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3.答え



 マイヤ隊長に見つかってしまった。

 彼女はおれの対面の席を見下ろすと座った。


「誰かと食事を?」

「……はい」

「まぁ、誰かは聞きません。今日は大切な演習の日です。なぜサボったのですか?」


 彼女は呆れているわけでも、怒っているわけでもなく、困った顔をしていた。


 おれは正直に今の騎士演習を続けても先が無いと話した。


「そうですか」

「怒らないのですか?」

「……ええ。あなたが騎士に魅力を感じないのは私の責任ですから。私は子供がいませんし、弟もいないのでロイド卿の考えを察することが難しくて」


 そりゃそうだ。

 いきなり部下に七歳の子供が配属されたら誰だって戸惑う。


「あなたは姫の大切な護衛であると同時に、聖人の資格を持つ重要人物なのです。私もあなたにただ騎士をやらせることが最善だとは思いませんが……私は騎士一筋なもので」


 どうやらマイヤ隊長もすっと悩んでいたようだ。

 お互いにコミュニケーション不足。

 心配を掛けてしまい申し訳ない気持ちになった。


 だから素直に戻ることにした。


 でも、ただ騎士の訓練を受けていても時間を有効利用できているとは思えない。これは変わらない。


ならどうするべきか。おれにできることってなんだ?


 マイヤ隊長と共に演習場に戻る道すがらおれは考えた。


「――アララ、サボり魔が戻って来たわね~」

「ええ!!」

 

 普通にピアースがいた。

 くそー、おれだけサボったみたいな感じになってる。

 得意げにおれがプレゼントしたイヤリングを見せびらかす。


 そこで彼女の言葉を思い出した。

 

 好きなことを生かす。


 魔法を生かす。


 騎士として魔法をどう生かすか……



 おれは『風圧』を自分に当てて、加速してみた。


「ぎゃあああ!!」

「ロイド卿ー!!?」


 失敗した。でも試みは成功だ。


 リトナリアさんがやっていた動き。前は風に負けて吹っ飛んでしまいできなかった。


 だが威力を調整すれば、今のおれでも加速できる。二か月ヘロヘロになるまで訓練したおかげで地力がついたんだ。


「ロイド卿、何を?」

「ウフフ、何か掴んだんでしょう。ポーラ、構えて」

「え? ハイ!」


 今度は剣を構えた。『風圧』をかけて、加速。

 従騎士の女の子相手でもこれまでは歯が立たなかった。

 だが、相手の動きに合わせた風のアシストで急加速、急停止しながら剣を振った。


「あわわ……」

「うおおお!!」


 おれの剣は彼女の剣と交錯し、火花を散らした。

 付いていけなかった動きに確実に対応できるようになった。


「そこまで!!」

「はい、ありがとうございました」

「すっごいですわ!! 急に強くなられましたのね!」


 ポーラは驚いているがおれも驚いている。


 

「これなら使えそうだ」

「お見事でしたロイド卿。まさにあなたにしかできないあなたの戦法です」

「いえいえ、大丈夫です。皆さんも練習すればできます」

「「「……え???」」」


 才能の無いおれですらこれだけ戦えるのだ。


 彼女たちにおれが魔法を教えてこれができるようになれば、劇的にこの隊は強くなる。


「あの、ロイド卿……私たちは魔法の方は得意ではなく」

「大丈夫です。地道な訓練で基礎ができるようになれば」

「いえ、ですから、その私たちには魔法の才能が……」


 お気づきだろうか?


 この論理を否定することはもはや彼女たちにはできないのだ。

 

「才能の分は努力で埋めましょう」


 おれはこの隊にいる意義を見出した。

 得意を生かして、この騎士たちに魔法を仕込む!!



「ようやく自分のやり方を見つけたようだね」


 システィナ様も別に怒っていないようだ。

 おれを追い詰めて才能が無いと言い続けたのは、才能を生かすためのヒントだった。


 でもそれならはじめから、魔法を生かせばいいと教えて欲しかったと文句を言ったら「それはフェアじゃない」と言われた。


 おれが自分で気づくことに価値があるのだと。


「さて、演習で教える側になって修行不足になったら本末転倒だ。少し相手をしてあげよう」

「え? それはフェアではないのでは?」

「君は一つ上に自力で上がったということだよ。今の君なら私の剣を受ける資格がある」


 仮初の剣術顧問は本当に剣術顧問になった。

 教える側になるのだから、この戦法のメリット、デメリットを実戦で把握していかなくてはならない。それに『風圧』以外にもおれの個人的な戦法を拡張するためには、手加減が必要ない相手が必要だ。


「では、お願いします!!」


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