表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

贖罪の巡り

蛇足の蛇足です。

誤字修正しています。

ノクタリウス視点になります。


どういう訳だか、俺はログリディアン=ムトアーリデに生まれ変わっていた。しかも生まれ変わった先に俺とは違うノクタリウスが存在していた。前とは少し違うこの世界…一体ここはどこなのだろうか…。


「ハァ…ハァ…」


何だ…一撃で死ななかったんだ。その前に蹴られたし、ぶん殴られたけど、どうやら致命傷ではないようだ。地面に寝ころんだまま俺を刺した女を見上げた。


「リナファーシェ…」


そう呼びかけると女…リナファーシェはナイフを持ったまま体をビクつかせた。


「早くナイフを処分して……この場から、離れなさい」


「っ!…陛下…」


思わず笑いそうになる。陛下か…。どうやらリナファーシェも『レアンナ』として生まれ変って記憶を所持していたようだ。俺の浅ましい願望が神に叶えられたのかもしれない。


「すまんな…リナファーシェ…いやレアンナ。今は陛下じゃないよ…。ゴフッ…」


口の中に血が溢れてきた。致命傷じゃないがそろそろ…か。


出会い頭、7才のリナファーシェに刺された。周りに人がいない所で声をかけて良かった…。俺を刺したのがバレたらリナファーシェが罪に問われてしまう。


「早く行け…」


俺はなんとか立ち上がると、まだ固まったままのリナファーシェの手からナイフをひったくった。リナファーシェを罪人にするわけにはいかない。少しでも彼女から離れてから…死ななければ…。


「わ…私、私はあなたを許さない!でも…でもっ殺してしまったら…」


リナファーシェの絶叫を聞きながら、私は数歩進んだ所で気絶して倒れた。


目が覚めたら一応生きていた。俺を心配そうに覗き込んでいたムトアーリデ公爵と夫人の説明で、どうやら賊が侵入してきて俺が刺されたという話で処理されたらしい。


リナファーシェ…レアンナは修道院に入ってしまった。俺はその後、体を壊してしまったのでほぼ寝台に寝たきりなってしまった。寝台の上でも手伝える領地の事務仕事をしながら、修道院にいるレアンナに手紙を書くのが俺の唯一の楽しみになった。


ムトアーリデ公爵領に群生しているフノワラという花はそれは見事な球体でとても美しい…とか。今年は雨が多いが体調は大丈夫か?とか…。勿論レアンナから返事は無い。


体の機能を随分痛めてしまったので、長生きは出来ないだろうと言われていたので、20才まで生きられたのは奇跡だと思う。俺の下には弟と妹がいて、ムトアーリデ公爵の後継者に問題はないし家に関して何の憂いもなかった。


リナファーシェへの手紙では何度も謝罪を繰り返したが、この体じゃ修道院に会いに行けないしな。最近は起きるのも億劫で眠ってばかりの生活になった。


直接会って謝罪して惨めにリナファーシェの前で死にたいと思っているんだけど、惨めな死に方って自分で動けなきゃ出来ないものだな…。こんな時なのに笑いが込み上げる。


俺の贖罪の人生は静かにそこで終わりを告げた。


そして


俺はまた生まれ変わっていた。またログリディアン=ムトアーリデになっていた。どうやら前に生まれたあの時代と同じ世界のようだった。これはどういう事なのだろう?呪いの類なのだろうか?


そしてまた7才の時に生まれ変ったリナファーシェに刺されるのか…と思っていたが、今度は刺されることはなくリナファーシェ、レアンナからは徹底的に無視される存在になっているようだった。多分リナファーシェもまた記憶を所持したままなのだろう。


しかし何もかもが同じ世界…だという事ではないらしい。彼女に徹底的に存在を無視される…これも辛い。今のレアンナと接点が無いので謝罪どころか顔を合わせる機会も舞踏会や夜会…つまり挨拶程度しか絡めない。


今度の生では俺は公爵家の跡取りは弟に任せて、軍属になってみた。レアンナの兄が軍属だからだ。正直そんな邪な思いで軍に入隊してみたが、これが存外に面白く兄伝手とはいえ、レアンナの近況が知れるのも嬉しい。


そうだ、俺の謝罪は受け入れてもらえなくてもリナファーシェ、今のレアンナの幸せを願うだけなら許されるのではないか?


俺は軍属で任務をこなしながら、リナファーシェの幸せの為に奔走した。そんな俺は20才を迎えるころには大佐に就任していた。


今日は非番なので、ムトアーリデ公爵領に自生しているフノワラの花を株分けしたものを庭で育てていて、それの手入れをしていた。うん、今年の花も綺麗に咲いたな。


庭に誰かの気配がした。公爵家から手伝いに来てくれているメサイラの気配ではない。だがしかし俺はこの気配の持ち主を知っている。


「やあ、庭からどうされました?レアンナ=フロブレン侯爵令嬢」


「っ!」


庭から現れたのはレアンナだった。ああ…この世ではここで刺されるのかな…と思いレアンナの罪にならないようにするにはどうすればいいか…という事を思案していてレアンナの声に反応が遅れた。


「あなたの紹介ってどういうことよっ!」


「…ん?え?何だって?」


レアンナは顔を真っ赤にしながら俺に近付いて来た。


「アミデア=ナイシ少佐とストミング=チャスレー中将閣下よっ!あな…ゴホン、ログリディアン=ムトアーリデ大佐からのご紹介を受けて私とお付き合いしたいってお2人が交際を申し込んできたのよっ!」


ああ、それか。しかし同時期に申し込むとは思っていなかったなあ…軍人ってこれだから~。


「うん、お2人共結構な美形だし、おまけに心根もとても良い方だしレアンナ嬢にとてもお似合いだと思うけど?」


俺がそう答えるとレアンナは益々顔を真っ赤にして俺を指差した。あの…俺、一応王位継承権2位の高位の者だけど…。まあいいか相手はリナファーシェだし…。


「あな…あ、あなたを飛び越えてっ何故…他の方をご紹介されますのっ?!あなた、この国で一番人気のある男性なのよ!」


俺が?地位とかかな?まあ公爵家の長兄だし軍属だけど大佐だからかな?給金はそんなに良くないけど?


「なっ何を小首を傾げているのですかぁ!あなた自身が令嬢方から一番薦めて欲しい人物のくせに他の人紹介しちゃってどういうことなんですかぁ?!」


なんだか興奮しちゃっているな…。


「レアンナ嬢、落ち着いて」


「落ち着いてますっ!」


顔を真っ赤にしたレアンナは可愛いな…と思いながら胸がギュッと締め付けられる思いを感じながら一言一言、力を籠めてレアンナに伝えた。


「君には幸せになって欲しい」


レアンナはしゃがみ込んで泣き崩れた。そんな時にメイドのメサイラが間が悪く来てしまい、ご令嬢を泣かせるとは何事かと怒られて…まだ目を赤くしているレアンナと庭のテラスで向き合うように座らされた。


気まずい。取り敢えず会えたら言おうと思っていた言葉を言った。


「本当に済まない」


俺がそう言うとレアンナは体を震わせながらまた泣きそうな顔をした。


「さ……刺されて痛かったよね?」


ああ、やっぱりレアンナは過去の記憶を持っていたのか…。


「いや、所詮七歳児の突きだよ?大したことは無かった…いや、君の為にもっと苦しむべきだったな」


「ちが…違うのそうじゃないの…。あなたを痛めつけたり踏み付けたり、そんなことをするつもりは…」


「君にはその権利がある。そして俺の不幸を望む権利もある。君には何度謝っても許されることはないと思っている。だから俺が出来るのは、俺が君に幸せになって欲しいと望むことだ。その為には何だってする」


レアンナはまた泣いていた。慰めてあげたいけれど、きっと俺なんかに体を触れられるのも嫌だろうから、テーブルの向こうでオロオロするしかなく、歯痒い思いをした。


またメサイラに見付かって怒られて、気まずい思いをした。


別れ際、レアンナにもう一度謝罪をすると


「鈍感!」


とレアンナに罵られた。うん……心が抉られるような衝撃があったけど、これもレアンナの精神的攻撃だと思って甘んじて受け止めた。


「もっと罵ってくれて構わないんだよ?」


俺がそう言うとレアンナは目を剥いた。


「変態っ!」


うん……これも中々に不名誉な称号なので素晴らしい言葉の復讐だと思って甘んじて受けた。


生まれ変わって初めて謝罪らしい謝罪をリナファーシェに伝えらえられてホッとしていた俺に罰が下る時がきたようだ。


大がかりな人身売買組織の摘発をして、拠点と思しき森の中に建つ屋敷の中を捜索している時に周りに殺気を感じて身構えた。


部下達はここより先にある山小屋に行かせている。敵の数は20…か?室内に賊が入って来た。どいつが司令塔だ?覆面を被った集団の少し後ろに立つ大柄な男を見る。筋肉の付き方、体重の掛け方、剣を持つ動き…。


「アミデア=ナイシ少佐か…」


アミデアは名前を呼ばれて体を震わせた。動揺するな、あいつもまだまだだな…。


「俺に剣を向けてもいいから、レアンナだけは守ってやってくれ」


俺がそうアミデアに伝えると、アミデアは俺を指差した。おいっ俺はこう見えても王位継承権2位でだな…まあいいか。


「あんた…あんたっそんなにしてまでレアンナ嬢が好きなくせにどうして俺を薦めるんだよ!」


好き?俺がレアンナを?それは無いだろう…だって


「好き……というのは良く分からんが、レアンナに俺はこの世の中で一番に嫌われている自信はある」


というとアミデアは覆面の中の目を光らせた…ように見えた。


「あんた大概鈍いなっ!」


どういうことだよ?レアンナも鈍感とか言ってたけど…何が?


アミデア達は一斉に襲い掛かって来た。20くらいの数はいたけど、無事切り抜けた。殺さないように沈めるのは骨が折れたけど…。


「ああ…痛てぇ、あばら骨やったかな…」


一度でも座ってしまうと立てなくなる気がするので、そのまま部下と合流しようと山道を歩いた。


アミデアはどこかの手の者だったのかな…まさかレアンナに乱暴な事はしていないだろうな?


部下達と合流すると、皆、仰天して大慌てをしていた。俺も皆と一緒に賊の聴取に参加していたら、元帥閣下からせめて7日間は休め!と言われたので渋々病気休暇をとった。


家で寝てばかりも飽きるので庭で花壇の手入れをしていたら、また庭に気配を感じた。庭から入って来るの好きだな~。


「どうされました?レアンナ嬢」


レアンナは、結構怖い顔をして繁みから出て来た。今度こそ刺されるかな…と思いながら、あ…この農具で殴られる可能性もあるか…と、いつでもレアンナに手渡せるように円匙(えんし)を握り直した。


「怪我をした…と聞いたわ」


「はぁ…まあ」


俺がそう答えるとまた顔を真っ赤にして俺に近付いて来た。


「お…おまけにアレッ!アミデア=ナイシ少佐…あの方が襲った一味に加担されていたそうじゃないっ!あなたそんな悪辣な方を私に薦めてきたのねっ」


「面目ない」


「昔から人を見る目が無いのよっレニシアンナといいっ…全くっ!」


「全くその通りだ」


レアンナは更に近付いて来ると、俺の持っていた円匙を取り上げた。とうとうそれで俺を殴るのかな?


「おまけにっあなた怪我人じゃないの?!何をやっているのよっ大人しくしてなさいなっ!」


俺が残念そうにレアンナを見詰めているとレアンナが鋭い目を向けてきた。


「何?その目…」


「何だ…いつでも殴ってもらっていいのに…殴った後、この庭に俺を埋めれば証拠隠滅出来るだろ?」


レアンナは目一杯大きな声で俺を怒鳴った。


「このド変態!」


今日の精神攻撃も心を抉るなぁ~レアンナ絶好調だ。


こういうやり取りをしていたのをムトアーリデ公爵とフロブレン侯爵が変な方向に勘違いしたのか…俺とレアンナを婚姻させようという話が持ち上がった。


これはレアンナに不快な思いを与えてしまった。俺から断るとレアンナが醜聞に晒される。それだけは何としても避けたい。思い悩んでいる俺にまた刺客が放たれた。


俺は抵抗しなかった。そう…これがいい。レアンナは婚約を前に相手に死なれてしまった悲劇の令嬢になる。これなら俺に煩わされることなく幸せになれる。


ワザと刺されてこのままここにいたら、騒ぎを聞きつけて誰かが助けに来るかもしれない。誰にも見つからないように大きな木の洞の中に隠れた。


薄れ行く意識の中で目の前に誰かが立っているのに気が付いた。髭の長いご老人だ。何故…忘れていたのだろう、彼こそが俺に贖罪の為に巡る機会を与えてくれた方だった。


「どうじゃ?贖罪の日々は辛いか?」


俺は首を横に振った。


「謝罪しても……許してくれ、なくてもいいの…です。でも……リナフ……ァーシェにずっと会えるのがうれし…ぃ」


ご老人は目を見開いた後、何か呟かれていた。


「次こそは…リナファーシェの願いが叶うことを祈ろう」


俺は段々と暗くなる視界に、ホッとしていた。これでリナファーシェの溜飲が少しでも下がればいいのにな…。


リナファーシェ、君には何の憂いも無く幸せになって欲しいんだ。



……俺は目が覚めた。


暫くはここがどこか分からなかった…確か近衛に刺されて死んだはずだ…物凄く頭が痛い。思い出せない…沢山とても沢山の時間が経った気がするのに頭に霞がかかったようだ。


「ログリディアン、目が覚めたのね?お腹空いた?」


この優しそうな夫人は誰だろう…どこかで…ああ、ログリディアンの母上か?ログリディアン?……俺はログリディアンなのか?


何となく持ち上げた小さな手を見て気が付いた。生まれ変わった…のか?


ああ神よ…俺に贖罪と謝罪の機会を与えて下さいまして感謝致します。


もう間違えない…リナファーシェの貴女に伝えたいことがあるんだ…。


あなたを愛していると……。




ノクタリウスは立派なヤンデレです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ