Devil(5)
「天国ってホント平和だよね。仕事も楽だし」
「でも大変な時だってありますよー」
「どんな?」
「たまにねー。下に残してきた人達を見て、そばに居てやりたいのになんで死んじまったんだーって泣いちゃうような人もいるのねー。そういう人のお話を聞いたりしてる時はね、なんだか胸がぎゅーってなって辛くなったりするのね。そういう時はなんとか頑張って慰めてあげるんだけどね」
「ふーん」
「まあそれぐらいかなー強いて言うなら」
「ミリルちゃん、あんたは絶対地獄なんか来ちゃ駄目だよ」
それは地獄で考えたことも感じた事もない感覚だった。
助けや許しを請う者の言葉であればいくらでも耳にしてきた。けど、その言葉にあたしは今まで真剣に耳を傾けた事はなかった。それは裁かれて当然という想いが根底にあったからだ。
泣こうが喚こうが、それだけの事をしてきたからそこにいる。彼らの涙に特別寄り添う必要なんてないと思ってきた。
でもここでの涙は違う。まっとうに生きてきた人達の流す涙には深く大きな意味がある。
――なんだろこの感覚。
天国で過ごす人達が見せる幸せな笑顔。その笑顔が涙に崩れる様を想像して、なんだか胸の辺りがむずがゆくなり、胸に手を置く。
こんなに穏やかな世界で、悲しい涙なんて必要だろうか。
その途端、自分が地獄でしてきた事を思い返し一気に胸が苦しくなった。
――あの人達にもひょっとしたら……。
そんな事はないはずなのだ。天に昇るか、地獄に堕ちるかの基準はしっかりしている。地獄に来るような人間は間違いなく救いようのない悪なのだ。
でも、本当にそうなのか。
疑い出したら止まらない。信じるしかない根底が揺るぎだす。
「ベルモさん」
「ん?」
「泣いてますよ」
「え?」
ミリルちゃんの声に、あたしは目元に手を当てる。その手に雫の跡が残っているのを見てあたしは驚く。
そう思っていると、ふいにミリルちゃんの腕があたしの頭を包み込む。
何も言わず、ただあたしの髪に優しく何度も指を通す。
ぼろぼろぼろぼろと涙が零れる。
泣いたことなんてあったっけ。なかった気がするな。
その分が今一気に零れ出るように涙が溢れ流れ落ちていく。
――あたし、いろいろ間違ってたのかも。




