先輩との約束事
俺、山神柚希。今日は放課後中喜多祭の打ち上げをクラスで行う事にしていたが、俺がこんな事になり、とても行く気にならなくて、陽キャでバスケ部にも所属しているイケメン男子武田君に1Bの純利益となったお金を渡して皆を連れていて貰った。
本当は俺も行きたかったんだけど、行ったらみんなの質問攻めに会うのは見えている。仕方なく彼に頼んだ。
亮と詩織には参加して貰う事にした。皆の状況を知りたいのと俺の所為で彼らまで不参加は悪いからだ。梨音も参加して貰った。
みんなが教室から出て行った後、ぽかんと外を見た。どうしてこうなっちゃたんだろうな。こんな事全然望んでいないのに。
みんなが居なくなって十五分位して教室の後ろのドアが開いた。振り返ると
「柚希」
「上坂先輩、どうしたんですか?」
「坂の上で待っていたら、君のクラスの子が皆で歩いているじゃない。だけど君が居なかったので聞いたら、まだ教室に居るかもしれないと言っていたから来てみたの」
「そうですか」
「柚希、一緒に帰らない。話をしたい」
「そうですね。俺も話しをしたかったところです」
教室を出て一旦下駄箱で別れてから、一緒に校舎を出た。まだ残っている生徒が俺達の事を見てひそひそと内緒話をしている。
「柚希、気にしなくていいわ」
「そんな事言われても気になりますよ」
「とにかく学校の外まで行きましょ」
「柚希、ごめんね。こんな事になってしまって」
「別に瞳さんだけが悪い訳じゃないですよ。喜多神社のあれは事故だったんですから。でも公園の所はちょっと言い訳出来なかったですね」
瞳さんとは呼んでくれるのね。
「柚希は私の事どう思っているの?」
「はっ?質問の意味が分からないんですけど。瞳さんとは友達という事にしていますのでそれだけの話です」
「それだけの話なの?」
「いや、言葉の綾というか、そりゃ俺も男の子ですから、瞳さんと喜多神社に一緒にお参りに行ったり一緒に食事をしたり公園に散歩に行けるなんて嬉しいですよ。でもそれだけです」
「そう…」
なんか話していると悔しくなる。なんでだろう、こんな事になったならこれを理由に私に色々言って来ると思っていたのに。
「瞳さんはどうなんですか。こんな事になって。迷惑しているんじゃないですか。俺みたいな男とあんな動画をばら撒かれて」
瞳さんは歩くのを止めて俺の前に立つと
「迷惑なんかしていない。ただ私にとって君は大切な人よ。だから…。
ねえ、もう思い切って学校の中でも友達として付き合おうか。そうすれば周りの人も分かってくれるはず」
「何を言っているんですか。そんな事したら俺学校で生きて行けないです」
「大丈夫。私が守ってあげる」
「どうやって?」
「登下校一緒にするとか、お昼一緒に食べるとか、休日はいつも一緒に居るとか」
この人の友達ってどんな人の事言っているんだ。これじゃ恋人同士じゃないか。
「あの瞳さん。本当に申し訳ない質問ですけど、今まで恋人になった人います」
「し、失礼ね。そんな人いる訳無いでしょ。こうやって男の子と一緒に歩くのも君が初めてよ」
「そういう事ですか。さっき瞳さんが言ったのは、まんま恋人同士の付き合いですよ。友達なら少し話すだけとか、挨拶だけとか程度でしょう」
「柚希、それって顔見知り程度の事じゃない?」
「まっ、そうですね」
「嫌よそんなの。ねえ、もう開き直って学校でも普通に話す。休日は約束通り会う。周りが何か言って来たら友達として付き合っていますと言う。どうかな、人の噂も七十五日って言うし」
仕方ないか。下手に言い訳しても引き摺るだけだし。
「…分かりました」
「ねえ、もうすぐまた日曜が来るわね。どこか行く?」
「済みません。日曜日は約束が入っています」
「そうか。残念。じゃあ土曜日の放課後は」
「それも約束が入っています」
本当は土日何も予定なんてない。でも少し疲れた休みたい。
「そうなの…」
なんなのなんでこんなに寂しく感じるんだろう。
駅に着いて
「じゃあ、俺こっちですから」
「うん、また明日」
俺は、家に帰ると自分の部屋でベッドに寝転がりながら、今日は水曜日、学校は後三日ある。我慢するしかないか。
瞳さんなんか寂しそうな顔していたけど、気の所為だろう。
私、上坂瞳。柚希と別れてから何か凄く心の中が寂しくなった。
彼に土日のいずれも会う事を断られたから?
何となく素気にされたから?
本当は自分にもっと近寄ると思ったら遠くに行く様な態度取られたから?
そんな事で…。でも他に理由あるの?分からない。
家に戻った私は、中学からの友人綾乃に連絡した。
『どうしたの瞳?』
『うーん、今日ね…』
綾乃に今日柚希と学校の帰りに話した事を教えた。そして今の気持ちも。
「瞳、あんた山神君の事…、好きになったの?」
「そんな事無いと思うんだけど。土日会うのを断られたからかな?」
「あのね、普通断られても何にも思っていなかったら、そんな気持ちにならないよ。学校やこの土日全く会わなかったらどんな気持ちになるか試したら?」
「嫌だよそんな事。学校でも会いたい」
「じゃあ、決まりじゃない。でも瞳がねえ。なんとか土曜か日曜会ってみたら、もっと気持ちがはっきりするかもよ。その代わり明日、明後日学校では彼と会わない事」
「それも厳しいかも」
「じゃあ、自由にしなさいよ」
「でもなあ」
「もう、だめだこりゃ」
俺、山神柚希。翌日、詩織と一緒に駅まで行く途中
「詩織、昨日はどうだった?」
「あなたの事、随分聞かれたわ。幼馴染だから色々しているんじゃないかって。松本君も同じ。彼も中学からの柚希の友人だからって色々聞かれていた。
でも二人共、何も知らないでとおしたけどね。そうだ。神崎さんが男の子から随分声を掛けられていたわよ」
「そうか、みんな早くこんな事忘れてくれると良いんだが」
「まあ、当分無理ね。それより柚希の方は一人で帰っただけ?」
「いや、帰り上坂先輩と一緒だった。今後の対応を話したよ」
「なにそれ。まあいいか、何を話したの?」
「もう学校で友達として付き合っていますって公けにしようって」
「はあ、それでいいの?」
「仕方ないよ。下手に言い訳して引き摺るよりこちらの方が早く収まるからって」
上坂先輩何考えているんだろう。柚希になんとも思っていないなら全く関係無い、あれは偶々の偶然で火消して終わらせても良いはずなのに。もしかしたら上坂先輩、柚希の事を…。まさかね?
二つ目の駅から亮が乗って来た。電車の中なので特に話さなかった。更に隣の駅から梨音が乗って来たが、怒っている感じがした。気の所為だろうか?
駅から学校までの間昨日と同じ様に俺の事を見てはひそひそと言っている生徒が多いが仕方ない。
教室に着くと皆一斉に俺の事を見たが、昨日みたいな事は無くいつもの雰囲気で友達と話していた。
こんなものなのかな。まあ助かったと思っていると武田が側に来て
「山神、昨日打ち上げの二次会の時に話してさ、やっぱり皆気になっているらしい。実は俺もそうなんだ。
そこでだ。昼休み、山神の素直な気持ちを教えてくれないか。それを聞いて何する訳ではないが、相手はあの上坂先輩だ。知りたいと思う気持ち分かってくれ」
「そう言われてもなあ」
「でも、それで少なくともクラスの中は静かになるし、良いんじゃないか」
「…分かった。じゃあ昼休みな」
昼休み俺は、聞きたい人を武田が集めてくれたところで上坂先輩との約束を話した。
「上坂先輩とは友達として正式に付き合う事になった。学校内でも話す事にしている」
「山神は上坂先輩の事好きなのか?」
「いやそんな感情はない」
「だったらなんで付き合うんだ?」
「友達としてなら良いかなと思っただけだ。それに変に言い訳するよりそっちのが早く噂が収まるかなと二人で考えた」
「ふ、二人で!」
「そうかあ、ついにあの上坂先輩も…」
「「「ああーっ」」」
「皆もう良いだろう。山神悪かったな。俺応援するから」
「ありがとう武田」
何故かそこに瞳さんが入って来た。
―――――
これはこれは。はてどうなりますやら?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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宜しくお願いします。
 




