第5話 8歳馬のアラタ爺さん、ミュージアムマイル君を追い払う
「馬美がそんなに苦労していて、彼氏の御主人様は何をしてるの?」
「私に母乳が出る事を知って、彼は喜んでくれたわ。そして今の誘導乳母の仕事を紹介してくれたの」
「馬美の母乳って、人生の苦労の味がする」
「じゃかましいわい!」
「でも、なんか気分が楽になってきた」
「でしょ? 母乳には脳の発達を助けるタウリンやDHA、ばいきんに打ち勝つ免疫グロブリンAが含まれているの。気持ちも落ち着いてきたでしょ? これは決してエッチなラノベなんかじゃないの。母乳の大切さを人々に伝える為の教育的作品なのよ」
「教育はさておいて、馬美の話を聞いていると、男選びには気をつけなきゃ、って気になる」
「大きなお世話じゃ!」
そこにさっきのミュージアムマイル君が再びちょっかいを入れてくる。
「授乳する聖母マリア様の絵画みたいですね。ソラリオ・アンドレアの原画はルーブルで観ました」
それを聞いてスマホでチェックする馬美ちゃん。
「私が聖母マリア様?」
まんざらでもない馬美ちゃん。
これは名画を鑑賞する全年齢推奨の芸術小説なのだ。断じてえっちなラノベなんかではない。
一方のレイラちゃんにミュージアムマイル君はこの一言。
「おっぱいを飲んだらおねんねの時間ですかね」
思わずムッとするレイラちゃん。
この美術館巡りが好きな3歳の少年は、商売の邪魔だ。ここは想定通りいっちょシメるか、と思う馬美ちゃん。そこに……
「おいそこの若いの。まだ精通もしていないのに女子をからかうでないぞ」
現れたのは8歳馬のアラタ爺。
「何ですか、あなたは」
「まだワシの半分も生きとらんから、世の中をわかっとらんのう。ワシは厩務員さんとは昵懇の間柄じゃ。今日からお前さんのカイバを半分に減らすなど朝飯前じゃぞ」
「お爺さん、やけにオバさんのかたを持つんですね? もしかして好きなんですか?」
「貴様こそ、好きな女子にはいじめるしかアプローチの仕方がわからんようじゃのぅ」
老人のこの一言に赤面してしまうミュージアムマイル君。
「レ、レースはアートです。本番で実力を競いましょう、お爺さん」
捨て台詞で引き下がるミュージアムマイル君。
レイラちゃんはアラタ爺にお辞儀をする。
「アラタさん、ありがとうございます」
「レイラちゃんは有馬記念2連覇がかかっておるのじゃろう? 不安だったらワシの真後ろに着くがよいぞ。不審なB29(アメリカのわるい爆撃機)が接近したら、ワシの46センチ砲で蹴散らしてくれるわ!」
「アラタさん、和親条約、和親条約」
となだめる馬美ちゃん。しかし周りのオス馬達はドン引きしている。カイバ(食糧)と46センチ砲(戦艦大和の主砲)を操るあぶない爺さんからは距離を置きたい様だ。
(戦艦大和の46センチ砲が火を吹いたのはレイテ沖海戦の一回のみ。現在の金銭価値で6.8兆円かけて造られた巨艦は、悪い国の攻撃で三千人の乗組員と共に沈没)
「私、1着になったら素敵なディナーご馳走します!」
「その気持ちだけでも十分じゃよ」
アラタ爺とレイラちゃんの会話を遠巻きに聞いて
いたミュージアムマイル君。
「(そっか。女の子にはあんな風にアプローチすればいいんだ)」
君も大きくなったら、こんな風にできるさ!




