遅くなると心配されるぞ
「デルファは私の上司なの。他のみんなも同じデルファの下で働いてる仲間」
オリアとデルファ達との関係を道中に説明されたヨコヅナ、
デルファ・ロードはロード会という組織の長で、オリアはロード会の一員。
ロード会ではいくつかの店を経営しており、オリアは店の一つを任されているらしい。
「デルファも他の三人も見て分かるように混血……でもヨコはあまり気ならないみたいね」
「重要なのは外見よりも中身だべ」
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デルファの後にヨコヅナは他の三人からも自己紹介をされていた。
「エフっす!宜しくっす」
エフと名乗った女性は握手を求めるように手を出す。
「オラはヨコヅナ、宜しくだべ」
ヨコヅナも名乗ってエフと握手する。
「!…」
自分から握手を求めて来たのに、手を握られて驚いたように目を見開くエフ。
「どうしただ?」
エフは見た感じ目が細いぐらいで顔に混血らしい特徴はない。混血の証は四肢にある、肘から手にかけて緑色の鱗があり、指の先には鋭い爪。
そんな手で握手を求められれば、普通は躊躇するか、拒否するのがほとんどなのだが、ヨコヅナはさして間をおかず、握手に応じたのだ。
「何でもないっすよ。みゃはは」
誤魔化すように笑うエフ。
「オデは、ジーク。イティとオリア助ケテクレタ、アリガトウ」
ジークは赤銅色の肌をした大男だ。厳つい顔で額に角のような突起があり、下顎が出てて牙が見えている。
人とは明らかに骨格が異なっており、足が短くが上半身が大きく、肩幅がとても広い。
その威圧感に対面するだけで怯える者も多いのだが、
「オラはほとんど何もしてないだよ」
ヨコヅナは笑顔で言葉をかえす。
「イティもオ礼、言ウ」
ジークの肩には足を痛めたイティが乗っていた。その格好に親近感が沸くヨコヅナ。
「でも実際こいつ何もしてないし」
「ヨコがゴロツキ達を追い払ってくれたんでしょ」
オリアに諭されて、渋々な顔で
「…助けてくれてありがとよ」
お礼の言葉を言うイティ。
「……」
そんなイティを見て首を傾げるヨコヅナ。
「何だよ?」
「…女の子だべか?」
肌が青白く髪も深い蒼色のイティは、中性的な顔立ちをしていて、体形もまだ子供なため、初見こそ少年だと思ったヨコヅナだったが少女かもしれないと思い聞いてみたのだが、
「…オマエには関係ないだろ」
肯定も否定せず、冷たい言葉を口にしてそっぽを向くイティ。
「悪いね、イティは人見知りが激しいだよ。一緒に来てくれるかい、きちんとお礼もしたいしね」
「礼は要らないだよ」
「でも、説明はして欲しいだろ」
「ま、待って!」
二人の会話に慌てて割り込んだオリア。
「説明はまた今度するから、今日のところはヨコは…」
「オリア姉、なんか隠してるだ」
「っ!…それは」
オリアは今日一緒にいて、ヨコヅナの事を聞くばかりで、自分の事は聞いてもはぐらかして一切話そうとはしなかった。
前回会ったときからオリアに感じていた違和感、そして今の状況。
気にしないで帰れるほどヨコヅナは能天気ではない。
「言いたくないなら無理には聞かないだ……でもオリア姉が危険なのは心配だべ」
「中途半端は逆効果だよ、オリア」
「…そう、だね。分かった、ちゃんと説明するよヨコ」
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ヨコヅナはオリア達に案内され、ロード会が所有する事務所へと来ていた。
案内された事務所では、他にも混血の者達が働いていた。
「会長が混血の人だから、従業員も混血の人達が多いんだべか?」
「多くはデルファが助けた人達なんだけどね」
「助けた?」
「王都では混血への差別が厳しいことはヨコも知ってるよね」
「……人族至上主義とかいう奴らだべか」
「大っぴらいに差別するのは連中だけど、主義者意外でも差別する人は大勢いるの」
コヒィーリアをはじめ、国を上げて差別を無くそうとしてはいるが、上手く政策が進んでいるとは言えない。
「……オリア姉もだべか?」
「普通に生活する分には問題ないよ。……ただ私の場合は目立とうとしたからね」
混血が差別される一番の理由は恐怖と妬みからだ。
人族よりも高い能力を持っている種族の血を引きている混血は能力も高い。
暴力的な意味での恐怖もあるが、それ以上に人は自分の立場を脅かされることを一番恐れているのだ。
混血が能力を活かせば大した努力もなしに、人の上に立つことも可能であろう。積み上げてきた努力で手に入れたモノを、今まで下に見ていた混血の者に奪われてしまう可能性がある。
その恐怖と妬みこそが、政策が進まず差別が無くならない本当の理由だ。
「昔はもっとひどかったらしくてね。奴隷のようにこき使われていた人達をデルファが助けて、その数人で起業したのがロード会の始まりらしいよ」
「そうなんだべか」
応接室へと通されたヨコヅナ。
置いてある家具などは質の良い物で、さすがにコヒィーリアの所には劣るが、綺麗で立派な応接室だ。
それは建物の外観もオフィスも同様で、普通よりも1ランク上と言える職場のように思える。
「ここは何の商売してるだ?」
「えーと、それは、ね」
「うちの主な稼ぎは遊館業とギャンブル業さ」
ここは事務仕事だけで店は別の場所にあるので、言われなければ全くわからない。敢えてそうしているわけだが。
「え!?オリア姉の仕事って遊女だべか」
デルファの言葉を聞き、驚いてオリアを見るヨコヅナ。
「私の担当はそっちじゃない!」
怒ったようにヨコヅナの頬を抓るオリア。
「痛たいだよ」
「ははは、オリアは身持ちが固いからね。ギャンブル店の一つを任せてんのさ」
「賭博だべか……」
ギャンブル業は一般的には良いイメージは持たれていない。
ワンタジア王国で賭博は違法か合法かがグレーなところなのだ。
大っぴらに荒稼ぎすれば捕まるのに、隠れておこなって金を納めれば捕まらないという、上に都合のいい決まりになっている。
「イメージは良くないかもしれないけど、私らみたいなのが稼ぐには適した業種なのさ」
「…でも、喧嘩沙汰も多いと聞くだよ。今日のことも仕事と関係あるだべか」
ヨコヅナは混血の差別のことや、ロード会の商売のことは正直どうでもいい。重要なのはオリアに危険があるのかどうかだ。
「…どちらも無いとは言えないね。出来る限り防ぐ対策はしているけども、危険はつきまとうさね」
それを聞いて渋い顔をするヨコヅナ。
「オリア姉はここで働かないと駄目なんだべか?」
「危険なのはどこでも一緒よ。混血への差別がなくならない限り」
「ニーコ村なら差別なんて無いだよ」
「ヨコと違って私は畑仕事とかが嫌いなの!それにニーコ村だって獣に襲われたりして危険は多いじゃい」
「それなら…」
ヨコヅナは「オラのところで働けば良いだよ」と言いかけて止める。
清髪剤の仕事にしろ、ちゃんこ鍋屋にしろ、ヨコヅナが勝手に雇って良いわけではないからだ。
特にオリアは清髪剤の製造方法を知りたがっていたから、迂闊に勧誘できない。
「?……何れにしても私はここを辞めるつもりはないよ」
ヨコヅナが言葉を止めて沈黙したことを疑問に思いつつも、オリアははっきり言い切った。
「どうしてだべ?」
「危険が多いからこそ、仲間をほっとけないからね」
そう言って優しく笑うオリア。
今日ゴロツキに襲われているイティの元に、一番早く駆けつけたのもオリアだ。
危険が多い職場に務めることは心配だが、
「変ってないだなオリア姉」
王都に来て変わってしまったと思っていたオリアが、心の部分は何も変わっていない優しい姉である事が分かり嬉しく思うヨコヅナだった。




