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私の謎が解けました

 


「巫女さんが……?」


「正確に言えば、巫女候補の娘だな。私を成敗しようとやってきたのだ。

 そのとき、ちょうど目覚めていたので、事なきを得たが」


「兄嫁をたぶらかした罪で、成敗されかけたんですか?」

と未悠は訊いた。


「いやいや。

 その時点で、すでに私が眠ってからずいぶん時が経っていたので。

 塔に、なんだかわからないが悪い奴が居る、程度にしか話は伝わってなかったようなんだが」


「……なんだかわからない奴が眠っているだけなのに、よく倒しに行こうと思いましたね、その人」


「そこのところはよくわからないんだが。

 どうも、大神殿で内紛があったらしい。


 巫女になれる資質を持つ娘が二人も誕生してしまったことが原因だとか。

 それで、のちのち遺恨を残さぬよう、なんらかの実績を上げた方が、此処の巫女になれることになったとかなんとか」


 それで危うく成敗されかけたのだ、とタモンは言う。


「でまあ、そのときは、上手いこと成敗されなくて、私はまた眠っていたのだが。

 しばらくしたら、またその娘がやってきて」


「はあ」


「これもまた上手く成敗されずに済んだんだが。

 このときは、眠ってすぐの目覚めだったので、またすぐ寝てしまったから、よく覚えてないな」


 そんなことを言うタモンとともに、大神殿に入ろうとすると、突然、美しい巫女姿の娘が目の前に立ちはだかった。


 二人も。


「タモン様」

とそっくりなその娘二人は、声を揃えてタモンに呼びかけてはくるのだが。


 その身体はホログラムのように透けていたので、生きている娘ではないようだった。


 おそらく、霊体がこの大神殿のご利益かなにかで見えているだけなのだろう。


「タモン様、恨みます」

と娘たちは口々に言う。


「……恨まれてますよ、タモン様」


 だが、肝心のタモンは二人を見て、フリーズしている。


「未悠よ」


「はい」


「どうして、この娘、二人に見えるのだろうか?

 老眼かな」

とタモンは言い出す。


「……いや、この二人、よく似ていますが、別人のようですよ。

 姉妹では?」

と未悠が言うと、


「タモン様」

とその霊体たちは、また、それぞれがタモンに呼びかけ始める。


「私はロザリナです」

「私はカタリナです」


「……二人居たのか」

と娘たちを見て言うタモンの後ろで未悠は、


「あの……、なにやら、ものすごく嫌な予感がするんですが」

と呟いた。


 そのとき、カタリナが今更ながらに未悠に気づいたようで、目を見開く。


「まあ、貴女は」


 そうカタリナが声を上げたとき、ロザリナも駿を見て、


「まあ、貴方は」

と同じように声を上げた。


 その様子を見ていた駿が呟く。


「……死ぬほど嫌な予感がしてきたぞ」


「奇遇ですね、社長。私もですよ」


「シャチョー? そんな名前をつけてもらったの?

 ああ、もっとよく顔を見てちょうだい、私の坊や」

とロザリナが駿を抱きしめようとする。


「……お母さんですか? もしかして」

と駿と未悠は同時に、かなり古い霊らしい、ロザリナとカタリナに向かい、言っていた。




「悪魔を倒すつもりだったのです」

 そうロザリナの霊は語り出した。


「でも、美しい悪魔に惑わされ、私は悪魔の子を身ごもりました」


 ……上手く切り抜けたってそういうことなんですか、お父様、と未悠は、タモンを見る。


「タモン様はそのことを知らないまま、眠りにつかれ、私はひとり、このシャチョーを出産しました。


 悪魔の子を宿したので、もう神殿の巫女候補からは外されてしまいましたが、シャチョーと二人、森の小さな屋敷で暮らし、幸せでした。


 父は不名誉なことだと憤っていたのですが。

 母は孫可愛さもあり、私たち二人をかくまってくれていたのです」


 代々、巫女候補は王家と縁続きの名家の娘がなるもののようだった。


 そういえば、前の巫女も王妃の大叔母だと言っていたし。


「姉、ロザリナは巫女候補から外れましたが。

 悪魔の子を宿した姉を持つ私の立場も危うかったのです」

と未悠の母、カタリナが語り出す。


「表向きは、巫女候補の娘が悪魔の子を宿したことは伏せられ、姉は病弱を理由に巫女候補から外れていたのですが。


 怪しむものも居ました。


 姉は、酒樽を両手にひょいと抱えて蔵まで運べると重宝されていた、頑健な身体の持ち主だったので。


 私は次期巫女としてのおのれの地位を確かなものとするために、塔の悪魔を倒しにいきました」


 だからですね、お母様。

 貴女がたは何故、なんの悪事をしたのかもわからぬ悪魔を倒しに行くのですか。


「すると、そのとき、ちょうどタモン様が目覚められ、私もタモン様の子を身ごもりました」


「こういうことがあったから、塔に近づいただけで妊娠するって話が出たんじゃないんですか、タモン様」

と未悠は同意を求めて、父、タモンを見たが。


 タモンはタモンで、愕然として、ロザリナとカタリナを見ていた。


「別人だったのか」

「……あの、名前くらい聞いてから妊娠させてください」


「娘を二人も悪魔に妊娠させられた父は怒り、塔の入り口を塞ぎました」


 あの地下へのマンホールみたいなの蓋は祖父が作ったものだったのか。


 いや、簡単に私の体重で割れたし。


 ナディアも王妃様たちも気にせず、乗り越えていっていたようなんだが。


「父は、私たちの子どもを悪魔の子だと罵り――」


 いや、そこはお祖父様、間違ってないです……。


「王家の血筋に双子が産まれたときにするのと同じように、王家の紋章の入った衣類を着せ、私たちの子を花畑に置き去りにしたのです。


 慌てて、私たちは花畑に駆けつけましたが、もう貴方たちの姿はありませんでした。


 私たちは、今まで、消えたお前たちのことが気がかりで、此処に居ましたが。


 やっと会えたので、しばらくお前たちを見守ってから、生まれ変わるとしましょう」


 そう言い、カタリナとロザリナは微笑んだ。


 ……生まれ変わるのはいいのですが。


 まだまだこの人生きてそうなんですけど。


 また騙されないでくださいね、とタモンを見ると、その考えを読んだようにタモンは言う。


「いや、私は今回はもう眠らないのかもしれぬ」


 眠らず、年をとっていくのかも、とタモンは言った。


「さすがに毒が薄れて眠らなくなったのかもしれないし。


 私の血を継ぐお前たちが現れたからかもしれない。


 こうして、おのれの血を残し、人は命を繋いでいくものだからな」


 いや、なんか綺麗にまとめようとしてますが。


 倒そうとやってきた姉も妹も一瞬のうちに、籠絡(ろうらく)して手篭(てご)めにしたって話ですよね。


「ある意味、最終兵器ですね」

とヤンが呟き、


「ああ、恐ろしいほどの女たらしだ」

とアドルフが深く頷いた。





「なんだ、悪魔ではなく、いにしえの王の弟君だったのですか」


 大神殿で、タモンの誤解も解け――、


 いや、巫女候補二人を妊娠させたのは、なんの誤解でもなかったはずだが……、

と未悠が思う中、一行を歓迎する祝宴が始まった。


 騒がしい神殿を抜けた未悠は、夜の砂漠に伸びる真っ白な細い道を見た。


 その先には、砂埃に霞む街。


 そして、その上には、これまた霞む丸く白い月が見える。


「戻ったら、式をしようか」


 ふいに、そんな声が後ろから聞こえてきた。


 アドルフが立っている。


「此処まで来たことは間違いではなかったな。

 お前と兄妹でないことがわかった。


 これでなんの障害もない」

と言うアドルフを、


「いや……そうですかね?

 私は、貴方の先祖の血を引いていたわけですよ。


 ひいひいひいひいひいおばあちゃん的な感じなんですけど。

 それでも、オッケーですか?」

と言って、未悠は見上げる。


「妹でも構わないと思ったんだ。

 婆さんでも構わない」

と嬉しいんだか、嬉しくないんだかわからないことを言ったアドルフは、後ろから未悠の顎に触れてきた。


 上を向かせ、そっと口づけてくる。


 だが、アドルフの表情は冴えなかった。


「どうしたんですか?」

と訊いてみたのだが、


「……いや。

 なんでもない」

とごまかされる。


 アドルフは、ただ強く、後ろから抱きしめてきた。


「お前が何者でも、何処の世界から来たのでも、年をごまかしていても関係ない。


 産まれてきてから今まで、俺が心を動したのは、お前だけだから」


 ……安心するな、と未悠は目を閉じる。


 安心するな、アドフル様の腕の中は。


 どきどきもするけど、と見上げたアドルフの表情は、自分とは対照的に真っ青だった。


 ……本当に隠し事のできない人だ。


「なにがあったんですか?

 巫女様とお話されていたようですが」

と未悠は訊いてみる。


「同席していたお母さんたちが、まあ、可哀想にーって言ってたみたいなんですけど」

と言うと、アドルフは何故か、


「……霊だから抹殺できないが、あの二人は余計なことを言わないよう、なんとか黙らせないとな」

と呟いていた。


 一体、なにが……と苦笑いしながらも、未悠は、逃すまいとするかのように、強く抱きしめてくるアドルフの腕の中に居た。





 あの姉妹を黙らせたところで、なんの解決にもならないか……とアドルフは思っていた。


 大神殿で、自分と未悠の未来を見てもらったのだ。


 今までいろいろありすぎたから、ちょっと不安で――。


 だが、見るのではなかった。


 ピンクの可愛らしい花の咲き乱れる森の中、未悠がグレーのスーツを着た男と抱き合っている未来が見えたのだ。


「未悠……」


「はい」


「俺は未来は望めば変えられるものだと思う。


 お前が好きだ。

 城に戻ったら、すぐに結婚しよう。


 生涯ただ一人、お前だけが俺の花嫁だ」


 ……はい、と頷き、未悠は笑ってくれた。


 だが、未悠が城に戻ることはなかった。


 途中、通ったあの花畑の近くで、

「そうだ。

 大神殿の石買うの忘れてま……」

と言い終わらないうちに未悠の姿は消えていた。


 駿の姿もなく、あとにはただ、未悠が乗っていた馬だけが残された。







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