第三話 研究室
今回あれこれ理屈っぽくなりますが、かなり適当です。なんとなくそれっぽく書いてますがこの手の分野がご専門の方にはおかしいと思われるかもしれませんがどうかご容赦ください。
三話です。よろしくおねがいします。
ロイドは王立魔導学院にやって来ていた。
現在彼は学院の一つの研究室に入り浸っている。そこはロンドンとジーナも所属する古代魔法研究室。
過去に使用された魔法や、研究されたが実用に至らなかった魔法を復活させるのが目的である。
「おはよう、ロンドン、ジーナ」
「おはようロイド君。おやその方は・・・」
「ロイドの部下?」
「いやいや違うから! 私はロイド卿の・・・先輩ですッ!」
「部下のテトラだ。ほら二人にちゃんとあいさつしろ」
勝手に付いて来られたため腹が立ったロイドは本日テトラに当たり強めである。
「そうそうロイド君、新しい魔法の記述を発見したのだ。見てくれ」
そう言ってやや興奮気味のロンドンが古い羊皮紙を見せた。びっしりと文字が書かれた史料だ。
タイトルは『雷魔法についての考察』。
「うわぁナニコレ! ロイド卿読めなくない? 何語? ねぇ何こ・・・」
ロイドは完全にテトラを無視して記述を読み始める。
こういった研究のためにロイドはあらゆる言語を学んでいる。
元は女神エリアスの手紙を解読するためだった。言語を学び始めるとその文字は現在の中央大陸言語系に近いもので、古代帝国時代に一部の魔族が使用されていたと分かった。しかし、なぜ古代帝国に魔族の言葉の名残がありそれを女神エリアスが使ったのかは解っていない。
そしてそれに比べるとこの史料の言葉は古代ローア文字なのでスラスラと読める。現在の文字の原型だからだ。
「ロンドン・・・これはすごいものを発見したな!」
「ええ、これが本当ならロイド君に使いこなせると思いましてな」
「ええ? 何どうしたの? 何かわかったの?」
雷魔法は属性魔法にない。
その為長らく生命魔法の【神聖級魔法】の一つなのではないかと思われてきた。この世界でいうところの「雷」とは神の生み出す「怒り」や「裁き」を連想させるため、自然現象と認識されていなかったのだ。
しかし雷が「雲の中の摩擦により帯電した電気が放電する現象」とロイドは知っている。
彼にしてみれば、属性魔法を複合的に組み合わせ発動出来ると予想するのは容易かった。ただそこからが難問だった。摩擦で生んだ静電気を作れても。そこから先がどうすることもできなかった。
「この史料には通説とは全く違う見解が書かれている。おれと同じく属性魔法の一種であるという考えで実験をした記録だ」
「じゃあロイド卿もできるようになるってこと?」
「テトラうるさい。そう、簡単じゃない」
「え・・・そうなの?」
資料には肝心の成功例までが載っていなかった。おそらくこれは研究資料の一枚にすぎず、今回見つかったページは問題提起の部分で、研究課程はごっそり抜けているのだ。とはいえその提起の内容の中には興味深い記述もあった。
「この研究者は雷魔法が光魔法の発展系だと仮定しているみたいだ」
「ええ、なのでロイド君ならと思ったのです。光魔法を使いこなせる者は私の周りには君しかいないですからな」
「でも、逆に、むずかしいよ?」
光魔法は扱う者が極端に少ない。
その発動までに必要な工程が多いことと、『迷彩』『閃光』『光彩』という【対人級魔法】までしか魔法が存在しないとされているからだ。
ロイドは頻繁に使うが、その過程で雷魔法に発展する気配はこれまで一度もなかった。
(考え得る工程を繰りかえすのにおれだけでは時間がかかりすぎる)
むやみに魔力を消費できる立場ではない。姫の護衛のため余力は常に残す必要がある。
「これは、まず光魔法を調べることになりそうだな」
「おお、がんばれー!」
「「「・・・」」」
すでに調べつくされている分野に足を踏み込むのは骨が折れる。ロイドは仕事で研究に当てられる時間が限られているので解明はいつになるのかわからなくなった。事実上の調査見合わせである。
[ドス!]
「うぎゃ!」
ロイドがテトラをボコった。テトラが悪いわけではないのだが、腹が立ったので頭をボコった。
「八つ当たりするなよ。ヴィオラちゃんにいいつけるよ!」
「やかましい! ヴィオラとおれの仲を引き裂こうものなら覚悟しとけよ!」
「逆切れされた・・・」
ヴィオラは五年経った今も変わらずロイドのメイドをしている。教えた読み書きと魔法(水属性)があればいい家に嫁げるはず。最近は王宮内を常に連れ歩いているが恋人を作る気配すらない。
現在、紅燈隊の屋敷でロイドと共に暮らし、水魔法を駆使して洗濯や洗い物をしている。
ロイドたちは雷魔法についてはいったん保留にして、本日の本来の研究に取り組むことにした。
研究と言っても過去の研究レポートや論文の中から現代でなら使えるものを発見する、地道な作業だ。
その中で今注目しているのが先ほどの雷魔法の他に二つある。
思考強化魔法と身体強化魔法。
この内、思考強化については何十年かに一度の周期でブームになるらしく豊富な資料に恵まれている。しかし実用に足る成果は中々無いため魔術三大難問の一つとされている。
思考強化に関しては、『魔力と思考がつながっているのだから、その魔力で思考を操作、高速化することが可能なのではないか?』、という一種の神話のような、机上の空論の域を未だ出ていない。
これには雷魔法が大きく関わっている。
人体の神経のやり取りは電気信号で行われている。その信号の優先順位ややり取りが行われる箇所を雷魔法で意識的に操作できれば、例えば同時に複数のことを考えたり、忘れていた記憶を掘り起こしたりできるようになるかもしれない。
これはまず雷魔法ができない時点で進んでいない。また、この理屈はロイドが前世で雷に打たれた男の視力が戻ったり、頭が良くなったりしたことをテレビか何かで聞いたことがあるというところから連想しただけで、医学的な根拠があるわけではなかった。身体で交わされる電気信号にどれだけ干渉できるのかに懸かっている。
身体強化魔法は、大型魔獣の魔石を使わず再現する方法が解明されていない三大難問の二つ目。
肉体を魔法で操作すると後遺症の危険が高いため禁忌とされている。
ちなみに三大難問の最後一つが先ほどから話に上がっている雷魔法だ。
「あのさ、身体強化魔法なんていらないよね? だって『鬼門法/気門法』が・・・あっ皆はつかえないのか! アッハッハッハ!」
[ボコっ!]
「あだっ!」
「煽りに来てるなら出てけ」
「出てけー」
「研究をバカにするならばご退室願う」
「うう、ごめんね・・・ごめん」
ロイドは『鬼門/気門法』ができない。
やっている者が理屈を説明できないのでやろうと思ってできるものではないとあきらめた。しかし、魔法による身体強化は魔石に宿る魔法でできるのだから再現ができるはずとずっと研究し続けてきた。
結論から言って魔石に込められた魔法を思考だけで再現することは不可能だとわかった。それこそ思考強化によって何百という工程を瞬時に行わなければ到底できない。筋肉の膨張を筋繊維の断裂を防ぎながら動きに合わせて・・・それは途方もない複雑な工程が必要となってしまう。
そこで魔法陣による再現を試みたがこれも不可能だった。これはロンドンの領分なので彼に試してもらったが、曰く、魔法陣を書くための羊皮紙が何千と必要となるらしい。それなら魔石を買った方がまだ安い。
だがロイドはあきらめなかった。
筋肉や神経への干渉と考えるから複雑になる。もっと別のアプローチで進めることにした。
前世では介護用、軍事用、災害用、作業用などでパワーアシストスーツが開発されていた。まるでSF映画のようなものが実用化されようとしていたわけだが、構造は各関節にアシスト用の装置がありピストンの圧力で物を持ち上げたりするというもの。これを再現できないかが現在の焦点であり、風魔法と火魔法の応用、空気の膨張で圧力を生み、ピストンを動かせないかを実験するため、試作品を用意してもらっている。それを改良すればいずれ魔導甲冑に革命が起こせそうな気配がある。かなり現実的な研究である。
この研究の過程で魔力に物理的な性質を持たせることができないかも研究の対象になった。魔力は目に見えず触ることもできない。しかし、圧縮された魔力が魔石になる現象があるのなら、物質に変化させることも可能であり、それを制御できれば一種の装甲のようなもので身体を覆えるようになるのではと考えた。
その為には魔力で魔力に干渉する必要があり、二重に魔力を消費してしまうため、実験の方がまだまだ進んでいない。人の魔力が魔石となるのは、魔物堕ちの際に起こる現象と同じなので実験には慎重さと学院の判断も仰がねばならない。
「魔力で魔力に干渉する研究について知りたいんだが無いなぁ」
「ロイド君ほどの魔力量は中々いませんからな。研究と言っても実証実験が難しいので中々進めにくい分野ですな。しかし、理論を唱えている者はいますからあきらめず探しましょう」
「この箱のなか、全部終わった」
「ジーナ早いな」
「速読、便利」
その日時間が許すまで論文やレポート、古い書物を調べたが有力な情報は手に入らなった。
ジーナとロンドンは必要な単位がある。講義には出なければならない。ロイドも今日は夕刻から姫の護衛、もとい話し相手に行く予定がある。テトラに魔法を教える暇はない。
本当にただついてきただけになったテトラだったが、無詠唱に成功するまで付きまといは続いた。メイジ―が仕事の割り振りを無視されたためブチ切れたが、頑ななテトラのために黙認されることとなった。
常に一緒にいることになってから姫がロイドに冷たくなったが、本人たちは原因が自分たちとは気づかなかった。
◇
王立魔道学院、学院長室。
そこで教師陣が一部の学生が出したレポートに目を通し、驚愕していた。
「彼らは自覚があるのか・・・これほどの速さで魔術界の常識を覆す新理論をここまで具体的に論じるとは・・・」
「雷魔法に身体能力強化、そして思考強化。三大難問に取り組む者は珍しくないが、彼らは研究ではなく実用化を目指している。これは時間と人手、それに資金があれば可能なのではないか?」
レポートというのはロンドン、ジーナ、そしてロイドの三人の研究成果。定期的にレポートを提出し、予算配分などを決めるためのものなのだが、この三人のレポートを読む日は学院長室に興奮と期待感が満ち、独特の緊張感が生まれる。
「このロイド卿考案の魔導甲冑の試作品の制作はまだなのか?」
「今最優先でやらせています!」
「もっと史料を集められるようにした方がいいのでは? 高等課の研究室にも史料があるでしょう?」
「いや、しかし他の研究室の資産ともいうべき史料まで開放するというのは・・・」
「うちはいいですよ。この際うちの研究よりこちらの方が大事です」
「こちらの研究室の者を参加できるようになるのなら・・・」
「それはだめだ。ロイド卿に我々が研究を盗むと思われるだけでだめなんだぞ。誤解されてロイド卿が学院を信用しなくなったら・・・」
「「「「うぁぁ・・・考えたくない・・・」」」」
ロイドは多くの変革を学院にもたらした。
まず、魔力量増・魔力制御・発動スピードアップを一度に訓練できる【基礎級魔法】の常時発動を流行らせた。
【基礎級魔法】を応用した日常生活で役に立つ魔法を開発した。またそれを組み込んだ魔導具―土魔法で自動耕作できる犂、風魔法で温度を下げる器具、水魔法と風魔法で汚れを効率的に落とす箱、火魔法と風魔法で髪を乾かす装置、光魔法で簡単に調理できる箱などを考案した。
魔導士の体力向上、瞑想の必要性を説き、原理解明の重要性を証明した。
また、魔法に関係ないところでもロイド卿の影響力は大きかった。それまで貴族と平民の間にあった溝や認識のズレが小さくなった。同年代で最も身分の高いロイド卿が誰とでも平等に接する姿がいいお手本となり、それまでの身分による壁が一部取り払われた。また、不正や横暴を嫌うロイドの、陰謀潰しの伝説のおかげかいじめや暴力沙汰が大幅に減った。
なぜか学院内の食事にあれこれと注文し、一部メニューの調理方法、下ごしらえや味付けの変更を求めたり、魔法と関係ない移動装置を魔導工学科に依頼するなど奇行もあるが、おおむね学院に良い風潮をもたらしてきた。
「このロイド卿がデザインした魔導甲冑はこのピストンなる機構以外も独創的なデザインだ。これだけでも魔導工学科の学生が飛びつきそうだな」
「ロイド卿だけでなく、ジーナ・ラインとロンドン・オールディーズの二人も目覚ましい成果を上げています。この二人でないとロイド卿の話についていけないらしく、研究室は三人なんだそうです。元はもう三人いましたが・・・」
「クリス・ブラッドフォードとカミーユ・ファフナーは結婚して領地に戻りました。ヘイリー・ヴァンキャップは休学して冒険者をしているとか」
「全く、ロイド卿の周りはどうしてこうもあわただしいのか・・・いや一番忙しいのは彼でしょうが・・・」
学院長は清高十選に名を連ねる大魔導士である。その彼から見てもロイドの卓越した発想と常識はずれな魔力制御、発動スピードは驚くべきものだった。そしてそれらがまだ発展途上であることに恐怖すら覚えていた。それと同時に早くその成長を見たい、どこまで行くのか見てみたいという気持ちだった。しかし逸る気持ちを抑え、教師一堂に過剰な干渉をしないように厳命を下した。
「彼には思うようにやってもらいたい。その為に我々にできることは見守ることです。いずれこのレポートに彼の答えが書かれる日が来る。全魔導士の希望を懸けて、騒がず、焦らず待ちましょう」
ロイドの影響は一番に教師陣に出ていた。
12歳の子供に負けじとそれまでとはやる気が違っていた。
学院長の部屋を出る教師たちの顔がそれを物語っていた。
その翌日の教師たちの誰もかれも眼の下に隈ができていて、生徒たちに何事かと不思議がられることになった。




