それは○○だからじゃろ 3
豪華で煌びやかな広いパーティールーム。
複数置かれたテーブルには豪勢な料理が並んでいる。
集まっている人達も高価なドレスやタキシード。
ヨコヅナもまた今まで来たことのないタキシードに袖を通している。
「なんでオラ、こんなとこにこんな格好でいるだ?」
「それはヘルシング家のお祝いに招待されたからじゃろ」
「目的はお祝いよりもパーティーのようですがね」
話は数日前に遡る。
「こんなに高い値段なのにどうしてみんな予約するだ?」
「だから言ったではありませんか、この値段でも予約で個室が埋まりますと」
清髪剤の時にも同じような会話をした覚えがあるが、今はちゃんこ鍋屋の話をしていた。
ちゃんこ鍋屋も清髪剤同様に爆好評となった。
『コヒィーリア王女が建国祭で好評したちゃんこ鍋屋を開業』
『ヘルシング元帥が大絶賛』
『王宮料理人による絶品のちゃんこ鍋』
などの宣伝を大体的に広めたため、ちゃんこ鍋屋には初日から長蛇の列ができ、開店から数日はヨコヅナも厨房に立っていたのだが、その間客足が途絶えることはなかった。
祭の屋台で食べて店にも来てくれた大勢の人に「楽しみにしていた」「また食べたいと思っていた」などの嬉しくなる声を掛けてもらい、ヨコヅナにとっては忙しくはあるが充実した数日間であった。
「客も文句を言うどころか、美味しいちゃんこ鍋に満足していたじゃろ」
今回は貰ったお菓子に飽きてきたカルレインもちゃんと話し合いに加わっている。
話し合っているのは個室を予約した場合の部屋代についてだ
補佐になった際、ラビスは清髪剤だけではなくちゃんこ鍋の値段も上げるように進言していた。
しかしちゃんこ鍋についてはヨコヅナも値上げを了承しなかった。
みんなに喜んでもらえる店という理念から外れてしまうからだ。
だが、ヨコヅナが値上げを了承しないのはラビスも想定のうち。まず無理な要求をしてから本命の要求をするというのは交渉術の一つ。
それが個室を予約して食事をする場合は、部屋代として料金を請求するという案だ。
始めは「多くお金をとるなら一緒じゃないだか」とヨコヅナは渋っていたが、ラビスに「みんなに喜んでもらえる店ということでしたら、お金持ちの方々にも喜んでもらえる店でなくては、いけないのではありませんか」と言われ反論出来なくなる。
お金に余裕がある貴族等は、並んで待つ必要がなくなり、落ち着いて食べれるのであれば、部屋代として料金を払うことを厭わない者は多い。
不評であれば部屋代の料金を変更することを条件にヨコヅナは了承した。
その結果は、
「30日先まで予約が詰まっています。本当はもっと予約したいお客様はおられるのですが管理が難しくなるので、30日で制限しています」
「並ぶのが嫌な人って多いんだべな」
「個室なら静かに食べれますしね」
「賑わっている場所の方が楽しくないだか」
「それは個人によって意見が変わります、押しつけは良くありませんよ」
「…そうだべな」
「予約が殺到している理由はそれだけではなかろ」
「ええ、もちろん」
予約客が多いのは偶然ではなくラビスが根回ししたからだ。
コヒィーリア王女とヘルシング家の伝を存分に使い上級階級に予約制度をしっかり宣伝しておいたのだ。
ちゃんこ鍋屋には客のための入り口が一般客用と予約客用で二つある、これは店の立地を決めるときから販売戦略を立てていた証明に他ならない。
「来客数では回転率の高い一般客が圧倒的に多いですが、売上はさして変わりません、寧ろ利益率でいえば予約客の方が高い日もあるぐらいです」
一般客には安いちゃんこ鍋だけ食べて帰る者も多いが、予約客は割高であろうと他のメニューも注文する。
外聞を気にする貴族は安いちゃんこ鍋だけ頼んで帰るなど出来ないのだ、それを見越して予約客には初めからコース料理を勧めている。
つまり全てがラビスの手のひらの上ということだ。
「商売って難しいだな」
料金を取るつもりのなかった部屋代を上乗せしたことで、利益が跳ね上がったのだからヨコヅナがそう思うのも仕方ない。
「ヨコが厨房に立たなくなった以降、何か変わったことはないかの?」
「……数字上では目立った変化はありません、ですが気になる報告が上がっております」
現場で働く者が言うには「でっかい兄ちゃんはいないのか?」「ちゃんこ鍋作っている人違うの?」という声が増えているらしい。
ヨコヅナは体が大きいだけに存在感がある、厨房にいなければ一目瞭然だ。
しかしそういう客からの声が多いのには他にも理由がある。
「やはり気づく者は気づくか。ヨルダックのちゃんこ鍋はヨコのモノのに比べれば一歩劣る味じゃ」
「十分美味しいのですがね」
及第点ではあると思い開店を決めたが、まだヨルダックの作ったちゃんこ鍋はヨコヅナの作ったちゃんこ鍋に及ばない。
噂を聞いて来店した客は美味しいと満足するのだが、屋台で食べてヨコヅナのちゃんこ鍋のファンになっている者には違いが分かってしまうのだ。
「ヨルダックは色々な美味しい料理を作れるんだべがな」
総合的な料理の腕ではヨルダックの方が圧倒的に上だ。
しかしちゃんこ鍋屋で求められるのは当然美味しいちゃんこ鍋であるためフォローにならない。
「ヨルダックは芸術家気質なところがあるからの、味に押し付け感がある。我であれば目をつぶっていてもヨコのちゃんこ鍋と区別がつくぞ」
カルレインが思うにヨコヅナと違い、ヨルダックは料理を芸術と考えているフシがある。
ヨコヅナが食材に対して感謝を持って調理するのに対して、ヨルダックは自分の作品を作るための材料として調理する。
その考え方の違いが味の差異をもたらしているのだろうと考えていた。
「ヨルダックにもそれ言っただか?」
「うむ、しかし言われたとて染み付いた考えが直ぐ変わることない、まぁ何れはヨコにも劣らぬ美味しいちゃんこ鍋を作れるようになるじゃろ」
「ですがそれまでに売上の減少が起こりえます、何か対策が必要ですね」
最高の開店スタートをきったとは言え、継続的に利益を求めるのであれば二手、三手先を考えなければならない。
「対策だべか…オラが厨房にたつんじゃ駄目なんだべか?」
ヨコヅナが思いつく対策と言えば頑張って美味しい料理を作るぐらいだ。
「不定期に短期間であれば妥当な案ですが、常に厨房にたつのは駄目です。ちゃんこ鍋屋での働きぶりは観させて頂ましたが、ヨコヅナ様は何でも自分でやろうとし過ぎです」
「それって駄目なんだべか?」
「だたの若い料理人であれば正しい行動ですが、上に立つ責任者としては間違った行動ですね」
「……オラが責任者ってことが間違いな気がするだべがな」
前から、というか初めから思っていた疑問を口にするヨコヅナ。
「私も少し前まではそう思っていたのですが」
「今は違うだか?」
「清髪剤とちゃんこ鍋屋の経営陣が『地方出身の農民』『王宮勤めの混血の侍女』などの噂が囁かれているのですよ」
「事実じゃろ……いや、的を射過ぎておるか」
「はい。経営者がヨコヅナ様だと分かっても、農民だという情報まで出るはずがありません」
「でもそれが何か問題あるだか?」
「本来であればマイナス方向に作用しかねない噂なのですが、どちらかと言えばプラスに作用しています。出自に関係なく王女に認められるほど有能な者達だと」
「王女のさしがねか……わはは、やりおるの」
「コヒィーリア様は見ている視点が違いますね」
「???…どういうことだべ?」
自分が出した疑問なのにカルレインとラビスだけが納得して置いてきぼりをくらうヨコヅナ。
「バカですね~ヨコヅナ様は。コヒィーリア王女は…」
ラビスがいつもどおりヨコヅナを貶しつつ説明しようした時、部屋の扉がノックされる。
「ヨコヅナ様そろそろご休憩しては如何でしょうか。居間にお茶を御用意致しました」
「ありがとうございますだ。すぐ行きますだ」
外から声を掛けて来たのは爺やだ。
少し前までと違いそれほど忙しくもないので、お礼と共にすぐに行くことを伝える。
「休憩にするべ」
「今日~をの、おやつは何じゃろな~」
「お菓子は食べ飽きたんじゃないんだか?」
「安い菓子はの」
「高いお菓子は別だべか」
「………致しました。ですか」
「どうしただ?ラビス」
何か引っかかったのか笑みを消しているラビス。
「今日は事前に聞かれなかったので」
「お茶の用意のことだべか…聞き忘れただけじゃないだか」
「ヨコヅナ様と違って爺やさんは有能な方です、そのようなミスはしないと思うのですが」
用意してから必要ないと言われば、お茶やお菓子が無駄になってしまう、食べ物を大事にするヘルシング家の執事長がそんなミスをするとは思えない。
「何か用があるのかもの、またヒョードルからちゃんこ鍋屋に要望ではないか」
「かもしれません……まぁ行けば分かりますね」
三人は居間に向かいお茶とお菓子を楽しんでいると、案の定爺やを通してのヒョードルからちゃんこ鍋屋関連の提案があった。
「お祝いだべか?」
しかしいつもとは少し毛色が違う提案であった。




