じゃあ、耳に突っ込んでやろうか
この辺りにあるものって。
全部加工しないといけないものみたいなんだけど。
アドルフやシリオたちが居たら、当たり前だろ……と言いそうなことを思う。
小麦粉とか卵とか、と店内を明るく照らす幾つものランプの火に照らし出された食材を見つめる。
男がひとつ溜息をついて、訊いてきた。
「これはなにかわかるか?」
と台の上にあるものを指差す。
「……棍棒」
「誰を殴り殺す気だ……」
めん棒だ、という男に、
「ええっ?
これ、耳に入るんですかっ?」
と言ってしまい、
「……入れてやろうか」
と脅される。
「麺や菓子の生地を伸ばすんだっ」
やっぱり料理したことないだろうっ、お前っ、と言われたとき、宿屋の入り口が開いた。
いらっしゃいませー、と妹が慌ててそちらを向く。
殺されたときの苦悶の表情のまま肩に張り付いている虎の毛皮を着た男。
そして、その後ろに、いかつい男が二人。
……何処かで見たトリオだ、と思っていると、虎の男が言ってきた。
「おう、お前、もうなにか困ったことがあったのか」
えっ? と未悠は、その意味に気づき、巻き毛の男を見上げた。
虎の男が、巻き毛の男に説明する。
「イラーク、その女に例の指輪をくれてやったんだ。
なにか困ったことがあったら、助けてやってくれ」
困ったことがあったら、指輪を持っていって、この先の酒場の亭主に見せろって。
あれ、此処の話だったのか……。
いや、宿屋だが。
しかし、虎の男たちには宿屋という認識はないらしく、テーブルに座るとすぐに酒を頼み始める。
イラークと呼ばれた巻き毛の男が言ってくる。
「ほう。
お前があの指輪をもらったのか。
ずいぶん気に入られたもんだな」
いや、気に入られるようなことは特にしてないんですが、と思っていると、
「まあ、今、まさに困ってはいるよな。
助けてやれと言うから、お前の代わりに、俺が料理を作ってやろうか。
意味がわからんが……」
とイラークは呟いていた。
妹さんが運んだ酒を一口呑んだ虎の男がこちらに来る。
「さすがだな、娘。
この店が美味いと知っていたのか」
と機嫌よく言ってくるので、
「いや……たまたまですよ、盗賊さん」
と言うと、
「誰が盗賊だ」
と言われる。
「俺がなにか盗んだか?」
ま、言われてみれば……。
そういえば、その風貌と、手下の人たちと、塔に勝手に押し入ってきたことで勝手に盗賊だと思い込んでいたのだが、本当は何者なのだろうな、と未悠は思う。
それに気づいたヤンが、いやいやいや、と言ってきた。
「あのー、塔に勝手に押し入ってきた時点で、盗賊でいいんじゃないですかね? 未悠様」




