色々味に種類があるから毎日でも飽きぬの
それが自分への質問なのはわかったが意味はわからなかったハイネはヨコヅナの方を見る。
「…ハイネ様はお見合いとかしないだか?」
ヨコヅナがカルレインの言葉を訳すのはもはや定番のやり取りになりつつあった。
「そう言っていたのか。前はたくさん申し込みが来ていたが最近は……どうなんだ爺や?」
「めっきりでございます」
「だそうだ。ハハハッ、私もヨコヅナと同じで異性にモテないようだな」
見合いの申し込みが来てないことを笑い飛ばしそんなことを言うハイネ。
「モグモグ、ゴクンっ。意外じゃな、王都の男の目は皆節穴か?」
「あのような事をしていれば申し込みがなくなるのは当たり前です」
「……端から結婚する気がないから断ってたということだべか?」
ヨコヅナのように全く受ける気がなく断っていれば当然申し込みは来なくなるだろう。
だが爺やの言葉のニアンス的に違うようにも聞こえた。
「確かに直ぐに結婚する気はなかったが、それを承知した上での申し込みだったのでな、見合い自体は何度もしたぞ。ろくな男がいなかったという事だ」
「ハイネ様のはお見合いとは言いません」
「どういうことじゃ?」
「お嬢様は座して話をする前に、手合わせを申し込むのですよ」
「「……あぁ」」
それだけでもどういう状況になるか想像が出来て納得がいってしまう二人。
「つまり見合い相手を全員ズタボロに打ち負かしたということか」
「ズタボロになるまで向かってくる気概のある男が先ずないかったな」
「そういう問題ではありません」
殆どの者がハイネ相手に5合と持たず敗北する。
蹲る相手に、「私に申し込みをするには修練がたらなかったようですな」と言ってまともな会話もせず立ち去る。
「…あれ、いつの間に決闘の申し込みの話になっただか?」
「信じられないかもしれませんが、ハイネ様のお見合いの時の話をしております」
「意外でも無く確かに当然じゃな」
呆れはするがハイネらしいと思えてしまう。
「手合わせをして積み重ねてきた武を見れば、相手の芯の部分が分かると教えてくれたのは爺やだろ」
「それはそうですが……ハイネ様に勝てる者など王国中探しても数える程しかいないのですよ」
「別に私に勝てる必要はない、まともな手合わせにもならない弱い男を相手にする気がないだけだ」
「ハイネ様と勝負になる実力者で、年齢がつり合う未婚の男性など私の知る限りでは一人しかおりません」
「……ムダン殿の倅の事か?」
「はい、彼ほど武の才に愛された者を私は知りません」
「確かに奴は強いが、夫にしたいとは思わないな……それに一人ということはないだろ。ヨコヅナも私と勝負ができる実力者だ」
爺やはヨコヅナをあえて外して言ったのだが、ハイネの方から出してきてしまう。
「勝負になってるだかな?」
「なっているさ。木刀とはいえ今だに膝をついたことすらない、それだけで座して話を聞いてみようという気になる」
「じゃったら、その場でちゃんこ鍋を振舞えば落とせそうじゃな」
「ありえるかもな。プロポーズの言葉は「私の為に毎日ちゃんこを作ってくれ」だな、ハハハハッ!」
「それは男女逆じゃないだか」
「私は男だからとか女だからとかそういう考えは嫌いだと言っただろ。だいたい今も私が外に働きに出てヨコヅナが家のことをしているじゃないか」
「……本当だべな」
昨今では変わってきたが、昔は男が外に働きに出て女が家の事をするという考えが多かった。
「……しかし、ハイネ様と何度も手合わせをして今だに膝をつくことがないとは、すごいですねヨコヅナ様は」
ヒョードル達にとって悪い方向に話が流れている為、話題を少し戻して方向性を変える爺や。
「ん?ああそうだな、ヨコヅナがつかうスモウという格闘技は足の裏以外が地面についた時点で負けらしいぞ」
「それは厳しい格闘技ですね。初めて見た時から下半身の鍛え方が尋常でないと思っておりましたが納得です」
「ヨコは倒れないことには一家言あるからの、確か「ヨコヅナは倒れないからヨコヅナ」じゃったか、あれはスモウ用語か何かかの?」
今まで何度かヨコヅナが口にした言葉だが、ただ自分の強さを誇示している用には思えなかったカルレイン。
「ヨコヅナというのはそもそもスモウで一番強い人が名乗れる称号名らしいんだべ」
「…この国で言う斬王のようなものか」
ワンタジア王国では4年に一度の最も大きい武術の大会がある。
その大会で優勝したものには【斬王】という称号を与えられる。
ちなみにハイネも前大会に出場しているが決勝で敗退していた。
「かもしれないだな、親父でも一つ下の位の称号だったらしいから、絶対倒れないのがヨコヅナだとオラが思っているだけだべ」
「…ではヨコヅナは誰にも膝をつかされたことがないのか?」
ありえないことだと思いつつも疑問を口にするハイネ。
「親父には何度も投げられてただよ」
「父親をのぞいたら?」
「………親父が亡くなってからは記憶にないだな」
「それは面白い」
そう言うハイネの笑顔は先ほどまでの楽しそうに笑っていたのと質の違いものだった。
ヨコヅナはマズイことを言ったと気がつく。
「こうしよう。朝の手合わせ、私を捕まえればヨコヅナの勝ち、ヨコヅナに膝をつかせることが出来れば私の勝ち。そして私が勝ったならヨコヅナは軍に入隊する」
「だから軍には入らないだよ」
「私だけ負けた時の条件があるのは不公平だろ」
「オラが言い出したことじゃないべ」
「負けなければいいだけだ、ヨコヅナは倒れないのだろ。それとも自信がないのかな」
「それは…」
自信がないとは言えなかった、それは今までのスモウの鍛錬を裏切ることに等しい。
こんな時だけヨコヅナの心情を見抜いているハイネ。
「ハイネ様が負けた時の条件は何なのですか?」
「何でも言う事を聞くという約束だ」
「ハイネ様さすがにそれは…」
「捕まらないから問題ない。それとも爺やは私がヨコヅナに負けると思っているのか?」
「…そうは思いませんが」
「では何も問題ないな」
負けると思うなどと言えば、逆に勝てる事を証明するためにムキになって約束を取り下げないだろう。
そもそもハイネから言い出したのであれば、爺やが何を言おうと約束を取り下げさせることは無理だ。
「……分かりました。では頑張って勝利してくださいませ」
お見合いを断られたため、ヨコヅナを屋敷から出す作戦は失敗だ。
違う形で女性を紹介するにしても、日をあけねばハイネに警戒されてしまうだろう。
しかしヨコヅナが軍に入隊することになれば、新兵は軍寮に住むことになる。
「鍛えているとは言え、素人に膝をつかすことも出来ないとなれば、将軍の名折れですぞ」
「それは言えてるな。……次からは木刀ではなく、訓練用の剣を使うか」
焚きつける爺やとハイネの言葉を聞き、明日からの稽古を陰鬱に思うヨコヅナ。
「どうしたらオラの意見を聞いてくれるだ?」
「わははっ、勝てばよかろうなのじゃ」




