バカに解説役は無理じゃの
初対面時のナイフ投げや気配の薄い動きなどから、ラビスに武の心得があることは分かっていた。
手合の構えではなく、軽く腰を落とし体を小さく両腕を上げた、ハイネの相手をする時の構えで迎えうつヨコヅナ。
「……ところで膝をつかせる事が出来たら、ヨコヅナ様は何でも言うことを聞いてくれるのですよね」
「いや、それはハイネ様との約束であって」
ヨコヅナの返答途中でラビスの体がぶれる。
予備動作の無い高速移動でヨコヅナの懐に入る。
「あれは!?ケンシン流 瞬歩!」
すり足をやめて二人の手合わせを観ていたメガロが技名を言うが
「コクエン流 疾動です。パクリと一緒にしないでください」
ラビスは否定しながら、ヨコヅナの喉を狙って突きを繰り出す。
虚をつかれたヨコヅナは体勢を崩しながらも突きを躱す。
崩した体勢が整う前に連撃の斬撃を放つラビス。
ラビスの斬撃は速くて鋭くあるものの模擬剣では、ヨコヅナに当たったとしてもさしてダメージは与えられない。
(でもヨコヅナ様は躱しますよね)
ヨコヅナは全てを避けるなり刃を反らすなりして凌ぐ。
ヨコヅナは訓練であるため、刃を潰して切れない訓練用の武器でも本物の武器としてだ想定して対応する。※ハイネが相手の場合はそれをすると勝負にならなので別。
ラビスの斬撃は真剣と想定した場合喰らえば深手となる、そのためヨコヅナは迂闊に受け止めれない。
(女性相手で怪我させないよう気をつけているため攻撃は!?っ)
ラビスは思考しながら戦うタイプ、並の相手であれば問題ないが、閃光のハイネに対応出来るようになってきたヨコヅナには思考のための僅かな遅れが隙となる。
ヨコヅナは一歩前に出て斬撃を鍔の部分を狙って腕で止め、ラビスの顔へ向けて大振りの張り手を繰り出した。
後ろに跳び退いて躱すラビス。
「……ひょっとして私の事、女性と思っていないので?」
「そんなことないだよ。当たりそうなら止めてただ」
「そうですか……気迫を乗せたフェイント、器用ですね」
ヨコヅナの寸止めするつもりの張り手、だがラビスに本当に当たると思わせる程の気迫があった。
「会話の途中で攻撃してくるとか、卑怯なことするからお返しだべ」
「卑怯とは侵害ですね、構えたのに油断する方が悪いのですよ」
「狙ってやったんだから一緒だべ」
「…必要がなければやらないんですけど、ね!」
ラビスが遠い間合いから蹴りを放つ、その目的は小石を蹴り飛ばすため。
「コクエン流は」
「実践派格闘技、だったべか」
ヨコヅナは小さい動きで飛んできた小石弾き飛ばし、隙が出来ると思って前に出たラビスを捕まえようと手を伸ばす。
逆に虚をつれることになったラビスに絶妙なタイミングのヨコヅナの手が、
「気迫を乗せたフェイントが使えるのは」
すり抜けるように空をきる。
「ヨコヅナ様だけではありませんよ」
捕まえるために伸ばされた腕に斬撃を食らわせるラビス。
小石を飛ばし隙を作って突っ込んだと見せかけるところまでが陽動、そして狙いは腕。
「硬いですね。真剣だったとしても切断どころか骨までいったかどうか」
ヨコヅナはラビスの言葉に返さず腕の具合を確かめる。
「何者だあのメイド」
「動きの速さが普通じゃないぞ」
「ヨコヅナ殿に一撃いれるとは」
ヨコヅナに一撃もいれることが出来ない兵達がざわつく。
「……ところでコクエン流にお知り合いが?」
「終わったら話してやるだよ!」
次はヨコヅナの方から前に出る、
「クククッ同じ手は通じませんか」
ラビスもまた前に出る。
素早い動きでラビスを掴みにいく、だがまたも手がラビスの体をすり抜けるように空をきる。
そして腕に向けての斬撃、しかし今度は予想していたためすぐに腕を引いて躱す。
間を開けずヨコヅナは連続で掴みにいく、服に指をかけるだけでもラビス相手なら投げれる。
だが全てラビスの体をすり抜ける。
「あの動き!?流水か!」
「なんじゃそれ?」
「ケンシン流 流水 独特の動きと絶妙な見切りを駆使して、相手の攻撃がすり抜けるような錯覚を起こさせる技だ」
「独特の動きってのはどうなっておるのじゃ?」
「知らん。私も使えるわけではない」
「役たたずな解説じゃな」
メガロの解説は使えない上に間違っている。
ラビスが使ったのはコクエン流『陽炎』
目の錯覚は回避だけで起こるものではない。『気配が希薄の動き』と『気迫を乗せた動き』この二つ組み合わせることで、熟練の者であれば、
「目がおかしくなりそうだべ」
速い動きには見えないのにラビスの体が残像が出来たようにぶれて視える。
陽炎の動きで翻弄されたヨコヅナの懐に入り、下から斬撃を繰り出すラビス、狙いは股間。
「攻撃がえげつないだよ」
慌てて後ろに下がって回避するヨコヅナ。
「そうでもしないと膝をつかせれないので、ね!」
体勢が崩れたヨコヅナに持っている剣を投げつける。
飛んでくる剣を咄嗟に腕で弾くも、さらに大きく体勢を崩すヨコヅナ。
その隙にラビスは疾動でヨコヅナの側面に回り込む。
「バカな!?瞬歩はあんな短距離では使えないはず」
「それは単に修練が足りないだけです」
ケンシン流の奥義の瞬歩は直線的な動きしか出来ず、尚且つ高速なため着地位置まで一定の距離が必要とされているが、それはただ未熟なだけである。
コクエン流では同じ原理の疾動を基本技としているのは、自在に操れてこそ奥義だからだ。
回り込んだラビスは拳をヨコヅナの脇の下に当てる。
ヨコヅナの体は分厚い脂肪と筋肉に覆われているため、打撃で倒すには急所を狙うか、もしくは肉の薄い部分を貫く必要がある。
「あの構え!、発勁を拳で撃てるのか!?」
「よく見よ、バカロ」
「メガロだ!」
「拳ですらない」
ラビスは拳の中指だけ少し出した一本拳、接しているのはその先だけ。
ラビスが使うのはコクエン流『破擊』。発勁と原理は同じだから利点、欠点も同じ。
接する面は大きい程力は伝えがやすいが、衝撃は分散される。
逆に接する面が小さければ力を伝えることが難しい分、衝撃は集中されるためダメージが大きくなる。
拳どころか一本拳でラビスが狙うのは肺、
脇下の肉の薄い部分から肺へ衝撃を貫く。
コクエン流 『破擊・鋭』
必殺の技を放った瞬間、
「っ!?」
ラビスの体が宙に浮いていた。
「本当に王都の女性は暴力的だべな」
ヨコヅナはラビスの体が地面に落ち前に受け止める。
そしてそっと地面に下ろす。
「オラの勝ちだべな」
「……誘いでしたか」
虚をついたとてヨコヅナは、何度も体勢を崩すことなどない。
投げた剣を防ぐために大きく体勢を崩したように見せたのは誘い。
破擊は強力なだけに動きが止まる、そこを狙ってヨコヅナは掬い投げでラビスを投げた。
「あれを喰らってダメージ無しですか」
「痛いだよ。でもちょっと退いたしからたいしたことないべ」
ヨコヅナは以前破擊を喰らったことがあるため、狙いが分かっていた。
ラビスも直撃でないことは分かっていたがそれでも十分な手応えはあったはず。
だというのに間髪いれず素早い投げ。
「ハイネ様が軍に入隊させたがる気持ちも分かりますね」
「そんなのは分からなくていいだよ」
本当に嫌そうな顔をするヨコヅナ。
「…ところで勝ったからオラの言うこと聞いてくれるだか」
「おや、私にエロい命令を」
「しないだよ」
「……では何を?」
「あ~、オラがミスしても鞭で叩くのやめてほしいだよ」
ムチで叩かれるのはさすがにヨコヅナでも痛い。それに目立たないところを叩いていても、褌一丁になれば腫れているのは丸分かりだ。
ハイネに指摘されたときは何とか誤魔化したが、大分訝しがられた。
「…なるほど、分かりました」
「良いんだべか」
「ですが、一般兵が負けてもヨコヅナ様の言う事を聞く必要はないですよね。ですので私も言う事を聞く必要はありません」
「ひどいだな!」
ラビスの方から約束の話を出したのに、ヨコヅナの言う事は聞く気など初めからなかった。
「契約は事前にしっかり行うこと、必ず書面で約束を明記させること。商では当たり前ですので覚えておいてください」
「ははは、分かっただよ」
戦っている時とは打って変わった温和そうな笑顔。
「……軍よりちゃんこ屋の亭主の方が似合ってはいますね」
「オラもそう思うべ。ラビスからもハイネ様に言って欲しいだ」
「私が言っても無駄ですよ」
「やっぱそうだべか~」
残念そうな顔をするヨコヅナだが、ラビスの言葉はハイネの真意を知っての事、文字通りの無駄なのである。
「朝飯の時間じゃぞ」
「じゃあ帰るだか、お腹空いただよ」
地面に座った状態だったラビスを優しく立たせるヨコヅナ。
「私もお腹が空きました」
そう言うラビスは手を伸ばす、脈うつヨコヅナの首筋に。
「ん?……どうしただ?」
「あ!?、いえ、何でもありません」
自身も驚いたようにすぐ手を引くラビス。
「?…」
疑問に思いながらも、気にせず歩いて行くヨコヅナ。
「……私は何をしようと?」
ラビスは疑問を口に出すことで、気づかないふりをしてヨコヅナの後を歩く。




