グレーテルの行く末
一面の緑だ。
春には、綺麗な芝桜が咲くんだろうな、と山の中、ぽっかり開けた芝桜のある場所で、未悠は思う。
なるほど。
観光地になっているらしい。
今は誰も居ないが、飲食店や土産物屋らしき小さなプレハブが立っている。
「なんでこんなところに居たんだろうな?」
駿が自分が思っているのと、同じことを呟いていた。
「そうですよね。
こんな山中に、子ども二人でどうやって来たんでしょう?」
未悠がそう言うと、駿は諦めにも似た口調で、
「ま、やっぱり捨てられたんだろうな。
ヘンゼルとグレーテルは」
と言ってくる。
「せめて、最後は美しいお花畑にってな」
「殺す勢いですね」
と言うと、
「そりゃあ、こんなところに子どもを捨てるなんて。
どうなってもいいって感じじゃないか」
何故、街中に捨てない、と駿は言うが。
「いや、迷子かもしれないじゃないですか」
一応、反論してみる。
「ポジティブだな……」
横目にこちらを見た駿は、
「その場合、親はどうなったんだ?
何故、子どもを探して名乗り出てこない。
死んだのは親の方か?」
と言ってくる。
未悠は、芝桜の前まで行き、今はない芝桜の花の海を妄想してみた。
駿も黙って、そこに立っている。
同じように、なにか考えているのか。
或いは彼には少しの記憶があって、それをたどっているのだろうか――。
木々の間を抜けてきた涼やかな風が此処にも吹いている。
その風に吹かれている駿を見ながら、未悠は思った。
此処に居たら、アドルフ王子に見えなくもないけど……。
でも、なにかが違うな、と。
服装とかの問題じゃなくて、と思ったとき、白馬に乗っていたアドルフのことを思い出し、つい、訊いていた。
「社長。
馬とか好きですか?」
「俺は馬刺しが好きだ」
即答する駿に、……そうですか、と思ったとき、
「帰るか」
と駿は言った。
なにかを吹っ切ろうとしているような声だった。
これ以上、此処に居ても、なにも得るものはないと思ったからだろう。
そういうところは、駿はドライだ。
まあ、社長が感傷に浸って、一箇所でじっとしてたら、なにも進んでいかないもんな、と思っている間に、駿はさっさと芝桜から離れていく。
未悠はちょっと未練がましくその緑の絨毯を見ながら、
「まあ、迷子はないですかね?」
と呟いた。
下へと続く小道まで行っていた駿が振り向く。
「だって――」
と言いながら、未悠が森の方を見たとき、そこら中に響き渡るような音がした。
パチン……と。




