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バレバレじゃぞ


 ヘルシング家でのパーティーから数日たったある日、ヨコヅナは相も変わらず早朝の訓練場で四股を踏んでいる。

 だが変わったこともある。

 それはヨコヅナに続いて四股を踏む十数人の男達の姿。スモウの鍛錬を真似るのはメガロだけでなく、手合わせで勝つことが出来ない兵達も行うようになったのだ。


「……本当に予想の上を行くわね、ヨコは」


 離れた建物の影からヨコヅナ達の鍛錬を見ている、深くフードをかぶり足下まである外套で姿を隠している格好の女性。


「メガロぐらいかしら、形になっているのは」


 ヨコヅナは簡単に行っているが、四股は素人がすぐに真似れるほど簡単ではない。

 筋力だけでなく、体幹と柔軟さも必要とする四股。 

 ヨコヅナのように天に足の裏を向けれる程真っ直ぐ上げれる者などおらず、メガロでやっと斜めに真っ直ぐ上げれる程度、他は膝が曲がっていたり、全然上がっていなかったりと四股と呼べたものではない。


「ヨコの四股は美しいとすら言えるわ。だからこそ皆も真似ようと思うのでしょうね」

「そんなところで何をされているのですか?」


 建物の影で訓練を見ていた怪しい格好の女性に丁寧に質問するラビス。


「おはよう、ラビス」

「おはようございます、コヒィーリア王女」


 怪しい格好の女性は、実はコヒィーリアであった。


「質問には答えていただけますか?」

「スモウの鍛錬を見に来たよ」 

「…来られるのでしたら、事前に連絡をして頂きたいのですが」

「私は有りのままを見たいのよ」


 確かに一国の王女が見学に来るとなれば、いつもどおりとはならないだろう。


「王女様がお供も連れずに……。ヤズミとユナだけでも連れて来た方が良ろしいかと」

「お忍びで一人だから楽しいんじゃない。書置きはしてきたからそのうち来るわ」


 あまりにも自分勝手な理屈ではあるが、常に誰か供を連れなくては外にも出れない立場ならではのストレスがあるのだろう。


「声をかけられますか?出来れば区切りがつくまで待って頂けると助かるのですが」

「鍛錬の邪魔をするつもりはないわ」

「ありがとうございます」

「……随分とヨコの補佐が板についてきたようね」

「……仕事に真面目なだけです」

「ふふ、そういうことにしておくわ」



 その後、すり足、張り手、ブチかましと鍛錬を行い一旦区切りがつく。

 正確には張り手の鍛錬あたりで他の兵達が付いてこれなくなり、必然的に手合わせの前に休憩になるわけだが。


「朝早くから精が出るわね」


 コヒィーリアはフードを取り、ヨコヅナに話しかける。


「あれ?姫さん!お早うございますだ」


 コヒィーリアがいることを疑問に思いつつも、ヨコヅナは普段とかわらずの態度で挨拶を返す。ヨコヅナの居るところにコヒィーリアが突然現れるのは、これで三度目なのでさして驚いてなかったりもする。

しかし周りの兵達はそうはいかない、突然の王女の登場にザワつき距離を取る。


「ええ、おはよう。メガロも頑張っているようね」

「ぜぇ~はぁ~、っ!?コ、コヒィーリア王女、おはようございます。何故ここに?」

「ふふ、ヨコがスモウ道場を開いたと聞いて見学に来たのよ」

「道場なんて開いてないだよ!?」


 メガロのように真似する者が増えていっただけで、別にヨコヅナはスモウ道場を開いたつもりはない。


「でも指導してたじゃない」

「そうです、指導料をもらわなくてはいけなせん」 

「聞かれたから答えてるだけだべ。大したこと教えてないだよ」


 この後の手合わせでも、弱点を指摘したり、相手によっては普通にスモウで戦い指導しているのでラビスの言い分も間違ってはいない。


「メガロと決闘したあと、スモウを教えて友達になったと聞いたときは、正直理解できなかったけど。本当のことをだた報告してただけのようね」


 そう言ってコヒィーリアはメガロの格好を見る。


「格好まで真似して、仲良いわね」


 スモウの鍛錬をしている者達の中でも格好まで真似して、ヨコヅナと同じ褌一丁なのはメガロだけだ。

 

「あ!?申し訳ありません。コヒィーリア王女の前でこの様な」

「別に謝る必要はないわ。ヨコからスモウは褌一丁で行うモノだと聞いていたし……いつもの派手なだけで似合ってない服より男らしくてカッコイイわよ」

「本当ですか!?」


 普段着を貶されたことよりも、初めてコヒィーリアにカッコイイと言われたことに喜ぶメガロ。


「ええ、本当よ。ヨコの方がカッコイイけど」

「なな、なんですと!?」


 しかし次の一言で愕然となる。


「ははは、姫さんは前にもそう言ってくれただな」

「その格好ならより魅力的よ」

「むむむ…ひょっとしてコヒィーリア様は太っている男性が好みなので?」


 コヒィーリアへの婚約の申し込みは掃いて捨てるほどある。相手はそれこそ、文武両道で眉目秀麗、地位も大貴族や他の国の王子といった、世の乙女達の憧れを具現化したような男達ばかりだ。

 にも関わらずコヒィーリア王女との仲が、少しでも進展したという男の話を聞いたことがない。

 最近では隣国の王子に腹パンして、(ひざまず)かせたという噂まである。

 もしかしたらコヒィーリアの男性の好みに、偏りがあるのかと考えたメガロ。


「ヨコがただの肥満でないことぐらい、今ならメガロでも分かるでしょ」

「……それはもちろんです。今だに基礎鍛錬ですらついて行けてませんので……」

「そんな鍛錬を毎日こなしながらも、あの体型を維持しているということは、食事や睡眠までも鍛錬の一貫としていることに他ならないわ」


 コヒィーリアから見てもヨコヅナの鍛錬の質は高い、これでもまだ基礎鍛錬だというのだから異常と言える程だ。

 さらもニーコ村にいた頃は鍛錬に加え、農作業や狩りを行っていたのだ。普通肥えるなど有り得ない。

 

「ヨコの得意料理がちゃんこ鍋なのは、色々な食材を一度に大量に食べれるからという理由もあるのでしょうね」


 体作りの為に大量に食べるというのは、口で言う程簡単なものではない。満腹になっても詰め込まなくてはいけないのだ。

 それでも美味いく料理を食べるために、味を向上させていったのもヨコヅナのちゃんこ鍋が美味しい理由のひとつだろう。


「私が評価するのは、肉体から見て取れる努力の積み重ねよ。太い細いはさしたる問題ではないわ」

「なるほど!」

「まぁヨコは太ってる方が似合うとは思うけど………でも大会の時に比べて痩せたわね」


 ヨコヅナは闘技大会では上半身裸で戦っていたため、その時との比較だと差は明らかだ。


「……仕事は忙しいかしら」

「少し前までは忙しかっただが、今は落ち着きましただ」

「ヨコヅナ様は食事、睡眠共に健康を保てる量を取れております。ただカル様が言うには王都に来てから、少し食事量が減っいるとのことですが」

「環境の変化によるものかしらね」


 ヨコヅナは精神的疲れやストレスによって、食欲を減らす傾向があった。

 環境の変化だけでなく、慣れない事務仕事や管理業務がストレスをあたえているため、一般人からすれば多い食事量であっても、体型を維持するには足らないのであった。


「オラもこれ以上痩せる気はないから大丈夫だべ」


 ヨコヅナ自身も既にそれを理解しており、環境と仕事にも慣れてきたため、食事量を増やしていくつもりだ。


「それなら良いわ」

「…私はもう少し痩せたほうが、魅力的だと思いますが」

「そ、そうだな。私も痩せた方がヨコヅナはカッコイイと思うぞ」


 ラビスの言葉に、メガロが便乗する。

 カッコイイと言いつつ、少しでもコヒィーリアの興味を無くさせたいというのが本音だ。


「あら、ラビスとは趣味が合わないわね」


 当然そんなメガロは無視するコヒィーリア。


「私の方が一般的嗜好だと思いますよ………実際この間のパーティーでもご令嬢方に囲まれていましたし」

「あれって痩せたからだべか?」

「いえ、あの貴族令嬢方の目的の99%は、ヘルシング家との繋がりか、清髪剤か、お金です」

「…あらヨコ、貴族のパーティーに参加したの?」

「この間ヒョードル様が、ちゃんこ鍋屋の開店祝いパーティーをしてくれただよ」

「…ちゃんこ鍋屋の、開店祝い…?」

「そういえば姫さんは参加しなかったんだべな」


 ヨコヅナはてっきりコヒィーリアは、他に用事があって参加出来なかったんだと思っていた。

 ヨコヅナはあくまで雇われ経営者であり、ちゃんこ鍋屋の所有権は資金の大半を出しているコヒィーリアにある。


「……それはそうよ。招待されてないのだから」

「……え!?」


 場の空気が凍りつく。


 大事なことなので二回言おう。

 ちゃんこ鍋屋の所有者はコヒィーリアである。


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