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卒業と同時に売られた俺は、吸血鬼に執着される  作者: 松平 ちこ


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第1話

「なんか、すげぇ人混みだな」


「女子が騒いでんなぁ、立て看板で記念撮影に盛り上がってるとか?」


 卒業式を終えて、最後となる高校の校舎で友人と談笑し、帰路につこうと門へ向かう。

 記念撮影や別れを惜しむ多くの学生で賑わっている以上に、門を出たところで人混みが不自然な出来ていた。


「……いや。あそこ、車が止まってんな。あの車種……、高級車ぽい」


「おい。理玖(りく)、お前相変わらず目が良すぎだろ」


「いや、エンブレムと形状、カラーで分かるだろ」


「分かるかぁ!」


 理玖は友人の抗議を聞き流し、カーネーションを持った手を額に当てて車の方を見る。女子生徒が囲っていてよく見えないが、誰か立っているようだ。


「……誰かの迎えか? はた迷惑だな?」


「いや、お前ね……。って、おい、誰かこっちくんぞ!?」


 人混みをかき分けて、否、人混みが道を退けるように左右に分かれた。

 車から歩いてきたのは、ふわりとした金髪をなびかせたスーツ姿の長身の男だった。


「ねぇねぇ、あの人。奈鬼羅(なきら)財閥の人だよね!?」


「テレビで観たことあるぅ、すっごいイケメン……」


 きゃあきゃあとした声が、あちこちから発せられた。理玖はそれに我関せずだ。隣で「こっち来た!」と友人が襟首を掴んでくるが、校舎が後ろにあるので、そりゃそうだろうと判断していたのだ。


「やぁ、初めまして、日辻(ひつじ)理玖君。俺の名前は遥大(はると)。奈鬼羅財閥の奈鬼羅家の長男、遥大って言えば伝わるかな。君を買った吸血鬼で、今日から君のご主人様だよ」


「……は?」


 ざわっと周りからどよめきが起きたが、理玖はポカンとして、あまりの現実味の無さに遥大の声以外の音が遠退いて、静かだった。

 理玖の目の前で足を止めた遥大は碧の瞳を和ませ、王子様と見紛うほどのにこやかな笑顔を浮かべていた。


 ――奈鬼羅財閥、国に影響を与えるほどの力を持ち、その歴史は……。


 理玖の頭が、勝手に高速で知識を掘り起こしていた。奈鬼羅財閥のトップは、吸血鬼の一族だ。人間の理玖とは違う――強く、長命の種族。

 この国には吸血鬼以外にも人外の者たちが存在し、その全てが国政には直接関わらず、古くから存在する。


「あれ? 固まっちゃった? 可愛いね。今日は、君を迎えに来たんだ。説明は車の中で……良いかな?」


「え、いや……、買った? 俺を? 待って、俺、大学も、家も、決めて――……」


「あはは。俺はね、君のご両親から正式に君を買い取ったの。君はもう俺のモノだよ? そんな自由あると思う?」


「…………あんの、毒親ども……」


 遥大は理玖に一歩近づき、耳に吐息が届く距離で楽しそうに囁いた。ギリっと歯軋りし、手に持ったカーネーションがくたりと折れる。


 ――俺の、これまでの努力を……っ!!


 遥大の一言で、理玖は全てを察した。借金まみれの両親が、ついに実の子どもである理玖を売ったということだ。


「あとさ。俺から逃げられるとは思わないでね。躾しなきゃいけなくなるでしょ? 大人しくしてくれてたら、痛い思いも怖い思いもしなくてすむから。安心して、吸血鬼だからって、なにもとって食おうってわけじゃないの。俺はただ、君を可愛がって、骨の髄まで愛してあげたいだけ、ね?」


「――っ!」


 理玖の顎に左手を伸ばし、ゾクリとするほどの甘い声で遥大は言葉を続けた。右手で、理玖が左手に持った紙袋から指を一本ずつ丁寧に剥がして奪い取った。


「ほら、理玖君。帰ろうか」


 適切な距離に戻った遥大が、俯いた理玖に穏やかな雰囲気を醸し出している。外面だ。周囲の学生たちに見せつけるような他所行きの仮面。囁いた内容からは到底、善人であるはずがない。


「…………分かっ、た……」


 返事をした理玖の声には感傷の欠片もなかった。親が子を金で売る、その事実を淡々と認めて受けとめる。


 ――俺なりに足掻いてきたってのに、こんな……。


 高校無償化、奨学金制度に特待生制度、義務教育以降に関して両親をあてにせず、使えるものを調べに調べた。

 早期に自立し、家を出てやっていく為に費やした理玖の高校生活が、卒業式の日に全て瓦解した瞬間だった。


『泣き顔も可愛い。いい子にしてたら、ゆっくり味わってあげるから。暴れたら……まぁ、暴れるほど興奮しちゃうタイプなんだけどさ、オレ』


 エスコートする遥大の後ろを歩きながら、理玖は耳の奥で鳥肌が立つほどの絡みつくような声が聞こえた気がして、左手で首を撫でた。

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