どうなったのじゃ?
「病から回復されたようで」
「元気になられて本当に良かったです」
「コクマ病にかかったと聞いた時には国はどうなってしまうのかと不安になりましたよ」
建国式典後の国王主催のパーティーでヒョードルは各地の貴族に囲まれコクマ病からの回復を祝福されていた。
「心配かけたようで済まないな、まだ完調ではないため悪いが座ったままで居させてもらうぞ」
「ええ、もちろん構いません」
「しかし、あの死の病から回復されるとはさすがヘルシング元帥」
「運が良かっただけだよ、手遅れになる前に治療薬が見つかった」
「噂ではハイネ様が治療薬を作れる医者を見つけてきてくれたとか」
「確かに連れて来てくれたのは娘だが、元はコフィーリア王女の紹介だ」
以前爺や達と話し合った通りに話を付けたすヒョードル。
ヒョードルとしては自分の娘の努力を偽ってしまうようで気が引けるが今はこう言うしかない。
爺やのお見合い作戦は失敗したことはすで報告を受けており、ヨコヅナにハイネの屋敷を出てもらう算段はついていないのだから、その場凌ぎでもやっておく必要がある。
「病み上がりでもう疲れたか、老人が無理するものではないぞ」
パーティには上流階級の者ばかりだが、王国軍トップであるヒョードルにこの様な憎まれ口をたたける者は少ないし、出来ても実際口にするのは一人しかいない。
その男が現れたことでヒョードルを囲う人達が道をあける。
「大きなお世話だケオネス。貴様の方が老人だろ」
相手の顔も見ずに答えるヒョードル。
王族を除けば、
軍事部トップであるヒョードル・フォン・ヘルシング。
政務部トップであるケオネス・ジン・オルガ。
この二人が犬猿の仲であることは、国政に関わる貴族であれば常識と言って良いほど有名である。
「それだけ元気であれば問題ないな。少し話があるのだが構わないか」
「あのヘルシング様も病み上がりですし、ここは、その…」
言い争いにでもなれば、体に悪いのではと思った一人がそう言うが、
「構わん。済まないが他の者は席を外してくれ」
ヒョードル自身が言葉を遮る。
「…わかりました」
他の者達が離れたのを見てケオネスはヒョードルの隣の椅子に座る。
「私をダシに疲れたから座りに来たのではないのか貴様」
「それは否定はせんがな、話があったのは本当だ」
「だったらさっさと本題に入れ、私は暇ではないのだ」
「命の恩人の一人に対して冷たい奴だな」
「ん?貴様が何故命の恩人なのだ」
ケオネスの言葉に怪訝な顔をするヒョードル。
「元々コフィーリア様にヨコヅナを紹介したのは私だ。まぁ闘技大会に推薦しただけだがな」
「…では治療薬のことも」
「知っているさ。だから治療薬を作れる医者をハイネ嬢に紹介したのが王女という間違った噂が出回っていたので訂正しておいたぞ」
「な!?貴様!!」
立ち上がって声を荒げるヒョードル。
「冗談だ。怒ると体に響くぞ」
「貴様のせいだろ!」
からかわれたの事にさらに怒りを覚えつつも、病み上がりで気をつけないといけないのは確かなので座りなおす。
「ヨコヅナがハイネ嬢の屋敷に住んでる事で流れるだろう風評への対策だろう」
ヨコヅナと偶然会ってハイネの屋敷に住んでいることを知っていたから、噂を聞いた時に合わせることが出来た、そうでなかったら本当に訂正していた可能性はある。
「わかっているならくだらない冗談を言うな」
「説明していない方が悪い」
「貴様がヨコヅナ君と知り合いだったことなど知らん」
ヒョードルは落ち着くためにテーブルに置いてあった水を一口飲む。
「酒は控えているのか?」
「ああ、今はな…」
「……食事もあまりしていないようだな」
普段であればヒョードルはパーティーでも料理が残されて廃棄されるのが嫌なため率先して食べるようにしている。
元帥がそうすることで他の者も遠慮せず食べれるという考えからだ。
しかし今日はほとんど料理に手をつけていない。
「ひょっとして本当に体調が悪いのか?」
今座っているこの場所も会場の中でかなり隅になる。
本当に休みたいからこんなところに来ていたのであれば悪いことをしたと思ったケオネスだが、
「いや、そういうわけではないのだが」
そういうヒョードルだがどこか落ち着かないようにも見える。
「ヘルシング様買ってきました!ハァハァ」
そこへヒョードルの部下でらしき者が息を切らして二人の元へきた。
「おお、待っていたぞ!遅かったではないか」
「すみません、行列が出来ていたため買うまでに時間がかかりまして」
「何を買いに行かせていたのだ」
ヒョードルは部下が買ってきた物を一つ受け取る。
それは蓋がしてある丼型の容器で、蓋を開けると中には、
「…具材の多いスープ?」
「ちゃんこ鍋という料理だ」
ヒョードルは説明もぜずちゃんこを食べる。
「あぁ~、この味だ。生き返るような気分になる」
ヒョードルは体調が悪いから料理を食べなかったのではない、ちゃんこの為にお腹を空かせていたのだ。
「聞いたことない料理だが、そんなに美味しい料理なのか?」
「ヨコヅナ君の得意料理だ。今回の建国祭で屋台を出しているから買いに行かせたのだ」
ヨコヅナがヘルシングの屋敷を出てからちゃんこ鍋を食べれなくなったヒョードルは、実は今日を楽しみにしていた。
「多めに買ったからケオネスも一つ食べると良い」
部下はたくさんのちゃんこの入った容器を持っている。
その一つを受け取りケオネスもちゃんこを食べみる。
「…おお~、確かにこれはうまいな」
屋台の料理とは思えない味に驚くケオネス。
「決して濃いわけではないが味に深みがある、優しいさを感じる味だな」
「ふふふ、わかるではないか。そう、この優しい味が他の者には出せないのだ。少し冷めてしまっているのが残念だがな」
ヒョードルは早くも一杯目を食べ終わり部下から二杯目を受け取る。
「行列が出来ていたという事は屋台は好評だったのだな」
「それはもう、今年の屋台で一番ではないかと」
「そうか、そうか」
見る見る上機嫌になっていくヒョードル。
「何がそんなに嬉しいのだ」
「屋台は試し台でな、好評なら本格的にちゃんこ鍋の店を出す話になっている」
「そんなにこの料理が気に入っているのか」
「ふふ、それもあるがな…やはり少しぬるいな温め直させるか」
「店でも買えるようになるのですか!美味しいから屋台でしか食べれないのは残念だなと思っていたのですよ」
「確かにな………ん?」
部下の何気ない言葉に違和感を覚えるヒョードル。
「何故お前がちゃんこ鍋の味を知っている?」
「え、あ、いや、店の前で食べていた人達が皆美味しいと言っていたので」
「口の端に食べカスがついてるぞ」
ケオネスの言葉に慌てて手を口に当てる部下、しかし何もついてはいない。
カマをかけられたのだ。
コフィーリアが歩いても近い言ったように、ヨコヅナの屋台からここまではたいした距離はない。
行列が出来ていた理由は好評なのもあるが、作り置きをしないからだ、また持ち帰るものには味を損なわない程度に熱めにしてある。
ちゃんこ鍋が冷めていた本当の理由は、
「貴様、食べてきたな!」
翌日以降その部下の姿を見た者は…




