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14.採用


「絵が上手いから第一王女の騎士だなんて前代未聞ですよ! 騎士の資格は彼にはありません!」

 

 騎士にされそうになったのを止めてくれた人がいた。

 

 見るとそこにいたのは15,6歳くらいの青年だ。金髪と金眼、王族の特徴だ。彼とは会ったことは無いが王女と国王の決定に公然と意を唱えるということは……

 

「シャルルお兄様、バリリス侯のお力はすでに証明されています」

 

 第一王子、つまりこの国の次の王ということか。なんで彼がおれの味方をしてくれるんだ?

 

「シス……彼は自分を護る力はあっても人を護る訓練はしていない。才能があるからといって優れた人物だとは限らない」

 

 全くもってその通り! おれは自分の身を護れる力さえあればいいのだ。そして望むままに生きたい。危険で重責のかかる仕事にこの歳で就くなんてとんでもない!


「……でも……」

「姫様、私からもよろしいでしょうか?」


 今度は後ろに控えていたやけにでかい侍女?が姫に耳元でささやく。


なんだ? 目の前で密談すんな!

 

 姫はその話にうんうんと頷き、顔を伏せた。


「確かに早計でした。バリリス侯の人となりについて私たちは良く知りません。ですので、正式に〈王宮騎士団〉への入団テストを受けていただきましょう!」


うわ。ええー……やだー。


「そうだな、それなら異論は無い。おれも受ける資格だけならあると認めよう」

「余としてはシスティーナの近くに置きたいのだが、問題あるのか近衛隊長?」

「はい、我々は彼のような魔導士と護衛した経験が無く、彼も我々との連携は難しいはず。また、いくら優秀でも彼はまだ子供です。訓練期間を設け我々と信頼を築かねばなりません。そうでなければ私の部下も安心して姫の護衛に専念できません」


 おれが騎士になる前提で話がまとまろうとしている。


 いけない!


「恐れながら申し上げます。陛下。私は魔法学院でより一層魔導の研鑽に打ち込み、いずれは父と同じ宮廷魔導士として陛下や姫様をはじめとした王宮の皆さまにお仕えするのが望みなのですが……」

「確かに、そなたの力は魔導の探求に費やすべきだな」

「父上、今更魔導学院に通う必要が彼にあるというのですか?」


 何だよ、このお姫様!

 おれの学院ライフを潰す気なのか!?


「まぁ、初等科に行く必要はないな」

「でしたら初等科は免除しましょう」


 ガーン!


「うむ、その空いた期間に騎士として訓練をするというのはどうか?」

「それがいいですわ! こんな優秀な人を6年も学院で遊ばせるなんてもったいないですわ!」

「うむ、では……魔導学院長、この者の初等科での受講を免除としようと思うが良いか?」

「はい、陛下。彼ならば中等科の受講選択と魔導図書館の閲覧だけで中等科卒業技能検定まで問題無く進めるでしょう」


 その場にいた王立魔導学院の学院長が実質初等科の受講を免除としたことで、おれの時間は丸々空いてしまった。逃げ場はなかった。さらば我が再びの青春……

 それにしても何かきな臭い感じだ。先ほどから父が口を出さない。息子の進路を勝手に決められたら反論の一つぐらいしてもいい気がするが……


 学院長は父と眼を合わせない。


 学院長はおれの力量をどこで知ったのだろう。普段おれが使うのは【基礎級】がほとんどだ。それも人がいる前では控えめにしている。派手にやったのはリトナリアさんとの演習か? だが学院長の口ぶりはまるでおれの魔法の実力を正確に知っているように聞こえた。


 父は王と眼を合わせない。


 王宮で仕事に就く、いわばこれはインターンのようなものだ。システィーナ姫が言っていたように、おれは王宮内でまだ信用を得られていない。なのに、大切な娘の近衛騎士に任命するなんてやはりおかしくないだろうか?


 おれのことを推薦した人がいるのではないだろうか? それもおれをよく知る人物……


 父上か?

 平民出の経歴の穴を埋めるためには実績が必要だと考えたか……そして初等科に通うのは父からすれば時間の無駄に思えたのかもしれない。いや、学院側からの提案かもしれないな。ギブソニアン家は学院内ではきっと悪名高くなっているはずだ。二人の家名の面汚しのせいで。学院側からしたら ギブソニアンをこれ以上入れたくないだろうし、生徒たちにも気の重くなる話だろう。学位はもらえるが通うのは問題ありということかもしれない。


 まぁ考えても無駄か。もう決定したようだし、おれの予想が当たっているとは限らない。


「拝命承りました。ご期待に沿えるかはわかりませんが…()()()()()()()()()()()()()()()()()、学んで参ります」


 誇張した言い方に皆それぞれ反応があった。


 父は平静を装っているが手が動いた。

 学院長は眼を反らした。

 陛下は顔に手をやった。

 姫はにっこり笑った。

 侍女(近衛隊長)は眉が動いた。


 王子はうんうんと頷いている。

 たぶん王子だけ何も知らなかったのだろう。


「バリリス侯、あなたの未来に幸があらんことを」


 姫が場を締めておれたちは下がった。



 これは良くないな。前世のおれなら流れに身を任せてしまったが今のおれは違う。騎士にはならない。


 入団試験があると言っていたな。


 よし、わざと不合格になろう。



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