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第二話 第三席

またキャラが増えます。女子だけ。

依然として不定期が続いていますが少しずつ安定して出していきたいと思っています。

よろしくお願いします。


 神聖歴八紀221年。


 ロイドは今年で十二歳。

 身長はすくすくと伸び、体格も普段鍛錬をしているため立派になった。顔にはまだ幼さが残るものの、甲冑を着れば少し背の低いくらいでなんら他の騎士と遜色ない。


 五年前の大臣汚職事件の際、王国の運営に携わる多くの者が関与していたとして裁かれ、王宮の運営が滞る事態となってしまった。その為ロイドは謹慎を命じられ半年ほどベルグリッド領内で過ごした。その後も王都ではあまり派手に動かずに職務と学業をこなす毎日だった。

 

今は紅燈隊騎士の屋敷で暮らし、基本的にそこで見習い騎士たちに魔法を教えている。ロイドが所属する紅燈隊だけでなく、他の部隊の見習いも合同で講義を行う。中には現職の騎士たちも来るなど、ロイドの講義は好評だった。


そんなロイドへの印象は〈魔導の天才、魔法の先生〉。かつての陰謀潰しの印象は鳴りを潜めていた。


「はい、では騎士を目指す皆さん・・・・・・すでに騎士の方もいらっしゃっているようですが、魔法の実戦的な使用を目的をした講義を務めさせていただきます。紅燈隊三席のロイド・バリリス・クローブ・ギブソニアンです」 


 今年も騎士を目指し騎士養成所には多くの見習いがやって来ている。


(あんなガキが騎士?)


 ロイドを見て何も知らない新人の多くがロイドを怪しく思っていた。その多くが地方の貴族の出で、剣での実戦を経験済みの者たち。


地方では、戦いの経験を積んだ者が騎士となるべきで、王都の騎士は実戦が少ないため軟弱だという風潮があった。


彼らにとってロイドは魔法ができる子どもで騎士ではない。


(紅燈隊って言ったら美人ぞろいで有名なあそこかよ!! あんないかにもな親の七光りみたいな奴がおれたちにご高説垂れやがるのか!? 許せねぇ!!)


南部や西部などの厳しいところで育った気性の粗い者たちは真っ先に標的にした。



「王都じゃ、魔法が使えれば騎士として半人前でも認めてもらえるんだな!!」


 講義の最中に気性の粗いグループの少年が言い放った。初めての講義で多くの者が同じことを思っていたためか教室内は静まり返ってしまった。


「なぁ、おれはまだこっちに来て日が浅いから黙って講義を受けに来たけどよ。実戦で教えてもらった方がハッキリしていいんじゃねぇかな? あっちじゃ歳や身分なんかより実力で誰が上に立つのかが決まってたんだけど、こっちは違うのか?」


 挑発的な言葉ではあるが、表立って止める者はいなかった。

 王都よりも厳しい環境で戦ったという実績、才能があるという自負、王都でなめられたくないという自尊心は多くの見習いが感じていた。

 

 自分たちは今すぐにでも騎士としてやっていける。

 力試しをすればそれを証明する自信があった。

 

「おい、やめとけアンタ。あの方が誰か知らないのかよ!」


「うっせー!! ギブソニアン家のお坊ちゃんだろ? だからって誰でも従うと思うなよ!」


「おれの力を証明してほしいというのか? よしてくれ。そんな暇はない」


 ロイドは本当に時間が無いので断ろうとするがそれで引き下がるとは思っていなかった。言うだけ言って、結局相手はしなくてはならない。


毎年恒例。


さっさと相手をしてやればいい。一番生意気そうなやつの鼻っ柱を、丁寧に、やりすぎず、それでいて絶対的な力量さを見せつけて叩き折る。


「逃げるのか? 敵前逃亡が王都の騎士が掲げる騎士道に準じるってことなのか? おい、みんなこれが王宮騎士の現実らしいぞ!」


(こいつだな)


「わかった。では演習所で相手をしてやるから、それが終わったら今後は講義を止めるな。わかったな?」

「ハッ! おれに勝てたらな!」


 演習所に移動。

 少年は見習いと言っても明らかにロイドより年上である。15,6歳くらいで身長は175センチほど。それなりに鍛えているらしく体格もがっしりしている。

 一方、ロイドはまだ160センチくらいで、少年と並ぶと大人と子供だった。


 少年が構えるとかなり様になっていて、口だけでなく本当に実力があるのだと周囲はすぐわかった。

 ロイドは剣を持ってはいるが構えていない。それに甲冑を着ておらず教室を出た時と同じ格好だった。


「どうやら実力差が理解できないようだな。参考までに教えといてやるが、おれは単独でフラッシュラビットを何匹も討伐した実績がある。これがどういうことかわかるだろ、先生?」


「どうかな? 対魔級魔導士に匹敵する剣術だと言いたいんだろうが、そう単純な比較はできない。それに、フラッシュラビットを討伐出来たくらいで自慢するな。引き立て役がしたいんならそれでいいんだが」


「なめんな! 王都で安全に暮らしてるボンボンが!」


 少年は合図を待たずロイドに切りかかった。


 ロイドはそれを受けず、捌かず、避けた。


「ッなぁ!?」


「どうした? フラッシュラビットはおれより速かっただろ?」


「ぐっ、調子に乗るな!」


 確かに、ロイドの動きはフラッシュラビットより遅い。しかし、ロイドには少年の剣が全くかすりもしなかった。


(真っ直ぐすぎだな。修めたのは基本だけか)

 

 地方と異なり、王都では様々な剣術が集まり、技は返し返され洗練されていく。流派に関係なく吸収しなければ対応ができなくなる。それはフェイントの掛け合いや返し技の掛け合いになり複雑化していく。

 だが、少年の剣は一つの流派しか知らないものだった。地方では通じた技も王都では返し技がすでにできており、技や型を見せるごとに少年の隙が大きくなっていく。


(クソ、なんでこんな簡単に躱されるんだ!? まるでおれの剣を見たことがあるみたいだ!)


「・・・うぉ!?」


 ロイドは最小限の動きで少年の剣を躱し、隙だらけな脚に蹴りをかます。


[ガキンッ!!]


「ああ!」


 バランスを崩したことでロイドの剣を捌くことができず剣を弾き飛ばされた。

 剣を落とした少年の負け。


「卑怯者! 騎士が脚を使うとは! こんなのは無効だ!」


「あん?」


 確かに騎士同士の決闘には暗黙のルールがある。


「お前何を勘違いしてるんだ?」


「なんだと!」


「これは決闘じゃない。演習だ。身の程知らずのお前らに現実を教えてやるためのな」


 ロイドは剣の才能がない。

 結局『鬼門/気門法』の体得は出来ていない。


 それを補うために剣士、槍使い、鎚使い、拳闘家などの動きを見て記憶の神殿にインプットした。その動きを再現は出来なくても予測は早くなる。そして有効な技のみを集中して訓練した結果、紅燈隊の第三席にまで上り詰めた。これは副隊長の一つ下で、剣技のみの順位ではないものの、騎士として誰もが認める存在を意味している。総合力では隊長のマイヤとほぼ同等であり、魔法と剣神の加護を使えば副隊長のオリヴィアよりも強かった。

 そしてこの演習でロイドはそのどちらも使ってはいない。純粋に剣術のみの戦いをしてあげていたのだ。


 ロイドは腹が立ったので魔法を解禁した。


 悠然と歩み寄るロイドに少年はなりふり構わず切りかかる。しかし、ロイドの『風の刃(ソードヴェント)』がその剣を弾き、当たることは無い。


「な、なんだ? いつ詠唱を!?」


 無詠唱、ノーモーションの魔法で剣を防いでいる姿はただ歩いているだけに見えるが、剣で受けることも、捌くことも、避けることもせず近づいてくるロイドをどうすることも出来なかった。


「クソ!」


[ガガガ!!]


 少年は唯一隙があった足元に剣を振るうが『土の壁(ウォールソル)』に阻まれる。


(一瞬で地面から・・・・・・これはこのガキがやってるのか? おれの知ってる魔導士と全然違うじゃねぇか!!)



 そのまま変化した『土の拳(フィストソル)』に剣を取られてしまった。引き抜こうとしても『石礫(ストーン)』の圧力で土石と化し、微動だにしない。剣を失いどうすることもできなくなった少年にロイドは剣を突き付けた。


「はい、ということで、これが魔法を駆使した戦闘です。続きを習いたい人だけ教室に戻ってください」


 すると、今まで冷やかし気味だった者たちが全員教室へ駈け込んでいった。


「ゲンキンだな」


 一度見せつけると誰もロイドに口答えをしなくなる。

 こうして初日の見習いへ講義を終えた。




 講義以外にもロイドには重要な訓練がある。


 紅燈隊メンバーとの実践訓練。


 魔法の戦闘を積極的に取り入れた紅燈隊は他隊よりも一対多数の戦闘に長けていた。当初の目的である隊全体の能力底上げが結果を出し始め、従騎士以上は皆一つ以上の魔法を覚えた。


 次の目標は無詠唱、ノーモーションによる高速発動。

 ここに皆苦戦している状況である。

 無詠唱は魔力による干渉によって現象がどのように引き起こされるかを理解して明確にイメージしなければならない。

 この世界には原子論が存在しないため、空気=空気。何が含まれており、何を生むのかが説明しても理解が難しいらしかった。酸素、水素、窒素、という概念がないのである。

 

 ここで隊は賢い組とバカ組に分けられる。


 賢い組はお勉強タイムでも集中して理解しているのに対し、バカ組はぽかんとして話しが頭に入っていない様子になる。

 残念なことにバカ組の中には騎士もいて、今日はそのバカに実戦で見せることになっている。


 ちなみにバカだけにするとロイドがバカだと思っていることがばれる恐れがあるため、今回は賢い組も招集している。姫の護衛で傍についているマイヤ卿以外の紅燈隊騎士が全員そろっていた。


「ちょっと、ナタリア! テトラ! 二人の為に時間を割いてるんだから早く理解しなさいよね!」


 オリヴィアは集まった6人の中でブルブル震えている二人に活を入れる。しかし、逆効果のようで、二人は反発した。


「オリーだってできないじゃん!」


「副隊長に言われたくないですッ!」


 ナタリア・ハート・ロー

 まだ19歳でロイドの次に若い騎士。実力はあるがお嬢様の出で、見た目は非常に仕事ができそうなキリっとした顔をしているが天然である。槍を駆使する。


 テトラ・ハート・レイナー

 マイヤの次に古参のメンバーで26歳。童顔なためまだ10代に見えるが中身はもっと幼い。よく言えばムードメーカー、悪く言えばバカである。盾と(ハンマー)を駆使する。


「私は理解はしているのよ? ただコツがつかめないだけなの!」


「副隊長・・・・・・言い訳をする暇があったら学んで下さい? というか私とピアースは要る? 二人で訓練した方が捗るんだけど」



 メイジ―・ハート・アレン

 隊内で最も冷静かつ頭脳派。23歳でオリヴィアの一つ先輩。姫の護衛や他隊との合同訓練などのスケージュールは大体この人が決めている。長剣による刺突が得意。


「まぁまぁ、メイジ―、3人をロイド卿だけに押し付けては姫様に怒られるでしょ? それに下の娘たちに失望されないように皆で頑張らなくちゃ」



 ピアース・ハート・ナイトレイ

 テトラと同期の26歳であり、隊内でマイヤの次にまとめ役を任される人。おっとりとした性格で相談をされやすいタイプ。ロイドに様々な戦闘スタイルを見せて対応力をつけた人で、大体武器なら何でも扱える。その場にあった武器を選択する。


「そうね、この次下の者に教える人間が4人だけだと大変ですか。すまないロイド卿、我々も付き合うからこの馬鹿たちをよろしくお願いします」


「「「馬鹿・・・・」」」


 心底心外という面持ちでテトラ、オリヴィア、ナタリア。


「では、魔法を使いますので、好きに攻めてきてください。」


 こうしてロイドは5人同時に攻撃され、それらを全て防いでいった。

 

 土魔法で圧力をかけるとなぜ硬度が増すのか。

 風魔法で物が切れるのはなぜか。

 水はどうやって生み出すのか。

 火魔法で火力を増すのにはどうすればいいか。


 それぞれ説明していく。

 中にはロイド自身できたからやっているだけで理屈を理解しきっていないものもある。しかしロイドの場合、前世で学んでいたり、見たり聞いたりしたことは詳細を忘れていても何となくできる。


 そう言ったイメージで何となく知っていることはそのまま図解して説明する。

 

 しかし、テトラとナタリア、オリヴィアの顔を見る限り効果は薄かったようで、ただの模擬戦となってしまった。

 

「クソー、ロイドに一撃も入れられなかったー」


「いや趣旨変わってるじゃん!」


 テトラは途中からただ攻撃していただけで観察していなかったようだ。


「では、全員【基礎級】常時発動してください。連帯責任です」

「「「え〜」」」


 仕方なく魔法を発動させる、メイジ―、ピアース、そしてナタリア。


「あれ? 今できました、無詠唱で!」


「なんでだ!」


 理屈が通じない天然。今までと今とで何が違うのか全く分からないが何かが効果あったようだ。


「う、裏切り者〜」


「ま、マズいテトラより後は嫌!」


「オリー! どういう意味よ!?」


 その後、テトラは姫の護衛の為メイジ―に引きずられていった。残ったオリヴィアはロイドとピアースにあれこれ質問して夜にテトラが戻って来る頃には出来るようになった。


 翌日、相当悔しかったのかテトラは魔導学院に行くロイドに付いてきた。


 そこでテトラは魔法の深淵をのぞき込むことになるのであった。


ご指摘をいただき誤字を修正しました。2018/04/22

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