※エプロン眼鏡はずるい(番外編)
※カッコイイ茅はやっぱりいません。許してあげてください。
今日は俺が遅くなると伝えていた。
「たまには私作るよ」
つむぎがそう言ったとき、正直かなり嬉しかった。
いつも俺が飯を作るのが当たり前になっていたから、彼女が「作る」と言ってくれただけで胸が熱くなった。
帰宅して玄関のドアを開けた瞬間、いい匂いがした。
煮物の甘い香りと、炒め物の香ばしさ。
そして——
「おかえり」
キッチンから、つむぎの声。
振り返ると、彼女がエプロンをつけて立っていた。
いつもの淡々とした表情。
でも、その上に……メガネ?
俺の思考が、一瞬止まった。
つむぎは普段、コンタクトだ。
メガネなんて、ほとんど見たことがない。
なのに今日は、黒縁のメガネをかけている。
エプロンの紐が腰で結ばれていて、少しだけ胸元が強調されている。
くいっと眼鏡を上げて、心配そうにのぞき込んできた、その仕草全部が…
——エロくないか。
頭の中で、即座にそう思ってしまったが最後。
まずい。
おかえりって言われただけで嬉しいのに、その姿で欲情するなんて、最低だ。
「……どうしたの。ぼーっとして」
つむぎが首を傾げる。
メガネのレンズ越しに、俺を見ている。
その視線が、さらにだめだった。
「いや……その、メガネ」
「あ。玉ねぎ切ったら涙が止まらなくて。コンタクト外したの。眼鏡しかなかったから」
淡々と説明される。
理由は至って普通。
ただの生活の一部。
なのに俺は、完全にやられていた。
エプロン姿のつむぎ。
メガネをかけたつむぎ。
「おかえり」と出迎えてくれるつむぎ。
普段のクールな彼女とは違う、少しだけ生活感のあるこの姿が、ひどく色気を感じさせる。
俺の中で、何かが崩れた。
腹は減っているはずなのに、別のところが先に反応しそうになる。
情けない。
帰ってきたら飯を食って、つむぎと普通に話せばいいだけなのに。
メガネとエプロンで、頭がエロい方向にしかいかない。
「……似合うな」
思わず口に出してしまった。
「え」
「メガネ。似合う。すごく」
つむぎが少しだけ頰を赤くする。
その反応を見た瞬間、俺の理性がさらに薄くなった。
——やばい。
俺、つむぎのエプロン姿に欲情してる。
玉ねぎの涙でメガネにしただけなのに。
生活感のあるつむぎが、こんなにエロいなんて知らなかった。
「飯、できてるよ。手洗ってきて」
つむぎがいつもの調子で言う。
俺は「ああ」と返事をして洗面所に向かったが、鏡の前で自分の顔を見て、深く息を吐いた。
目が据わっている。
明らかに、欲情した男の顔だ。
「……最低だな、俺」
つむぎが作ってくれた飯を食うために帰ってきたのに。
「おかえり」って迎えてくれたのに。
その優しさを、エロい方向に変換してしまう自分が、情けなくて仕方なかった。
それでも。
キッチンに戻ると、また彼女のエプロン姿が目に入る。
メガネを少しずらして、鍋の中を確認している横顔。
——食う前から、満腹になりそうだ。
いや、腹は減ってる。
でも、つむぎへの飢えの方が、よほど強かった。
俺は静かに手を合わせて、心の中で謝った。
ごめん、つむぎ。
俺、今日のお前に、かなりやられてる。
お粗末様でした。ヘタレへんたい茅、お気に召していただけましたか?




