8.不穏
宿場街からさらに馬車に揺られること半日。
おれたち魔導学院初等科卒業検定受験者一行は無事、迷宮都市にたどり着いた。
夕刻。
街の様子は活気に満ち、どの店も賑わいを見せている。
ここもまた、独特の空気だなぁ。
やはり、そこかしこに冒険者の姿がある。
豪快に酒を飲む者たちや、真剣に話し合う様子の者たち、がっくり項垂れる者たちなど様子はそれぞれだ。
おれたちの姿はその中で浮いている。子供は少ない街のようだ。
東京と京都ぐらい離れてるってのもあるが、こっちは迷宮ありきの街だからだろう。冒険者を誘致するために、宿と武器屋と酒場が多い。
なんか、文系の学生が体育大学に迷い込んだみたいだな。
行き交う者が冒険者なら、すれ違う者も皆冒険者。
屈強な男たちが横目に見下ろしてくるのは結構なプレッシャーだ。
さっさと馬車を降り、宿へと移動。
馬車の停留場所から宿までほんの十メートルほどなのに、学生たちは酷く疲れた様子だ。
「ふぅ~、やっと落ち着けるな。これじゃ、外にいるだけで気疲れしそうだ」
宿に着くなりそう漏らしたしたのは少し天然のクリス。
地方領主ブラッドフォード家の嫡男で世間知らずの12歳。
おれは彼が迷子になりそうで不安だ。一人で街に出るなよ?
「ほら、ここでだらけてないで、部屋まで自分で荷物運ぶのよ。あとがつかえちゃうじゃない!」
クリスに指示するのはしっかり者のカミーユ。
地方領主ファフナー家の娘で面倒見のいい13歳。
二人のやり取りはなんか姉弟みたいだ。カミーユの姉みが強いせいかもしれない。
「この分では、迷宮周辺の遺跡を探索するのは無理そうですな」
そう残念がる眼鏡の少年はロンドン。
ちょっとスケールが大きのか小さいのか微妙な名前だが、彼が興味あるのは壮大で謎多き歴史だ。迷宮がどのように誕生し、その影響で何が変化したのかを研究しようとしているらしい。
歴史オタクの14歳。
「試験が早く終われば少しぐらい街を見る暇ができるんじゃないかな?」
ロンドンにそう答えたたくさんの荷物を抱えた少年がヘイリー。
穏やかな雰囲気の12歳で、父親が宮廷魔導士のいわゆる血統書付きの魔導士だ。
年下の女の子の荷物を代わりに持ってあげるお人よしな性格で、のほほんとした雰囲気の奴だ。
「ヘイリー、あとは平気。自分で運ぶ」
ヘイリーから渡された自分の荷物をうんせうんせと運ぶ女の子。
彼女の名前はジーナ。
小さな村の出身だが魔法の才で学院に招かれた神童であり、すでに2回も飛び級している。
この五人が馬車で一緒だった子たち。
おれが騎士爵と知り少し緊張していたので、以来話しかけてはいない。
◇
おれは護衛の騎士の一人、ルーサーと同じ部屋割りとなり荷物を置いて下の食堂に降りた。彼は叙任された騎士ではなく、軍務に就く兵隊なので爵位は無い。だがよそよそしくもないので助かっている。
「ここの料理は味が大味なんで、ロイド卿の口に合うかどうか……」
「いえ、贅沢は言いません。温かい食事がいただければ」
取り留めの無い献立の話をしながら食堂に入ると、結構な広さで、大いに客でにぎわっていた。どうやら、宿泊客以外にもここの食堂は解放されているらしい。
とはいえ、比較的冒険者に慣れているおれには特に気にする光景ではなかった。ルーサーを見て食事を終えた客が席を譲ってくれたのですぐ席にも着けた。
「ロイド卿にはさっさと合格してこちらを手伝ってもらいたいね」
料理を注文し来るまでの間、話は明日の試験のことに。
「一応階層内の危険なエリアを見張ってはいるが、パニックになったものは何をするかわからんのでな。中には助けに来たものに魔法を放つ奴もいるんだ。ロイド卿なら反魔法で相殺できるし……」
確かに、魔法が使えない騎士からすれば【基礎級魔法】も脅威となりえる。助けようと不用意に近づいたところに撃たれたら、いくら屈強な騎士でも怪我では済まないかもしれない。
「だが、断る!」
「え~! だめかよ~! いいじゃないか、どうせ検定の後は暇だろ? 君ならたぶん一時間で終わるぞ」
「検定が終わったら一人で街の観光でもしてます」
「いやいくら何でもそれは……」
「ふざけるんじゃねーッ!!!」
突然、怒鳴り声が上がった。おれではない。
振り返ると、冒険者が3人、席についている別の客を囲んでいた。
よく見ると、絡まれているのは、クリス、カミーユ、ジーナ、ロンドン、ヘイリーの五人だった。
「てめぇら学院の連中のせいで明日は迷宮が締め切られるっていうのに、飯までてめぇら優先だっつーのかッ! ええッ!?」
どうやら、席が空いていないためイライラしているところ、彼らを発見して憂さを晴らしているようだ。
封鎖が決まったのは突然じゃない。毎年ここで試験があるのだからこの時期必ず起きることだ。
「僕たちが決めたことじゃない! それに席は早い者順で、僕らが優先されてるわけじゃない! 空くのを待ったんだ! 待てないなら別の店に行けよ!」
クリスが正論を言う。
しかし、この手の迷惑な人間は基本的に話し合いで納得する気がそもそも無い。しかも年下に意見をされると……
「てめぇ! おれをなめてんのか! ガキが偉そうにしやがってッ!」
「少し魔法の才能があるからって調子に乗んじゃねー!」
「ここは冒険者の街だ! てめぇらがでていけ!」
子供が大人に恫喝されているが助けに入る冒険者はいない。それどころか同調する者まで現れた。
「おめぇらのせいで仕事にならねえんだぞ! その分賠償しろ!」
「そいつらたたんじまえ! 教育だ! 口の利き方教えてやれ!」
「いいぞ! 魔導士崩れなんかに負けんなよ!」
「叩きのめせ!」
店の雰囲気がどんどんアウェーになっていき、少年たちが席を立つ。
「おい、そのまま行く気か!」
「あやまれよ!」
「学院じゃ常識も教わらないのかボンクラども!」
罵声を浴びせられ、歯を食いしばるクリス。ジーナとカミーユは怯え、ロンドンは眉間にしわを寄せている。ヘイリーは気にする様子もなくその場を離れるよう他の四人を促す。
だが、通す気が無いのか少年たちを囲むようにしてののしる冒険者たち。
「あいつらッ……ロイド卿、上に行っててく……れ……?」
ルーサーがそう言った時にはすでにおれは騒動の真ん中にいた。
「冒険者ってものは口喧嘩が上手い人たちのことなんですか? でしたら降参します」




