幕間 剣術顧問の正体
ロイドが魔法を教える側になってしばらく。
「ねぇ、マイヤ。ロイドちゃんの様子はどう?」
「以前より訓練に励んでいます。私も魔法を教わっております」
「それは聞いたわ。まさか魔導士の秘儀をあっさり教えてしまうなんて」
「剣技の方も成長しています。どうやら誰か剣士を雇って習っているようです」
「それは聞いてないわ」
システィーナは疑問に思った。
なぜ周りに王宮騎士がいて、他のエリートたちにも学べるのに外部の者を雇っているのか。
「その方、どういう方なのかしら? ロイドちゃんに余計なことを吹き込んでいないかしら」
「気になるのでしたら直接聞いてみては?」
「ダメよ! 詮索して嫌われたらどうするのよ!!」
「でしたら私が行って確かめて参ります」
「そうね。そうしましょう!」
こうしてマイヤがロイドの泊まっているホテルに行くことになった。
◇
「姫様……」
「何? 下町に行くのではないのだから良いでしょう? 変装もしてるのだから大丈夫」
システィーナも付いて来た。
ロイドの泊まるホテルは王宮から目と鼻の先。
私服の従騎士たちと共に、大事にしないよう「外遊」という名目でホテルに入った。
ホテルには今ロイドはいない。昼前はいつも演習場にいる。その留守を狙ったのだ。
「マイヤ、どこにいるの?」
「いえ、わかりません。ただメイドを見つけて聞けば」
「ああ、あの赤毛の方ね」
エントランスを見渡しているとちょうどヴィオラがホテルに入って来た。
「フン、フフン~、今日のお弁当は~」
「陽気にハミングしているわね」
「どうしますか?」
「……あの子、絶対ただのメイドでないわ」
「は?」
「だって、あのような高価な髪飾りを……」
ヴィオラの髪にはロイドが送った極銀の髪留め。
彼女の様子からもロイドがどれだけ彼女を大事にしているかは明らかだ。
「姫様も絵をもらったではありませんか」
「そうだけど……」
隠れていた二人はそっとヴィオラに近づいた。しばらくその様子を観察していたが彼女は全く見られていることに気づいていない。
「厨房でお料理」
「楽しそうに仕事してますね」
無防備なヴィオラは誰も連れて歩かずにあちこち動き回る。
「今度は洗濯……?」
「ホテルのものにやらせればいいのに」
ヴィオラは当然のように魔法で水を生み出し、衣類を洗い始めた。
「あの子も魔法を?」
「ロイド卿のメイドですから。道理で教えるのが上手いはずです。経験があったのですね」
洗濯を終えた後それを干すために運ぶタイミングでマイヤが歩み寄った。
すると後ろから凄まじい圧を感じ、マイヤが剣を抜いた。
「ど、どうしたのマイヤ?」
「お下がり下さい!」
「ふぇ? なに?」
柱の影から現れたのはヴィオラと同じメイド服を着た女。ただし、その手には荘厳な剣が握られている。
「いや、何してるはそっちの二人だよ。やっぱり、髪飾りかな。それとも彼女自身が狙い?」
そう問われてマイヤとシスティーナは自分たちの恰好と行動を思い返した。
全身をローブで隠し、メイド姿の女の子を追いかける。
剣を持った女――システィナは二人を悪漢だと勘違いしていた。
「あれ、君は女か。大きいから男だと思ったよ」
「ロイド卿のメイドとは思えない無作法ものですね」
「ああ、これはちょっと彼女に借りてるだけだから。私は彼のメイドではない」
マイヤは一目見て彼女がただものではないと悟った。
システィナもロイドの関係者だとわかって圧を引っ込めた。
だが、何も知らないシスティーナはシスティナに詰め寄った。
「彼とは仮にも王国騎士であり、王宮騎士として国に仕えるロイド卿に対し不遜ではありませんこと?」
「おやおや、何がそんなに気に障ったのかな?」
「あの、皆さんケンカは良くないですよ~。人も見てますよ~」
ヴィオラが恐る恐る仲裁に入った。
「ヴィオラ、この子たちは知り合い?」
「とんでもない。こちらはロイド様がお世話になっている紅燈隊の隊長様と……娘さんですか?」
「……え?」
ショックを受けたマイヤ。
ヴィオラとはそういえば面と向かってあったことが無かったと気が付いたシスティーナ。
「私が一方的に存じ上げていましたので、ご挨拶がまだでいたわね。私は――」
ヴィオラはそれまで「うわぁ、かわいい子だなぁ~。お顔小っちゃいな~。お菓子食べるかな~」とか考えていた。
恭しく貴族の令嬢のようなきれいなお辞儀をしたシスティーナにかがんで視線を合わせていた彼女は、名前を聞いてそのまま膝を折り、地面に突っ伏した。
「――お、お許しくださいませ姫様!!!!」
「良いのです。頭をお上げになって。……ホラ、あの……そんなに床にくっつかないでちょうだい」
システィーナが床から引きはがそうとするも、ヴィオラは震えて動かない。見かねたシスティナがひょいとヴィオラを抱き上げた。
「よしよし、怖かったね」
「ごめんなさい。怖がらせる気は無かったのです」
「それで、あなたが、ロイド卿の剣術顧問ですか?」
マイヤの問いにシスティナは無言でうなずく。
「流派はどちらでしょう?」
「なるほど、私に会いに来たのか。これはヴィオラにはとばっちりだったね。それにごめんよ。私は少し心配性なものでね」
システィナの見た目は金髪金眼で王族の血筋が感じられた。メイド服を着ているが剣は一般人が持つそれではない。
「素性は明かせないと? しかし、こちらも姫様の護衛の任に就いている者の身辺は把握しなければなりません」
「私が間者だとでも? なら一回剣を打ち込んできなさい。あなたならそれでわかるでしょう」
「……? 私が知っている流派ならば安心と言うわけではありませんが、実力を教えて下さるというなら受けていただきましょう」
マイヤの一刀。
ロイドにも見せたことの無い本気の一閃。
長身のマイヤから振り下ろされる長剣の一撃は大地をも斬ろうかというほどの威力だった。
それは片手持ちの剣で受け止められた。中庭の窓は衝撃で割れ、飛び散った。
「……! バカな」
「そうか、なるほど」
システィナは驚愕し動きを止めたマイヤに反撃の一閃を放った。
「クッ――」
不意を突かれたが、彼女は習いたての基礎級魔法『送風』でその剣を迎え撃った。
さらに衝撃波が生まれ、窓からガラスがなくなった。
「――もう十分だろう?」
「……はい」
互いに剣を引いた。
「ど、どうなったの?」
「マイヤと互角だなんて、間者のはずないですわね」
「そういうこと。でも、なんでロイド君が上達しなかったかわかったよ。君は強すぎる。騎士らしく純粋な強さだ。ロイド君には敷居が高すぎるよ。基礎以外は小手先の技術を教えた方がいい」
「あ……」
マイヤは自分がいる時は自分が相手をしていた。入団の経緯から責任を感じていたからだ。しかし、訓練相手として自分が相性が悪いのだと、システィナに言われて気が付いた。
「はい……」
マイヤは肩の荷が下りた気がした。
(相性……そういえば、彼にピッタリの者がいましたね)
「あの、あなたのお名前はもしや――」
「すいません、お客様。出て行っていただけますか?」
一件落着したところで、ホテルの責任者に追い出された。




