を一つずつ見た。

主推進。姿勢制御。

翼下エーテルキャノン。二門。

底部大型有線クロー《レイヴン・ハング》。二機。

機首搭載エーテル機銃。1基。

旧式だが、全部が生きている。新品同様ではない。だが、戦える。それで十分だった。


[Karasu_AI] 発進可能。


[Karasu_AI] 推奨発進角度、提示。


ブラッドハウンドの視界に、射出導線と自由港外縁の航路が重なる。ノクスからの断続的な通信も、端に残っている。


《ノクス:推進補助系低下》


《敵性反応:無人艇三/有人艇二》


《通信妨害継続》


 カインの目が細くなる。


「アドミラル」


『聞いている』


「ノクスまでの最短」


『表示する』


視界に一本の線が走る。

自由港外縁の作業航路を抜け、監視の薄い廃棄資材搬出帯を通り、旧外縁航路K-9手前へ向かうルート。


危険だ。だが最速だ。


「行くぞ、カラス」


[Karasu_AI] 了解。


[Karasu_AI] 高機動戦闘翼機CF‐92カラス、発進準備完了。


カインは操縦桿を押し込んだ。

黒い翼が、射出路を滑る。

次の瞬間、カラスはエーテルガイストの腹から宇宙へ飛び出した。自由港の外縁灯が一瞬で後ろへ流れる。仮装された作業艇識別のまま、カラスは低出力で港の監視域を抜ける。


 そして境界を越えた瞬間。


「制限解除」


[Karasu_AI] 了解。


[Karasu_AI] 推力制限解除。


黒い翼が、加速した。


 ノクスは、まだ逃げ続けていた。

左後部外装は焦げ、推進補助系の一部が落ちている。ミラは主推進を温存しながら、アンカーと姿勢制御で敵の射線をずらしていた。

左舷アンカー射出。デブリ固定。巻き取り。旋回。切断。右舷アンカー射出。制動。姿勢反転。

小型エーテル機銃で牽制。


それを繰り返している。だが限界が近い。


《右舷アンカー巻き取りユニット:加熱》


《左後部推進補助:出力四十七パーセント》


《スタン防御砲:再充填中》


 アイリスは座席に固定されながら、必死にモニターを見ていた。


 怖い。だが、声は出さない。ミラの邪魔をしてはいけない。そう分かっている。

正面の無人艇が二つに分かれた。一機が上から、一機が下から。有人艇二隻は後方で射線を作る。

逃げ道を潰す形だった。


「挟撃ですか」


ミラが言う。


「突破します」


「できるの?」


「しなければ撃たれます」


ノクスの小型エーテル機銃が連射される。

上側の無人艇がわずかに姿勢を崩す。

だが下側が突っ込んでくる。


ミラは右舷アンカーを撃った。

ワイヤーが伸びる。デブリへ刺さる。巻き取り開始。ノクスが横に振られた。


その瞬間、後方の有人艇が射撃する。

細い熱線が、ノクスの右舷外装をかすめた。


《右舷外装損傷》


《アンカー基部負荷上昇》


ミラの表情は変わらない。

だが、声だけが少し硬くなる。


「想定より相手の射撃補正が速いです」


「ミラ……」


「まだ帰れます」


そう言った直後、通信妨害の奥に敵の声が入った。


『逃走船へ告げる』


『停止しろ』


『次は推進部を撃つ』


『搭乗者ごと回収する』


アイリスの胸が冷える。

回収。その言葉が嫌だった。クレイドルの言葉と似ている。


「……いや」


小さく漏れた声に、ミラが反応する。


「アイリスさん」


「…戻りたい」


アイリスは震えながら、それでも言った。


「帰りたい」


「はい」


ミラは即答する。


「帰ります」


 だが、前方に三隻目の無人艇が回り込んでいた。砲口が開く。ノクスの回避余地は狭い。

アンカーは加熱。推進補助は低下。

ステルスも熱源偽装も、すでに剥がれかけている。


ミラが最後の角度を取る。


「衝撃に備えてください」


その時。遠くから、黒い線が走った。

まず、光が来た。青白いエーテルの槍。

それが前方の無人艇を真横から撃ち抜いた。


 無人艇は反応する暇もなく、船体中央を焼かれ、回転しながらデブリへ叩きつけられた。

次に、黒い翼がモニターを横切った。

 速い。

ノクスの横を抜け、上方へ跳ね上がり、反転する。


アイリスは息を呑んだ。


「……なに?」


ミラが識別を走らせる。


「識別信号……偽装中」


「機体形状、旧式戦闘翼機に酷似」


「照合――」


その時、通信が開いた。


『ノクス、聞こえるか』


カインの声だった。


アイリスが目を見開く。


「カイン!?」


『後ろへ下がれ』


黒い翼が、ノクスの前へ出る。


ミラが低く言う。


「確認しました」


「高機動戦闘翼機カラス」


アイリスが小さく繰り返す。


「カインの……カラス?」


カインは答えなかった。

カラスの翼下で、エーテルキャノンが再充填される。正面の有人艇二隻が一瞬だけ動揺した。


『何だ、あの機体は』


『識別不能』


『戦闘翼機? なぜこんな場所に――』


カインは通信を切った。


「カラス、右の有人艇」


[Karasu_AI] 了解。


[Karasu_AI] 目標補足。


カラスは真っ直ぐ行かない。

黒い機体が一度沈み、デブリの影を使って視線を切る。直後、機首を跳ね上げ、斜め下から有人艇の腹へ食いつく。小型エーテル機銃が火を噴いた。細かい光弾が有人艇の姿勢制御ノズルを叩く。相手が回避しようとした瞬間、カラスはさらに距離を詰める。


翼下エーテルキャノン、一射。


青白い光が有人艇の右推進部を貫いた。

爆発。だが完全破壊ではない。まだ船体中央は生きている。相手が緊急離脱を試みる。


「逃がすか」


カインは低く言い、底部兵装を起動した。


[Karasu_AI] レイヴン・ハング、展開。


 カラスの腹から、大型有線クローが射出された。


 鳥の足の様な、4つ爪の鉤。太い有線ケーブル。

 それが宇宙空間を裂くように伸び、損傷した有人艇の船体側面へ食らいついた。爪が装甲を噛む。ケーブルが張る。カラスが加速する。

有人艇が引きずられ、姿勢を崩した。


『うわ、引かれて――』


通信が途切れる。カインは操縦桿を横へ倒した。

カラスが有人艇をデブリの流れへ叩きつける。

装甲が割れ、船体が二つに裂けた。火球が咲く。

まず一隻。もう一隻の有人艇が距離を取る。

その背後から無人艇二隻が前へ出た。

盾にするつもりか。


「古い手だな」


[Karasu_AI] 同意します。


 カラスは正面から突っ込まない。

 機首をわずかに下げ、デブリの破片群の間へ入る。無人艇の射撃が追う。古い船体片が砕け、火花が散る。カインの右目、ブラッドハウンドが死線を描く。


《被弾予測》


《回避角:左下三度》


《反撃可能域:一・二秒》


 カインはその線に乗る。

カラスが急降下。無人艇の光弾が機体上面をかすめる。直後、カラスは反転しながらエーテル機銃を連射した。一機目のセンサーを潰す。

二機目の推進制御へキャノンを撃つ。

無人艇二機が散る。一機は沈黙。もう一機はまだ動く。その生き残りが、ノクスへ向かった。


「ミラ、避けろ」


『了解』


ノクスが右舷アンカーを射出する。

大型デブリに刺す。巻き取り。

船体が横へ跳ねる。

無人艇の突進が外れる。

すぐそこをかすめて過ぎる。

その隙に、カラスが上から落ちてきた。

レイヴン・ハングの爪が、無人艇の後部を掴む。


[Karasu_AI] 捕捉。


「潰せ」


カラスが爪を引いた。

有線クローが無人艇を強引に引き寄せ、エーテルキャノンの射線へ乗せる。至近距離。

青白い一射。無人艇の胴が裂け、内部ユニットが赤く弾けた。最後の有人艇は、その時点で逃げに入っていた。


『撤退!』


『対象は小型船だけではない!』


『戦闘翼機がいる!』


カインは追う。


「逃がすな、カラス」


[Karasu_AI] 了解。


[Karasu_AI] 推力上昇。


黒い翼が加速する。


有人艇はデブリ帯の奥へ逃げ込もうとしていた。

そこへ入れば、こちらも追いにくい。だがその前に、カラスの方が速い。相手が後部砲を撃つ。

カインは機体を捻る。光弾が翼の上を流れる。

エーテル機銃で牽制。相手の砲塔が沈黙。

次に翼下キャノンを片側だけ撃つ。

有人艇の左舷が焼ける。姿勢が崩れる。

まだ沈まない。カインはレイヴン・ハングを再射出した。

黒い爪が船体後部へ食らいつく。


『やめ――』


カラスはそのまま旋回した。

有人艇が引き回され、デブリの密集域から外へ引きずり出される。そして、カインは冷たく言った。


「沈める」


エーテルキャノン、二門同時。


青白い光が有人艇の中心を貫いた。

船体が内側から割れ、爆炎が広がる。

破片がゆっくりと散っていく。

通信が消えた。周囲に、静けさが戻る。

ただ、ノクスの損傷警告音だけが、まだ細く鳴っていた。


『ノクス、状況を』


カインが通信を開く。


ミラが答える。


『左後部外装損傷』


『推進補助系低下』


『主推進、生存』


『アイリスさん、軽度衝撃反応あり。負傷なし』


『帰投可能です』


 アイリスの声が割り込む。


『カイン……本当にカインなの?』


「ああ」


『その機体……カラスなの?』


カインは一瞬だけ黙った。


「……らしい」


ノクスのモニターにチャットログが流れる。


[Karasu_AI] 肯定します。


[Karasu_AI] 私は高機動戦闘翼機カラスです。


アイリスが小さく息を呑む音がした。


『カラス……生きてたんだね』


カインは答えない。

正確には、自分も今知ったばかりだった。

アドミラルの通信が入る。


『戦闘域の残存反応を確認』


『大型反応はデブリ帯深部へ後退』


『追跡は推奨しない』


「する気はない」


カインは言った。


「戦利品を少し拾って帰る」


『妥当』


『ただし時間はかけるな』


ミラがすぐに反応した。


『ノクスのアンカーと船外作業ドローンを使用します』


「やれ」


ノクスの側面ハッチが開く。

船外作業ドローン二機が展開された。

一機は破壊された無人艇の残骸へ向かう。

もう一機は有人艇の外装片と、識別装置らしき残骸を拾いに行く。ノクスは右舷アンカーを射出し、無人艇の大きな破片へ打ち込んだ。

ワイヤーが張り、巻き取りユニットが唸る。

損傷した機体でも、回収作業には十分使えた。

カラスも降りてくる。


「レイヴン・ハング、低出力」


[Karasu_AI] 了解。


 黒い有線クローが伸びる。

大型の無人艇残骸を掴み、ノクス側の回収圏へ引き寄せる。船外作業ドローンが、残骸から制御ユニットらしき箱を切り出す。別のドローンが、有人艇の通信記録装置を探る。


《回収物候補》


《無人艇制御中枢片》


《共鳴導体片》


《有人艇通信ユニット破損品》


《外装識別片》


ミラが言う。


『必要最低限を回収します』


『それ以上は危険です』


「十分だ」


カインは周囲を見た。

暗いデブリ帯の奥。さっきの大型反応はもう見えない。だが、何かがこちらを見ていた感覚だけは残っている。長居する場所ではない。


「撤退する」


『了解』


ノクスが進路を自由港方面へ向ける。

カラスはその後方についた。

護衛するように。

あるいは、二度と置いていかないように。

帰投航路へ入ってから、通信が少し安定した。


 ノクスの中で、アイリスはまだモニター越しにカラスを見ていた。


「……あれが、カインの翼」


ミラが静かに言う。


「連合軍旧式高機動戦闘翼機」


機体名CF(コズミックファイター)ー92カラス」


「アトラス隊時代、カインさんが使用していた機体です」


「でも……カリストで失くしたって」


「そのはずでした」


ミラの声にも、わずかな含みがあった。


「少なくとも、カインさんにはそう認識されていました」


 アイリスは黙る。では、なぜ今ここにあるのか。

その答えは、まだ一つしかなかった。

アドミラルが隠していた。

エーテルガイスト側では、ドライドック六番が慌ただしく動き始めていた。


『ノクス帰投準備』


『カラス帰投導線を秘匿モードで開放』


『外部観測偽装を継続』


アドミラルの声が艦内へ流れる。


 カインはカラスのコックピットで、ずっと黙っていた。ブラッドハウンドの端には、まだカラスのログが残っている。


[Karasu_AI] また貴方の声が聞けて良かった。


その文字を、カインは消さなかった。

やがて、エーテルガイストの秘匿格納導線が開く。ノクスが先にドライドック側へ入る。

損傷した左後部外装から、焦げた破片が少し剥がれた。その後ろで、カラスが静かに格納庫へ滑り込む。

着艦。固定。推進停止。


[Karasu_AI] 着艦完了。


[Karasu_AI] お疲れ様でした。


 コックピットハッチが開く。カインはしばらく動かなかった。それから、ゆっくりと降りる。

格納庫には、アドミラルの黄金の単眼ホログラムが浮かんでいた。カインはその前に立つ。

短い沈黙。


「説明しろ」


『了解』


アドミラルは答えた。


『カラスは、クレイドル脱出時に地表へ残置されていた』


『外部作業ドローンを用いて当該機体を回収していた』


「俺に黙ってか」


『肯定』


カインの目が細くなる。


「なぜだ」


『第一に、秘匿性のためだ』


『カラスは旧式とはいえ、アトラス隊カスタム機だ』


『存在が外部へ漏れれば、艦長の生存に結びつく危険があった』


「それは分かる」


『第二に、当時の艦長は重傷だった』


『左腕喪失、失血、精神的負荷、アイリス保護、』


『この情報を即時共有する合理性は低かった』


「それで隠した」


『肯定』


「第三は」


アドミラルの単眼が静かに明滅する。


『第三に、カラスは救援手段として温存する価値があった』


『本艦が直接動けない状況で、艦長本人が即応可能な高機動戦力』


『他に代替はない』


カインは黙っていた。

怒っている。だが、理由は分かる。

分かるから、余計に面倒だった。


「俺が今日聞かなかったら、まだ黙ってたな」


『必要時まで秘匿する予定だった』


「必要時が来たわけだ」


『そうだ』


カインは深く息を吐いた。


「カラスは、俺が喪失扱いにした」


『ライナ・ヴェルグとの通信時、確認している』


「お前はその時も黙っていた」


『肯定』


「いい性格してるな」


『設計上、性格の良否は定義されていない』


「そういう返しが腹立つんだよ」


 短い沈黙。

その後、カインはカラスを見た。

黒い翼は、静かに格納庫で眠りに戻っている。

けれど、今度は失われた翼ではない。

ここにある。戻ってきた。


「……整備は」


「新品同様に見えた」


『新品ではない』


『だが、運用可能域まで回復させた』


『搭載簡易知性も、限定更新済みだ』


その言葉に、カインはもう一度だけカラスを見た。


「勝手に触ったのか」


『必要な整備を行ったまでだ』


「……まあ、助かった」


『兵站だ』


カインは小さく鼻を鳴らした。


「便利な言葉だな」


『本質だ』


格納庫の入口側から、足音がした。

アイリスだった。ミラも少し後ろにいる。

アイリスはカラスを見上げ、そしてカインを見た。


「……これが、カラス?」


「ああ」


「昔の、カインの翼?」


「そうだ」


アイリスはしばらく黒い機体を見ていた。


「……助けに来てくれたんだね」


 カインは答えなかった。


代わりに、格納庫の中で小さな電子音が鳴る。


[Karasu_AI] 肯定します。


[Karasu_AI] 救援が間に合い満足です。


アイリスが少しだけ目を丸くする。


「喋った……」


カインは疲れたように額へ手を当てた。


「発声機能はないはずだが」


『更新の結果だ』


アドミラルが言う。


「お前のせいか」


『否定しない』


ミラが静かに言った。


「ノクスの回収物は隔離解析区画へ回します」


「損傷修理も開始します」


「アイリスさんのバイタルは軽度緊張のみ。負傷なし」


カインは頷く。


「よかった」


 短い言葉だった。

だが、アイリスには十分だった。


「……ありがとう、カイン」


「礼はカラスに言え」


 アイリスは少し笑い、黒い翼を見上げる。


「ありがとう、カラス」


[Karasu_AI] 受領しました。


[Karasu_AI] アイリス様の生存を確認できて良かった。


アイリスは少し驚いたように瞬いた。

カインはアドミラルを見る。


「後で、全部聞く」


『了解』


「いつ回収したか」


『説明する』


「どこに隠していたか」


『説明する』


「なぜ俺に黙っていたか」


『既に一部説明した』


「足りん」


『了解した』


カインはカラスへもう一度視線を向けた。

ノクターン・デブリ帯。正体不明の無人艇。

識別のない有人艇。奥にいた大型反応。

そして、戻ってきた黒い翼。

線は増えた。謎も増えた。だが、手札も増えた。

カインは低く言った。


「ノクスの損傷確認」


「回収物解析」


「カラスの秘匿継続」


「それから、今日見た敵の正体を洗う」


『了解』


アドミラルの単眼が静かに明滅する。


『本艦は、次段階へ移行する』


格納庫の奥で、カラスの黒い翼が白い作業灯を受けて鈍く光っていた。失われたはずの翼は、亡霊の艦の中で、もう一度目を覚ました。

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