9.確信
皆にも嫌いなタイプはいるだろう。
おれはこういう相手が反論できないからと罵詈雑言を並べ立てる輩が嫌いだ。
「ガキ、死にてぇなら森でも行って勝手にくたばれ。おれらは冒険者だ。自殺の手伝いは仕事じゃねぇ」
「なるほど、では数に物を言わせて子供で憂晴らしするのが仕事だと?」
「…………」
最初に絡んだのは3人。
その顔は怒りで真っ赤になっている。
だが殴り掛かって来なかった。
「やっちまったな。せいぜい迷宮を楽しむがいいさ。だがこの街から出たら気を付けることだ。てめぇらみたいな身の程を弁えねぇガキどもは道の渡りも知らねぇだろうからな」
そう言って、店を出ていく冒険者たちの眼は下卑た邪なものだった。
それでいったんは場が収まったかに思えた。
冒険者たちもそれでいったんは終わりかと思い悠々と出ていく。
え?
どこ行く気だ?
まだ終わりじゃないぞ。
「不敬罪だ。貴様らはここで拘束する」
「「「……え?…………不敬罪?」」」
意味が分からずぽかんとした三人を魔法で拘束。身構える余裕もなくごろんとその場に転がった。
「な、なんだ? 何しやがった! ガキィ!!」
「貴様らは平民でありながら騎士爵である私を公然と罵り、脅した。相違ないな、ルーサー?」
こういう時だけだよ。
普段は使わないから。この身分。
「ああ、確かだ。お前ら、この方は第一王女、システィーナ様の近衛部隊、紅燈隊所属の王宮騎士だ」
「こ、こんなガキが? 冗談だろ!?」
「爵位は騎士爵だがそれより上だと考えろ」
「なぁ、ちょっと口が過ぎたかもしんねぇけどよ、何もしてねぇだろ! 横暴じゃねーか!」
お前らが言うな。
「死にたくなかったら言え、迷宮を出たら何をする気だった?〈道の渡り〉とはなんだ?」
権力を振りかざし不敬罪まで使ったのには理由があった。
ただの脅し、負け惜しみにも聞こえた言葉から、実行の意志を感じたのだ。
街を出ると殺して報復できる、手段がある。
それは街道ということになる。
そして街道で人を襲うと言えば、山賊。
「何のことだか。ただの言葉の綾だろ?」
はぁぁん? とぼけようとしても無駄だぞ。
「ルーサー、衛兵を連れてきてくれ。連行して話を聞く。別々にな。誰が最初に吐くかな。助かるのは一人にしようか。明日は試験に備えてたっぷり寝たい」
尋問の仕方は心得ているんだ。
刑事ドラマでな。
おれには取り調べで裏が取れるという確信があった。
羽振りの良さを示す上等な新品の鎧。
それと反比例する、鍛えていない身体、身のこなし。
言葉に教養が感じられない上、頭も悪い。
それと反比例する余裕のある態度。
なにより、下卑た笑い方が前世に自分を刺殺したパワハラ上司にそっくりだったのだ。
真っ当な手段で稼いではない。
勘に過ぎなかったがその日の夜、口を割った男の話はおれの想像を超える陰謀へとつながっていた。




