39sideテテラ
誤字・脱字を修正いたしました。27.4.15
最近、ホルティーナ様がなんだか可愛く見えてしかたがない。だっていつもすごく大人で私たちの面倒を見てくれる。姿はいつもローブで隠れて見えないけど、怖くはない。最初は表情が見えなくて、売り飛ばされるのかと思ってた。けど、そんなの馬鹿らしく思えるくらいホルティーナ様は厳しくて優しい。
『私の姿は決して見ようとしては駄目よ。無理矢理フードを捲ったりしたら追い出してあげます』
始めはなに、この人。顔を見せないなんて変なの、って思ってた。けど私より先に来ていたアーテやバナルやロロに聞いたらルールだと教えられる。
ここでのルールはホルティーナ様の言うことは聞くこと。ここにいられるのは十五歳まで。生活に必要最低限を与え、教えるから挫折しないこと。ホルティーナ様のローブの中身を気にしないこと。探らないこと。危険な事をしないこと。みな同じ境遇なのだから種族の関係は気にしないこと。仲間はずれは作らないこと。それから、死のうと思ったり死んでは駄目だと教えられた。
ホルティーナ様も最初にそんな事を言っていたと思う。でも、あの時私は信じられなくて理解はしなかったんだよね。だって、顔を隠していたら胡散臭いじゃない。アーテに聞いてみたりした。でも、相手が嫌がっているのに無理矢理にしたらあいつらと同じだって言われて………それで酷く納得した。
実は、私の中には二つの種族の血が流れている。きっとホルティーナ様は知ってるかな。ひとつは外見でわかる『人族』。そして内側に流れる『猫族』。発情した『猫族』が襲った『人族』とできた子どもが『私』。七歳までは『猫族』に。それから人の扱いとなり、私は『人族』の父に連れられた。
外見は人だけど、獣の血が流れている私は敏感に気配を察知できる。だからいつも私を働かせるためだけに呼ぶ父の声や気配は酷く察知できた。働いたお金はなけなし。生活が出来るわけがない。最後は体を商売にするところに働かれそうだったから逃げたよ。あんなところで生きれるとは思えなかった。だから私は親を捨てて一人で生きる決意をして地を、駆け出した。
私にはやりたいことがある。あの感動をみなに伝えられるように。料理でどれほど喜んだか。私は今でもあの感動を忘れられない。飲まず食わずでここにたどり着いた時に出してくれた、暖かいスープ。疑ってたのにスープは暖かくて胸にまだ残っているんだよ、ホルティーナ様。
そんなホルティーナ様。ガトラさんが来てから少しだけ変わった。今まで厳しくも優しく私たちを後ろから守っていたのに、なんだか最近は前に出て私たちを守るようにしてる。そんなに悪い人には見えないんだけどね?
ホルティーナ様の見立てでは王国騎士でかなりの手練れ。貴族で『アヴリーベ』を調べている人。魔法を使おうとすると襲われるから気を付けなさい、て言う。気を付けるほどかな?アーテとバナルにはさらになにか言ってるけど、危険が分からない。記憶を無くしている人がそんなに危ないのかな?
でも、一番近くにいるホルティーナ様。危険なんてないよ?むしろ私はありがたい、かな。だってホルティーナ様、あんなに感情だすの初めて見るんだもん。なんだか突き放す態度だけど気にしてる。警戒っていってるけど、表情が隠れているおかげで警戒には見えなくて、なんだかホルティーナ様が可愛い。
警戒してるくせになんで男の人の胸の中に閉じこもってるんだろうね?張り手でもなんでもすればいいのに。叫ばないのはミミルとか私たちを気にしてるんでしょう?私たちだってホルティーナ様が『助けて』て言ってくれたら駆け出すのに。頑固だよね~。
「アーテ。脱げだって!」
「ぶっ!?」
「あはは!すごいよね?服のサイズ計るの嫌だから着てる服を計ろうとしてるの!」
「テテラっ!もう!ビックリした。なに言い出すのかと思ったよ………」
「だってさ、ホルティーナ様なんか可愛いんだもん」
「可愛いって………ホルティーナ様が聞いたらなんて言うか」
「きっと『嫌いよ!そんな事は言わないでちょうだい』って冷静に言うよ。でもさ、なんでガトラさんを警戒しておいてあんなに近いのかな?」
「近いって?普通の距離じゃない?」
普通の距離って………アーテ、見てみなよ。ホルティーナ様が服を縫い始めたけどガトラさんが手元を覗きこんでいるから。あれは近すぎるって言うと思うんだけどなー。あれでフード被ってなかったら思わず口許がにやついちゃうのに………髪、綺麗だったなー。
背中を押してしまったのは私が悪いけど、あんなに綺麗な夕日の色、隠しておくの勿体ないよ。なんで隠してるんだろう。絶対に美人だよ。あ、ガトラさんが動いた。なんだか抱きつこうとしてホルティーナ様が頭突き………………毛で覆われてるお陰かな?痛そうには見えない。あ。後ろから抱きつかれて。ホルティーナ様が暴れてる。
「アーテ、アーテ。ホルティーナ様が捕まったよ。私たちいるのに大胆だね!」
「え………わあ、ホルティーナ様は怒ってるね。針は大丈夫なのかな?」
「アーテ、心配するのそこ?」
「え?でも危ないでしょ?ガトラさんよく最中に抱きつけるね。ホルティーナ様なら刺しそう」
否定できない。でも手首まで掴まれて完全にガトラさんの間に入っちゃってるからね?どうしようもないと思う。離しなさい!嫌だ、見る。とかあっちで騒いでるけど………うーん。昨日の押し倒しの効果かな。でも、さ。
「ねえ、アーテ」
「なに?」
「不思議だよね」
「何が?」
「後ろから抱きつくとかってさ、されても見ても恥ずかしくならない?」
「………恥ずかしいね」
「ホルティーナ様が怒ってるせいか知らないけど………こう、なに。見てるこっちまでの恥ずかしさがないよね」
「テテラ………たぶんね、ガトラさんもだけどホルティーナ様が恥じらっててあんな風に角を立てていても顔の表情が分からないからだと思う。そういうのって免疫がないとつられるでしょ?」
あ、そっか。確かに私たちに恋はまだだもんね。これでホルティーナ様が顔を真っ赤にしてガトラさんがちょっとにやつきながら意地悪してたら………うん!恥ずかしくなってきた!
「二人とも顔出せばいいのに………」
「無理は言わないものだよ」
そうだけど。なんだかもったいないなー。抱き合えるならいっそ夫婦になっちゃえばいいのに。ああ。結局はホルティーナ様が折れちゃうんだ。私たちいるんだけどね。あとでバナルたちにも聞いてみよ!