1.
光神の正義を具現した聖なる剣。
その剣に選ばれし者は、いかなる悪にも屈せぬ勇者となると伝えられる。
曰く、その肌は竜の鱗のように硬く。
曰く、その腕は巨人のように力強く。
曰く、曰く、曰く――勇者の偉大さを称える言葉はさらに幾行も続き、そして最後にこうしめられる。
されどその強さゆえに、勇者の命は儚く、短い。
■
魔王。人間たちからそう呼ばれる魔物たちの総大将が倒され、一年の月日が流れた。
魔物たちが跳梁跋扈していた傷跡は、いまだ世界中のあちこちに残ってはいる。だが、少なくとも今一組の男女が訪れたばかりの宿場町では、そんな古傷など感じさせない活気に満ちていた。
「わぁ、結構にぎやかですねえー」
女が辺りを見回すと、子供のようにはしゃいで、男の袖口を引っ張る。
しかし、男はそれに対しただ能面のような無表情を貼り付けていた。女も男はそういう人間だと承知しているのだろう、それに不満を述べるでもなく、先と同じように周りのあれこれに声を上げていた。
女は光の神に仕える神官と思えた。黒を基調とした神官服に身を包み、首からは銀でこしらえた聖印を下げているので、子供が見てもすぐわかる。
しかし、女神官にありがちなお堅さはまるで見られなかった。
ぱっちりとした青い大きな目と、整った幼げな顔立ち、そして満面に浮かべっぱなしの笑顔が、おてんば娘といった風情をかもしている。年のころは十七、八といったところだろうか。
頭をすっぽり覆ったヘッドドレスからはわずかに銀色の前髪が覗いていた。
対して男はといえば、動きやすい布の服を着て、使い込まれた外套を羽織り、背負い袋を二つ(ひとつは女の分なのだろう)肩から下げている。珍しくもない、どこにでもいる旅人だった。何一つ武器を携帯していないことを除けば、だが。
魔王がいなくなり、魔物はその数を減らしたとはいえ、まるで現れなくなったわけではない。治安も回復しきったわけではなく、旅人を狙う盗賊も多く見られる。自衛のため、剣の一本も腰に吊るしておくのが普通だった。
普通で無いといえば、男の雰囲気も尋常ではない。齢二十をいくつか過ぎたくらいの引き締まった体はまるで精兵のそれであり、只者ではないのだとうかがわせる。
だが顔には生気が見られなかった。
――まるで死人の戦士。
男が会うものに与える印象は、まさにそれであった。
一見不釣合いな男女だったが、彼らを「死人と女神官」と置き換えれば、なるほど似合っているとさえ思え、二人を見やる人々は、奇妙な納得を得ていた。
「髪の毛、伸びましたね」
ふと、女が男を見上げて言う。確かに男の黒い髪は、不揃いに伸びていた。前髪を押さえつけてみれば、おそらく鬱陶しいと感じる程度に目を覆うだろう。
しかし、男がそれを気にする様子は無い。
「宿を決めたら、また切ってあげますね」
女はどこか楽しげだった。男の世話を焼くのが生きがい。傍目にはそう見えてしまうほど。
男は、やはり無表情だった。
誰が想像するだろう――女は男を見て、そう思う。
この死人のような男の名前がベラルド・ヒルということを。
彼こそが、一年前、魔王を倒した聖剣の勇者なのだということを。
果たして、誰が想像するのだろう。
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